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殺人同好会 〜橋口まどかの存在証明〜  作者: ゆこさん
7章
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7章-3.待ち伏せ 2023.11.12

「ふわぁ~……。」


 何とも気の抜けるような声を出して、レンヤは大きなあくびをした。ふと何となく目を向けた大きな窓からは、真っ白な太陽光が降り注いでいる。高い天井を見上げれば、明らかに値段が張りそうなシャンデリアがぶら下がっている。自分が今座っている椅子だって、高級な物なのだろうと教養が無くても察しが付く。部屋中どこを見ても、洗練されたものばかり。この空間に対して、自分がどこまでも場違いであると突きつけられているような気がして、レンヤは改めてうんざりした。


 レンヤが現在いる場所は、シラウメの豪邸内、マドカが療養する客室だ。憂鬱になる程整ったこの空間は、まるで高級ホテルの様だった。とはいっても、レンヤは高級ホテルがどんなものなのかを知らない。きっとこんな感じなのだろうと雑な推測からそんな事を感じていた。現在、そんな部屋のベッドにマドカはいて、上半身を起こした状態で起きている。いつもゆるく三つ編みにしている栗色の髪は下ろしていて、少し雰囲気が異なる。少し大人っぽく見えた。


 特に会話もなく、静かな時間が過ぎていく。マドカはずっとスマートフォンでゲームをしているようだった。どんなゲームをしているのかは全く分からないが、かなり集中している様子だ。話しかけたら怒られそうだと察して、レンヤは静かに待機をしていた。


 丁度一週間前、マドカは化け物達に襲われ、死んでいてもおかしくない程の酷い怪我を負った。レンヤが不甲斐ないせいで追わせてしまった怪我だ。悔やんでも悔やみきれない。腹の底から止めどなく湧き上がる怒りと後悔と自己嫌悪。レンヤはその、行き場のない不愉快なエネルギーとも言える罪悪感からどうしても解放されたくて、何でも良いからマドカのためにできる事をしたいという思いだった。マドカにできる事がないかと尋ねたところ、退屈だから傍にいて欲しいと言われたため、特に用が無くてもマドカが療養する部屋に可能な限り滞在していた。

 

「レンヤ君。林檎たべたーい!」


 マドカのテンションの高い声が聞こえてきた。レンヤの退屈を察して声を掛けてくれたのかもしれない。レンヤは立ち上がるとテーブルの上にある籠から、林檎1つと、皿を手に取った。


「ウサギさんの形にむいてねー!」

「へーい。」


 マドカの要求を聞き入れたレンヤは、ナイフを取り出して、リンゴを真上に投げた。そして、目の前に落ちてきたリンゴに対して勢いよく何度もナイフを振るった。すると次の瞬間、6等分され、ウサギの耳まで綺麗についたリンゴが皿の上に乗った。


「わー!すごーい!レンヤ君。神業だね!」

「そりゃ、何回もやらされればできるって……。」


 レンヤは切れたリンゴをマドカの方へ持って行き、マドカのいるベットに腰を下ろした。マドカは早速そのカットされたリンゴを手に取り食べる。


「うっはー!美味しっ!」


 マドカは満足そうだ。だが、それを見たレンヤは若干顔を引き攣らせる。


「マドカさん、よく飽きないね。もう、10個以上食べてない?」

「あり?そうだっけ?まぁさ、美味しいんだからいいじゃん!!」

 

 マドカは今日だけでも、既にたくさんの林檎を食べていた。流石に飽きるのではと思うが、毎回美味しそうに食べる。リンゴが優秀なのかマドカがおかしいのか。見ているこちらが飽きてしまったくらいだ。レンヤはマドカが林檎を所望する度に食べやすいように皮を剝きカットしている。最初は普通に剥いていたのだが、次第にマドカからの要求がハイレベルになり、今では空中で6等分しかつウサギさんの形にしろというオーダーだ。なんだかんだやっているうちに、しっかりできるようになってしまった。ここまで上手になれば、一発芸として披露できるかもしれない。とはいえ、一発芸を披露する場などありはしない。レンヤはそこまで考えると思考を遮断して自嘲気味に笑った。


「ところでレンヤ君。サクマっちは?」

「サクマっちなら、確か、シラウメさんの部下の少年……。名前なんだっけ?あの子。薄茶色っぽい目の色の少年……。あぁ、そうだ、ビンゴ。ビンゴと一緒にずっと遊んでる。歳が同じ位だから、気が合ったっぽい。」

「そっかぁ。サクマっち、友達出来たんだねぇ。良かった良かった。私、少し心配してたんだよねー。」


 マドカは嬉しそうにそう言って、摘まんだリンゴを口に運ぶ。気が付けば、残りはあと3切れだ。今回もまた、あっという間に食べてしまうのだろう。


「ねぇ、レンヤ君。ビンゴ君って子は、どんな子なの?」


 どんな子って……?


 改めて聞かれるとどう答えていいのか分からない。どのような言葉で言えば伝わるだろうか。対峙した感じから強そうだなとは感じた。しかし、それ以上に何も思いつかない。ない頭を使って考えてはみるが、これ以上は何も捻り出せそうにない。マドカはサクマを心配して尋ねているというのは伝わってくる。何かこう、安心させるような言葉を掛けられたらいいのにと思うが、自分には無理そうである。


「ビンゴは……。強そう。」

「そっかぁ、強いんだぁ、あの子。武器は何だろーねー。」

「武器……。武器ねぇ。武器何だろ。そういえば見てないな。でも、切り刻んでいたから、刃物類か?」


 レンヤはビンゴについて記憶を辿るが、分からない。問われるまで気にもしなかったのだから仕方ない。ビンゴは、黒いグローブを両手にしていた。結局レンヤは、それぐらいしか思い出せなかった。


「ま、何にしても、仲良くなれたなら良かったよね。サクマっち、死んだ事になってるし、回りには年上の人しかいなかったから、寂しかったと思うんだよね。」

「あぁ、そうだな。」


 レンヤもそう思って同意すると、立ち上がった。皿の上にはすっかりリンゴはない。マドカは完食してしまったようだ。


「じゃ、俺、そろそろ部屋戻るわ。マドカさん、あんまり動いちゃだめっすよ。」

「分かってるよー。またリンゴ剥きに来てね。」


 マドカはレンヤに笑顔で手を振った。レンヤも軽くマドカに手を振ると、マドカの部屋から退出した。


***


 レンヤはマドカの部屋の扉を音が鳴らないようにゆっくりと丁寧に閉めた。そして、自分の部屋を目指して歩き出そうと方向転換した。


 と、その瞬間。


「う、うわぁあ!!」


 レンヤは叫ぶと同時に、思いっきり尻餅をついた。


「な、何やってるんすか!?アイルさん!?」


 レンヤは思わず声を上げる。その声には明らかな怒りが含まれていた。床に尻を付いたまま見上げると、無表情のアイルが扉のすぐ横で立ちレンヤを見下ろしている。

 

 扉を丁寧に閉めて方向転換した直後だった。レンヤの目前、鼻の先3センチメートルにも満たない距離に飛び込んできたのは真っ黒な影だった。そして、方向転換の勢いを止めるすべもなくレンヤはその陰に顔面から思いっきり激突し、さらにその反動で、受け身を取る間もなく思いっきり尻餅をついてしまったという状況だ。顔面も痛ければ尻も痛い。全く状況が分からず苛立ちだけが膨れ上がる。

 

「やぁ、レンヤ君。こんな所で会うなんて、運命だね。」


 アイルは無表情から一転、ニコニコ笑いながらそう言って、尻餅を付いているレンヤに手を差し延べた。しかし、レンヤはその手に頼る事なく独りで立ち上がると、アイルを最大限に警戒した。


「何が運命だよ。気配消してこんな所に立ってんだから、待ち伏せしてたんだろ?」


 レンヤはアイルを睨みつける。レンヤはこの男が苦手だ。というより嫌いだ。可能な限り関わり合いたくない。避けられるものなら避けたいところだが、この様子だと自分に用があるらしい。避ける事はできなさそうだ。


「わぁお。ばれたかぁ。そうだよ、待ち伏せしてたんだ。レンヤ君と話がしたくてねぇ。」


 アイルはニッコリ笑う。その言葉にレンヤはあからさまに嫌そうな顔をした。


「拒否権は?」

「あると思うかい?」

「……。」


 やはり拒否権など無いようだ。レンヤはため息を付いて自嘲気味に笑った。


「さぁ、レンヤ君。君の部屋でお話しよう。」

「最悪……。」


 二人は無言のまま、レンヤの部屋へと向かった。

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