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殺人同好会 〜橋口まどかの存在証明〜  作者: ゆこさん
6章
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6章-5.お散歩 2023.11.5

 時刻は夜11時。人の声も気配もない。そんな暗く静かな屋外へと、レンヤとマドカは踏み出した。


「うっはー!そろそろ冬だねー。夜は本当に冷えるよ。」


 季節は11月。秋はあっという間に過ぎ去ってしまった。暑かった夏が終わったかと思えば、過ごしやすい時期は一瞬で過ぎ去り、すっかり冬の気候だ。そのため、マドカは厚手の上着を羽織っていたが、一方でレンヤは長袖ではあるが薄着だった。より一層寒さを感じて、鳥肌が立つのを感じる。


「何で上着きてこないの?11月だよ?11月。分かる?11月。」

「いや、1着しかない上着を汚したらこの冬終わると思って……。」


 レンヤは冷える腕をこすり暖を取りながら答える。現状上着は1着しかない。その1着が血まみれになり着られなくなってしまったら、今後出かける時に困ってしまうだろうと思いから、あえて着てこなかったのだ。戦闘前に脱げば良いのかもしれないが、戦闘は突然起きる可能性だってある。自分は器用ではない以上、着てこないという選択しか考えられなかった。そんなレンヤの回答にマドカは目をぱちぱちさせて暫く驚いていた。


「お!そっか!すごいすごい!レンヤ君、珍しく頭使うじゃん!後先考えるなんて成長したね!でも大丈夫。昼間シラウメに報酬貰ったから新しく冬服買えるよ!今度またみんなでお買い物に行こうっ!」


 レンヤは頷いた。マドカの言葉のトゲにグサグサと心が抉られるが、抉られ過ぎて最近はマヒしてきた。そんな自分自身に自嘲気味に笑う。それに、笑顔で買い物に行こうと言うマドカを見ていると、ディスられた事などどうでもよくなってしまう。


「さてと。どこから行こっか。今までの傾向を考えれば近くに現れるとは思っているんだけど……。近くまで行けばきっとわかるだろうし、お散歩する感じで適当に歩いてみようか。」

「りょーかい。」


 マドカとレンヤは静かな夜の街を歩きだした。目的地が無いため道なりに進む。結局、再び資料を読み込んだが、新しい手がかりは得られず、闇雲に探すことにした。場所はきっとこの辺りなのだろう。今までの流れを考えれば、脱獄犯はこの辺で犯罪を起こすのだから、たとえ闇雲に歩いていても出会えるかもしれない。また、最近被害者が出たと言うのだし、今晩次の犯行が行われたって不思議ではないだろう。そんな単純な考えから、マドカ達は早速動き出したのだった。


「脱獄犯いるかなー?」


 レンヤは歩きながらキョロキョロと回りを見回し、気配を探ってはみるが、脱獄犯がいる様子は全くない。怪しい気配も殺気も感じられない。近くにはいないだろうと思われる。


「別に今日出るとは限らないからねー。出るまで毎日散歩してればいつか会えるよー!」

「毎日散歩ねー。まぁいっか。家でぐーたらしててもしゃーないし。」


 レンヤの日頃の生活を考えると、毎日の散歩は良いかもしれない。最低限の筋トレこそしているが、基本的にだらけているのだ。コンスタントに予定がある方が健康的だろうなと感じた。レンヤがそんな事を考えていると、二人は深夜でも交通量の多い大通りに出た。大通りの道脇には飲食店やドラッグストア等が続くが、大半が閉まっている。開いている店といえばコンビニくらいだった。特にいつもと変化のない通りをゆっくりと歩く。しかししばらく歩いた所で、突然隣を歩くマドカがピタリと立ち止まった。レンヤはそれに気付き振り返る。


「ん?マドカさん?」


 レンヤが声をかけた時、マドカは何か難しそうな表情をして俯いていた。何か問題でも起きたのだろうか。明らかに様子がおかしい。


「レンヤ君。脱獄犯でた……かも……。脱獄犯かは分からないけど、血の臭いがする。」


 マドカは顔をあげ、周囲を見回しながら答えた。遠くの血の気配を探っているのだろうか。レンヤには血の臭いは分からない。もちろん人間の気配すら感じられない。だが、マドカの血液に対する嗅覚は異常だ。今までも血の臭いについて色々と言っていた。恐らくこの発言も嘘ではないのだろう。


「一人や二人の血じゃないよ……。これ……。10人くらい、いるんじゃないかな……?」


 10人もの人間の血の臭いがするという事だろうか。もしそれが事実であれば、公共の場で無差別大量殺人事件の様な事が再び起きている可能性もある。

 

「行ってみよ!レンヤ君。」


 マドカはそう言うと走り出した。迷いなく進んでいくマドカに、レンヤも遅れないよう走って付いて行った。


***

 

 しばらく走ると人の気配も車の交通もない場所へと来ていた。小規模なマンションが道沿いに敷き詰められたように並ぶ静かな場所だ。完全に住宅街であり通り抜けできるような道でもないため、ここに住む人間以外は踏み入れない場所だろう。道はまっすぐではあるが、植栽やフェンスによって見通しはそれほど良くない。脇道などは覗き込まなければ全く様子が分からないようなつくりだ。


 マドカは走るのをやめ慎重に歩きだす。真剣な様子からも、血の臭いがする場所というのが近いのだろう。しかし、レンヤには血の臭いは一切わからなかった。何となくピリッとした空気だけは感じ取る事が出来たため、緊張感を持ちながらマドカの後ろをついていく。


「近いよ。」


 マドカは静かに言う。すると、レンヤにもかすかに血の鉄臭い臭いが感じられた。相変わらず人間の気配はない。一体何が起きているのか全く予想ができず、嫌な汗をかく。


「多分……、この次の通りだと思う。」


 先を歩くマドカは立ち止まり振り返った。そしてまっすぐな目を向けられた。覚悟しろといいたげな様子に、レンヤはごくりと唾を飲み込んだ。マドカはゆっくりと進み、次の脇道をそっと覗き込んだ。


「うわー。予想以上……。」


 マドカは脇道を見たまま苦笑しながら言う。レンヤも気になり脇道をそっと覗く。その瞬間、後悔した。


「う゛っ……。」


 レンヤはすぐに目をそらし口を押える。


「ありえねぇ……。」


 血の気が引く。気絶しそうになるのを何とか踏みとどまり、吐き気と戦う。そう、脇道に広がる光景はまさに地獄絵図と言っても過言ではなかった。マドカが苦笑いで済ませているのが不思議でならない。普通の人間であれば恐怖で硬直するか、悲鳴を上げるか、気絶するかするだろうと思う。目を閉じても蘇る光景に何度も吐きそうになる。これは確実にトラウマだ。ちらりと見ただけなので確実ではないが、苦しみに顔を歪めた死体が13体あったと思われる。どの死体も腹を割かれていた。通りいっぱいに血液が飛び散り、地面は血の海。心もとない街灯は真っ赤に染まる脇道を不気味に照らし出し、その空間だけが異世界の様な、非現実的な世界となっていた。


「脱獄犯で間違いないね。気配はある……?」

「いや、気配を消してるっぽい。だから、正確な位置が分からない。ただ、殺気だけはしっかり有るから、近くにはいると思う。」

「そっか。とりあえず私、近くの死体見てくるよ。死体の様子から武器とか手口とか分かるかもだし。レンヤ君はここで待ってる?」


 レンヤは頷いた。とてもじゃないがあの地獄絵図の様な空間は進めない。レンヤには無理だ。まともに動ける気がしない。今でさえ脳裏に焼き付いた光景に苦しんでいる。心臓がバクバクと鳴り吐き気は収まらない。そんな場所で冷静に調査などできない。マドカ一人に危険な調査を任せる事になり、不甲斐ない自分に嫌気がさす。しかしながら、こればかりは諦めるしかなかった。


 マドカはそんなレンヤに対して、仕方ないなと言いたげな表情をしていた。いつものようにレンヤをディスる事もなくゆっくりと頷き、直ぐに脇道へと向き直すと、しっかりした足取りで進んで行ってしまう。レンヤはそんなマドカの背中を静かに見送った。

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