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殺人同好会 〜橋口まどかの存在証明〜  作者: ゆこさん
8章
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8章-14.新たな決意 2023.11.19

*** side シラウメ


「あの知能犯は相変わらず性格が悪い。私も昔、あいつに負けて、多くの部下の命を犠牲にした」

「え……?」


 シラウメは父の言葉に驚き声を漏らす。


「忌まわしい事件だった。警察を狙ったテロ攻撃で何人もの優秀な人間を失って。思い出すだけで腹立たしい」


 知能犯がかつて起こした事件――知能犯が逮捕され投獄されるに至った事件は、一般人への被害も大きかったために、警察への非難が溢れかえり、社会全体が混乱状態に陥ったと聞いている。あまり触れられる事は無かったが、当然警察の人間も多く亡くなったのだろう。

 当時の事件は報道もされ有名なものではあるが、警察側の詳しい事情は殆ど情報が無い。意図的に消されている。探ろうとしても情報は一切出てこない。

 警察である父が当時の事件に関わっていないとは思わなかったが、この口ぶりだ。それなりに重要なポジションで関わっていたのだろう。


 知能犯のやり方は非常に卑劣だ。身をもって体験した。圧倒的に有利な所から突然攻めてくる。そのくせ知能犯はそれをゲーム等と称して戦いを挑むような態度をとる。

 警察が事件解決に向けて真剣に取り組み、懸命に動きながらも、成果を上げられずに虚しく散っていく姿を見たいだけだ。そんな我儘に巻き込まれて命を落としていった警察の人間が沢山いるのだろう。


 父は多くの部下を犠牲にしたというのだから、犠牲にしなければ解決できないような場面も多々あったのだろう。シラウメだって、アイル達の武力が無ければ、多くの死者を出すことを前提にして対応せざるを得ない状況だった。


「今シラウメが持っている武力は、この社会にとって本当に重要なものなんだよ。それがどれ程の抑止力に繋がっているか。彼らがいるからという理由だけで抑える事が出来ている犯罪は多いだろう」

「はい……」


 父の口調は強くなった。


「だからこそ。敗北のままはあり得ない。警察が負けたという歴史は必要ない」


 見上げた父の顔は仕事の顔になっていた。シラウメは気を引き締める。


「お前もリベンジ、するんだろう?」


 父は不敵な笑みを浮かべる。負けたという歴史は必要無い。全く持ってその通りだ。そんな前例を作ってはいけない。警察が犯罪組織に屈する等あってはいけない。

 

「当然です。絶対に知能犯を捕らえます」

 

 シラウメは父の目を真っ直ぐに見て答えた。これは自分自身を奮い立たせる宣言でもある。

 完全な敗北を味わって、心が折れそうだった。悔しさと怒りと悲しみで立つことさえできなくなりそうだった。

 だが、自分にそんな事をしている暇はない。前を向いて次に向かわなければならない。それが警察である自分の役割だ。


 きっとこんな風に前向きに考える事が出来るのは父のおかげだろう。

 アイルが助かるかもしれないという希望が有ったから、そして頼る事が出来る父という強い存在がいて背中を押してくれるからこそだ。自分一人ではきっと無理だった。そう思う。


「さて、私達はここを出よう。ここにいてもできる事は無い。お前の部下達は私に任せなさい。きっと助けてみせよう」

「はい。よろしくお願いします」


 シラウメは、父に深くお辞儀をした。重傷を負ったアイル達は、父が連れて来た医療チームに任せ、自分は自分がやるべき事へと向かわなければならない。

 父の言う通り、ここに残ったとしてシラウメにできる事は無い。地上へ戻り、知能犯が仕掛けた神経毒の処理状況の確認を進める必要がある。


 シラウメは父と共に地上へと向かった。


*** side シラウメ


 地上はまだ薄暗かった。太陽はまだ地平線の下。もうすぐ朝焼けが見えるだろうか。 シラウメはそんな空を見上げ、ひんやりとした外の空気を思いっきり吸い込んだ。ずっと暗く重い空間にいたからだろうか、外はとても清々しく感じた。


「シラウメ君!」


 遠くから自身を呼ぶ男の声が聞こえた。シラウメがそちらへ視線を向けると、ラフな服装の20代後半と見えるアフロヘアーの男が走って来た。


「あ、亡者さん!」


 シラウメはいつも通り、爽やかに笑う。

 

 そこに現れたのは、約2週間前、学校爆破事件の首謀者である男――亡者と呼ばれていた男だった。シラウメを人質にし、父である神辺出カンナベイヅルに金を請求した脱獄犯の男だ。


「シラウメ君、神経毒は全て解除し終わったよ」

「報告ご苦労様です。ふふっ。で、貴方がわざわざここへ来たという事は……?」

「この頭を見れば分かるでしょ……」

 

 呆れたようにそう言って男は深くため息を付いた。


「爆弾を間近で浴びたら、しっかり記憶が戻ったよ。思い出した記憶については、まとめておいたから後でその書類を見て欲しい」

「分かりました。見ておきます。それで? 今後はどうするつもりですか?」

「それはシラウメ君の提案通り、警察で働かせて欲しいかな……。というか、それ以外に道無いし……。まだ生きたいし……」

「ふふっ。了解しました。改めてよろしくお願いしますね。亡者さん。間違っても裏切りなんてしないでくださいね」

「それは勿論……。と言うより、俺としてもあいつには痛い目にあって欲しいからね。出来る限り協力するよ。別に脱獄なんて自力で出来たのに……。余計な事されてこっちも怒っているからね」


 男は、ぶつぶつと文句を言っていた。色々と知能犯に対して不満があるようだ。


 シラウメが裏警察のトップの人間である事を知ってしまったこの男は野放しにできない以上、殺すか管理下に置くしかない。本人の意志もあって、現在は警察の管理下に置いている。ただ、遊ばせておくのは勿体ないので、しっかりと働かせる方針とした。

 要警戒人物ではあるが、この男は警察を裏切る事が出来る程、度胸がある人間ではない。裏警察を相手に事件を起こすリスクを考えれば、警察の犬になる方が合理的であるとこの男なら理解できるだろう。


 それに、裏警察の給料は悪くないはずだ。一獲千金は不可能でも、しっかり実績を上げる事が出来れば相当稼ぐことができる。金を欲するこの男にとっては、警察に所属する事はそれ程悪くない状況だと考えられる。


 とはいえ、今までは知能犯の洗脳の可能性が消えなかったため、隔離していた。まずは記憶を取り戻す事、そして洗脳の解除を待っていた状態だった。間もなく、爆弾処理を専門とするアズサから、適度な衝撃を与える事が出来る爆弾が届くという話だった。きっとこの戦いの間に爆弾が届いたのだろう。

 結果はこの通り、無事に成功。男の髪の毛は無残にもアフロヘア―となってしまったが、記憶が戻らないよりはずっとマシだろう。


 もしもっと早く、爆弾によって洗脳が解け記憶が戻るという確証を得る事が出来ていれば……。


 そんな考えが浮かぶ。

 もし、確証が得られ、アズサから爆弾を手に入れる事が出来ていれば、レンヤの洗脳が解けていただろう。こればかりは仕方のない事だ。そう思っていても悔しい気持ちは芽生える。


「ん……? 亡者……?」


 突然父が男を見て呟く。男もその声に気付いて、ビクッとして父を見る。


「あぁ。お前があの時のイタズラ電話の男か。私の可愛い娘を椅子に縛り付けたそうじゃないか」

「まさか、カンナベイヅル!?」

「そうだよ」


 父は爽やかに笑う。そんな父に男は顔を引きつらせている。

 

「イタズラ電話じゃなくて、脅迫電話のつもりだったんだけど……」


 男はボソリと言った。脅迫電話をイタズラ電話と言われたことに、少しショックを受けているようだ。


「パパはそういえばあの時、彼と電話で話をしたんでしたね。そうです。彼がその時の犯人です。知能犯に洗脳されて学校爆破事件を起こしてしまったという、可哀そうな人です」


 チラリと見た男は、さらに顔を引きつらせていた。

 何か悪い事でも言っただろうかと、シラウメは首を傾げる。

 

「事件解決の際に、彼に私の正体がバレてしまったので、管理下に置くことにしました。地頭は悪くないので、使いようかなと思います。また彼は、知能犯といた時の記憶を思い出したようなので使えるかなと思いました。今後は知能犯の思考の傾向等も、より解像度を上げて分析できるかもしれません!」


 父が男を不審に感じると思い、シラウメは経緯の説明を行う。思い出したという記憶の内容は、非常に役立つはずだ。嘘をつかれる可能性もあるが、それは上がって来た情報を見て検討すればいい。何もないよりはずっとマシだ。


「無理矢理思い出させたの間違いだっつの……」

「ふふっ。人聞きの悪いことを言わないでください」


 シラウメは男を軽くどつく。

 父の前でそんな事を言わないでもらいたい。


「だって、記憶を取り戻すためとはいえ、爆弾を浴びせるって……。俺はないと思うよ。おかげでこんな立派なアフロヘアーになっちゃったし。酷くない?」

「良いじゃないですか。とても似合ってますよ! その髪型」

「……」

 

 男は色々と諦めたようにため息を付いた。


「立派なアフロじゃないか。亡者じゃなくてモジャだな」

「成程! 確かにモジャさんの方がしっくりきます!」

「え? ちょ……。え?」


 父の言う通りだ。この男は、亡者と呼ぶよりは、『モジャ』の方がしっくりくる。流石父だ。

 シラウメはコクコクと頷く。


「はぁ。もういいよ。モジャで。じゃ、俺戻るから」


 亡者改め、モジャはシラウメ達にそう告げると、近くにあった車に乗り込み去って行った。


「私たちも帰ろうか」

「はい」


 シラウメ達も近くに待機していた黒の高級車に乗り込みその場を後にした。

 

 誰もいなくなったその場所は静けさを取り戻し、ただ日の出を待っていた。

 そして次第にその場所は明るくなり、朝焼けの光が差し込んでオレンジ色に輝きだしていった。

このお話をもって、毎週投稿は一旦お休みとさせていただきます。

今後は不定期に更新します。

ここまでお読みくださってありがとうございます。いつも励みになっています。


必ず完結させます。今後もお付き合いいただけますと嬉しいです。

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