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殺人同好会 〜橋口まどかの存在証明〜  作者: ゆこさん
8章

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8章-9.タイミング 2023.11.19

*** side シラウメ


「さて。そろそろですね……」

「……」


 アイルが7体目の獣化人間を殺したタイミングで知能犯は呟いた。やはりこのタイミングだったかと、シラウメは下唇を噛む。そして銃を握る手に力を入れた。残り3体は恐らく、アイルが事前に報告してくれた、時間が掛かるという特に強い個体なのだろうと思う。この3体になってしまえば、獣化人間はもうレンヤの所まで漏れてくることは無い。アイルが1人で対処可能だろう。


「ククク。ワタクシの能力について種明かしをしてあげましょう」


 知能犯は楽しそうに話始める。シラウメはそんな知能犯を冷めた目で見ていた。


「一度洗脳した対象に対しては、その後も遠隔で行動を操作できるとか?」


 シラウメは乾いた笑みを浮かべながら言う。


「ご名答! 他にもありますよ? 分かりますか?」

「消した記憶……。任意のタイミングで自在に元に戻せるとか?」

「えぇ、えぇ。その通りです!! 流石白梅君! 前例等一切ない、言わば白紙の所からよくぞ私の能力を推測してくださいました!」


 シラウメは深くため息を付いた。最も可能性の高い推測を述べただけだ。それが当たった事に対して特に何も感じなかった。むしろ、当たらないで欲しかった。そんな事が出来てしまうだなんて信じたくなかった。しかし、自分の思考結果は明確にこの結果を導き出していたのだ。疑いようのない事実なのだろう。


 知能犯が持つ能力は2つだ。対象の記憶を自由自在に消したり思い出させたりと任意のタイミングで可能である事。そして、対象の行動を遠隔でもある程度自在に操る事が可能という事だ。操る事ができる程度にはバラツキがあるようだ。そしてまた、学校に立て籠もり身代金を要求するという事件を起こした実行犯の2人男の検査結果から、1度洗脳が解かれると、その後、記憶の操作をされたり操られるという事は無いようだった。どんな仕組みかは不明だが、何かリンクが切れてしまったという事なのだろうと思う。

 

「ククク……。そこまでご理解されているようでしたら、これからワタクシが何をするのかも当然分かっているのでしょうね!!」


 シラウメは静かに銃の準備を整えた。銃なんて役に立つはずが無いのは十分承知だ。だが、奇跡が起きた時、その奇跡を的確に拾えるようにだけ準備はする。これは絶対だ。


「本当にどこまでもワタクシを楽しませてくれる! 素晴らしいですよ! 白梅君。そうです。彼ですよ。彼の失った記憶、今ここで復元させてあげましょう。ククク。お察しの通り、彼の記憶を奪ったのは、このワタクシなのですから!」


 直後、無情にもパチンと乾いた音が響き渡った。知能犯が指を鳴らしてしまったのだった。


「な、ぁぁ? あ……」


 するとやはり、レンヤが頭を抱えて俯き、動きを止めた。明らかに様子がおかしい。知能犯の能力が本物であれば、今現在レンヤは記憶を取り戻し始めたという事になる。シラウメはゆっくりとレンヤの方へと視線を向けた。一体どんな記憶が流れ込んでいるのだろうか。マドカと出会う前の記憶、それがどんなものなのかまではさすがに分からない。


「うぁぁああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」


 ついにレンヤは苦しみながら叫び出した。酷く顔を歪め頭を抱えている。脳を直接攻撃されているようなものだろう。激しい痛みを伴い混乱しているに違いない。


 シラウメは銃口をそんなレンヤに向けた。そして引き金に手を掛けた。

 今この手でレンヤを処分する。それが最善だ。シラウメは1発で殺せるよう慎重に照準を合わせた。

 そして――。


 パンッと乾いた音が響き渡った。


「え……?」


 しかしながら、直後困惑した声を漏らしたのはシラウメだった。

 シラウメは確かに銃口をレンヤに向けて引き金を引いた。しかし、現状自分の銃を持つ腕は天井方向へと向いていた。


 そして手首に走る痛みに顔を歪める。一体何が起きたのか。シラウメには一切目で追う事は出来なかった。気が付けば、シラウメの背後に回り込んだ知能犯によって身動きを封じられていたのだ。両の手首をしっかりと掴まれ、銃を持っていた方の腕を強制的に天井方向へと向けさせられていた。相手は成人男性だ。非力なシラウメが振りほどけるはずがない。また、がっしりと手首を掴まれてしまえば得意の縄抜けも不可能だった。


「白梅君は、酷い事をしますねぇ? 彼の事、仲間の様にあれだけ利用したくせに、役に立たないと分かればすぐに殺そうとするなんて。ククク……。その判断の速さ、ワタクシは好きですよ?」

「あぐっ……」


 シラウメは痛みに声を漏らし、右手に持っていた銃を落とした。銃は、床に落ちてカンッと音が鳴らした後、知能犯によって蹴り飛ばされ、床を滑りながら遥か遠くへと消えていった。


「貴方も……、遺伝子操作していたという事ですか」

「その通り。ワタクシも遺伝子操作を受け身体能力を強化しています。ただ、ワタクシの場合は自分の好きなタイミングで一時的に身体強化を行う事が出来るのですよ。だから、殺し屋達もワタクシが一般男性以上の動きができるだなんて、気が付かなかったという仕組みです。普段の状態では、筋力が付いているわけでもありませんので。ククク……面白いでしょう? とはいえ、一時的あり、かつ反動もあるのですよ。多用できるモノではありません。まさかあなたがこれからが見せ場という時に、0秒で最善の対処方法を判断してぶち壊しに来るとは思いませんでしたがね。それでやむを得ず奥の手であるワタクシの身体能力を使ったという事ですよ」

 

 どう足掻いても、知能犯の拘束は振りほどけない。両手首をそれぞれ掴まれて拘束されてしまった状態では、新しい銃を用意して構える事もできない。せめて片腕でも外せれば抜けられるかもしれないが、この状態では何も出来ない。だが、同時に知能犯もシラウメを拘束する以外は何も出来ないはずだ。主導権は知能犯にあるが、この状態からシラウメを殺す事は簡単ではないだろう。要するに互いに動くことは出来ない。ただ、目の前の様子を見守るしか無い。そんな状況と言えるだろう。


 まさか、知能犯がこんな手まで用意しているとは思わなかった。遺伝子操作を知能犯自身にも施している可能性は当然考えていた。しかし、身体能力が強化されていればアイルが絶対に気が付くはずなのだ。


 事実、街中で無差別殺人を行った男が突如としてリミッター解除を行い驚異的な身体能力を得た時、アイルは戦う前から相手の実力を正確に読んでいた。だから、今回この場でアイルから知能犯についての言及がない時点で、遺伝子操作を施されて身体能力が上がっているという可能性は低いと考えてしまっていた。まさか、殺し屋達の事まで考慮して、彼等の動物的な感覚までも欺いていただなんて。


「本当は、アナタが彼を殺せなくて、無様に迷う様子を見たかったんですがね……。残念ながらアナタは一切迷ってはくれませんでした。噂に聞く冷酷無情……。ククク……」

「……」


 シラウメは思考する。自分は完全に無力化されてしまった。アイルもまだ残りの3体の獣化人間を倒すことはできていない。そして、レンヤは苦しみながらのたうち回っている。この状況下で一体何ができるというのか。知能犯が完全にシラウメの背後を取ったにもかかわらず、その瞬間にシラウメを殺さずに拘束したのは、今シラウメを殺すことが目的ではないからだろう。本当に舐め腐った行動だ。


 先ほど、シラウメの瞳を絶望に染めたい等と気持ち悪い事を言っていたのだ。シラウメに完全敗北の屈辱を味わわせることが目的だろう。故に、これからここで起こそうとしているものを大人しく目撃させるために、シラウメを背後から拘束したのだと考えられる。きっとシラウメを殺すのは、シラウメが完全敗北を認めて絶望しきってからであり、記憶を取り戻したレンヤか他の殺し屋を使って殺そうとしてくるはずだ。


 足止めをされて逃げることが叶わない以上、知能犯が満足して自らの意思で帰るのを待つことしか出来ない事に歯がゆさを感じる。知能犯が用意したくだらない舞台に、一体いつまで付き合えばいいのだろうか。シラウメが何もかもを失うまでこれは続くのだろうか。それともシラウメが絶望の中で死ぬ事を願っているのだろうか。腐りきった人間の願望なんて理解したくもない。シラウメを殺そうと思えば出来てくせにやらなかったくらいだ。つまり、殺す以上にやりたい事があるという事。相当な悲劇を望んでいるのだろう。それだけは確かだ。

 

 それでもシラウメは目の前の状況を把握し思考を続ける。完全に知能犯の手のひらの上だとしても、途中で諦めて投げ出すつもりは無い。

 

 思考する中で思うが、この知能犯の作戦は本当によくできていると、シラウメは改めてそう感じたのだった。しっかりとシラウメ側の戦力4人をシラウメから引きはがし、そのうえで知能犯は能力を使用してシラウメの背後を取ったのだから。4人のうち誰か1人でも動ける人間がいれば、知能犯は動けなかったはずだ。一時的な身体能力の強化というまがい物では、本物の殺し屋達には勝てないのは明らかなのだから。しかしながら、そのまがい物の力でも、シラウメ単体へであれば有効な武力である。本当に、良く計算し準備したものだと、敵ながら感心した。

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