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殺人同好会 〜橋口まどかの存在証明〜  作者: ゆこさん
5章
28/62

5章-5.トラウマ 2023.11.2

「まー君!久しぶりっすー!」


 主犯の男と爆弾を操作する男に手錠が掛けられたところで、元気な女性の声が校長室に響いた。そして、今まで廊下で待機していたであろう若い女性が校長室へと足を踏み入れてきた。黒髪を高い位置でポニーテールにし、ブイネックの黄緑色のセーター、スキニーのジーンズを履いた女性、シラウメが爆弾処理を依頼したアズサだった。アズサは現在手錠を掛けられた爆弾を操作する男の姉で、海外で活躍する有能な作業者だ。アズサは爆発物を含むあらゆる装置を解除する天才だ。アズサは弟である爆弾男が脱獄したという知らせを聞き、海外から戻ってきていたのだった。弟の爆弾を確実に解除できるのは自分しかいないからという理由でわざわざ帰国して待機していた。


 アズサはすたすたと歩き床に力なく仰向けで転がる爆弾男に近づく。そして、爆弾男の顔面を蹴り飛ばした。


「ぐぇっ……。」


 爆弾男は呻き声を上げる。


「ねぇちゃん。マジ、ごめんってー。許して。許してくださーい。魔が差したんだよー。マジ。無理。オレっちおとなしく刑務所もーどーるーかーらー!」


 爆弾男は蹴られた事に反抗するでもなく、寝返りを打つようにしてうつ伏せになると、土下座のポーズを取った。謝り慣れているような印象だ。アズサはそんな爆弾男の頭部を無言で踏みつけている。


「へぇ……。」

「ねぇちゃん。許して……。」

「まー君はさぁ。やぁーっぱり、ウチがいないとダメって事っすねー?」

「いや、えっとー。そーのー……。」

「いいっすよー?地獄まで付き合ってあげるっすー。」

「……。」


 爆弾男の様子がおかしい。震えているようだ。アズサは特に威圧した様子はない。ニコニコしながら爆弾男の頭部を踏んでいるだけだ。


「刑務所に戻らせて……ください……。」

「ダメっすー。」

「……。」


 この姉弟の関係性について、シラウメはさほど詳しくない。現状の様子からパワーバランスとしては姉のアズサが圧倒的に上なのだろうなと察する。シラウメに対してはあんなに大きな声で反論までして元気だったにもかかわらず、アズサの存在がちらついてから爆弾男はしおれていくように元気をなくしてしまった。彼らの関係には何かあるのだろうと考える。


「でもまぁ、いきなりは可愛そうっすから、まー君にチャンスをあげるっすー。」

「え?」

「この爆弾を解除出来たら、見逃してあげるっすよー。」


 カチャっと音がした。アズサの手元をみると、爆弾男の首元に何かを付けていた。


「制限時間は3分。死ぬ気で解除しろ。」

「っ……!?」

  

 アズサの酷く冷たい声がした。顔を上げた爆弾男の首には、何か装置のような物が括りつけられていた。話の様子から爆弾だろう。アズサは爆弾男の前に、解除に必要な工具を一式置いた。


「よーいどん。」


 アズサは静かにそう言って、ニヤーっと酷く顔を歪めて笑い爆弾男を見下ろしていた。爆弾男は絶望したような顔でそんなアズサを見上げている。しかし、爆弾男は直ぐに工具を持ち、自身の首につけられてしまった爆弾の解除に取り掛かった。その表情は真剣そのもので、ふざけた様子など一切なかった。


「あの、アズサ。その爆弾の規模はどれくらいでしょうか……?」


 シラウメは気になりアズサにたずねる。もし規模が大きければ避難の必要が出てきてしまう。


「あぁ!シラウメちゃん、大丈夫っすー!まー君の頭部にしか被害が出ない規模っすー!」

「そ、そうですか。」


 それであれば、特に避難などの必要はなさそうだ。頭部のみの被害とはどういったものだろうか。首が飛ぶと片付けが面倒になってしまうが、制裁の意味があるのだろうと思うとその程度の被害であれば止めるほどでもない。シラウメはそう判断して、暖かい目で彼らのやり取りを見守ることにした。

 

 ふと扉の方を見ると、レンヤも恐る恐る部屋へと足を踏み入れていた。周囲をきょろきょろと見回している。初めて見る校長室に興味が湧いているのだろう。その様子を見ると、やはり彼は一般人ではないのだろう。身元不明ではあるが、ある程度生い立ちやマドカと出会う前の生活環境などは推測できる。人間を殺すというトリガーさえ引かなければ、やはり彼は温厚だ。キレやすいという事もなく、従順で素直だ。人間的な感情を持ち合わせ思いやりもある。思考力が乏しい部分はあるが、言われたことが分からない程馬鹿ではない。もう少し観察は必要ではあるが、現状維持であれば危険性は低く、活用すべき人材と言えそうだ。


 今日はたまたま居合わせたレンヤを作戦に組み込み、有効に使う事にしたが、うまくやってくれたようで一安心する。返り血が付いていない所をみると、指示通り殺さずに気絶させてくれたのだろう。今回の試用では十分な成果を上げる事が出来たので、今後も駒として使えるかもしれない。シラウメは手ごたえを感じた。


「さて。彼らは放っておいて後片付けをしましょう。ビンゴは気絶している彼らを集めて昇降口前に並べておいてください。各階3人ずついますから。」

「おう!任せろ!」


 ビンゴは二カッと笑うと元気に走って行った。


「レンヤ君。今日はご協力ありがとうございました。実は先ほど捕まえた彼らは脱獄犯なので、後日報酬を持って伺いますね。マドカに伝えておいてください。」

「え!?脱獄犯だったんすか。」

「はい。2人分なので一気に40万です!」

「おぉぉ。」

「それと、そろそろ一般の警察の人間がこちらへ来てしまうため、レンヤ君は見つからないうちにここから離れてください。」

「了解!んじゃ、また。さいなら。」


 レンヤは周囲を警戒しながら帰っていった。あとはこの部屋を片付ければいいだろう。気絶した校長の拘束を解いておく程度ではあるが。爆破された職員室の方は駆け付けた警察に任せて問題ない。脱獄犯2人はシラウメの方の管轄に入るため、この爆弾解除ミッションが終わり次第の移動になるだろうなと考える。


「まー君あと1分っすよー。あ。嘘。あと30秒。」

「!?」


 まもなく爆発だろうか。シラウメはじっと彼らの様子を見る。爆弾男の手先は器用で、手錠を付けられているにもかかわらず流れるような手つきで解除を進めている。だが、表情が険しい。一方のアズサはニヤニヤしながら自身の左腕に付けている腕時計の秒針を見ているようだ。

 

「3……2……1……。」


 ボフンッ!とアズサのカウントダウン通り小さな爆発が起こった。爆弾男の頭部の周りだけ黒い靄がかかっている。火薬の臭いが少しして、校長室内に充満した。


「解除失敗ですか。」


 黒い靄が張れると、爆弾男の頭部はアフロヘアーになっていた。顔面は煤で汚れ真っ黒である。


「もー、やーだー。オレっち本当は、サラサラストレートヘアーなーのーにーー。なんでぇーー。何で解除できないんだー!」

「それは、まー君がポンコツのクソザコだからっすよ。悔しかったら配線の選定の精度をあげるっすー。」

「くっそーーーーー。オレっちは一生事あるごとにアフロにされるー。いーやーだー。こんな人生。あああああ。」


 爆弾男は床を転げ回っている。

 

「まー君。これからはずっと一緒っすよー。また、楽しく一緒に暮らすっすー。」

「うっ……。」

「まー君の作る爆弾は今後、全て私が解除するっすー。1つも爆破はさせないっすー。つまり、まー君は金輪際自分が作った爆弾を爆発させることは無いっすから。結果が見られないなんてかわいそうっすねー。あぁ、それと、昔みたいに誕生日には爆弾をプレゼントしてあげるっすー。毎年アフロになるっすよー。似合ってるっすー。楽しい毎日っすねー。」

 

 アズサは棒読みでそういうと、爆弾男の首根っこを掴み無理矢理立たせた。立ち上がった爆弾男は小柄な体形で、アズサの方が一回り大きい。


「う……うわぁああああああ。嫌だぁああああ。」


 爆弾男は頭を抱えて叫び出す。遅れて絶望でもしているのだろうか。このパワーバランスを見る限り、爆弾男はアズサに任せるのがよさそうだ。色々と歪に見える部分があったが、完全に支配できているように見える。


「さて。爆弾解除チャレンジが終わりましたので、貴方達も連行します。言い忘れてましたが、今後お二人は私の管轄下になります。刑務所には入れません。」


 主犯の男と爆弾男はキョトンとした顔をしている。そのまま元居た刑務所に戻されるのだと思っていたのだろう。


「私が警察であることを知ってしまったお二人を一般の刑務所に入れられる訳がないでしょう?そうですね。爆弾男さんはアズサに任せますから。連れて行ってください。」

「了解。」

「え……。」


 爆弾男は悲しそうな顔をしている。そんなに姉であるアズサの管理下が嫌なのだろうか。昔は一緒にいたという経歴は知っているが、そこでトラウマレベルの地獄でも見たのかもしれない。


「アイル。彼らを連れていってください。外にいるいつものパトカーへお願いします。」

「OK。」

「私はまだ学生としてやることがありますので、ここに残ります。キャロルもアイルに付いて行ってください。」


 アイルは主犯の男と爆弾男を連行していく。アズサもそれに続いて校長室を出た。校長の方は気絶したままなので機密事項などは問題なさそうだ。シラウメは校長の拘束だけ解いてそのままにし、校長室を後にした。


「一件落着ですね……。それにしても疲れました……。」


 シラウメは独り言のようにそう呟くと、自分のクラス、4階、3年3組の教室に向かった。裏警察の仕事はこれで終わりだ。学生に戻るのだ。シラウメは、白い髪を揺らしながら、階段をひたすらのぼって行った。マドカの待つ教室を目指して。

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