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殺人同好会 〜橋口まどかの存在証明〜  作者: ゆこさん
5章
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5章-2.潜入 2023.11.2

 シラウメは廊下に出た瞬間、ぴたりと立ち止まった。目の前に、自分に銃を突き付け威嚇する男がいる。


「お前が神辺白梅カンナベシラウメか?」

「はい。」

「俺の前を歩け。妙な動きでもすれば即教室を爆破するからな。」


 男は銃を向けたまま、シラウメに自分の前を歩くよう指示する。シラウメはおとなしくそれに従い、男の前を歩いて行った。現在いるのは4階だ。西階段が爆破された今、東階段をシラウメと男はおりていく。常に男から銃をあてられているシラウメだったが、男の死角となる位置でガラパゴス携帯を弄っていた。1階にある校長室までの移動時間。その時間が勝負だ。シラウメは顔を上げたまま手元は見ずに、静かにメールを打ち部下達に指示を出す。この時間で指示を余すことなく出せるかどうかにかかっている。シラウメは、背後にいる男からは普通に歩いているように見えなければならない。少しでも怪しまれれば、適当な教室を見せしめに爆破されてしまうだろう。


 だが、シラウメがそんなミスをするはずもなく、ついに気付かれる事なくシラウメは校長室までやってきた。そしてドアの前に立った瞬間、シラウメはガラパゴス携帯を上着の袖の中にサッと隠した。


「開けろ。」


 後ろにいる男がそう指示するので、シラウメは校長室の開き戸を手前に引き開けた。そして、ゆっくりと室内へ踏み入れた。


「やぁ。君が神辺白梅君だね?会いたかったよ。ウキャキャキャキャ!」


 放送で聞こえた声を発する20代後半と見える男が、校長室の中央のソファーにどっしり座っていた。そして、奥のデスクの方には椅子に縛られ目と口をガムテープで塞がれた校長の姿もあった。どうやら気絶しているらしい。ピクリとも動いていない。


「さぁ、シラウメ君。おいで。君も座るんだよこの椅子にね。」


 シラウメは誘導されるまま、出された椅子に座った。シラウメが椅子に座ると、近くにいた男が、シラウメを椅子に縛り付けた。腕は、ひじ置きに。胴体は椅子全体に。それぞれロープで縛られ完全にシラウメの動きは封じられてしまった。


「さて、シラウメ君。今から君のパパにお電話するからね。」


 男はそう言うと、電話をかけ出した。


「やぁ。ご機嫌いかがかな?警察の皆さん。今俺は、ある中学を爆破しながら立てこもっているんだ。神辺出カンナベイズルいるだろ?そう、警察トップの。彼に伝えてくれないかな?娘さんと、娘さんと同じ中学に通う生徒達の命が惜しかったら、3億円用意してね。わかったかな?また後でかけ直すよ。」


 男はそう言うと電話を切り、シラウメを見た。


「私を人質にして、お金の請求ですか?」

「そうだよ。君のパパはお金持ちだからね。君の命がかかれば、いくらでもだすだろう?ウキャキャキャキャ!」


 男はそう言って笑った。男の目的は金のようだ。金が欲しいだけでこんな目立つことをする等、本当に理解ができない。シラウメは思考を巡らせる。この男の考えを推測する。行動原理や目的、経緯などの可能性を余すことなく導き出していく。しばらくすると、ひとつの解にたどり着く。やはりなと感じてシラウメは小さく息を吐いた。


 幸いな事に、主犯の男はシラウメの正体には一切気付いておらず、普通の学生としか見ていないようだ。ならば何の問題もない。シラウメはそう思って、椅子に深く座って、背もたれに身を預けた。


 もう、自分の仕事は終わった。後は部下達を信じて待つだけ。シラウメは回りを見回す。首謀者と、爆弾を操作する人間。そして、銃を持った屈強そうな3人の男。室内にはこれだけの敵がいた。


暇ですね……。


 シラウメは緊張感もなく、溜まってる仕事の事を考え始めた。


***


ブルルルルル……


 メール受信をあらわすバイブレーションの音にレンヤは反応する。受信したメールを確認すると差出人はシラウメだった。


【レンヤ君おはようございます。もうすぐ学校につくと思いますが、お願いがあります。マドカの教室は4階の3年3組の教室です。そこへ向かってください。そこへ辿り着くまでに、もし銃を持った人間がいたら、銃を無効化し気絶させて下さい。お願いします。】


 メールの内容を見て、レンヤは眉をひそめる。


「なんだ?銃を持った男って……。」


 全く意味がわからない。学校に銃を持った人間がなぜいるのだろうか。物騒だなと思う。レンヤは、何か事件でもあったのだろうかと思い、前方に見えてきた建物を観察してみるが、レンヤのいる校門から見える学校はいつもと変わらないようだった。


 シラウメが嘘をついたり冗談を言うとも思えない。行けばわかるだろうと思いレンヤは特に身構えるでもなく、そのまま建物内へと入って行った。


***


 レンヤが学校の玄関に辿り着くと、目視できる範囲には誰もいなかった。人の気配はそれなりにあるが、静けさだけがあった。授業中だからだろうがやけに静かだ。話し声や物音も聞こえない。


 土足は厳禁なようなので、レンヤはスニーカーを脱いで律儀にスリッパに履き替えた。入ってすぐに階段が見える。マドカのいる4階を目指し階段に向かって歩いて行く。


「お前何者だ!!手を挙げろ!」


 突然後ろからそんな声が聞こえ、レンヤは首だけで振り返った。するとそこには銃を自分に向け威嚇する男がいた。一体どこに隠れていたのか。スタスタとスリッパで床を擦るレンヤの足音を聞いて駆けつけたようだ。


「あー。これかぁ。」


 レンヤはシラウメのメールを思い出す。銃を持った男がいたら、銃を無効化して、男を気絶させて欲しいというオーダーだったはずだ。レンヤは上がりかけた階段から方向転換し、銃を構える男を見据える。


弱そう……。


 レンヤは直感的にそう感じた。確かにその男の体格はいいが、何もオーラを感じない。銃を向けているくせに殺気もない。撃つ気があるのか確認したくなるほどだ。あまりに脅威に思えなかったために、声を掛けられるまで気づかなかった。


 脱獄犯やアイルに見られたような本物だけが持つ何かがこの男には足りないようだ。どうせ自分が自由に動いたところでこの男は銃を撃てないだろうなと思われる。牽制する事しか出来ないのだろう。銃という脅威を見せつけて相手の自由を奪う事がこの男の精一杯のように思えた。


 レンヤはスリッパを脱いでふらりと男の方へ1歩を踏み出す。

 

「動くな手をあげろ!さもないと……。」

「撃つ……か……?で、何で撃つ?その輪切りの銃でか?」


 レンヤ言葉と同時に、カランカランカランカラン……と軽快な金属音が静かな廊下に響いた。男は固まっている。微動だにしない。レンヤは一瞬にして男の背後に回り込み、男の首元にナイフを当てていた。そして床には切断され細かくされた銃が転がっている。


「……。」


 男は今自身に起きたことが信じられないようだ。目を丸くし恐怖しているように見える。レンヤはそんな男の様子を見て、それはそうかと納得する。男は今まで銃という武器によって優位性を保つことが出来、身の安全が保証されていると感じていたと考えられる。その銃が破壊され、首にナイフを当てられたら一気に身の危険を感じるわけだ。訳が分からないままに状況をひっくり返されたとすれば怖いに決まっている。


「あばよ。」


 レンヤはそう呟いて、動かない男の首の後ろを軽くチョップし気絶させた。


「一丁あがり。弱いなぁ。銃持ってるだけか……。」


 レンヤはそんな事を言いながら、脱ぎ捨てたスリッパを階段下に残しゆっくりと階段をのぼって行った。


***


 階段をのぼりきり最上階の4階にたどり着いたレンヤは、壁に隠れながらそっと廊下を覗く。人の気配があるなとは思っていたが案の定だった。レンヤが廊下をのぞくと、廊下には銃を持った男が3人立っていた。3人とも先程同様、体格は良いが弱そうだ。倒すのは簡単だろうと思う。ただ、問題は廊下が端から端まで直線であり、見通しがいいことだ。つまり、この場所を出ると一切身を隠す場所がない。従って警戒する男達3人を一気に片付ける必要が出てくる。また、シラウメのオーダーは銃の無力化と気絶だ。殺してしまっていいのであれば一気に切り裂いていけばいいのだが、殺してはいけないとなると非常に厄介である。


めんどくさいなぁ……。


 レンヤはそう思って深くため息をついた。しかし、この男達を片付けなければ、マドカの教室には辿り着けない。レンヤは意を決して、タイミングを見計らい勢いよく陰から飛び出した。気配を消し足音も消した状態で、まだレンヤの存在に気付かない男達に急接近していく。そして、静かに一番手前にいた男の腹部に拳を入れた。男は気絶し倒れる。レンヤはその男が倒れきらないうちに次に近くにいた男の背後に回り込み首の後ろに衝撃を与えて気絶させた。あと一人だ。しかし、レンヤが最後の一人を見ると、男はレンヤに銃を向け威嚇していた。


さすがに一人目が倒れた音で気付くか……。


 レンヤはそう思いながら仕方なく立ち止まる。ここで銃を撃たれたらその銃声で増援が来てしまうかもしれない。そうなれば、かなり面倒だ。


「お、お前ぇぇ!な、何者だぁぁぁあ!」


 レンヤに銃を向ける男は叫ぶように言う。声が裏返っている。男はレンヤに酷く恐怖しているようだ。銃を持つ手はがたがたと震え、膝も笑っているように見える。


情けないやつだな……。


 いい年した体格の良い男が、震えあがる姿というのはかなり滑稽だ。レンヤはそれがおかしくて、ニヤリと笑った。この様子だとたとえ発砲したところで当たりはしないだろう。だが、銃声を響かせたくないのだから撃たせないようにしたい。男は少しパニックになっているようにも思う。少しでもレンヤが迫れば、でたらめにでも撃ちそうだ。男との距離はそれなりにある。一気に距離を詰めたところでレンヤが男に到達するよりは引き金を引く方が早いだろう。


 そうなればやれる事は一つだ。レンヤはヒュンッとナイフを目にもとまらぬ速さで男に向かって投げた。ナイフは一直線に男へと飛んでいく。思惑通り、男はそのスピードにはまるでついてきていない。パニック状態の男はナイフが飛んで行っていることにも気が付いていないようだ。そして間もなくして、ナイフは静かに男が持つ銃の銃口に深く刺さった。


「は……?」


 男は困惑した声を漏らす。ナイフが銃に刺さった時の小さな衝撃が手に伝わり気が付いたのだろう。視線を落として持っている銃を見たまま動かない。くぎ付けにされているようだ。銃にナイフが刺さっているのだ。その異常な光景に言葉を無くしているようにも思う。もしくは、ナイフが自分に刺さっていたらと想像して恐怖しているのかもしれない。いずれにせよ血の気が引き固まってしまっている。レンヤはその隙に一気に男との距離を詰めると、男の首に衝撃を与え気絶させた。


「いっちょあがり。」


 レンヤはそう呟きながら、銃口に刺さったナイフを抜きとる。そして先に気絶させた男達が持っていた銃も回収し破壊した。これでシラウメのオーダーはクリアだ。レンヤは何事もなかったかのように3組の教室へと歩いて行った。


***


 レンヤは3年3組の教室の戸に手をかけたとき、ふと思う。


弁当平気かな……?


 弁当片手にだいぶ暴れた記憶がある。


中身ぐちゃぐちゃだったらどうしよう……。怒られるかもしれない……。


 そう思うと一気に不安になる。せっかく持ってきたのにぐちゃぐちゃになってしまっていては悲しい限りだ。レンヤはそんな不安を抱きながら、ゆっくりと引き戸を開けた。そして、一歩踏み込むと同時に静止する。動くことができなくなってしまった。何故ならば、約30人分の視線が自分に注がれていたからだった。知らない人間の顔が皆自分を疑うような目で見ているのだ。恐怖を感じる。しかしながら、ここで引き返すわけにはいかない。マドカを探してお弁当を届けなければ帰る事はできない。レンヤは意を決して口を開いた。


「マドカさーん……。いる?」


 自分でも驚くほど情けない声だった。こんな事では、先程の銃を持って震えていた男と何も変わらない。馬鹿にして悪かったとレンヤは反省した。レンヤがそう呼びかけてから、しばらく嫌な沈黙が続ていたのだが、レンヤの近くの生徒が窓の方を指さした。


「橋口まどかなら、あそこで寝てるよ。」

「どうも。」


 レンヤはその生徒に軽くお礼を言うと、机に突っ伏して爆睡するマドカの席まで歩いて行った。


「マドカさーん。起きて~。」

「んあ?あり?レンヤ君?」


 マドカは目をこすりながら、むくりと起きた。非常に眠そうだ。


「マドカさん、お弁当持って来たんだけど。」

「あぁ、そういえばそうだったね。レンヤ君ありがとう!」


 マドカはニコッと笑ってお弁当を受け取った。


「ところでマドカさん。一体何があったんだ?銃を持った男が何人かいたけど……。」


 いくらなんでも、学校内に銃を持った危険人物がいるのはおかしい。とはいえ、自分も十分危険人物部類ではあるのだが。


「あ!それね。実は今、変な人達が学校爆破して、私達に動くなって脅してるんだよ~。でね~、放送でシラウメが犯人に校長室に呼び出されちゃってさぁ~。まぁ詳しい事は全然分かんないんだけどね!」


 マドカは全く緊張感の無い声で説明した。


「あ、そうそう、レンヤ君。全部屋に爆弾仕掛けられてるらしいから、気をつけてねっ!」

「……。」


 レンヤはマドカの発言内容に驚き固まる。爆発物があり現状自分も含めマドカたちは犯人に命を握られているという事ではないかと推測できる。要するに人質だ。


「……。マドカさん、よく寝てられたなぁ……。」


 レンヤは頭を抱えた。この状況で仮眠をとる神経が理解できない。道理で周りの生徒が異常に緊張しているわけだ。レンヤが入ってくる前から教室の雰囲気がおかしかったのだ。爆弾が仕掛けられているという情報で、色々と納得できてしまった。校長室へ呼び出されたというシラウメはマドカたちを人質に取られた状態で犯人とやり合うのだろうか。全く分からないが、自分がシラウメにいいように使われたのだろうという事だけは何となく察した。


「大丈夫だよー!シラウメいるしー!」


 マドカは笑顔だ。周りの生徒たちとは対照的で、何にも恐怖していない。それほどまでにシラウメを信頼しているのだろうと思われる。そんなマドカを見ていたら、何とかなるのかもなとレンヤも気が抜けてしまった。


「てか、マドカさん。俺この後、どーすりゃ良いんだ?来る時には、シラウメさんからメールあったからいいけど……。」


 レンヤはこれからどうすればいいか分からず悩む。爆破される危険性があるのであれば、勝手に動いてはいけないように思う。下手な事をしてシラウメの策略を崩すのは避けたいというのと、マドカを危険にさらしたくはない。


「やっぱりシラウメからメールあったんだぁ、ふーん。まぁ、だったらそのうち何かしらの連絡があるよ。とりあえずここで待ってればいいんじゃない?シラウメが一度策に組み込んだ人間を放置はしないと思うよ。最大限利用するだろうし。」

「待つって……。ここで!?」

「だって他に居る場所ないでしょ。それに、シラウメの想定では、レンヤ君はここから動かない設定だと思うし、シラウメの計画狂わしちゃだめだよ!」

「ぐっ……。」


 マドカの正論にレンヤはしぶしぶその場で待機することにした。いまだにクラス中の視線がレンヤに集まり、非常に居心地が悪い。犯人側の人間と思われていてもおかしくない見た目をしている。好意的な目では決してない。珍獣を見るような視線を向けてくる人間もいる。レンヤはたまらずマドカの席のとなりに腰をおろすと、体育座りで小さくなった。そんな情けないレンヤを見たマドカは、レンヤには聞こえない程度にクスリと笑った。

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