お屋敷
ギルドの出来事から、7日経ちました。
一向に仕事は見つからず、家賃の支払い日が近づいてくるばかりです。
恥を忍いで、1階の亭主に事情を説明、食堂のウェイトレスとして雇って頂けないか?
と交渉してみましたが「人手は足りている」の一言で却下。不採用でした。
このままでは埒が明かない為、今回は最終手段に打って出る事にした。
ここは町外れの質屋【メゾン・ド・フルーレ】。
食堂の常連連中の話では、結構何でも買い取ってくれるらしい。
そう。ここで私は、以前、髭に渡した紙幣を売ってみる事にする。
こんな紙切れが売れるなんて自身は全くない。
しかし、背に腹は変えられない。
やるだけならタダだし、一度見てもらおう。
もしかしたら、大金で買い取ってくれるかもしれないし。
頑張ってくれよ夏目ちゃん!稲造ちゃん!
1000円札と5000円札に祈りを込めながら、古びた木製の引き戸を開くのだった。
・・・・・・・
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
「結果は×と。」
クローディアは町の地図に×印をつける。
地図を見れば、いろいろな建物に×印が付けられている。
ベットの枕を濡らす私を尻目に、クローディアが容赦なく×印を付けていく。
「ああー少しはいけると思ったんだけどなぁー。」
このまま、ニート生活が続くのは危ない。焦りはするが先に進まない。異世界の雇用事情も厳しいようです。
「嫌な予感するけど・・・行ってみるしかないか・・・」
ポケットに入れたままになっていた紙を取り出す。
そこには、字が書いてある。
私は、この世界の文字が読めないのでクローディアに呼んでもらった。
意外と博識なクローディアは役に立つ。
その紙には、私たちがいる宿屋【アリ・エール】からさほど遠くない、高級住宅街の住所が記されていた。
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翌日
私たちは、大きなの門の前にいた。
二人で遠くのお屋敷みる・・・。
四階建・・・庭広い。豪邸だ・・・。
よく映画とかに出てくるヨーロッパのお屋敷がそこにはあった。
今日は、クローディアに付いて来てもらっている。
もし、何か書き物や読み物があった場合は彼女に代筆を頼む算段だ。
それに伴い服も新調しており、いつもの服ではなく今回は特別に可愛らしいフリフリのワンピースのような物を着てもらっている。
残念だが予算の関係上、私の分の新しい服を買うお金がないのでいつもの服を着ている。
まぁ。こちらに来た時に来ていた服だし、派手ではないのでおかしくはないと思う。
「いこうか!たのもー」
私は遠くのお屋敷にも届くかもしれない大きな声で呼びかける。
「・・・どちら様で?」
門の内側から開き、1人の老紳士が現れる。
いたならすぐに返事してよ。
「あ、私、マリナっていいます。この紙貰ってきたんですけど・・・」
「ああ。聞き及んでおります。どうぞ。お入り下さい。」
丁重なお辞儀をされて屋敷内に案内される。
「いま、馬車を御呼びしますので。少々お待ちを。」
え、敷地内は馬車で移動するのが特権階級様のたしなみですか。すご。歩こうよ。
ひとまず、本音は置いておいてお言葉に甘える。
さほど待たないうちに奥から馬車がやってきて乗り込み進む事、10分ほどでお屋敷の扉の前に到着する。
「・・・どうぞ。こちらにご主人様もお待ちしております。」
ギギギィ・・・と高級そうな扉が開く。
「ほぇ~・・・。」
言葉がない。
ギルドであった人は相当金持ちだったようだ。
何とか取り入れないか思索していると、大広間で少し待つように老紳士に言われる。
客室まで案内するのがスジじゃないのかな~。と思いながらも爽やか顔でおとなしく待つ。
本音はこの際、遠くに捨て去ってしまいましょう。
「お待たせしました。マリナ様。クローディア様」
右の扉が開き、ギルドであったお姉さんが現れる。
出会った時とは服装も言葉遣いも全く違う。
その前に服なんてメイド服だし。
え、このお姉さん偉くないの?
「あ、いえ。あれ?この間、ギルドで会ったお姉さんですよね?」
「はい。どうぞ客間へ。準備が整っております。」
「あ、はい。」
少し疑問だが、きっと黒幕が奥にいるんだろう。
いつでも逃げ出せるように大広間の状況をくまなく観察する。
トントン。
お姉さんが扉を叩く。
「宜しいでしょうか?」
「どうぞ。」
女性?
客間の中からは女性の声が返ってきた。
お姉さんが扉を開く。
「どうぞ。お入り下さい。」
不信感を思いながら私たちは客間にに入った。
客間には大きな丸テーブルが真ん中に設置してあり、奥に全身真っ黒の服に身を包んだ男の人が座っていて、その傍には背の高いポニーテールの女性が立っている。
「こんにちは。マリナさん。初めまして。どうぞ好きな所に座ってくれたまえ。」
「・・・はい」
私は首を振らず、目だけで周りの状況を観察しながら近くの席に座る。
「まぁ・・・そんなに固くならなくていいよ。」
「どうして私の名前をしているんですか?」
初対面の人に無礼だが、ひとまず、こちらの疑問点をぶつけてみる。
あちらのペースに飲み込まれちゃいけない。
怪しすぎる。
「そうだね。先ずは自己紹介からしようか。」
席から立ち上がり、こちらに近づいてくる。
私も席から立ち上がり、臨戦態勢に移行する。
「僕の名前は【名木 卓也 (なぎ たくや) 】 生まれは日本。君と同じ同郷さ。」
「・・・・・・・ええええええええええええええええ!!!!!!!!」
「ああ、君の事は色々調べさせてもらったよ。呼んだ理由は君に会いたかったから。」
頭の中の整理が追いつかない。・・・なら家に帰れるの?他にもたくさんいるの?え?え?
「え?じゃ、じゃあ。帰れる・・の?」
縋るようにタクヤが目の前まで近づく
「期待している所悪いけど、僕はこの世界から抜け出す方法は知らない。」
決心はしていたつもりだけど、心のどこかではいつか帰れるなんて思っていたんだろう・・・そんな思いがバラバラに砕け散る。
目の前が真っ暗になると私は床に膝をついた。
「マリー」
「はい」
マリーと呼ばれたポニーテールの女性が膝をついて今にも倒れそうな私を無理やり椅子に座らせる。
「おーい。まだ話せる?・・・いきなり確信突いたの失敗したかな?」
パシーンッ!!
急に頬を叩かれ現実に戻される。
「おいおい~マリーそんな叩かなくても・・・。」
「・・・いたぁ。」
頭はまだグラグラする。
分かった。大丈夫・・・ここから抜け出せないのは一ヶ月前にもう覚悟している。
今のは不意を突かれて気が動転しただけ。クールになろう・・・
「お、戻ってきた。お帰り。話し続けても平気?」
頭だけで頷いて返事をする。
まだ喋れるだけの余力は回復していない。落ち着け私。
「もっと取り乱すかと思ったよ。」
タクヤは近くの椅子に座り、話を続ける。
「はっきり、用件言っても平気そうだね。えーと、さっきも話したけど、この世界から元の世界へ戻る方法は僕しらない。けど、ココの世界の事なら君に教えてあげられる。」
コトン。
そっと、紅茶のようなものが机に置かれる
私はポニーテールの女性を睨めつけるが相手にされず、そのままスルー。
「まぁ飲んでよ。僕は頂くよ。で、だね。ちょっとした取引しようじゃないか?」
「・・・こういうのって先輩が無償で教えてくれるんじゃないんですか?教えてくださいよ。」
「そこまでサービスしないさ。なぁに。悪い話じゃないよ。君、お金ないだろ?お金払うよ。」
・・・こちらの財布事情を読まれている。少しでも見栄を張るべきか・・・いや、すこし様子みよう。
「簡単な事だし答えてくれるだけでいいよ。君の【加護】とこの世界に来る前にあった人物の事。何でもいい。その二点を答えて欲しい。」
「・・・【加護】?」
加護?なにそれ?ココに来た時の事、だって----------私は【なにも覚えてない。】
「あ、まだ分からないの?それなら【加護】の事は後でいいよ。こちらで調べられるしね。重要なのはこの世界に来る前に君が見ているはずの光景の方だから。」
「・・・なにも見ていませんし覚えていませんよ。気付いたら海岸にいました。」
うそは言っていない。本当に【なにも覚えていない】のだから・・・
「そうか。【覚えてない】なら仕方ないね。ちょっと僕の指見てくれる?・・・」
「!」
ガタン!
突然、全身に寒気が襲った。
私は嫌な予感に刈られて、後ろへ倒れてしまった。
「【拒否反応】が出たね。やっぱり当たりだ!マリー!ローザ!」
名前を呼ばれた二つの大きな影が私を捕まえようと襲い掛かる。
【どうも逃げられそうもない】。
バン!
二人に手足を押さえつけられ壁に押さえつけられる。
「さぁ・・・今度こそ・・・----------」
スゥ・・・と意識が遠のいていく・・・
くるんじゃ・・・なかった・・・
最後に見たのは、クローディアが泣きながら私に駆け寄ってくる姿だった・・・