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殺人同好会 〜橋口まどかの存在証明〜  作者: ゆこさん
1章
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1章-4.反抗期 2023.8.27

 それからしばらくの間、二人は相変わらず人気のない閑静な住宅街を歩き続けた。特に何もなく誰ともすれちがう事もなく、ただただ宛てもなく歩いていく。


「あ、そうだ、マドカさん。この刃物めっちゃ切れるな。サイコーだよ。」


 レンヤは思い出したように、握りしめた刃物を眺めながらマドカに言う。あの切れ味を思い出すだけで興奮する。初めてだった。こんなにも抵抗なく人体が切れるものなのだろうか。初めに持っていた刃物とはえらい違いだ。レンヤは素直にマドカにもらったナイフを称賛する。一体どこで手に入れたものなのだろうか。非常に気になるところだ。


「でしょでしょ!やっぱりねー!だって私が研いだんだもん!さすが私っ!!」

「えっ!?」


 思わずレンヤは耳を疑う。


今マドカは何と言った……?

私が研いだ……?


 マドカは自慢げだ。嘘をついている様子は無い。


刃物を研ぐって……。

普通15歳の少女がする事か?

 

 レンヤは驚きを隠せない。しかし、今までのマドカの言動を思い出すとありえない話では無いように思える。マドカという狂った少女に常識は通用しない。従って、これは事実だろう。レンヤは無理矢理納得した。


「マドカさんが研いだんだ。凄いね。」


いろんな意味で。


「えへっ!」


 マドカはとても嬉しそうだ。と、二人がなごやかに会話をしているちょうどその時、遠くの方で不穏な会話が聞こえてきた。


「来るな!!来たら手首切って、僕は死ぬっ!」


 目視できる範囲にそれらしき発言の主の姿はない。その声はまだ声変わりをしていない幼い男の子の声だ。二人は顔を見合わせると、興味本位で聞こえて来たほうへと足を早める。


 長い直線道路を少し進んで細い脇道へ入る角を曲がると、5メートル程先の家から、10才くらいの少年が道路に飛び出して来た。その右手には包丁。そしてその包丁の切っ先は自らの手首に押し当てられている。


「来るなっ!僕は本気だからな!」


 その少年は必死に訴えている。視線の先にいる対象を酷く睨みつけているようだ。


「ちょっ……。朔磨(サクマ)ちゃん!!そんな馬鹿な事はやめなさい!母さんが悪かったから、ねっ?そんな事はやめて……。」

「うるせぇ!黙れ!そんな呼び方するな!気持ち悪い。僕は本気だって言ってんだろ!!」


 二人の目の前で、母親と思われる女性と少年との激しい親子ドラマが繰り広げられている。母親の姿は建物内にいるため見えず、声だけが聞こえてくる。

 また、道路へと飛び出した少年は、依然として包丁を手首に当てながら、母親がいるであろう方向から目を離さない。少し離れた位置でその光景を見ているレンヤ達には、全く気付いていないようだ。


「あはっ!あの子、かぁ~わい~!」

「どうやったら、そんな思考回路になるんだよ……。」

「食べちゃいたいよねっ!」

「いや、俺に同意を求めないで下さい。」

「ん~、そうだね。あ。私、ちょっとあの子とお話してくるね!」


 マドカはそう言うと、すたすたと少年のもとへ近づいていった。


「ちょっ!マドカさん!」


 レンヤも焦って後を追いかけた。


***

 

「それ以上近づくなっ!!一歩でも近づいたら、僕は手首を切って死ぬぞっ!!」


 少年の母親は、少年のその言葉によって玄関前で立ち尽くす。自分の息子に威嚇され、近づく事すら許されない。母親はどうして良いか分からず、ただ息子を悲しそうに見つめていた。


 と、そこへ悪魔が登場した。


「ねぇ、ねぇ、そこの少年!」


 マドカは少年のすぐそばまで行くと、陽気に話しかけた。


「うわぁっ!来るなっ!誰だお前!!来たら死ぬっ!」


 少年はマドカの存在に気付くと、慌ててマドカに刃物の先を向けて威嚇した。


「あははっ!可愛いね!そんな君に一つ言いたいんだけどさ……。」


 少年は顔をしかめてマドカを見る。


「手首を切るって言っても、切り落とすぐらいしないと死ねないよ!その包丁じゃあ、どうせ静脈しか切れないから、痛いだけだと思うよー。」


何言ってんのぉ~!?マドカさーん!?

っていうか、そんなアドバイスして、マジ切り落としたらど~すんだよ!!


 レンヤは内心そう思うが、口にも顔にも出さなかった。


「へぇ~。そうなんだ……。じゃぁ、この包丁じゃ無理じゃん。そこのお姉さんさ、この包丁で死ぬにはどうしたらイイ?」


 少年はマドカに問う。


「そうだねぇ~。うーん。絶対に死にたいのなら、わきの下に刺すのが良いと思うよ。えきか動脈っていう動脈を切れば、ほぼ死んだも同然!なんたってこの動脈切ったら止血ができないからね。比較的浅くて狙いやすい位置にあるし、分厚い筋肉に覆われてることもないし。オススメだよ!!」


 マドカの言葉を聞いた少年は、フッと笑みをこぼすと、早速包丁を自分のわきの下に突き付けた。それを見たレンヤは焦る。本当に少年が自殺してしまったらどうするのだろうか。


「ちょっとマドカさん。何アドバイスしてんの?エスカレートしてんじゃん!」


 レンヤはマドカの元までたどり着くとツッコミを入れる。しかし、自分でそうは言ったものの、レンヤは違和感を覚えていた。この少年は一体何者なのだろうか。普通この程度の歳の子供が、このような行動をとるとは考えにくい。明らかに精神状態が普通ではない事くらいは、頭の悪いレンヤでもわかる。


「ちょっとそこの貴女!!何言ってんのよ!うちの朔磨サクマちゃんが死んだら、どうしてくれるのよ!責任とってもらうわよ!」


 さすがにこの状況で、母親は黙ってはいなかった。マドカの助言のせいで、自身の息子の奇行がエスカレートしているのだから当然と言えば当然だ。マドカにむけて奇声を上げるように怒鳴り散らした。


「うるせー!クソババー!これは僕の意志でやってんだよ!!いちいちそういうの、本当うざいんだけど。いい加減にしてくんない?」


 少年はすかさず母親に怒鳴り散らす。そのやり取りを間近で見たマドカは、うんうんと頷いている。何か嫌な予感がしてレンヤは身構えた。


「ふぅ~ん、そういう事。レンヤ君、ちょっといい?」

「……何?」


 レンヤはマドカが呼ぶので、小声でも聞こえる程度の距離まで近づいた。嫌な予感はどんどん膨れ上がる。きっと半端なく異常な事を言われるのだろう。既にもう半分諦めている自分がいる。レンヤは腹をくくってマドカの言葉を待った。


「レンヤ君、あのおばさんを殺して来て!」

「ははっ。やっぱりそうなるか!」


 ニッコリ笑いながら指令をだすマドカに、レンヤは呆れるよりむしろ、尊敬してしまう。ここまで狂えば、逆に面白い。思わずフッと笑みがこぼれる。


「少年。いい?今から、あんたの母ちゃん殺すけど。」


 レンヤは少年に確認を取る。だめだと返事がきたところで今更止める気など一切ないが、一応念のため尋ねてみる。すると少年は目を見開いた。驚いているようだ。しかしすぐに冷静な顔になったかと思えば、少し笑った。一体この間にどんな思考があったのだろうか。レンヤには分からない。しかし、またしても嫌な予感がする。明らかに少年の反応は普通ではない。恐らく普通ではない回答が来るのだろう。


「マジ!?じゃ、奥の部屋にオッサンもいるから、そっちもよろしく!」


 少年は楽しそうに、言った。にっこりと、本当にうれしそうに。レンヤはやっぱりかと内心思う。そして、本当に面白いなとも。自分の中の常識や普通という概念にひびが入っていくような感覚がする。だが、不快ではない。むしろ興味がある。レンヤもニヤッと笑った。


「ハッ!いかれた少年だなぁ、オイ!」


 レンヤはニタァーッと口元に笑みを浮かべ、マドカからもらったナイフを取り出し右手に持つ。そして、すたすたと歩いて、少年の母親に近づいていった。


***

  

 どうやら、この少年も随分とイカレているようだ。今まさに、自らの母親が殺されようとしているのに、陽気に笑っている。また、ナイフを持ったレンヤにも怯える事無く、その様子を、この狂った状況を楽しんでいる。

見た目は全く普通の10歳程度の少年。髪の色も黒、着ている服も普通。レンヤと違って、目立つような外見ではない。いたって純粋そうな少年であるのに。


「ちょっと!貴方なによっ!何なのよ!!」


 母親は、ニヤニヤと笑いながら近づいてくるレンヤに恐怖し、玄関のドア付近から、家の中へと少しずつ後ずさりしていく。レンヤは怯える母親を見て、とても愉快に思った。右手に持った刃物を母親に見せつけるようにちらつかせると、母親の顔は恐怖で引きつっていく。笑える。非常に笑える。


「これ以上来たら、け、警察呼ぶわよ!」


 母親は震える声で威嚇し、必死にレンヤと一定の距離を取ろうと後ずさりしていく。殺人鬼がゆっくりと、笑いながら近寄ってくるのだ。恐怖でいっぱいになっているのだろう。追いつめられつつも、ちらちらと見えるナイフの切っ先に視線が吸い寄せられているようだ。嫌だ、来ないで、死にたくない、殺される、と、心の声が聞こえてきそうだ。


 しかし、母親は意を決したようにギリッと歯をかみ締めたかと思えば、一気にレンヤに背を向け、ドタドタと足音を立て部屋の奥の方へと走り出した。


「あはははっ!警察ぅ?呼べばぁ?呼べればの話だけどっ!!」


 レンヤは、馬鹿にするような調子でそう言い放つと同時に、逃げまどう母親との距離を一気に詰めた。そ

してその直後、ズブシュ……っと音が鳴る。グサリと背中をひと突きだ。さらに、刃物を引き抜くと同時に血液が勢いよく吹き出す。


「あーあ、またマドカさんに怒られちまう……。血、出過ぎだって……。」


 レンヤはそんな事をつぶやいて廊下をゆっくりと進んでいく。足元に転がった母親の死体はそのままに、ゆらりと進んでいく。そして、リビングへ通じるだろうドアを見つけ、向かおうとした瞬間勢いよくその扉が開いた。


「オイ!何の音だ!?」


 少年の父親と思われる男性が慌てた様子で出て来た。それと同時に、レンヤと目があった。父親は今まで、呑気にリビングでテレビでも見ていたのだろうか。息子が自殺しようとしているのにも関わらず、我関せずで寛いでいたのだろうなと察する。

 

 父親は、ニヤニヤ笑うレンヤにただならぬ気配を感じたのだろう。目を見開き、母親と同じように後ずさる。しかし、直ぐにレンヤの背後に母親が倒れているのを発見すると血相を変えた。


「オイ!正子(マサコ)!オイ!」


 ニヤニヤ笑ったレンヤには目もくれず、レンヤの脇をそのまま通りすぎ、倒れたとあわてて駆け寄った。父親が真横を通りすぎた時、レンヤはニタァーっとひと際不敵に笑った。


***

 

「正子!オイ!返事をしろ!正子!」


 父親は必死で反応の無い妻に呼び掛ける。しかし当然、返事はない。背中に痛々しい傷。父親はあまりのショックに崩れるように膝をつき、母親の体を抱き抱えようと手を伸ばすが……。


「え?」


 思わず言葉が漏れた。


手が。 無い。

手首から先が無い。両方とも。


 全く意味のわからない状況に、父親は一瞬固まる。そして、ちらりと背後を振り返ると、父親の手首から先が、レンヤの足元に落ちていた。


「え、ぁぁあぁああああ゛あ゛あ゛あ゛ああ゛あ゛あああ゛っ!!」


 父親はパニック状態で絶叫するが、直ぐに叫び声がピタリと途絶えた。ボトッと音を立てて父親の肩から腕が床に落ちた。膝から血が吹き出す。そして次の瞬間には、父親は肉塊になって、床に転がった。


***

 

「うわっ!やべぇ!サクッと殺すはずだったのに、血の海にだし。マドカさんに殺される。」


 レンヤは、ミスがばれないうちにマドカから逃げようと、玄関方向へ方向転換した。しかし直ぐにピタリと静止した。


「ふふふふふ。」

「ははははは。」


 レンヤは、わずか50センチという至近距離で、マドカと目が合った。


「レンヤ君。私の言いたい事わかっちゃったりする?」

「わかっちゃったりしちゃうなー。あはははは。」

「ふふふふふ。お仕置きは後にして、死体回収!!」

「お、おう。」


 レンヤは、マドカのお仕置きに怯えながらも、マドカの指示通り回収作業に取り掛かった。

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