3章-1.お買い物 2023.10.8
「今日は、待ちに待った日曜日!!買い物行って、20万をぱーっと使っちゃおーう!」
朝からテンションの高いのマドカは、熟睡していたレンヤとサクマをたたき起し、眠そうな彼らに無理矢理出かける準備をさせる。今日は日曜日だ。放火魔殺害後すぐの日曜日である。マドカは一般的な普通の中学生なので、平日はしっかりと学校へ通っている。従って週末以外は基本的に忙しい。
「買い物って……。何買うんすか?」
「私の洋服とかー。日用品とかさ、いろいろだよ。二人が来てから足りないものばっかりだったからね。」
マドカは寝起きで不機嫌なレンヤとは対照的に、ニコニコしながら答える。そして、あっという間に朝食がテーブルへと並べられた。レンヤは目の前に並んだ朝食をぼーっと眺めると、のんびりと箸を手にとり、いただきますと小さく呟いた。一方のサクマはというと、椅子に座った所までは良かったが、朝ごはんを目の前に出されても、それに気がつかないくらい半睡状態である。椅子に座ってからずっと船をこいでいた。
「ほら、サクマっち起きて!昨日も遅くまで何かしてたのは知ってるけどさ!」
「んーーー。」
マドカに肩をゆすられて、サクマは唸りながらも目をうっすらと開ける。そして、しぶしぶ箸を手にとってむしゃむしゃと食べ始めた。
「いただきます!ほら、レンヤ君も寝てるよ!さっさと食べてよ!」
「え。あ、お、おう。」
レンヤもまた、食べながら寝ていた。マドカに指摘されてハッと目を覚ます。
「今日は、レンヤ君の大好きなアロハシャツも買おうと思ってるんだからね!」
「アロハ……シャツ……。」
アロハシャツか……。
レンヤは薄れそうな意識の中、アロハシャツを思い浮かべる。
大好きな赤系のアロハシャツ……。
1番のお気に入りのは確か、返り血で散々な事になって着られなくなってしまった……。
よくよく考えてみると、マドカの家にあった柄のあるシャツ系も全て同じようにして着られなくなったような気がする。そして、普通に着る事ができるシャツは一着も残っていなかったはずだ。そう、一着も。
「!!!?」
大変だ!着る服が一着もない!
やばい、むちゃくちゃ欲しいじゃないか。
アロハシャツ!!!!
レンヤはその事実に気がつくと一気に覚醒する。シャツ以外を着ればいいという発想はレンヤには一切存在しない。レンヤは、カッと目を見開くと、むしゃむしゃと2倍の速度で朝食を食べ始め、その後もレンヤは積極的に出かける準備をした。
***
朝の10時頃、3人はいくつかの地下鉄を乗り継いで、高層の建物が密集して立ち並び、広い道幅を人と車が埋め詰めつくすような、喧騒にまみれた都会にたどり着いた。
「うわー。人まみれ……。迷子になったら、洒落になんねー。」
レンヤはこれほど賑やかな街を見るのは初めての様だ。
「そんなレンヤ君には、はい!これ。」
マドカはそう言って、レンヤに何かを渡す。
「な、なんすか?これ。」
「携帯電話だよー!こないだシラウメがレンヤ君にって、買ってくれたのー。」
レンヤの手には黒の薄い折り畳み式のガラパゴス携帯があった。
「電話帳には、私やシラウメの番号とか登録済みだし、迷子になったら、連絡ちょうだいね!」
「え?でも俺、使い方わかんねぇよ。」
レンヤは今まで携帯など持ったことがない。そんなハイテクな物を渡されたところで、豚に真珠だ。
「大丈夫。いじってればなんとかなる!」
「さいですか……。」
レンヤはとりあえず携帯を開き中を見てみるが、怖くてボタンを押す気にはなれない。画面には今日の日付とデジタル時計が映し出されていた。
「ま!はぐれなきゃいいんだよー!早く何か買いに行こー!まずは私の服ー!」
マドカはそう意気込むと、デパートに向かって歩き出す。レンヤとサクマもはぐれないよう、マドカについていった。
***
「ねーねー、レンヤ君!この服可愛くない?」
「あー、似合うんじゃないっすかぁ?」
「やっぱり~?」
マドカは、目を輝かせて1着の服を手に取り自分にあて、鏡を見てはうっとりする。そして、それをレンヤに見せては同意を求めて満足した。こんなやり取りがかれこれ2時間半。レンヤはさすがに疲れていた。女の買い物に付き合う男性には、暴動を抑える警官並みのストレスがかかっていると言われている。そんなストレスをレンヤも抱えているのか、レンヤはマドカに見えないように気を使いながら、小さくため息をついた。
服なんて、どれもみんな一緒じゃねぇか!と、突っ込みたくて仕方ない。似合うか聞かれた所で、アドバイスなどレンヤには出来ない。そもそも、聞いてくるのは意見を求められているのではなく、同意を求められているだけだ。適当に同意するのがベストであって、それ以外の返答はNGである。
レンヤはそれを知ってか知らずか、マドカの求めるように返事をし続けていた。極度のストレスの中暴動を起こさないのは、レンヤの優しさであろうか。もしくは、今までのマドカへの恩か。それとも、逆らうと後が怖いと言うだけの脅迫観念なのか。いや、その全てかもしれない。
「レンヤ君これも持って~。」
「へーい。」
マドカはニコニコしながら、今買った服の袋をレンヤに預ける。こうしてまた荷物が増えていく。レンヤ両手には、購入した服や日用品の詰まった袋がたくさん握られている。つまりは、荷物持ちだ。荷物を預け、手ぶらになったマドカは腕時計を見て時間を確認する。そしてマドカは何をいう訳でもなく、エスカレーターへと足を進めた。
どうやらマドカはまた次の店へと移動するらしい。すたすた歩いて行ってしまう。レンヤとサクマは、へとへとになりながらもマドカについて行った。そして、マドカがついた先、そこは今までの服の店とは全く違う雰囲気の服の店だった。
「レンヤ君!ここの店には沢山アロハシャツ売ってるから、買ってきなよ!」
マドカはニコッと笑ってそう言うと、レンヤに5万円渡した。
「どーせすぐ着られなくなっちゃうから、いっぱい買いなよ~!!」
そう言ってマドカは、レンヤに持たせていた荷物を自分で持った。
「あ、どうも。」
「ふふふっ。私は近くの違う店いるから、買い物終わったら電話して!」
マドカはレンヤに手を振り、サクマを連れて、別の場所へと行ってしまった。残されたレンヤの手には5万円。レンヤにとってはかなりの大金だった。
うっしゃー!愛してるぜアロハシャツ!
レンヤは軽い足取りで店内の奥へと入って行った。
***
それからしばらくして、レンヤは左手に南国風のイラストがプリントされた紙袋を持ち、右手で電話をかけていた。電話の相手はもちろんマドカだ。慣れない携帯だが、何とか発信することに成功したようだ。
プルルルルル……
プルルルルル……
数回の呼び出し音なり、ほどなくして通話開始された。
「あ、もしもし?マドカさん?買い物終わったんすけど……。」
「お!マジ?分かった~、店の前で待ってて!すぐ行くからー!」
元気なマドカの声が聞こえてきた。そして、通話はすぐにプチっと切れて、ツーツーツーと電子音が鳴った。レンヤは携帯を閉じ、マドカの指示通り店の前で待った。そしてしばらくすると、遠くの道にマドカとサクマの姿が見えてきた。レンヤは二人の方向へ歩いていき、二人と合流した。
「いいもの買えた?」
「あ、まぁ一応。」
レンヤは、マドカに紙袋の中身をみせる。
「うっはー!派手だね~!さっすがレンヤ君!」
派手……?派手なのか……?
確かにカラフルだけど。
「まぁ、好きな物を買えたんならよかった!よかった!次はどこ行く?あ、でももうお昼だね。お昼ごはんどこかに食べに行こっか!この辺おいしいお店沢山あるけど……。イタリアンがいっかなー。ピザとかパスタでいい?」
「うん!パスタパスタ~!」
サクマはニコニコして答える。イタリアンがお好きな様だ。
「サクマっち、イタリアンすきなの?」
「うん!大好き!」
3人はマドカの言うイタリア料理店へと向かっていった。