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殺人同好会 〜橋口まどかの存在証明〜  作者: ゆこさん
3章
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3章-3.人質作戦 2023.10.8

 その頃、シラウメを抱えた脱獄犯は階段をひたすら下りていた。


おかしい……。おかしい。おかしい。おかしい……。

何かがおかしい。

腕の中の少女は全く自分におびえない。

さらには笑っている。

自分を取り囲んでいた警官は全く追ってこない。

そして追ってきた足音は二人分……。

1つは、先程自分に殺気を飛ばした生意気な餓鬼……。

もうひとつはわからないが、何か嫌な感じがする。

おかしい……。

そしてなによりおかしいのは、周りに人がいない事だ。

誰ひとりともすれ違わず、階段をおりきっても誰もいない。

何故だ?


 男は回りを十分に警戒しながら進むが、あまりの奇妙さに不安を覚え、立ち止まった。


 地下鉄の複雑で見通しの悪い空間に入ってしまえば、完全にたまたま居合わせた警察官程度なら撒けると考えていた。人も密集していれば紛れるのも容易いだろうと。出口も複数箇所ある上、地下鉄に乗れればそれこそ遠くまで逃げることが出来る。そう考えて地下へ潜ったのだ。


 しかし現状想定と現実は大きく異なる。嫌な予感が絶えず襲ってくる。膨れ上がる不安で思考を妨げられる。


「ふふっ。気付きました?」


 突然腕の中の少女が静かに口を開いた。驚いて少女を見る。やはり、相変わらず少女は笑顔を崩さない。気味が悪い。


「そろそろ離してください。」


 少女はさわやかに笑ってそういった瞬間。気付けば少女はするりと自分の腕から抜けていた。

 

「そんなに驚く事もないでしょう……?腕から抜けたぐらいで……。」


 少女はさも当然と言いたげだ。自分はそれなりの力で少女を捉えていたはずだ。普通であれば抜ける事は不可能だと断言出来る。どのようにして抜けられたのか全く分からなかった。


「ふふっ、貴方はすでに籠の中の鳥です。逃げる事等不可能。おとなしく牢屋に戻って下さい。」


 少女はニコッと笑ってそう言った。


「餓鬼……。貴様……。」


 男は、目の前で笑う少女が、やはり普通の少女ではないと確信し警戒する。すると少女は、待ってましたと言わんばかりに、ふふっと笑った。不気味なことこの上ない。


「私の名前は神辺白梅カンナベ シラウメ警察です。ただし、通称だと裏の方のですね。」


裏、警察……。


 脳内で異様に響く『裏警察』という言葉。大罪を犯した者なら誰だって知っている。秘密警察や特別部隊等、他に色々な呼ばれ方もするが、最も一般的な呼ばれ方は裏警察。それは、警察とはまるで次元が違う。裏警察に目を付けられたら、ほぼ逃げる事は不可能に近いと聞く。


 裏警察と聞いた以上最大限に警戒する必要がある。刃物を少女に向け威嚇しながら後ずさる。少なくても距離はとるべきだろう。


何故自分は、人質にこの少女を選んでしまったのか……。


 そんな後悔が、ぐるぐると頭を回る。


人質にする人間は誰だって良かったのだ。

他に候補はいたはずだ。

何でまたよりにもよって裏警察なんかを選んでしまったのだろうか。

本当に運がない……。


「私を人質にしてしまった事を後悔してるんですか?」


 少女は、心中を読んだかのように言う。


「そうです。貴様など選ばなければ……。」

「ふふっ。それは違いますね。」


 少女は可笑しそうに笑う。


「貴方は私を選んだのではなく、選ばされたんです。」

「は……?」


選ばされた……?


「貴方は逃げる野次馬の中から一人選んで人質にした。そしてその一人がたまたま私だった。そう思うのでしょう?」


それ以外に解答があるというのか?


「ふふっ。だから、それは違うといっているんです。」

「どういう意味だ……?」

「簡単な事ですよ。私以外の逃げ惑う人々をよく思い出してみてください。私以外はみな、20代の体格の良い男性だったはずです。要するに貴方は無作為に選んだつもりだと思いますが、実際は確実に私を選ぶようになっていたんです。普通人質とは、おとなしく弱いもので、押さえつける事がより簡単な弱者を選ぶものですからね。私ほど最適な人材はいないでしょう。ですから、私を選んだ事は当然の結果です。よって、後悔するならこの場所で事件を起こした事を後悔してください。私は、たまたまこの時間にこの場所で買い物をしていただけなんですから。」

「……。」


 何も言えなかった。どこまでこのシラウメという少女の策略内なのか分からない。偶然に見えた人質が策略内だと言うのだ。他にも多くの策略に嵌められているのではないかと感じる。


「ふふっ。貴方は反応が面白いので、もう少し種明かししましょうか。理解できるかは知りませんが。」


 少女はそう言ってまた、さわやかに笑う。


「貴方を取り囲んだ野次馬、あれはほぼ全て私の部下です。貴方の前で道を塞いだ警察官20名のうち、4名も私の直下の部下です。私が動き出したのは事件発生直後。部下から事件内容の連絡が来た直後ですね。あとは簡単です。メールでぱぱっと部下たちにそれぞれ指示してお終いです。警察官4人には、あの道を塞ぐよう指示しました。そうすれば、警察官に道を塞がれた貴方は人々を切り裂くのをやめ停滞せざるを得ない。また、自分の逃走経路を確保するために人質をとるのは明らかです。そこで私を選ばせただけです。そして、その位置から分かりやすく逃げ込みやすい地下鉄の入口を見せれば完璧ですね。貴方の誘導も難なく出来ました。即興なのでかなり雑な策でしたが、貴方が思惑通りに動いてくれたので良かったです。」


 理解できない。全く言っていることが分からない。話の内容は分かるがその策略がなぜ成り立っているのか分からない。到底こんな事実は受け入れられない。


「メールって便利ですよね。一斉送信できますし。まぁそれも、人を動かすのに上の許可をとる必要が無いから出来る技ですよね。」


 全て少女のペースだ。何も出来ない。ただただ唖然として話を聞く以外に出来ない。


「あぁ、何故許可をとる必要がないかといいますと、それは私がこの組織の最高権力者だからですよ。」


 少女は可笑しそうに笑った。


「あと、もう一つだけ種明かししましょう。実は今までの会話、分かっているとは思いますが、全部ただの時間稼ぎです。そんな事をする理由は当然応援待ちです。ほら!あちらを見てください。」


 少女はそう言って自分の背後を指差す。ゆっくりと振り返り指さす方向を確認すると、そこには先程自分に殺気を飛ばした少年と、黒のロングコートに黒のハットをかぶり、怪しげなオーラを放つ男の姿があった。どちらもニヤリと笑っている。


「私は頭脳派なので、貴方を生きたまま捕えるなんて絶対に無理です。ふふっ。これで逃げ道は完全に封鎖されましたね。王手です。」


 シラウメはそう言ってさわやかに笑った。


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