生き残りの始まり
大金は人を駄目にすると昔の人はよく言ったものだ。
・・・それは正しい。
立花 マリナです。こんにちは。
黒服から頂いた大金で私達の生活は革新的に良くなりました。
オンボロ宿屋から貴族街にある小さなお屋敷を賃貸し、メイドさんを数人雇いました。
食事や衣服もとても豪勢になり、小さいながらも夜のパーティー(ギャンブル含む)
などを開いて遊んでおりました。
しかし、そんな生活を続けていれば、お金がなくなるのは当たり前。
気が付いた時には、オンボロ宿屋【アリ・エール】にとんぼ返り。
宿屋のおっさんや食堂の顔なじみ共に笑われたが、グッ!と我慢して、今。私、枕を濡らしております。
「マリナ様~。だから言ったじゃないですかぁ・・・」
「う~、うるさぁい。クローディア。あんた、もう奴隷でもなんでもないんだから早く、故郷に帰れよー」
うつ伏せになり、ばたばた、と足を動かしながらマリナは答える。
「いいえ。あたしは、マリナ様に付いて行きます。あたしがいないとマリナ様、生活力ゼロじゃないですか。」
「そ、そんなことないよ?」
「じゃあ。ご飯の作り方わかります?下着を閉っている場所は?そもそも洗濯って出来ます?」
「ちょ!あんた、私を何だと思っているのよ!洗濯物なら干せ・・・る?・・わよ!」
「なんで、そこ疑問形なんですかぁ。はぁ・・・」
【名木 卓也】の屋敷を後にした後、マリナはクローディアの為に大金を国へ支払い、クローディアの奴隷身分を開放したり、スラムに住む仲間には、食事や仕事を与
えて、挙句の果てには小さいながらも孤児院までつくった。
クローディア自体も悪態は付いているが、マリナに感謝しても仕切れないほどの恩を感じているし、その想いは信仰の念に近くまで昇華されつつある。
クローディア、彼女にとって、【立花 マリナ】は、天からやってきた天使に等しい。
実際、マリナ的には大金の使い道が分からず、思い付くがままあれよあれよ、と言う間に使ってしまった事だが、【慈善活動】いう概念すらないこの世界において、自
分の資産を他人に使える人はそういない。
そのおかげで街ではかなりの人気者になった。
顔を見れば色々な人に声を掛けられ、最初にクローディアを追いかけていた子供達には笑顔を向けられるほどだ。お金の力は人の印象を変えるとは、この事だ。
「まぁ・・・いいわ。遊びはおしまい。泡銭は泡のように消えました。小金貨残り2枚だし、明日から、仕事探さなきゃなぁーがんばろー」
ガマ口財布をカポカポ開いては閉じ、独り言のようにブツブツ言いながら、堅いベットの上をゴロゴロ転がる。
あのやわらかいベットが懐かしい。
実は、資金はまだ大分余裕がある。
無茶をしなければ数年は何もしなくても暮らしていけるが、そうはいかない。
屋敷を出ていたったのだってクローディアが勝手に手続きを進めたのが原因だが、マリナ本人はそれを知らない。
宝箱に入っていた金貨は残りすべて、クローディアが預かり、ギルドに貸し与えている。
ギルドからは毎月、小金貨1枚と大銀貨3枚を利息としてもらう約束も取り交わしている。
この元奴隷・・・やり手である。
「では、ランプ消しますね。」
「うんーオヤスミーまた明日ねー」
ランプを消して二人は、各ベットで床についた。
突然、大きな爆裂音が街に響き部屋が大きく揺れた。
「なに!?」
クローディアはすぐさま、部屋の出窓の扉を開ける
「マリナ様!城壁が・・・」
「え?まじ??」
ドタバタとマリナも出窓に向う。
出窓の先に見える城壁が崩れ落ち、炎が舞い上がり、建物を次々と燃やしていく。
「うわー・・・なにこれ、すごい。」
はじめてみる大火事の光景に呆然と立ち尽くす。
ガヤガヤ、と下の食堂も騒がしくなってきた。
「マリナ様、これはまずいですよ。」
「まぁ・・そりゃーねー燃えてるし。あ、みてみて!バケツリレーしてる!」
子供のようにはしゃぐマリナに比べ、クローディアは真っ青な顔で血の気が引いている。
「マリナ様!聞いてください。本当に危ないんです!城壁が壊されたら×××!!」
二度目の爆裂音がし、再度、部屋が大きく揺れ、城壁が完全に崩れ落ちた。
爆音でクローディアの声が聞こえない
「早くしてください!ここから逃げます!!」
クローディアの慌てぶりに反応できないまま、腕を引かれ、最低限の荷物と共に宿屋【アリ・エール】を後にした。
ここから、楽しい日常は終わり。
本当の生き残り合戦が始まります。