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120点の笑顔

作者: 暗式蓮
掲載日:2026/05/02

うちのおじいちゃんは、子供だった。

 本当の子供ではない。でも、ずっと子供の心を持っていた。

 近所では「子供爺」と呼ばれ、誰もが笑顔でその名を口にした。

 昼間は公園のベンチで日向ぼっこをし、子供たちが来ると目を輝かせて立ち上がる。全力でかくれんぼをし、ドッジボールに挑み、缶けりに汗を流す。子供に負けたことなど一度もない。それでも誰もが悔しがりながらも、またすぐに「おじいちゃん!」と駆け寄った。

 子供爺は、勝負に手を抜かなかった。

 ある日、僕が聞いた。

「どうして子供に勝ちを譲らないの?」

 おじいちゃんは、皺だらけの顔を優しく緩めて言った。

「勝負事は正々堂々だ。手を抜かれて勝っても、嬉しくないだろう? 本気でぶつかってこそ、心が通じるんだよ」

 亮くんは負けず嫌いのガキ大将だった。ドッジボールで全力で挑んできては、おじいちゃんに圧倒されながらも何度も立ち向かった。

 てんちゃんは大人しく見えて実は粘り強い女の子で、缶けりでは何度もおじいちゃんを追い詰めた。

 僕、翔はかくれんぼが得意で、公園の最強だと自負していた。

最後の勝負 ― かくれんぼ

 その日、公園の木々が風にざわめいていた。

 制限時間は15分。鬼はおじいちゃん。

 てんちゃんは遊具の複雑な影の中に、亮くんは大きな楠の太い幹の裏に、僕は背の高い草むらとフェンスの隙間に身を潜めた。

 おじいちゃんの声が響いた。

「よーい……スタート!」

 5分経過

 亮くんが楠の陰から発見された。「うわっ!」という悔しそうな声が響く。

 8分経過

 てんちゃんも遊具の影から見つかった。「ええー! もうちょっとだったのに!」

 亮くんとてんちゃんはベンチの近くで、固唾を飲んで僕のことを見守っていた。

 (翔……絶対に勝って……!)

 12分を過ぎた頃

 おじいちゃんの足音が、ゆっくりと僕のいる方向へ近づいてきた。

 13分30秒

 枯れ葉を踏む音がすぐそばで聞こえ、影が草むらに伸びた。

 おじいちゃんは茂みの前で立ち止まり、ゆっくりと身を屈めた。あと10センチもあれば目が合う距離。

 亮くんとてんちゃんは息を殺し、てんちゃんは口元を押さえ、亮くんは拳を握りしめていた。

 時間は14分48秒。

 おじいちゃんの目が、茂みの奥をじっと見つめたその瞬間——

 ——ピピピピッ!

 時間制限のタイマーが鳴った。

 おじいちゃんは腰を伸ばし、僕の前にとびっきりの笑顔を浮かべた。

 僕が這い出すと、亮とてんが駆け寄り、大喜びした。

 おじいちゃんは僕の頭を優しく撫で、

「120点だな、翔」と言い、全員に大切な言葉を残した。

「楽しむ心、諦めない心、協力する心……これを、絶対に忘れちゃダメだぞ」

 次の朝、おじいちゃんは静かに息を引き取った。

 僕は布団の中で大声を上げて泣いた。

 亮くんもてんちゃんも、近所のみんなが涙を流した。

 その日の夕方、母さんが僕をそっと抱き寄せてくれた。

 父さんも隣に座り、静かな声で言った。

「……おじいちゃん、心臓が悪かったんだ。

 かなり前から狭心症で、最近は心不全も進んでいて……薬をたくさん飲んでいたのは、そのせいなんだよ。

 医者には『無理をしないで』と言われていたけど、おじいちゃんは『孫や近所の子供たちと遊ぶのが、俺の生きがいだ』って、絶対に聞かなかった。

 昨日も……きっと、限界まで無理をして遊んでくれたんだろうな」

 母さんは僕の髪を撫でながら、涙を堪えて続けた。

「本当はもう、走ったり全力で遊んだりするのは危なかったの。でも、おじいちゃんは最後の最後まで、子供爺でいたかったんだと思う……」

 僕はまた泣いた。

 あの笑顔の裏で、おじいちゃんがどれだけ痛みを堪えていたのかを想像すると、胸が張り裂けそうだった。

 でも同時に、昨日のおじいちゃんの120点の笑顔を思い出した。

 あれは、僕への最後の贈り物だったのだと、ようやくわかった。

 今、僕たちは大人になった。

 ドッジボール王の亮、缶けり女王のてん、そしてかくれんぼマスターの僕、翔。

 町内では毎年「おじいちゃんかくれんぼ大会」が開かれ、子供たちにあの笑顔と、あの言葉を伝え続けている。

 空を見上げると、子供のように無邪気で、温かい笑顔が浮かぶ。

 おじいちゃん。

 ありがとう。

 僕たちは、これからも全力で生きるよ。

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