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殺人同好会 〜橋口まどかの存在証明〜  作者: ゆこさん
5章
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5章-3.護衛任務 2023.11.2

 レンヤが弁当を届けに来てからしばらくだった頃、教室内の生徒達は次第に状況に対して慣れが出てきたのか、小声で話したり自習するなど、各々動き出した。少し余裕が出てきたようだ。相変わらずマドカの机の横で体育座りするレンヤへの注目もさほどなくなったようで、レンヤも居心地の悪さからは解放された。


 そんな少し雑音が聞こえ始めた教室で、突然コンコンと扉をノックする音が響いた。教室内の人間たちの視線が一気に扉の方向へと集まり、再び教室は静まり返った。


 ガラッと音を立て、教室の引き戸が開かれる。するとそこに現れたのは私服姿の若い女性だった。黄緑色のVネックのセーターに、ジーンズをはき、髪は高い位置でポニーテールにした女性が、大きめのかばんを手に立っていた。私服の時点で外部の人間だと想定できる。また武装しているわけではないので、犯人側の人間でもなさそうだ。服装の雰囲気も相まって非常に明るく元気そうな印象を受ける。彼女はにっこりと笑うと、堂々とした足取りで教室に入ってきた。


「みなさん。ちわーっすー。ウチは爆弾処理の者っすー。だから、気にしないで欲しいっすー!」


 見た目の印象通り非常に明るく覇気のある声だ。軽いノリの発言だが、嫌な印象は受けない。彼女は堂々とした足取りでまっすぐに教室に設置されたストーブへと向かって行った。彼女は真剣なまなざしでストーブと向き合い作業を開始する。周囲の視線全てが彼女に注がれているが、一切動じていない。レンヤとは大違いだ。彼女は、黙々と自らの仕事を進めている。ストーブのカバーを外すと、内側から爆弾と思われるものが現れ、それを処理しているようだ。暫くの間彼女は、配線を切ったり工具で解体をしながら解除作業を行っていたが、どうやら解除は成功したようだ。彼女は安堵した表情で深呼吸する。


「ふぅー!終わったっすー!ところで皆さん。レンヤ君って人知ってるっすかー?」


 爆弾の処理が完了した彼女は、スッと立ち上がり周囲を見回している。彼女の発言によって生徒達の視線は、再び体育座りをするレンヤに一気に向けられた。レンヤははっとして立ち上がる。


「お?君がレンヤ君?ウチはアズサっす!よろしくっすー!で、君にはこれからウチの護衛をお願いするっす。ウチが爆弾解除する間頼んだっすー!」

「ほらね、レンヤ君。待ってれば連絡あったでしょ?いってらっしゃい!」


 マドカはそう言って、ボケッと突っ立っていたレンヤの背中を押した。レンヤは振り返りマドカを見る。すると、マドカはニコッと笑っていた。


「ん。分かった。行ってくる。」


 レンヤはアズサの方へと歩いて行った。


***


「よろしくお願いするっす!」

「こちらこそ。よろしく。アズサさん。」


 3組の教室を出たところで、レンヤとアズサは握手をした。アズサはニコっと笑う。とても明るく印象がいい。先ほどの爆弾を解除する様子からも堂々とした様子は非常に好感が持てる。安心して爆弾の解除を任せられそうだと感じる。


「さて、これから全部屋の爆弾を解除するっす。頑張っていくっすよー!」


 アズサはそう意気込むと、次の教室を目指して歩いていく。レンヤもアズサに遅れないよう、後ろをついて行った。


「レンヤ君は、外で見張りをお願いするっす!」


 アズサはそう指示を出すと、次の教室へと入っていった。レンヤは内部の様子を教室の引き戸に取り付けられた小窓から確認する。先ほどと同様に生徒たちに元気に挨拶を行い、作業を開始したようだ。レンヤはアズサの指示通り、教室の外で周囲を警戒した。周囲に意識を向けこのフロアに増援が来ていないかを確認する。お弁当を持ってくる時に見張りをしていた男達3人以外にはいないようだ。あまり犯人側の人間はいないのかもしれないなと思う。しばらくすると、教室からアズサが出て来た。どうやら作業が終わったようだ。


「このフロアはこれでお終いっす。上の階から片づけて欲しいというオーダーなので、次は3階へ行くっすー!」


 4階の教室は終わったため3階へと向かうようだ。話の様子から特別教室や倉庫等の諸室には爆弾は仕掛けられていないのだろう。あくまで生徒がいる教室のみなのだろうと思われる。東側の階段まで戻り、2人は階段を降りていく踊り場まで来たところで、前方3階のフロアに黒ずくめの長身の男が立っていた。


「やあ、レンヤ君。久しぶり。」

「あ、アイルさん!?」


 黒ずくめの男、アイルはにっこりと笑いレンヤ達に声をかける。おそらくはシラウメに呼ばれて駆け付けたのだろうとは思う。とはいえ、ここにいる犯人側の人間は雑魚だ。アイルレベルの人間では過剰戦力ではと感じる。


「隣にいるのが爆弾処理担当のアズサさんかな?」

「はい!私がアズサっすー!よろしくっす!噂通り真っ黒っすね。お会いできて光栄っす!」

 

 アズサはアイルに対しても変わらない笑顔で受け応える。


「アズサさんとレンヤ君は引き続きこの階の爆弾処理を頼むよ。俺は増援が来た時とか別の階で問題があった時の保険だからね。ここで見張ってるからさ。あ、このフロアの見張りは全部気絶しているから危険はないはずだよ。」


 アイルはそう言って3階の廊下を指した。廊下の方へと目をやると確かに見張りをしていたと思われる銃を持った男が3人気絶して倒れている。これであれば問題なく爆弾処理ができそうだ。このフロアにアイルが立っていたのはおそらくレンヤへの行動指示のためだろうなと感じる。面識のある人間を置くことでスムーズに指示を伝達できるようにしているのだろうと思う。アズサとレンヤは4階の時と同様に、手前の部屋から爆弾処理を進めていった。処理は順調であり、増援も来ない。物音も気配もしないので、アイルの所まですら来ていないのだろうなと察する。


 3階の爆弾の処理が終わると、アズサとレンヤは東階段へと戻った。そこにはアイルが暇そうに立っている。想定よりも相手の戦力が無かったのだろうなと察する。


「あ。おかえり。次は2階だねぇ。反対側の階段は爆破されて増援は来る事はないし、本当にやる事ないなぁ。」


 アイルはそんな事を呟きながら、レンヤ達と一緒に階段を降りる。確かにアイルの言う通り、片側の階段からしか攻めてこられないのであれば、東側の階段で見張りをするのみで良くなる。本来は犯人側が見張りやすくするために行った西階段の爆破であるだろうが、逆にこちらにとって有効な状況になっているように思う。人質たちを簡単に逃げられないようにし、管理しやすくするための措置だったのだろうが、完全に裏目に出ているなと感じる。


 レンヤ達が2階と3階の間の階段の踊り場まで階段を降りると、今度は大鎌を持った金髪の少女が2階のフロアに立っていた。金髪のショートヘアー、釣り目から覗く深緑色の瞳、歳は8歳程度だろうか、非常に幼い印象だ。手にしている大鎌は少女の身長よりもはるかに大きい。そんな武器を使いこなしているとでもいうのだろうか。あまり想像ができない。そして、最もレンヤを驚かせたのが少女が放つオーラだった。レンヤは本能的に感じる。この少女は強いと。アイルたちのように強者が持つようなオーラがある。おそらくシラウメの部下なのだろうなと察した。


「我はキャロルじゃ。敵は全て気絶しておる。行け。」


 キャロルと名乗った少女はそう言うと2階のフロアへ進むよう促す。2階も同様に見張りを行っていたと思われる銃を持った男達3人が気絶して倒れていた。レンヤとアズサは同様にして爆弾処理に取り掛かった。ここまで来ると慣れたもので、アズサの作業スピードも格段に上がっていた。相変わらず敵が来る様子は一切ない。人手不足なのだろうか。レンヤは段々と緊張が無くなっていく自分を奮い立たせ、気を引き締める。


「終わったっすー!ラストは1階だけっすね!」


 2階の最期の教室から出てきたアズサは笑顔で言う。流石に彼女には疲れが見える。いくつもの爆弾をこの短時間で処理しているのだ。また、もし間違えれば爆発するというリスクも抱えているのだ。緊張しつづけているのだろうと察する。東の階段まで戻ると、アイルとキャロルは仲が悪そうにそれぞれそっぽを向いて待機していた。


「アズサさん。お疲れ。大丈夫かい?」

「はい。大丈夫っす。後1フロアっすから!気合いでいくっす!」


 アズサに疲れが見えたからだろう。アイルが気遣うが、アズサは気合いで乗り切ると言い笑顔を見せた。本当に頼もしい女性だなと感じる。レンヤとアズサが合流したため、キャロルも含めて4人で1階を目指し東の階段を降りて行った。

 

*** 


「やぁ。君が神辺出(カンナベ イズル)かな?君の娘さんは今ここで拘束されているよ。無事に返して欲しいだろ?3億は用意出来たかな?え?まだ?時間がかかるのかぁ。そうだね、あと一時間以内に頼むよ。さもないと爆破だよ。ウキャキャキャキャ。何?娘の声を聞かせろって?仕方ないな。ほらよ。」


 校長室では主犯の男が警察へ電話をかけていた。電話の向こうで受け答えをしたのは、シラウメの父親である神辺カンナベ イズルだった。父親からの要求で主犯の男のスマートフォンがシラウメの耳元に差し出された。スマートフォンを耳に押し当てられたシラウメは、咳払いを1つした後とりあえずは耳をすませた。


「喋りなよ。」


 一向に話し出さないシラウメに、主犯の男は言う。そのため、シラウメは仕方なく話し出した。


「パパ。シラウメです。お久しぶりです。お変わりありませんか。そうですか。はい。はい。はい。いえ。はい。いえ。はい。いえ。今は無事ですよ。」


 シラウメがそういうと、主犯の男はスマートフォンをシラウメから遠ざけ、自分の耳に当てた。


「もういいよね?娘さんは無事だよ。じゃ、3億。現金用意してもってきてね。もちろんお金の番号はバラバラにしてね。よろしく。」


 主犯の男は通話を切ると、楽しそうにニヤけていた。


「ねー、亡者さぁーん。オレっち爆破させたいんだけどさー、まーだー?」


 突然、爆弾のスイッチの前にいた男が振り返り主犯の男に話し掛ける。パーカーにジーンズというラフな服装で、髪はボサボサだ。見た目の年齢は10代後半程度に見える。やる気がなさそうな態度で、背もたれに身を預けてガムを噛んでいる。


「亡者って……。」

「えー。皆あの人は金の亡者だって言ってたからー。」

「いや、だとしても大事な部分を省略しないでくれるかな?もはや別の意味になるからね。」

「じゃぁ、金さんにしとくー?」

「……。それなら君は銀さんでもやるの?」

「えー。何か長生きできそう。」

「……。」


 主犯の男は深くため息をついた。


「もう、亡者でいいよ。で、爆破の件だけど、時間までに金が用意されなければ爆破していいから。それまで待っててよ。」

「うぃーっす。承知之助。爆発こそ芸術だー!早く爆破してぇ~!」


 主犯の男と爆弾を操作する男は緊張感の全くない会話をしている。目的の3億は確実に手に入ると疑ってもいないのだろう。今こうしている間にも、確実に起動する爆弾が削られている事を彼らは知らない。シラウメは自分の計画の進行具合を脳内に描きながら、そんな彼等を黙って見ていた。警察である父親には先ほどの電話で状況を伝えた。警察の動きも教えてもらえたため、不安要素や不確定要素は全て無くなった。あとは、決めゼリフでも考えておこうか……。シラウメは思考をめぐらしていた。


***


「1階は、オレ様が片付けてやったゼ!感謝しやがれ。」


 レンヤが踊り場に辿り着いたところで、そんな少年の声が聞こえた。1階のフロアには、キャロルと同年代、サクマよりは少し幼いくらいの少年がドヤ顔で仁王立ちしていた。焦げ茶色の短髪に、ぱっちり二重でつり目、ヘーゼル色の瞳をしていた。少年は二カッと笑う。Tシャツに短パンと冬が近いにもかかわらず真夏の恰好をしていた。見た目的にも元気が良さそうな少年だなと思う。この少年もアイルやキャロル同様にオーラがある。武器は何か分からないが、強いのだろうなと直感的に感じる。


「手前が校長室だから、そこ以外の部屋の爆弾を処理しろよ!」


 少年はすぐ近くの部屋を指差して言った。その指差された部屋には校長室とかかれている。シラウメがいる部屋でもあった。アズサとレンヤは一階の教室もテキパキと同様に作業を進め、ついに全部屋の爆弾を解除し終えた。


「レンヤ君、ありがとっすー!おかげで作業に集中できたっすー!」

「いえ。俺はついていただけなんで。」


 レンヤは特にアズサについていっただけで、犯人側の人間を倒したわけではない。感謝されるほどの事をしていないので謙遜してしまう。


「そんな事は無いっす!爆弾の解除は集中力を必要とするから、絶対に外部から襲われないっていう安心が無いとできないっす。付いていてくれたってことが重要っすー!」


 アズサはにっこりと笑う。一仕事終えてやっと気を抜くことができたのだろう。表情は明るい。アズサとレンヤが廊下の先、校長室の方を見ると部屋の前で、シラウメの部下達3人は待っていた。最後は校長室に乗り込むのだろうか。レンヤはそんな事を考えながら、アズサと校長室前まで歩いていった。

 

「自己紹介まだだったな。オレ様の名前はビンゴだ。お前の事はシラウメから聞いてるゼ。よろしくな!」


 先程1階で会った少年、ビンゴがニカッと笑って自己紹介する。その笑顔は無邪気で、見ていると元気がもらえそうな笑顔だった。真冬でも半そで短パンで外を走り回っていそうな印象である。


「さて、残すはお姫様救出だねぇー。いこっか、校長室。」


 アイルは全員がそろったのを確認してそう言うと、校長室のドアをノックもせずにガチャリと開けた。

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