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おれんじ戦記  作者: つきたておもち


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2

 雪華の実家はその地域で言う、いわゆる旧家だ。

 とても広い敷地と、その敷地に大きな屋敷を構えている。

 祖母曰く高峰家は、昔はこの辺りを取り仕切っていた血筋の良い家なのだ、と。その祖母の自慢気な話は雪華の耳にタコができるくらい、物心ついたときから聞かされて育った。

 祖母はそう言うが、雪華にしてみれば、ただのだだっ広いだけの、使い勝手の悪い古びた屋敷。血筋が良いのかも知れないが、雪華が小さい頃から、高峰家は特に裕福な暮らしではなく、フツーの暮らしだ。

 父は隣町の役場の職員だったし、母は地元のスーパーでパートをして家計を助けていたような、そんな家。

 その高峰家をプライドだけが高い祖母が取り仕切っており、本来、取り仕切るはずであろう祖父は、雪華が生まれたときにはすでに他界していた。

 雪華がこの家に生まれ落ちたときの、なんだ、女か 発言は、祖母と父。

 なんだ、女か、発言とおりの扱いしかされていなかったのだと雪華が気付いたのは、雪華が生まれて6年後に、祖母と父待望の長男、雪華からしてみれば弟が誕生したからだった。


 *   *


「高峰さん。今日も素敵なお召し物ね。」

 男性が大多数を占めるこの職場で、課長クラスで唯一の女性である福本智子ふくもとさとこが、会議室の前を通りかかった雪華へ、背後から声をかけてきた。

「ありがとうございます。福本課長。」

 彼女の雪華へのこの言葉かけは、半分は褒め言葉で半分は嫌味だ。その意味がわかりながら、雪華はにこやかに、また褒めてもらえて嬉しい、といったていで福本へ振り返った。

 振り返った先の福本も、ここの職場の女性の例に漏れず、紺色のビジネススーツに身をまとっている。

 彼女の年齢は、そろそろ役職定年を迎える頃だと思う。彼女は年相応のメイクに髪を後ろにひとつのダンゴにしてまとめている。雪華は入社して8年目になるが、その間、彼女のスタイルが変化したことはなかった。彼女のダンゴ頭はトレードマークとなっている。

 ただ、そのトレードマークのダンゴにも、白髪がちらほらと増えてきていることを雪華は知っている。

 なぜ、染めないのかが、雪華には不思議だった。

 染めないのなら染めないで良いのだが、その白髪をもっとおしゃれな感で見せるような髪形にしたら良いのに、と勝手ながら思ってしまっている。それは、白髪を活かしておしゃれな髪型にしている人を、街中では見かけるからだ。

 つまり、紺色や黒系のスーツを身にまとい、統一されていない白髪が交じったダンゴ頭のせいで、失礼ながら雪華の目には、彼女は実年齢よりも老けて見えていた。

 メイクもそうだ。

 彼女の場合はナチュラルメイク、とは言わない。彼女自身はナチュラルメイク、と雪華には言っているが、ナチュラルメイクはメイクしているのだとあまり思わせることのない、自然に見えるようにしているメイクだ。もともとの肌が美しいのですよ、といった感を見せる、技術のいるメイクだと雪華は捉えている。福本の場合は、ファンデを塗って満足に整っていない眉をざっぱーに描いて、ルージュを塗って終わり、というのだと思う。ソレは、ナチュラルのまま、なメイクだ。顔色もくすんで見えて、疲れた感がある。実際に疲れてはいるのだと、思うが。

 ただし、福本が自分のメイクはナチュラルメイクだと言っているので、それを敢えて否定はしない。

 けれども彼女はナチュラルメイクと言いながら、ルージュの色は赤に近い色をいつも付けている。唇以外が地味っぽい雰囲気なので、唇だけに目がいってしまうので、ナチュラル、には遠いように思うが、たぶん、アレは、雪華の彩のあるスーツを身にまとっている意味と同じ、だと雪華は理解している。

 雪華が振り返った先の福本は、今日もいつものように、地味目のコーディネートとは似合わない赤色系のルージュだった。

「部内会議の準備を手伝いに来てくれたの?高峰さん。」

 今日は、週1回開催される部内会議の日だ。部内会議には部長クラスと課の代表として課長が出席する。その会議の準備は、部内の課で持ち回りだ。先週は雪華が所属している課が担当であり、今週は福本の課が担当のはずだった。

「たまたま会議室の前を通りかかっただけです。」

 雪華は軽く頭を振り、華やかに笑みながら福本の問いを否定する。

 その会議に必要な資料を、雪華はこれから総務課にあるコピー機を使って印刷をしに行くところだ。資料案を課長に頼まれて早めに作成して提出したのだが、結局は印刷を頼まれたのは今さっきだった。部内会議はあと30分後が開始予定時間だ。ぎりぎりにならないように前倒しで手渡したのに、なぜ、課長はその資料を手元に寝かせて今のこのぎりぎりに内容を確認し、雪華に手直しを求め、印刷、準備を頼むのか。

 雪華への嫌がらせか。

 課長の仕事が忙しく手が回らなかったのか。

 単純に段取りが下手くそなだけか。

 それらのコンボか。

 どれにしても、彼は資料準備にそれほど時間がかかるとは思っていないことは明白だ。

 確かに、A4サイズ2枚を両面カラーコピーで十数部コピーするくらい、ホンの数分だ。ただソレは、今の時間帯以外ならば、だ。

 雪華が席する課のフロアーには、複数課が入っている。コピー機は2台あるが、この時間帯は会議時間がどの課も重なっているので、コピー機使用争奪戦の時間帯となってしまう。

 彼は今まで、自身で資料準備をしたことがないのだろう。その証拠に資料の準備は、女性職員の仕事、だといった態度を見せている。この会社は男性社員が多数を占めているが、印刷等の準備をしているのは、そのほとんどが派遣の女性か、会計年度任用職員の女性社員かだった。


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