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殺人同好会 〜橋口まどかの存在証明〜  作者: ゆこさん
2章
12/62

2章-4.見送り 2023.10.1

「た、ただいま……。」


 マドカの家についたレンヤは、ため息混じりに言う。かなりの疲労感だ。犯行現場からの道程はそれほど遠くはないが、誰かに見られるわけにはいかないがために、相当な神経を使ったのだった。むしろ、戦闘よりも疲れたかもしれない。


「あ!!お帰りレンヤ君!うっはー!派手にやったね~!血まみれ?ってか、何?ガソリンまみれなの?」


 すぐにマドカが2階のリビングから降りてきてレンヤを出迎えた。


「あー。ガソリンぶっかけられちって……。」

「ありゃりゃ。すごい臭いだね。お風呂沸いてるから、すぐ入りなよ。死体は回収しとくからさ!」

「あぁ。」


 レンヤはとりあえず、そのまま1階の階段脇にある風呂へ向かい、マドカは一旦リビングへと戻った。マドカはリビングに戻ると、ソファーでテレビを見ていたサクマのもとへ行く。


「サクマっち、私これから死体回収行って来るから。んで、レンヤ君がそのままお風呂入ったから、着替えとタオルをお風呂場に持って行ってあげて!」

「うん、わかった。」


 マドカはサクマにそういうと、半地下にある部屋からリアカーを持ち出し、そのまま裏口から出て行った。


***


 それからしばらく経った頃。レンヤは風呂から上がり、リビングでサクマとテレビを見ていた。放火魔を殺してきた後とはまるで思えないくらいレンヤはくつろいでいる。ソファーにふんずり返って座り、濡れた髪をタオルで適当に拭き、さらにあくびまでしている。


「ただいま~。」

「おじゃまします。」


 二人分の声が聞こえて、マドカとシラウメがリビングへと入って来た。


「お久しぶりです。レンヤ君にサクマ君。」


 シラウメは相変わらずさわやかに笑う。


「久しぶり。シラウメさん。」


 レンヤも笑って挨拶した。


「先程、マドカと殺害現場へ行ってきました。お見事です、レンヤ君!始めにガソリンをかけられて、絶体絶命のピンチにも関わらず、ナイフを投げてポリタンクに穴を開け、相手にもガソリンをかけることで相手の着火を封じましたね?そして、後は圧倒的なスピードで切り刻む……。素晴らしいです!」


貴女の推理力の方が数千倍素晴らしいよ……。


 どこかで見ていたのではないかと疑うくらいだ。レンヤは苦笑する。


「なんでそこまで、わかるんすか?」

「わかりますよ~。現場を見れば……。ねぇ?マドカ。」

「わかんねーつの。」


 マドカは、シラウメに笑顔で突っ込んだ。マドカとシラウメは、いつかの様にレンヤとサクマと向き合う様にソファーに座る。そして、シラウメはかばんから現金20万を取り出し、テーブルの上に静かに置いた。


「約束の20万です。ご苦労様でした。」


 シラウメは、さわやかに笑って軽く頭を下げる。

 

「うっはー!20万っていいねー!血液の次に現金が好きだよ~!」


 マドカは嬉しさのあまり、すぐさま札束を手に取り、嬉しそうに現金にほお擦りをする。


「マドカ、お金は雑菌がいっぱいあるので、ほお擦りは汚いですよ?雑菌の多さなら、トイレの便器より、お金の方が断然多いんですから……。」

「あり?そーなの?つまり、お金か便器をなめろって言ったら、便器をなめたほうが衛生的に良いって事?」

「そうですね。」


いやいやいや。

衛生的にはその通りかもしれないけど、生理的な問題を考慮してくれ……。


 レンヤは苦笑する。


「ちなみに、世の中で雑菌ベスト1がお金で、ベスト2が電車の吊革です!」


 シラウメはさわやかに笑って付け足した。


「それにしても、この犯人だとよく気が付きましたね。」

「うんうん!気が付くのが少しでも遅れてたら、明日には私の家が無くなってる所だったよ。ホントサクマっちのおかげだよ!」

「あら、サクマ君が気付いたんですか!お手柄でしたね。」


 マドカとシラウメに言われて、サクマは照れつつも首をぶんぶん横に振る。


「あははー!サクマっち照れてるー!可愛いぞー!」


 マドカに言われて、サクマはさらに顔を赤くして首を横に振りながらうつむいてしまう。よほど恥ずかしいのだろう。今度は、隣に座るレンヤの陰に隠れてしまった。


「ふふっ。そんなサクマ君に、今日は渡したいものがあるんです。」


 シラウメはそう言って、持ってきていたカバンを膝に乗せ、カバンのチャックを開ける。サクマは気になり、顔を上げじっと見つめた。


「これなんですが……。」


 シラウメが取り出したのは、1台の白いノートパソコンだった。


「あ、僕のパソコン……。」

「サクマ君の家に残っていたもので、必要かなと思いまして。」


 サクマは目を輝かせ、すぐさまパソコンを受け取った。


「喜んでいただけましたか?」

「うん!ありがとう!」


 サクマは本当に嬉しそうで、無邪気に笑った。そんなサクマにシラウメもさわやかに笑う。


「それと、ネット回線も勝手ながらこちらへひかせていただきました。きっと必要かなと思いましたので。以前サクマ君の家にあったのと同等のレベルの物です。」

「嘘……。」

「ふふっ。驚きましたか?私はこれでも裏警察のトップですよ?このくらい簡単です。」

「凄い。凄いよシラウメさん!ありがとう!」


 サクマは今まで見せた事のないようなはしゃぎようで、ニコニコとほほ笑んでいる。


「あり?私の家って、ネット繋がってなかったっけ?」

「はい。一般的なネットは一応は繋がっています。しかし、サクマ君にはそれでは不十分でしょうから……。」


 マドカはよく分からず、さらに首をかしげた。


「ふふっ。あとはサクマ君に聞いて下さい。では、用件も済みましたし、帰りますね。」


 シラウメは、そう言うと立ち上がった。


「シラウメは今日もお迎え来てるの?」

「いえ、今日は歩きです。」

「そう、じゃぁ、レンヤ君!シラウメ送ってってあげて。」

「へーい。」

「え?大丈夫ですよ。独りで。」


 シラウメは遠慮する。


「シラウメは女の子なんだよー!夜道を独りで歩いてたら変な人に襲われちゃうかもよ?だから、送ってもらった方がいいって!」

「いえ、でも……。」


 シラウメは断ったが、結局マドカの強い押しによって、レンヤに家まで送ってもらうことになった。


***


マドカに見送られ、玄関からシラウメとレンヤは外に出る。そして二人は静かな夜道を歩き出す。閑静な住宅街は今日も静かで、すれ違う人もいない。


「まさか、殺人鬼さんと二人っきりで歩く事になるとは思いませんでした。」


 シラウメはさわやかに笑って言う。


「俺も、まさか警察の隣を歩くとは……。」


 レンヤもまた苦笑して言った。警察と殺人鬼。相容れない立場の二人が、何事もなく隣同士で歩く事になるなど、本来ならばありえないだろう。


「そうですね。せっかく二人っきりになれた事ですし、マドカの話をしても良いですか?」

「え?マドカさんの?」

「はい!どうせ何も聞いていないんでしょう?マドカの家族の話とか……。」


 そう言って、シラウメはレンヤの顔を覗き込んだ。


マドカさんの家族・・・?


 確かに聞いたことがない。気にも留めていなかった。レンヤの図星ですと言わんばかりの表情を確認したシラウメは、ニコッとレンヤに笑いかけると話し出した。


「マドカの両親は、マドカが7歳の時に亡くなっています。殺されたんです。」

「なっ!?」


 レンヤの少し前を歩くシラウメは、ぴたりと立ち止まって振り返り、レンヤを真っすぐに見つめた。レンヤは、シラウメのその雰囲気にのまれ、レンヤもまたぴたりと動きを止めた。


「マドカの両親を殺した人物は他でもない、マドカの姉、橋口ハシグチ レイです。」


 レンヤはあまりの驚きで、何も言えず固まった。シラウメはそんなレンヤを気にも留めず話を続ける。


「当時、姉のレイは13歳。今のマドカより2歳下ですね。そんな彼女はある日突然、両親を殺害し逃走。おそらく現在も捕まる事なくどこかで生きています。おかしいと思いませんでしたか?レンヤ君。マドカがあんな大きな一軒家に一人暮らしをしています。空き部屋だって沢山あったでしょう?確かに貴方にも家族はいないようですから、鈍いのかもしれませんが……。」


 シラウメの言葉にレンヤは何も言えない。ただ立ち尽くすのみだ。


「マドカは普通の人間よりは遥かに強い女の子です。ですが、どんな時でも強くあるというのは難しいと思います。マドカはある日突然、両親を実の姉によって奪われました。境遇が境遇なだけに、精神的に弱い部分や思考の偏りを持ち合わせています。ですので、最も近くにいる貴方に支えてもらえたならなと思います。また、現時点で私の方から詳細全てをお伝えすることはできませんが、マドカに危険が迫っています。確たる証拠としては、今回の放火魔でしょうか。あの放火魔が最後に狙った場所は他でもなくマドカの家ですから。今まではただの推測でしたが、今回の事件で確信へと変わりました。マドカは確実に狙われています。そして、それを最も救える可能性があるのは、マドカの近くにいる貴方です。だから私は貴方にお願いしたいんです。マドカを守って下さい。これは、警察としてではなく、マドカの友達としてです。どうか、よろしくお願いします。」


 シラウメはそう言ってレンヤに深く頭を下げた。


「え?そんな、急にそんな事を言われても……。」


 レンヤは訳が分からず狼狽える。


「すみません。急過ぎました。いきなりお願いされても困りますよね……。」


 シラウメは、頭をあげてレンヤを見る。


「頭の弱い貴方にも分かるように、もう少し具体的に言いましょう。」

「よろしくお願いします。」


 頭が弱いという言葉が若干引っ掛かったが、レンヤは聞かなかった事にした。


「今回の事件の裏にいる人物、また現在マドカを狙う人物とは、姉のレイである可能性が出てきました。逃走し、8年間も綺麗さっぱり行方をくらましていた彼女が、最近になって存在を微かに現してきたんです。当時の事件の調査結果はこうです。姉のレイは13歳の時、マドカに対する強い嫉妬から両親を殺害。原因は、両親が姉のレイよりもマドカを可愛がったから。この動機に関しては、近所の人々からの証言と、現場に残された証拠から判断されています。」

「嫉妬……?」


 嫉妬で両親を殺して逃げたというのか。13歳の子供が一人で8年間もずっと。にわかには信じられない。だが、シラウメが言うのだから事実なのだろうとレンヤは思う。


「現在の事件におけるレイの明確な犯行動機は分かっていません。その嫉妬が現在も続いている可能性が完全に無いとは言い切れませんので……。ただ、理由はどうであれ、今回のようにレイは今後も凶悪犯を使ってマドカを間接的に殺そうとしていると考えられます。」

「なんだよ……。それ。」


 レンヤは全く理解できない。マドカを狙うレイという人物に全く共感できない。


何故?何故そんなに……?

それほどまでに嫉妬しているのか?


 8年経ったにもかかわらずマドカを殺そうとする意味が本当に分からない。


「理解できないでしょうが、姉のレイがマドカを狙っているという部分に関しては、間違いなく事実です。既にいくつかの証拠が挙がっていますので。今回の放火魔がまさに決定打です。今まで私が確信した事は、一度だって違った事はありません。私は当時この事件の調査を担当しましたし、まず間違いありません。」


 シラウメはきっぱりと断言した。


「つまりです。マドカを殺そうとするのはその辺の一般人ではなく、凶悪犯です。だから優れた能力のあるレンヤ君にお願いするんす。私の大切な友達、マドカを守ってください。」


 再びそう言ってシラウメは頭を下げた。シラウメの話はレンヤにとっては複雑で、やはり全てを理解することは難しかった。しかし今、マドカの姉であるレイにマドカの命は狙われている。そして、シラウメはマドカを守ってほしいと自分に頼んできた。それだけは理解した。それであればやるべき事は簡単だ。向かってくる奴を片っ端から殺せばいいのだろう。


「シラウメさん。オレに出来ることはたぶん、向かってくる奴を殺す事。それだけだ。つまり、それで良いんでしょ?」

「はい!そうです。今回の様に華麗に蹴散らして下さい。そして、ずっとマドカのそばにいてあげて下さい。」

「わかった。」


 レンヤがそう言うと、シラウメはとても嬉しそうに笑った。


「さて!突っ立ったままでは、一向に家にはつきません。歩きましょう!」


 シラウメはいつもの様にさわやか笑ってそう言うと、軽い足どりで歩きだす。レンヤはシラウメの数歩後をついていく。


「あ。そういえばシラウメさん、さっき当時の事件も担当したって言ってたけど、その時シラウメさんは7歳だったんじゃ……。」


 レンヤは思い出した様にたずねる。


「あら?どうでもいい事はちゃんと聞いてるんですね。ふふっ。確かに当時、私が7歳の時、マドカの両親殺害事件を担当しました。それが初めて私が一人で担当した事件ですけれどね。」


7歳の子供が事件を担当!?

おかしい……。おかしいだろ世の中……。


「裏警察は、実力さえあれば、年齢なんて関係ないんです。」


 どれだけ実力があるのだろうか。確かに、レンヤの起こす犯行をピタリと言い当ててきた。その推理力は普通ではない。異常だ。それは分かる。だが、やはり理解できない。レンヤは前を歩くシラウメを改めて良く見る。さらさらと夜風になびく白い髪。華奢で小さな体。この少女のどこがそんな大物に見えるだろうか。人は見かけに因らないとは言うが、因らなすぎだ。レンヤは世の中の不思議を心の中で笑いながら、シラウメの後をひたすらついていく。そして、しばらく歩くと、とても大きな豪邸が見えてきた。


まさか、まさかな……。


 レンヤは内心思いながらもシラウメの後を歩く。まさかこの豪邸が、シラウメの家なんて、まさかないよな。なんて思いながら。しかし案の定、豪邸の玄関前でシラウメは立ち止まった。


「ふふっ。この、少し大きな家が、私の家です。送ってくれてありがとうございました。話せてよかったです。私が話した事は、くれぐれもマドカには秘密でお願いしますね。」


少し大きなって……。だいぶでけーよ!!


 レンヤは内心突っ込む。


「では、さようなら。」

「さいなら。」


 シラウメはレンヤに軽く手を振ると、豪邸の中へ入って行った。お嬢様というのは本当だった様だ。レンヤは豪邸に背を向け、独り歩き出した。夜風がふわっとレンヤの髪をなでる。


「へっくしゅん!!あれ、風邪ひいたかな……?」


 そんな独り言を言いながら、レンヤはマドカが待つ家へと向かって行った。

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