表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
殺人同好会 〜橋口まどかの存在証明〜  作者: ゆこさん
8章
50/62

8章-2.直談判 2023.11.18

*** シラウメ


 コンコンとノックの音が響く。シラウメが返事をすると、ガチャ、ギー……と音が鳴って部屋の扉がゆっくり開く。


「どうぞ。そちらへ座ってください」


 シラウメはそう言って立ち上がり、顔を上げた。扉の向こうにいたのは、アイル、キャロル、ビンゴの3人だ。3人とも真剣な顔つきで立っていた。シラウメは彼らをソファーへ座らせ、先ほど男が届けてきたA4サイズの紙を3人へ1枚ずつ渡した。


「それは、たった今送られてきたものです。挑戦状でしょうね」


 シラウメはそう言ってもう一度その紙に目を通し、読み終わると同時に、はぁーっと大きめのため息をついた。


「シラウメ。一応読んだけど……」


 読み終わったアイルは何とも言えない表情をしていた。反応に困っているのだろうなと察する。キャロルやビンゴも首を傾げていた。


「この挑戦状に書いてある通り、今夜指定の場所へ行かなければなりません。相手の出方を想定しましたが、こちらの全力に対抗できるだけの戦力で来る可能性が高いです。ですので、3人とも一緒に来てください。また、これは明らかな負け戦です。勝ちに行くわけではないという事を認識してください。ですから何も失わない事、これが一番の最善になります」


 シラウメはそう言うと、再び深くため息をついた。


「成る程ね」


 アイルはどこか納得した様子で頷いていた。


「私たちの目的は、人質と書いてある部分、街の人間の解放です。何かしらの仕掛けを設置して、街の人間に被害が出るようにしているのでしょう。爆破や毒ガス、ネットワーク障害を使ったテロ等。あらゆるものが考えられます。これを完全に無効化する必要があります。そして相手の目的ですが……」


 相手の目的、本当に馬鹿げているとしか思えない。しかし、今回の挑戦状を見て確信した。


「私達に構って欲しいんでしょうね。くだらない」


 極力感情は出さない様に努めてはいても、怒りは抑えきれそうにない。明らかに一方的な内容だ。知能犯がやろうとしている事は、ただの自己満足である。シラウメ達には何もやらせずに、一方的にやりたい事をやり、それにシラウメ達をそれに付き合わせるつもりなのだ。挑戦状にはゲームなどと書いてあるが、こんなものはゲームでも何でもない。最初からシラウメ達の勝ち筋を一切用意していないのだから、ゲームとして全く成り立っていない。


 何がチャンスなのだ。姿を見せて捕らえるチャンスを与えてやっている気なのだろうか。そんなものいくらだって対策可能だ。こちらにアイルを筆頭に大きな武力があった所で、それを抑えるだけの対策などいくらだって存在する。それをシラウメが想定できないとでも思っているのだろうか。舐められたものである。


 本当にふざけ過ぎだ。


 シラウメは怒りを仕舞い、今やるべきことに目を向ける。簡単に負けてやるつもりは一切ない。負け方にだって色々あるのだ。やれる事をやれるだけやる。その信念は揺るがない。


「では今から詳細な流れを説明しますから、しっかり聞いてください」


 シラウメは今晩の作戦の説明を始めた。


 

*** レンヤ


 シラウメ達が作戦会議を始めた丁度その頃、レンヤはというと……。

 

「あー、くそ。どこなんだ」


 完全に道に迷っていた。シラウメの部屋を探して走ってはいるがなかなか見つからない。当然地図などもないのだ。おぼろげな記憶を頼りに探し回っているが全くそれらしい扉を見つけられない。シラウメの豪邸は広いため、一度迷うとかなり厄介だ。


 レンヤは自分のアホさ加減に心底呆れながらも走り続ける。シラウメの部屋は扉を見れば分かる。明らかに他の扉と異なるため、通り過ぎたということはまずない。こうなれば手あたり次第探すしかない。最上階である事は間違いがない。いつかは見つかるはずだ。


 棟が違うのだろうか……。


 レンヤがそう思って引き返そうとした瞬間。


 見つけた。


 前方にやたら立派な扉があった。レンヤはその扉目指して全力疾走し、ついにシラウメの部屋にたどり着いたのだった。


 

*** レンヤ


 コンコン、とレンヤは扉をノックする。


「シラウメさん、レンヤだけど」


 レンヤが緊張しながらもそう言うと、直ぐに扉がギーっと音をたてて開いた。そして出迎えたのは、予想に反してアイルだった。レンヤはアイルが出て来た事に驚き数歩後退るが、アイルは無表情のまま入れとレンヤに指示したため、レンヤは招かれるままシラウメの部屋に入る。すると部屋には、アイルだけでなくキャロルやビンゴもおり、皆真剣な顔付きでソファーに座っていた。レンヤは、何かピリッとした空気を感じとり、今ここへ来るべきではなかったのだろうか、とも思った。しかし、この紙に書いてある事が事実なら、引き返す事などできない。


「1枚……、彼は来る途中に落としたんですね……。それをレンヤ君が拾って見てしまった。これは本当に偶然なんでしょうかね」


 シラウメはやってきたレンヤにそう言った。その時のシラウメに爽やかな笑みはなく、ただただ無表情だった。


「シラウメさん、これ……。俺も連れて行って下さい」


 レンヤは単刀直入に言った。ここに書かれている事が本当であれば、今晩シラウメはマドカを狙った相手と戦いに行くのだと思われる。それを知っていながら何もせずにいる事などできない。しかし。


「ダメです。レンヤ君は連れて行けません」


 シラウメにきっぱり断られてしまった。だが、レンヤは食い下がる。どうにかしてでも連れて行ってもらいたい。レンヤがそう思って、再び口を開こうとしたその時だった。


「これは負けに行く戦いです。下手をしたら全滅するというリスクまで孕んだ危険なものです。レンヤ君が想像するような、戦いに行くという物ではありません。また、向こうの情報が非常に不足しており、私の予測を超えてくる可能性もあります。従って、そんな危険な戦いに警察でも殺し屋でも何でもない、ただの人間であるレンヤ君は連れて行けません」


 シラウメはレンヤの反論の一切を封じるように言い放った。シラウメの視線は鋭い。レンヤはその様子に息を飲む。自分は明らかに場違いだ。この場にいていい人間ではない。そう痛感させられる。だが、それでも引き下がるわけにはいかない。このままここで待機など耐えられない。


「でも……」

「でもではありません。確かに指定の時間に指定の場所へ行けば、マドカを狙った人間には会えるでしょう。しかし、私達はその犯人を目の前にしながら、捕まえる事も殺す事もできません。できないようにされています。貴方がそれに耐えられるとは到底思えません。私の静止を無視して殺しに行くなんてことをすれば大惨事になりかねない。私はレンヤ君をそこまで信頼はしてませんから。だから連れていく事はあり得ません」


 レンヤはぐっと唇を噛んだ。シラウメの言う事はどこまでも的を得ている。マドカを狙った犯人を目の前にして、自分が正気でいられるか。レンヤがどんなに、シラウメの言う事を絶対に聞くと断言したところで、シラウメに信じてもらう事は不可能だと、痛いほど理解できる。シラウメの信頼を得るだけの実績もないのだ。当然の回答だ。


「私達の目的は犯人を捕まえる事ではなく、人質の開放です。この知能犯の元へ行ったところで、レンヤ君がやりたいことは何一つ成し遂げられません。むしろ、目の前に殺したい相手がいるのに手が出せないという屈辱を味わう事になるでしょう」


 行ったところで無意味とまで言われた。本当にその通りなのだろう。だが、そうは言われたところで、レンヤは全く諦める事が出来なかった。自分は聞き分けの良い人間ではない。納得できない物は、どうしたってできないのだ。


 「シラウメさん。俺はどんなに正しい事を言われても、どうしても諦められないんだ。安全な場所で待っている事なんてできない。頼む。お願いだ。絶対にシラウメさんの言う事は聞く。信じてもらえるとは思ってないけれど、俺は命を懸けてでも約束する。だから、本当に頼む。俺を連れて行ってください」


 もう、レンヤには頼むことしかできなかった。深く頭を下げて願う。レンヤは頭を下げたままギュッと拳を握りしめた。悔しさや怒り、後悔に悲しみ。あの時味わったあらゆる感情が再び自分の中で渦巻いて行く。強烈に蘇る。


 どれだけの時間が流れただろうか。分からない。誰も何も言葉を発しない、緊迫した空気の中で、シラウメの一際大きなため息が響いた。


「わかりました。レンヤ君、貴方を連れていきましょう」


 レンヤはバッと顔を上げた。ソファーに座るシラウメは、仕方ないなといったように笑っていた。


「正気かい? シラウメ」


 レンヤの背後に立っていたアイルは、すかさず声を上げた。


「はい。色々と考えましたが、結果連れて行った方がマシという判断になりました。別に情に流されたとかそういう話ではありません。この様子では、私がどんなに説得しようとも意味はないでしょう。レンヤ君は絶対に諦めないはずです。となれば、連れていかなければこっそり付いてくるはずです。その方が圧倒的に迷惑ですから。不確定要素を極力排除するために、私は連れていくという判断をしました」

「分かったよ」


 シラウメの説明にアイルは納得した様子だった。しかし、アイルから向けられる視線は厳しい。全く認められていないというのが伝わってくる。足を引っ張れば殺すとでも言いたげな視線だ。しかしながら、それでも引き下がるという気にはならない。それほどまでに、自分にとって譲れない事なのだと改めて自覚した。


「レンヤ君。指示に従わなければ、私は容赦なく貴方を殺しますから。そのつもりでいてください」

「あぁ」


 レンヤはそう言って頷いた。命を懸けると自分で言ったのだ。既に覚悟はできている。


「それと、この戦いに行く前に、必ずマドカに会いに行ってください。危険な作戦に参加するという事を貴方の口からしてください」

「分かった」

「では皆さん、夜中の1時半に、ここ、私の部屋に再集合して下さい。解散です」


 これにて解散となったのだった。レンヤはシラウメに言われた通りマドカと話をするため、その足でマドカの部屋へと向かって行った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ