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殺人同好会 〜橋口まどかの存在証明〜  作者: ゆこさん
4章
20/62

4章-1.悲劇 2023.10.21

何故だ……。

何故俺は今こんな事になってしまったんだ……?

何故こんなめに……。


 レンヤは独り夜道を歩きながら思う。後悔、後悔、後悔。あらゆる後悔をし、どんどん気分は沈んでいく。


こんなはずでは……。

こんな事になるくらいなら……。


 今更後悔したところで、全く意味がない。そんな事は嫌というくらい分かっているが、後悔せずにはいられない。それが現状だ。


 レンヤはふと、思い起こす。事の始まりは本日の昼間だった。そう、それは朝10時頃にさかのぼる。


***


 10月半ばのある朝10時の事。いつものようにレンヤは家事と言う名の雑用をし終え、ソファーで寝ていた。


「レン兄!起きてよ!」

「ぐへっ!」


 突然サクマが横たわるレンヤの腹の上にダイブした。腹部に強烈な痛みを感じて、レンヤは瞬時に目を覚ました。


「な、何?サクマっち……。」


 レンヤは、痛みに顔を歪ませながら、自分の腹の上に馬乗りになっているサクマにたずねる。


「20万また発見したよ!ほらこれ見てよ!ぽくない?」


 サクマはそう言って、レンヤの目の前に、新聞記事を突き出した。


「また見つけたんかい。凄いな。とりあえず、どいてくれ。死ぬ。」


 サクマはレンヤの上からおりると、新聞記事を渡した。


「何々……?首から上の無い女性の全裸の遺体が山奥から発見。しかも10体。」


 レンヤは読み上げるとサクマを見た。


「それね、5年前に起きた事件と一緒なんだよ。ほら。」


 サクマはそう言って、シラウメがくれた資料も渡す。レンヤはとりあえずそれにも軽く目を通すと、


「成程。言われてみれば。」

「今までの流れから言って、脱獄犯達は前科と同じような犯罪起こすみたいだし。どうかな?」


 確かにそうだ、流れ的にサクマの推測は正しい。何故だかは知らないが、脱獄犯達は前科と同じ犯罪を起こすらしい。


「この犯罪、近くだな……。」


 この事件の犯人もまた、この周辺で犯罪を犯している。やはり脱獄犯で間違い無い気がする。あくまで推測ではあるが。


「何?どーしたの?」


 マドカもリビングへとやって来て、レンヤの持っていた資料と新聞記事をサッと奪い取った。そして、さらっと目を通す。


「こういう個性的な犯罪は稀だからね。同一人物と考えるのが妥当だよ。よって20万はもらったぁ!」


 マドカはそう言うと、ハイテンションでレンヤの隣にドスンと座った。


「よし、そうとわかれば、捕まえよう!!やっぱりこういう時は囮作戦だよねっ!」

「囮作戦!?マドカさん!?いくらマドカさんでも危険じゃね!?」


 レンヤは慌てて言う。いくらなんでも、囮は危険だ。マドカは普通の女の子よりは強いだろうが、それでも女の子である。特殊な訓練している訳でもない。もしもの事があったら大変だ。しかも相手は脱獄犯。首を切断する等という技術もあるようだ。常識の範囲外の人間に違いない。そう思ってレンヤは反対した。しかし、マドカはキョトンとした顔でレンヤを見ている。


「何言ってるの?レンヤ君。私は囮なんかしないよ?」

「へ?」

「だって危ないじゃん!こんな危険な相手に一般人が挑むなんてありえないでしょ!だから当然、囮はレンヤ君がやるんだよ?」


 マドカはさも当たり前の様に言うと、あははははっと笑った。


「え?でも狙われてるのは女性ばかりだろ?そしたら俺じゃ囮にならない……。」


 レンヤそこまで言った時、ふとある考えがよぎった。そして思わず黙ってしまう。


「ふふふふふ。」


 マドカがニヤリと笑っている。


まさか……。いや、まさかな……。


 この笑い方、自分の推測が正しい事を肯定している気がしなくもない。レンヤは自分の推測を、何がなんでも否定したい衝動にかられた。


「レンヤ君!」


 レンヤはびくっとして、ゴクリと唾を飲み込む。しばしの間 。やけに長く感じた間の後、マドカはスっと立ち上がりレンヤに向かってニコッと笑った。


「女装しよう!囮作戦、レンヤ君が女装して歩けば何の問題もナッシング!!万事解決!」


やっぱりかぁぁぁぁああ!


 まさかとは思った。だが、その予感を信じたくはなかった。現実とは厳しいものだ。予感は見事的中し、レンヤは絶望に浸った。


拒否すればいいって?

無理に決まっているだろう……。

目の前でニッコリ笑うマドカにそんな事言えるか?

言えるわけがない……。

有無を言わせぬあの笑顔……。

諦めるしかない……。


「ま、マジで女装……?他に案は?」

「ない!いいじゃん女装。大丈夫。レンヤ君ひょろいから、ばれないし、可愛くなるよっ!」


嬉しくねぇ……。

こんな事になるのであれば、マッチョになっとけばよかった……。


「作戦は今晩!洋服は私の貸してあげるから安心してね!」


 マドカはそう言うと軽い足取りでリビングを出ていってしまった。


「レン兄。ご愁傷様。」


 サクマもそう言うと、逃げるようにリビングから出ていってしまった。悲壮感が漂うレンヤは、1人リビングに取り残される。


「もう嫌だ。寝よ……。」


 こうなれば現実逃避だ。考えて苦しむよりは寝たほうがマシだとレンヤは思い、ソファーに横になって、昼寝を再開した。


***


 それからしばらくして、夕日が西向きの窓に差し込み、部屋を赤く照らす頃。


「レン兄起きて!」

「ぐへっ!」


 サクマがソファーで寝ているレンヤに再びダイブした。レンヤは再び腹部の激痛により目を覚ました。


「サクマっち……。」


 レンヤはさすがに痛いので、怒ろうと思ったが、自分の腹の上でニコニコと無邪気に笑うサクマを見たら、怒るに怒れなくなってしまった。


「おはようございます。レンヤ君。と言ってももう夕方なので、こんばんは。でしょうけれど……。」

「え?シラウメさん!?」


 いつの間にかシラウメがさわやかに笑って立っていた。なぜここにシラウメがいるのか分からない。寝起きの頭では何も考えられなかった。


「囮作戦をすると聞いたので、手伝いに来ました。」


嘘だ。何かマドカと同じにおいがする。

絶対女装を見に来たんだ。

間違いない。


 レンヤはそう思って顔をひきつらせる。そもそも手伝うなら、部下を連れて来てもっと別の作戦で臨むだろう。独りで此処へ来るなんておかしいではないか。


「ふふっ。そろそろ時間ですよ。早速女装しましょう。」


 そう言うシラウメは、ニヤリと笑っている。午前中に見たマドカにそっくりだ。完全に楽しんでいるのが分かる。レンヤはそんなシラウメに、何か恐怖を感じた。


 これは何かやばいと、レンヤは本能的にそれを感じ取り逃げようと思った。思ったのだが、体が動かない事に気付く。何故だ?なんてそんな事、考えなくても直ぐにわかる。理由は簡単だ、サクマが上に乗っているせいにほかならない。レンヤは嫌な汗をかいた。


動けない。

つまりは逃げられない……?


 そしてふと思った。


まさか、これも作戦のうちなのでは?

サクマはレンヤを押さえ付けるために乗っているのか?

起こすためだけではなく。


 レンヤはそう感じてサクマを見た。と同時に驚愕した。なんと、サクマもまたニヤリと笑っているではないか。


「レンヤ君の事ですから、土壇場になって逃げ出すと思いまして、先手をうたせてもらいました。」


 シラウメはさわやかに笑ってそう言った。


裏警察、恐えぇぇぇ。


 レンヤは今更思い知ったのだった。


***


 そして、数十分の時が過ぎるころには、だいたいの準備が整ってきていた。レンヤは諦めて大人しくしている。この強烈な個性の持ち主である女性二人を相手に、自分ごときが敵うはずがないのだ。物理的には可能かもしれないが、それをするだけの度胸などない。


 それにしても、かつらをかぶったり、スカートをはいたりと、初体験だった。化粧なんて特にだ。よく女性たちは顔面に色々張り付けられるなぁ等と感じる。うっとうしくて仕方ない。


「「できたぁ!」」


 マドカとシラウメの声が重なった。


「レンヤ君、足が細くて綺麗だし、すらっとしてるから、まずばれないね!」


 マドカは満足そうだ。ニコニコ笑っている。


「美脚……。羨ましいです……。しかも何気に可愛いじゃないですか。本当に男なんですか……?」


 シラウメは何か沈んでいるようだった。


「レン兄!可愛いよ!」


 サクマが鏡を持ってやってきた。レンヤはここに来て初めて自分の姿を見る。


「うわーーー。可愛いよ俺。自分で言ってて悲しくなる。」


 自分でも認める程、女装は良い出来だった。普通に女性にしか見えない。ミニスカートからのびる、すらりとした白く細い足。華奢な体つき。肩幅もそれほど広くない事もあって、女性服を見事に着こなしていた。また、二の腕などもそれほど筋肉がついていなかったのか、服によってきれいに隠されてしまっていた。


「レンヤ君。しゃべっちゃだめだよ!それと歩き方も。がに股で肩で風切って歩いちゃダメ!分かった?」

「へーい。」

「それと、今日見つからなかったら、明日もやるからね!」

「え?」


もしや、明日も女装するって事か?


「見つかるまで毎晩女装だよー!あはははっ!たーのしぃ!」


俺を着せ替え人形にして楽しいのか!?


 そんな疑問が浮かんだが、直ぐに、いや、楽しいに決まっていると思い直す。マドカは準備中、終始爆笑していたのだ。本当に楽しそうだったなと。そう思う。


「にしてもさ、レンヤ君私より10センチくらい身長高いのに、まさか私の服のサイズがぴったりなんてね!どんだけもやしっ子なんだろうねぇ!!まだまだ、洋服はいっぱいあるし、楽しみ楽しみ!」


 グサグサと言葉のナイフが突き刺さる。今後は毎日筋トレしよう。そうしよう。レンヤはそんな決意を固めた。そして、レンヤは今日犯人に出くわすことを祈った。今後二度と女装などしたくない。今回が本当に最初で最後にしてほしい。


「レンヤ君。大丈夫です。今晩確実に犯人は現れますから。」


 シラウメはそう言ってレンヤに地図を渡す。レンヤは渡された地図を見ると、地図には赤い線がひいてあった。


「道順は書いてある通りです。このルートを辿れば、きっと犯人に出くわしますから!」


おいおい……。

ここまで犯人の事把握しといて、何故囮作戦などするんだ。


 レンヤは内心思ったが、すぐに答えが分かってしまった。


あぁ、そうか、この人も楽しんでいるんだ……。


「じゃあ行ってくる……。」


 レンヤは女物の靴をはくと、力のない声でそう言い、満面の笑みを浮かべるマドカとシラウメに見送られる中、重い足取りで家を出ていった。


***


 そして現在、夜道を独り歩く所へ至るのだ。女装した状態で。レンヤは人通りの多い道を歩いている。できれば人には会いたくないが、道順がこうなのだから仕方がない。道行く人は特に自分を見るわけでもなく、通り過ぎていく。


女装は完璧ということか……。

嬉しいのか悲しいのかわからねぇ。


 明らかに男が女装しているとばれて、見知らぬ一般人から奇異な目で見られるのは耐えられない。しかし、逆に全く男とも思われない事も、男として辛かった。レンヤはそんな複雑な心境だった。


「ねぇ、ねぇ、そこの綺麗なお姉さん!時間あるかなぁ?俺達と遊んでかない?」


 突然声をかけられると同時にレンヤは肩をつかまれた。振り返ると、明らかにチャラそうな男3人がいた。レンヤは何か言い返すか、こいつらを切り刻みたい衝動にかられたが、ここで事を起こせば、囮作戦は失敗するだろう。失敗すれば明日も女装だ。よってレンヤは黙って男達を睨むしかなかった。


「ねぇちゃん!いいじゃんいいじゃん、楽しいぜ?」


 男はレンヤが何も言わないのをいい事に、腕を引っ張ってどこかへ連れていこうとする。しかし、遊んでいる余裕はないので、レンヤは踏ん張って手を振りほどいた。


ねぇちゃんじゃねぇよ。

にぃちゃんだっつの。


 レンヤはそう突っ込みたくて仕方ないが、しゃべれないので我慢する。


て、ゆうか・・・。気付けよおまえら。

俺は男だぞ?男をナンパして楽しいのか?


 もう、笑うしかないだろう。


「いいじゃねぇかよ。なぁ。ちょっとでいいからさ。」


 男達は簡単にはあきらめる気はないらしく、迫ってくる。


しつこい。

うっとうしい。

キモい。

うざい。

死ねばいいのに。


 そんな女子高生みたいな事を思いつつも、レンヤは逃げた方が良いと判断し、男とは逆方向へ走り出した。


 しかし、レンヤは上手く走れなかった。現在女装のために高めのヒールを履いている。初めてこんなにカカトが高い靴をはいたのだ。歩くのすらきついのに、走れるはずもなく、レンヤはすぐに男達に捕まった。男二人から腕を両方それぞれ掴まれ捕獲されてしまった。そして、動けないレンヤに、もう一人の男が近づいてくる。


「さぁ、捕まえた。あそぼうぜ?」


 男は下品な笑みを浮かべてそう言った。


誰か助けてくれ。頼むから。


 レンヤは、まさかの絶体絶命のピンチに陥ってしまったのだった。

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