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おれんじ戦記  作者: つきたておもち


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3

「今から総務課のコピー機を借りて、部内会議の資料の印刷をするところです。」

 福本の相手をする時間がないことを言外に含ませて、雪華は手に持っている資料をひらひらとさせる。

「ところで、福本課長おひとりですか?今日は課長だけで、部内会議の準備をするのですか?」

 部内会議なので、日によっては検討、報告案件が複数重なることがある。会議室の机や椅子の配置や資料をそれぞれの席に置いていくにも時間のかかる作業となる。また、雪華の課のように、資料を会議が始まるぎりぎりで提出する課も珍しくはない。なので、会議開始15分くらい前に課に配属されている派遣社員や会計年度任用職員が、課長と供に準備するのが定番だった。

「まさか。もう少ししたら、会年さんたちが準備に来てくれるわよ。」

 雪華の言葉を否定し、福本はカラッと笑う。

 彼女はどちらかと言えば、さっぱりとした性格だ。決断を下すのも、早い方だ。部下のミスも責める感じではなくて、原因と対策案を提出させ、それを課内で共有し検討する、といった手法だった。

 なので、部下からの信頼は厚く、慕われている方だ。福本の悪口を言っているのは主に、課長クラス以上の者だと、雪華は認識している。

 恐らく。

 彼女は雪華が入社するうんと前から、男性社員の中に混じり戦い、今の立場を確立していったのだろう。その結果が、今の職階の獲得だ。ただ、彼女の仕事ぶりと成果を勘案すると、彼女の職階は課長クラスではなく部長クラスが妥当だと思うが、それはこの会社が男性職員に重きを置いているからだと、雪華は捉えている。

 雪華を呼び止めた、その福本は、

「高峰さんの姿を見かけたから、追いかけてきたのよ。」

 と、意外な科白を口にした。

 雪華は、福本とは課が違う。他課の課長から追いかけられてまで呼び止められたということは、何かしでかしたか。そのことの注意事項か、お咎めか。

 そのような考えに及んだとたん、背中がぞわっとしたが、福本の課に何か迷惑がかかるようなことをしでかした記憶が、雪華にはない。

 ならば、雪華が所属する他の課員がしでかしたことでの注意事項か。とも考えが至ったが、福本は報連相のルートを違えることは、決してしない。注意したいことがあれば、課長同士の話し合いをするはずだ。

 では、何の用事か。

 雪華のその緊張が伝わったのか福本は、そんなに身構えないでよ、と苦笑しながら、

「今日、定時に退勤できる?一緒にどうか、と思って。」

 と、雪華を誘ってきた。

「良いお店を見つけてね。高峰さんに是非とも紹介したいのよ。」

 福本は、他課とは言え課長だ。広義で言えば雪華の上席だ。上席からの誘いを断る、ことは会社勤めだと、なかなかできるものではない。まあ、最近の、Z世代の者たちは上席が誘っても悪びれることなく断ることが多い、と上席たちが愚痴っているのを知っているので、ぎりぎりY世代の雪華は余計に断りにくくなっている。断りにくくはなっているが、雪華がY世代であろうが、Z世代であろうが、何世代であろうが、この誘いが他の課長なら確実に、間髪入れずに断っている。

 が。

「良いですよ。お付き合いします。」

 雪華は断りではなく、諾の返事をする。

「福本課長のお店選びの慧眼は、間違いないですから。」

 楽しみです、と笑顔の雪華に福本は、期待してて、と、いつものカラッとした笑顔で、

「じゃあ、17時半に、入り口に集合ね。」

 そう雪華に伝えると、片手を上げながら会議室に入っていった。


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