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殺人同好会 〜橋口まどかの存在証明〜  作者: ゆこさん
6章
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6章-3.ビッグニュース 2023.11.5

 ナツキの研究室を出たシラウメ達は再びエレベーターに乗り込む。今度は地下へと向かうようだ。ナツキはB1と表示されたエレベーターのボタンを押し扉を閉めた。


「説明するより先に実際の物を見たほうが良いさね。」


 ナツキはどこか呆れたような疲れたような顔をしている。ため息交じりにそうシラウメに告げる。暫くするとエレベーターは目的の地下階に着いたようだ。ゆっくりと扉が開く。ナツキはエレベーターを降りまっすぐに目的の部屋へと進んでいく。シラウメはそれに遅れないよう後ろを付いて行った。


 長い廊下を進み、何度か曲がった先に目的の部屋があった。ナツキは鍵を開け扉を開き、暗い部屋へと入っていった。そして、少し進んだところにあるスイッチを付けるとパッと室内が明るくなった。シラウメはナツキに続いて明るくなった部屋に足を踏み入れる。その瞬間異臭を感じた。腐敗臭や薬品の臭い。鼻をつくそれらの臭いは決して心地の良い物ではない。それでもシラウメは顔色を変える事なくナツキに続いて部屋の奥へと進んでいった。


「先日、変死体が発見されたさね。結構無理言ってこっちに流してもらったさー。」


 ナツキが立ち止まった所には、実験台のような台があった。その台には白い布が被せられていたが、変死体というのだから台の上に乗っているのは死体なのだろう。ナツキは一気にバサッと白い布を取り去った。


「な、なんですか!?これは……。」


 シラウメは思わず驚きの声を漏らした。正直死体は見慣れている。惨い物もたくさん見てきた。それでもそこにあった死体に対する驚きを隠せない。


「まるで獣に襲われたみたいさね。」


 ナツキが言うように獣に食い荒らされたような惨い死体だったのだが、獣が食い荒らしたにしては明らかに不自然だった。内臓だけが綺麗に無い。内臓以外の肉部分はある程度残されていることから、自然界で出来上がった死体ではないだろうと予想が付く。腹部は無理矢理食い破られたようだ。内臓は力任せに引きちぎられているようで、少しだけ端の方に残っていた。


「案の定って言うのかな。この腹部の傷口から人間の爪のカケラがでてきたさー。それに、この死体発見現場は住宅街さね。」

「そういう事ですか……。」

 

 一般の死体と一緒にされなくて良かったとシラウメはほっとする。ナツキの機転に感謝だ。ナツキが無理を言ってこの死体を回収していなければ、情報は消えてしまっていたかもしれない。


「事件の調査結果とこの死体の検査結果さね。」


 ナツキは部屋の棚に保管していた資料を取り出しシラウメに渡した。シラウメは早速渡された資料に目を通した。


「シラウメちゃんの予想通りではあると思うけれど、犯人は残りの脱獄犯の1人で間違いないさね。死体から出てきた爪の欠片で整合を取っているから確実さー。」

「はい……。」

「それから、死体回収現場はマドカちゃんの家がある地域さね。少し離れてはいるけれど生活圏内かな。」

「はい……。」

「同様の死体は他に3体……。発見位置は次のページの地図を見て欲しいさー。段々マドカちゃんの家に近づいているさね。」

「……。」


 シラウメは地図の情報を見る。するとナツキが言うように段々とマドカの家の方向へやってきたことが分かる。死体発見日の記録を見るとそろそろマドカの家までたどり着くだろうと予想できた。


「犯行状況について、私の見解を言うさね。犯人は素手で犯行しているさね。生きたままの状態で腹を素手で引き裂いて内臓を引きずり出す。そしてその場で食べている。犯人は爪が長いかもしれないさー。骨に近い細かい部分はあまりうまく食べられてないさね。あと、手を使って内臓を取り出して食べるっていう行動をしているさー。だから、獣のようにそのまま口を付けているわけではないさね。」

「成程です。ありがとうございます。」


 なかなかに濃い情報だ。ナツキは淡々と結果を教えてくれる。また、ナツキの見解もありがたい。ナツキの豊富な知識から導き出された解というのはそれだけで価値がある情報だ。


「この死体手に入れるの、本当に大変だったのでは……?」

「あぁ、そうさね。結構ごり押ししたさー。表の警察さんに睨まれたようだから、そこんとこシラウメちゃん何とかしておいてもらえると助かるさー。」


 ナツキは苦笑いしている。恐らく一般の警察の方に今も嫌がらせなどされているのかもしれない。要は、一般の警察の手柄を横取りしたようなものだ。そんな事をされれば、一般の警察の方は面白くないに決まっている。何かしら情報を操作されたり、いじわるをされている等容易に想像できる。


「分かりました。そちらは私の方で何とかします。ご迷惑おかけしてしまって申し訳ないです。」

「いーえ。大丈夫さね。私も好きでやってる部分があるから。」


 ナツキのこういう所には救われる。嫌がらせされてもメンタルには一切響かないのだろう。淡々と処理しているのだろうと推測できる。改めて強い味方だなと感じる。


「人間の臓器だけ食べるか……。美味しい……のか……?甚だ疑問さね。」

「噂レベルだと人間は酸っぱい等と聞きましたが。下処理の問題な気がします。」

「内臓なんて、特に生で食べちゃ駄目さね。毒性もあるから食べ続ければ人体に影響があるはずさー。好んで食べる意味が分からないさね。」

「はい。全くです。」


 現状の環境は飢餓ではない。人間を食べるくらいなら、食べ物を盗んで食べればいい。食べ物が何もないような環境で人喰いが発生するのとは訳が違う。故にこの脱獄犯は、好んで人間の内臓を生で食しているという事になる。単純な食欲で犯行を行っているのか、はたまた生きた人間を食べるという行為自体に目的があるのかは分からない。もしくは生きたまま人間の腹を割く事が目的で、内臓を食すことは副産物のような扱いなのか。そのあたりの事情は分かっていない。


 この脱獄犯の前科の資料にも動機に関する情報はない。前科でもこの脱獄犯は、同様に生きたまま人間の腹を割いて内臓を食べている。例に漏れずこの脱獄犯も、全く同じ犯行を現在繰り返しているのだ。また、前科の資料には他に、この脱獄犯が正気を保っていないという記載もあった。意思疎通がそもそも不可能で、刑務所内では頻繁に暴れていたという情報もある。本物の化け物のようだ。


「この脱獄犯も今までマドカちゃんを狙っていた脱獄犯と同じだとすれば、何かしらの遺伝子操作をされている可能性があるさね。腕力や体力が向上しているだとか、回復力があるだとか、五感が鋭くなっているだとか、色々可能性があるさー。」

「そうですね。その可能性はしっかり見込む必要がありますね。遺伝子操作で向上する可能性があるものとしてどんなものが考えられるでしょうか?ナツキさんの率直な意見が聞きたいです。」

「そうさね……。」


 ナツキは考えているようだ。腕組みをし俯いた状態でじっと考えている。そしてしばらくすると口を開いた。


「筋力向上、瞬発力向上、体力向上、五感性能向上、リミッター解除による限界突破、自己回復力向上、思考性能向上、学習能力向上、身体形状の変更……。こんな所さね。」

「身体形状の変更とは……?」

「手足が長くなったり、体自体が大きくなったり、体の部分的または全体の形状が変わる可能性があると思うさね。現時点で、遺伝子操作後血液に関する部分に影響を与える事が出来ている……。既存の人体の構造自体にまで影響できると考えれば、可能かもしれないと思ったさー。ただ、成長しきった大人の体を変えるのは流石に難しいだろうさね。まぁ裏を返すと、成長期の子供なんかには適用できる可能性があるさー。」

「……。嫌な予感しますね。」

「そうさね。子供の死体は見たくないさー。」


 ナツキはどこか諦めたような顔をしている。今後子供の遺体が発見されてしまうかもしれない。そしてそれを検査しなければならないかもしれないと感じているのだろう。

 

「さて、ビッグニュースは以上さー!シラウメちゃん、忙しいのに急に平日に呼び出して悪かったさね。」

「いえ、問題ありません。むしろすぐに教えていただきありがとうございます。沢山手掛かりが見つかって本当に良かったです!それに、今学校は休校中なんです。学校爆破事件のおかげで。ですから気にしないでください。」


 シラウメは深く頭を下げそう御礼を言うと、さわやかに笑った。

 

 シラウメは、ナツキに別れを告げ研究施設を出た。そして、施設玄関正面のロータリーに止まっていた黒の高級車に乗り込んだ。


「橋口まどかの家までお願いします。」


 シラウメを乗せた車は走りだし研究施設をあとにした。向かう先はマドカの家だ。シラウメは車内で再びパソコンを開き作業を開始する。静かな車内にはカタカタとシラウメが作業する音がこ気味よく響いていた。

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