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殺人同好会 〜橋口まどかの存在証明〜  作者: ゆこさん
2章
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2章-2.焼肉 2023.10.1

 3人が現場につくと、ちょうど鎮火した所だった。瓦礫の中から遺体が運ばれてくるようだ。


「全焼だね……。」

「あぁ。」


 運ばれて来た遺体はレンヤ達の目の前を通っていく。


「う゛……。」


 レンヤは見て後悔した。吐きそうだ。あれが人間?焼けただれて、原型すらとどめていない。


「うわー。ウェルダンだねー。焼けすぎだよ……。」


 さすがにマドカも苦笑いだ。


「私はレアが好きなのにな……。」


そっちかよ!


「レンヤ君は、レア派?ミディアム派?それともウェルダン派?」

「え、それって、ステーキの話だよな?人間じゃなくて……。」

「どっちだっていいじゃん!変わんないよ!」


あ、そうですね。貴女にかかれば、同じお肉ですよね……。はははは。


「俺はミディアムで……。」


 レンヤはツッコミを入れたい衝動を抑え、無難な返事をした。


「ぱっと見、野次馬の中に、放火魔はいないみたいだよ。」


 サクマがそう言って人ゴミの中からひょっこり出てきた。どうやら今までサクマは人ゴミの中に放火魔がいないか、探しに行っていたようだ。


「そっか……。サクマっちありがとう。」


 よく、犯人は現場に戻ってくる等とは言うが、そう簡単にはいかないものだ。


「ふぅ~。なんかお腹すいちゃった……。手掛かりなさそうだし、ちょうど12時過ぎだし、どっかお昼食べに行かない?」


え?どうやったら腹減るんすか?マドカさぁん!?


 レンヤは吐き気で、食事どころではない。食欲なんて、焼死体を見た直後に消え去ってしまっていた。


「行く!僕もお腹すいた!」


 そんなレンヤをよそに、サクマが元気よく反応した。


「何たべよっか?サクマっちは何食べたい?」

「うーん。マドカ姉ちゃんは何食べたいの?」

「やっぱりー、焼肉だよね!!」

「だよねー!」


 マドカとサクマは吐き気に苦しむレンヤにはお構いなしだ。上機嫌で会話をしている。


「レンヤ君も焼肉でいいよねー?」


これはわざとか?わざと言ってるのか?


 副音声で、『ヤダとか、そんな、自殺行為的な事言わないよねー?』とマドカの聞こえてきてならない。


「や、焼肉?焼死体の後に?」

「うん!焼死体みたら、お腹すくじゃん!!」


すかねぇよ!!

吐くよ!マジで!!


「じゃー、焼肉屋さんへ、レッツラゴー!!」

「ゴー!」


 レンヤが何も答えないうちに、弾むような足どりでマドカとサクマは歩き出した。こうなってしまっては、もう諦める他ない。レンヤは、吐き気を胃袋に無理矢理追い返し、二人の後を重い足どりでついていった。


***


「「いっただっきまぁす!」」


 ジュージューと肉の焼ける音……。サクマとマドカは、次々に肉を焼いては、ぱくぱく食べていく。


「レン兄たべないの?」


 サクマが、一向に箸を付けないレンヤを不思議そうに見ている。


食べられるわけがない……。

焼死体を見た後だから?確かにそれも十分ある。

だがしかし……。

それだけではない。焼いている物が問題なのだ。


「何故に、ホルモンばかり?カルビは?」


 レンヤは内臓が苦手だ。見るのも当然食べるのも。


「おいしいんだからいいじゃん!」

「いーじゃん!」


 サクマとマドカはすっかり意気投合しているようで、ニコニコ笑いながらレンヤに言う。


サクマっち……。それはあれか?

出かける直前、俺がお前を、マドカさんから助けなかった事への腹いせか?


 マドカのレンヤへの嫌がらせは、間違いなく素でやっているのはわかる。だが、サクマはどうだろうか。サクマの可愛いらしい笑顔は、どっちとも取れない。わざとかなのか素でやっているのか。どちらにせよ、おそらくこのまま待ったところで、内臓以外は出てこないのだろうと悟る。


「はぁー。もうわかった。内臓食べればいいんだろ?」


 レンヤは、『今こそ精神的に強くなる時なんだ!』と自分に言い聞かせ、良い感じに焼けた内臓に、箸をのばした。そして、口に含む。すると内臓は、口の中で異様な弾力感を噛む度に歯に伝えてくる。


う……。なんだ、このプニプニ感は……。


 レンヤは、独り格闘する。口の中に残り続ける内臓。飲み込めない。噛んでいくうちに、どんどん気持ち悪くなっていく。内臓は噛み切れず、ただ焼き肉のタレの味を徐々に消費していくばかりで残り続ける。このまま噛めば、もっと絶望的な状態になる事は必須だ。


こうなれば、最終手段!水で飲み込む!それしかない!


 レンヤはそう思って、水の入ったコップに手をのばした。しかしその時だった。


「レンヤ君!おいしいでしょ~?ホルモン!まさか、水で飲み込もうなんて思ってないよね~?」


 マドカが、ニコーっと笑って言う。


バリバリ、水で飲み込もうと思ってますが、何か?


 レンヤはコップに手をかけたまま、マドカの言葉によって静止してしまった。

 と、そこへ、


「レン兄!ちょっとお水ちょうだい!キムチ辛いよっ!」


 サクマはそう言って、静止しているレンヤから水の入ったコップをを奪い取り、一気に飲み干した。


「レン兄ありがとう!」


 カンっとサクマは、レンヤの目の前に、からになったコップを置いた。


何……、この、連携プレイ?素なの?わざとなの?


 天使のような笑顔をしているサクマを責めるのは、至難の技だ。悪魔のような笑みを浮かべるマドカを責めるのは、ただの自殺行為だ。レンヤは涙目になりながらも、自力で飲み込んだ。


「わぁー!レンヤ君!泣く程おいしかったんだねー!」


 マドカは元気な声でそう言った。


***


 数十分後。焼肉店から出て来た3人は、ある場所に向かって歩いていた。


「レン兄、大丈夫?顔色悪いよ?」


 サクマはレンヤを心配して言う。


「大丈夫……。」


 その後結局レンヤは、内臓類を色々食べたのだった。否、食べさせられたのだった。そのため、現在は気持ちが悪くて仕方ない。食べる前より、はるかに吐き気が増してしまった。


「全くレンヤ君は~・・・。焼死体見たの、まだ引きずってるの?グロテスクなのには、本当に弱いんだね~!」


 マドカは、あははははっ!と笑って言う。


焼死体・・・?ははは。そんなのもあったっけ……。

今じゃ焼死体食ったほうがよかった気がする……。

いや、嘘だけど。


 3人は次に放火されると予測した場所へと向かっている。そこで脱獄犯を確実に殺さなければならない。何故ならば、次が6ヶ所目となるからだ。ここで食い止めなければ、マドカ宅が燃やされてしまう。


「地図からいって、この辺だよね~。」


 3人は6ヶ所目に狙われると思われる場所にたどり着いた。そこはアパートが数多く密集して立ち並ぶ、物静かな場所だった。


「レンヤ君、怪しい気配あるー?」


 レンヤはまわりを見回し、意識を集中する。一般人が、ちらほら歩いている気配はあるが、怪しい人物の気配はない。


「今の所はいなさそうだな……。」


 レンヤは結果を報告した。


「そっか。まだいないか……。ありがとう。」

「レン兄!気配とかわかるの~?」


 その様子を見ていたサクマが興味津々でたずねてくる。


「え?わかるけど……。サクマっちはわかんねぇの?」

「わかんないよ!気配なんて!僕は普通の10歳の男の子だよっ?わかる訳無いじゃん!」

「そ、そうなんだ……。」


 遠回しに、異常だと言われた気がする。通り魔の時以来、何となく人の気配がわかるようになっていたがやはり普通ではなかったようだ。


「私の予想だと、この建物かな?今日中には燃やされるだろうね。」


 マドカは一つの古びたアパートを指して言った。


「今日中って言ったって、今まだ、午後2時だぜ?いつくるかわからない放火魔を、それまで待つのか?」

「うん!待つんだよ!レンヤ君が。」


俺?俺だけで?


「さて!サクマっち帰ろっか!レンヤ君頑張って放火魔ぶっ殺しといてね~!」

「え?ちょっとマドカさん!?」

「レンヤ君、どうせ私達がいたって邪魔になるだけなんだよ!私達は気配消せないしね。だから独りで頑張って!」


イヤイヤイヤ……。

張り込むのめんどくさいだけでしょ?


「じゃぁね!レン兄!頑張って!」


 マドカとサクマはレンヤに笑顔で手を振ると、レンヤを独り置いてさっさと行ってしまった。


***


「レン兄を置いて来ちゃったけど、平気なの?」


 ノリでレンヤに背を向け歩き出してしまったものの、サクマはレンヤを心配する。


「平気平気!レンヤ君は強いんだよ~!」


 それにひきかえマドカは、全く気にしていない。


「サクマっち、私達いたら、冗談じゃなくて本当に足手まといになっちゃうんだよ。相手は凶悪犯。一般人じゃ太刀打ちできませーん!」

「でも……。」


 そうは言われてもサクマは心配なようだ。


「レンヤ君は、ぱっと見ひょろくて、頼りないけど、スイッチ入ったら本物の殺人鬼。センスも技術も異常なくらい上達していってる。心配しなくて大丈夫!後で、安心して死体回収しに行けばいいんだよ!」


 あはははっ!とマドカは笑う。レンヤに絶対の信頼を置いているようだ。


「うーん……。」


 レンヤの殺戮の現場を見たことのないサクマは、いまいち納得が出来ない。マドカはそんなサクマの頭を優しくなでると、サクマと目線の高さまでしゃがんだ。


「だいじょーぶ!レンヤ君を信じて。だって、レンヤ君はこの私に認められた男の子だよ?この私に……。ねっ?信じて待とうよ!」


 マドカはサクマに笑いかける。全くレンヤの勝利を疑っていない目。その自信に満ちた目は、サクマを安心させる。サクマは大きく頷いた。


「うん。わかった。僕も信じて待つよ。」


 サクマとマドカは他愛ない話をしながら、ゆっくりと家に帰って行った。

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