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殺人同好会 〜橋口まどかの存在証明〜  作者: ゆこさん
7章
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7章-6.生贄 2023.11.14

 時刻は夜12時を回るか回らないかという頃。シラウメの豪邸内にある娯楽室という部屋では、絶えず騒ぎ声が響いていた。その声は、まだ声変わりのしていない、少年達のはしゃぐ声だ。


「これでどうだ!サクマ。9連鎖だゼ!」

「甘いよ、ビンゴ。だって僕12連鎖だもん。」

「ハァアア!?またオレ様の負けかよ。」


 夜中にも関わらず騒いでいるのは、サクマとビンゴだ。彼らは朝からずっとこの調子で遊んでいた。そのため娯楽室にあったテレビゲームはほぼやり尽くし、残すはパズルゲームだけのようで、現在も楽しくプレイ中だ。


「サクマ強すぎだゼ。今までオレ様が最強だと思ってたのによー。」

「そうかな?でも世の中にはもっと強い人いるからね。ネットに繋ぐと、僕なんて最下層だよ。」

「マジで!?」

 

 そんな楽しそうな会話をしながら、二人はゲームを再開する。と、そんな所へ突然、ガチャッギィィ……と妙にもったいつけたような、ゆっくりと扉が開く音が響いた。その音は娯楽室の扉が開く音で間違いない。サクマはチラリと扉の方へ目を向けると、そこには全身真っ黒な長身の男、アイルが静かに立っていた。


「やぁ、ビンゴ。こんなところで会うなんて、運命だね。」


 アイルはニコニコ笑いながら、ビンゴに近づいてくる。ビンゴはそれに気付くと、ハッとして立ち上がり、アイルから逃げるように後退りする。


「何が運命だ。気配消してここに来んだから、完全に狙ってんじゃねぇかよ!またオレ様をおもちゃにするつもりか?」


 ビンゴはアイルを非常に恐れているようだ。一体何を恐れているのだろうか。ビンゴがアイルを警戒している理由が分からず、サクマは困惑する。


「ビンゴどうしたの?」

「サクマも逃げたほうが良いゼ。あの黒い奴はアイルっていって、とんでもねードS野郎だ。捕まったら最後、死ぬより辛いことが……。」


 ビンゴが話す様子は至極真剣だ。冗談には聞こえない。声も心なしか震えているように聞こえた。そんな様子からサクマもアイルを警戒する。最初こそニコニコと笑い話しかけてきたアイルは友好的な様子に見えたが、今ではすっかり不気味に映った。


「おや?君は……?」


 ビンゴに近づいてくる途中で、アイルはサクマに興味を示す。


「サクマです。」


 サクマは緊張しつつもはっきりと答えた。すると、アイルはニッコリと笑った。


「そうか、君がサクマ君か。オレはアイル。よろしくね。」


 アイルはそう言って握手を求めるように手を差し出す。そのためサクマは握手した。


 しかし。


「サクマ。逃げろ。」

「え?」


 サクマは背後からのビンゴの声に気付き振り向いたが、時は既に遅かった。サクマは握手していた右手に激しい痛みを感じ、びっくりしてアイルに向き直る。と同時に驚愕した。サクマの目に飛び込んできたのは、ニヤリと不敵に笑うアイルだったのだ。そして次の瞬間には、サクマはアイルの肩に担がれていた。もちろんそれは一瞬の出来事で、サクマは何が何だか分からない。気付けばアイルの肩の上だ。


「あとは、ビンゴだけだよ。さぁビンゴ、おいで。お兄さんの方へ。」

「誰がテメェの所なんかいくかぁ!今度は何する気なんだ?」

「んー?いつも通り、暇つぶしだよ。」

「っ!!」


 ビンゴは怯えながらもアイルを必死で睨み距離を取る。サクマはそんな様子を、アイルの肩の上から見下ろしていた。


「ねぇ、アイルさん。暇つぶしって具体的に何するの?」


 サクマがアイルに尋ねる。するとアイルは少し驚いたような顔をした後、何かを考えているようだった。そして、サクマに視線を向けてゆっくりと口を開いた。


「んー。君はオレがあまり怖くないみたいだねぇ。」

「どちらかと言えば怖いけれど……。」

「恐怖を抱いていてその対応って事は君、知り過ぎているね。」

「……。」


 黙りこくるサクマに対して、アイルは再びニコニコと笑った。


「わぁお。これは面白い人間見つけたよ。意外な収穫だ。さてと、ビンゴ。」


 アイルは笑顔を絶やすことなく視線をビンゴへと戻した。その瞬間ビンゴの目が見開かれ、直後。


「捕まえた。」

「うわっ!」


 アイルは一瞬のうちにビンゴの背後に回り込み、しっかりとビンゴの肩を掴み動きを止めていた。担がれていたサクマは当然何が起きたかなど分かるはずもない。数秒前まではアイルを睨んで構えていたビンゴを見ていたのに、気が付けばビンゴの背後にいるのだ。時間を止められたのではと錯覚する程だった。


「さぁ、ビンゴ。遊ぼっか。」

「オレ様は、テメェなんかと遊びたくねぇんだけど。」

「あっそ。でも、オレはとっても遊びたいんだ。ビンゴに拒否権なんてな――」


 アイルは途中で言葉を止めた。そして無表情で娯楽室の扉の方へと視線を向ける。サクマやビンゴは一体何事かと思い、つられてアイルの視線の先の扉を見た。


「レンヤ君が、来たみたいだね。」


 アイルはそう言うと、サクマをおろし、ビンゴからも手を離す。二人は不思議に思いながらも、解放されたことに安堵した。しかしながら、「2人共、死にたくないなら変な気を起こさない方が良いよ。」と静かに釘を刺されてしまった。逃げたら死なのだろう。サクマは再び緊張し固まった。


 アイルはゆっくりと扉へと向かっていく。一体何をするつもりなのだろうか。動くこともできず、ただビンゴと共に事の成り行きを見守る。扉前までたどり着いたアイルは扉が開いた時に死角となる位置に立った。扉は内開きであるため、アイルが立った位置は扉が閉まるまでは死角となるだろう。


「レン兄が来るの?」

「あぁ、来たみたいだゼ。サクマのお迎えじゃね?時間的にも。ご愁傷様。」


 二人が小声でそんな会話をすると、扉の近くにいるアイルが人差し指を口にあてて、静かにしろと合図してきた。そのため二人は再び黙り、様子を見守った。


***

 

 しばらくの沈黙の後。ガチャ、ギィィイ……と扉がゆっくりと開いた。そして何も知らないレンヤが入って来た。


「サクマっち、もう寝る時間だから部屋いくぞー。」


 レンヤは何歩か進み、十分に室内に入った時だった。バタンッ!!っと大きな音を立て、勢いよく扉が閉まった。もちろん閉めたのはアイルに他ならない。レンヤはその音に驚いて振り返る。と同時に驚愕していた。


「やぁ、レンヤ君。また会えたね。やっぱり運命だよ。」


 アイルはニコニコ笑いながら両手を広げレンヤに近づく。


「何が運命だっつの。気配消して、んな所居たら、完全待ち伏せだろ?今度は何の用?」


 レンヤはそう言いながら少しずつ後退りをする。その様子は先ほどのビンゴと全く同じだ。


「ん?暇つぶしだよ。レンヤ君も一緒に遊ぼう。あぁそうだ。オレ良い事を思い付いた。」


 アイルは何か妙案を思いついたと言わんばかりのジェスチャーをする。その様子は至って楽しそうである。この空間で楽しそうな様子であるのはアイルだけだ。サクマはこの異常な空気感に緊張する。正直自分には彼らのような鋭い感覚は無い。だが、ビンゴもレンヤもアイルを異常なまでに警戒しているという事だけは、表情から読み取れた。


「レンヤ君とビンゴ、今からここで勝負してくれないかなぁ?負けたほうが生贄ってことで。」


 アイルがそう言葉を発した瞬間、場が凍ったのをサクマは肌で感じた。


「い、生贄って……?」


 レンヤが恐る恐る尋ねる。


「要は負けた方がオレの暇潰しの相手になってもらうって事だよ。ぶっちゃけ、どちらか1人で良いからね。そうだねぇ。具体的な内容を言ったほうがやる気がでるかい?負けた方には女装してもらおうかな。今可愛い服とかあるからね。君達顔立ちがすごく良い上に、骨格が全く男っぽくないから完成度を見込めるし。明日1日はその姿のままで俺の言う事を聞いてもらう事にしようか。うん、それが良いね。」


 それを聞いたレンヤとビンゴは、当然顔面蒼白だ。


「勝負方法は、素手で体術戦ね。相手を気絶または拘束できたら勝ち。勝った方は見逃してあげよう。あぁ、一応言っておっくけど、二人で協力してオレを倒そうなんて、無駄な事は考えない事。君達の武器は既に没収済みだし、勝ち目は一切ないから。まぁ、オレに素手で勝てると思うなら話は別だけど……。」


 アイルはそう言って、レンヤのナイフとビンゴのグローブをイヤミたっぷりに見せ付けた。実に楽しそうである。


「なっ!いつの間に!?」


 レンヤは慌てた様子で自分のズボンのポケットを確認していた。だが、直ぐに落胆した表情をする。仕舞っていたナイフがポケットに無く、アイルが見せつけてきたナイフが間違いなくレンヤの物であると認めたためだろうなとサクマは察する。


「体術戦かよ!?なんでオレ様の1番嫌いな体術なんだよ!オレ様は遠距離タイプなのにぃー。勘弁して欲しいゼ……。」


 一方のビンゴも文句を言いながら落胆して項垂れている。


「レン兄、悪いけど、オレ様負ける気ねぇから。罰ゲームは意地でも嫌だゼ!」


 ビンゴはレンヤに向かってそう言うと、構えた。やる気満々だ。だが、それはレンヤも同じの様だ。


「ビンゴ、俺も同意見だ。」


 レンヤもそう言って構えた。アイルはそんな二人を満足そうに見ると、サクマがいる方へ歩いてきた。そして、サクマをひょいっと担ぐと、二人から距離を取った。


「では、始めようか。Ready go!」


 アイルが開始の合図を行った瞬間、レンヤとビンゴが勢いよくぶつかり合った。

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