第2章-1
「……アルティア?」
ヴィルヘルの首都から少し離れた、第2の都市ヴァルボラ。久しぶりに帰った実家の庭で、兄の手伝いをしていたアルスは、たった一度の『声』を聞き分けた。咆哮は、怒りと恐れをたっぷりと含まれたものだった。
「アルティアって、あのグリフォリルだよね?ヒトの言葉が話せる……」
「ああ。近くにまだいたのか?」
「ダーラムに帰ると言ってここを発ったのって、随分前じゃない?」
そうだよな、と、兄の言葉にアルスは頷く。寒期から暖期へ季節は変わり、ヴィルヘルに咲く花々は満開だった。家の庭ではハーブを栽培しており、雑草を取り除く作業をしていたところだった。
ヴィルヘルに帰る用事があり、アルティアに乗って来たが、彼はダーラムが住処だからと言って帰っていった。グリフォリルの飛行だと1日もかからず地界へ戻れるが、ダーラムではない別の街などに寄り道をしていた可能性は十分考えられる。
しかし、この国の真下は海だったはずだ。それなのに、アルティアとわかるくらいの咆哮が聞こえてくるとは。近くにいたら鼓膜が破られそうな程の音量だなとアルスは思った。
「地界に、行く?」
兄……シェイドが少し心配そうに様子を窺ってきた。本当は2、3日滞在したら地界へ戻るつもりでいた。が、気がつけばそれ以上過ごしてしまっていた。その間に、もうひとりの兄キルスといわゆる『仲直り』をした。
キルスが『地界を支配する』という馬鹿げた野望を抱いていた頃、協力しろと言ってきたのをきっぱり断り、怒り任せに地界へ逃げた。あの時のあいつは闇に囚われ、自我を失っていたが、いろいろあって正常に戻り、野望も消え失せていた。
寒期の頃にアルスが深傷を負って死にかけた時、キルスが闇のオーブを生成し彼を救った。そのお礼も一応した。……互いにぎこちなくて、シェイドに呆れられたが。
「……俺が地界に行っても、魔物に出くわすだけだろ。別に必要とされてないし」
そんな返事をさらりと返してしまう程に、すっかり地界に興味というか関心というか、心残りというものが無くなっていた。
地界に行けば、仲間だと慕ってくれるヒトたちがいる。樹海には大狼の幻獣フェンリウス、ヴァナが寄り添ってくれる。しかし、闇の種は災いを呼び寄せる。魔物が寄ってくる。彼らを巻き込みたくない。そのような思いに至ったから、アルスは故郷で過ごす選択をした。
俺はもう、地界には降りないのか?と、たまに自問することはあったが、特に答えを持たず今に至る。
「まあ、ここにいたら身体が鈍っちまうだろうけどな」
「ここは民を襲う魔物もいないもんね」
ふふ、とシェイドは笑う。どこかしらに魔物は棲みついているが、干渉してこない。ばったり出くわしても殺し合いにならない。ヴィルヘルは、地界よりずっと平和だ。……たぶん。
「手入れも済んだし、お茶でもしようか。そうそう、昨日プリンを作ったんだ。みんなで食べよう。ハーブティーも淹れなくちゃね」
上機嫌で家に入っていくシェイドの後について行く。面倒見が良く家庭的で、頼り甲斐のあるシェイド。一方キルスは、前のことがあったから正直好きではないし干渉したくない奴だったが、その『仲直り』を経て、少しだけ面と向かって話せるようになった……気がしている。
天井の高い、広々としたリビングに入ると、キルスが険しい表情で壁を見ていた。テーブルの真ん中に置かれた濃い紫色の球体から伸びた光が壁に当たり、映像が映し出されているのだが、その映像にアルスも釘付けになった。
「は?これ……アルティアか?」
一頭のグリフォリルが巨大な蛇のような龍のような生き物にブレスを放ち、首を飛ばした。それから、まとわりついていた魔物らしきものたちを一掃すると、咆哮した。瞬間、バリバリと音が割れて映像がぷつりと消えた。
「……この映像、誰がどこで?」
「ヴィルヘルの偵察鳥の記憶を映像化したものらしい。まだ実験段階だが、まさか魔法でこんなに鮮明な映像に変換できるとはな」
この国の発展は著しい。魔法を原動力に、様々なものが生み出されてきたが、キルスの言った『偵察鳥』も、魔物の怪鳥に目の前の出来事を記憶させる調教を繰り返し、記憶を魔力で映像化させることに成功するようになったばかりだった。
そもそも魔物を調教するなど、特に地界ではあり得ない事だ。ヒトの言葉を理解しない。なんならヒトを喰らう。そんな大敵を従えることが出来るのは、思念を送り、受け取れる関係にある闇の種族の特殊能力があるからだろう。特権と言っていいかもしれない。
ところでその偵察鳥は、その後どうなってしまったのだろうか。ヴィルヘルに帰還できたからこの映像が生成できたのであろうが……。
「偵察鳥は、記憶を取り出している最中に死んだらしい。だからあのような終わり方をしたそうだ」
キルスは手に持っていた情報誌を眺めながらそう言った。この映像を元に記事も作られて、国中に発信されていた。
「てことは、この映像は……まだ続きがあった可能性があるのか?」
「だろうな。このグリフォリルが鳥を攻撃した可能性もある。それで記録どころではなくなった、とか」
そりゃ魔物だからな……。命からがら逃げ戻ってきたが、それで限界だった、とも考えられる。
「なんだかアルティアが心配になってきたな……。それにあの魔物……どうにも本物に見えないというか」
プリンをにんずう分乗せた盆を、シェイドがそれをテーブルに置きながら言った。アルスとキルスは映像から目を離して、シェイドを見た。
「本物じゃなければ何だ?幻影か?」
キルスの問いに、シェイドはキッチンに戻りながら返す。
「そうだと思ったよ。だって首斬られても血は吹き出なかったじゃない?」
……ああ、なるほど。確かにそうだったな。ふたりは納得する。
「で、あの魔物……『翡翠の王』じゃないかな」
「なんだと……!?」
驚愕するキルスの横でアルスは首を傾げた。誰だよヒスイノオウって?
「レジェーラント大陸から少し離れたところに、楕円形の島があるんだ。そこの湖に、それは立派な幻獣が主として棲みついていた。その島には唯一の村があって、村ビトは湖の主を『翡翠の王』と呼んで崇めていた。……そう呼ぶようになったのは、いつかを境にその幻獣が、魔物のようにヒトを喰らうようになってしまったから、だって」
村を襲ってヒトを喰っていたわけではなく、彼らを支配し、贄を求めていたらしい。村ビトたちは言われたとおりにヒトを差し出し、翡翠の王に平伏した。
「当時の出来事は、地界にとってはそれほど大それたものじゃなかったのか、ほとんど話題にならなかった。だから、翡翠の王の存在はほとんど知られていないんだ」
「へぇ。てか、なんでシェイドはそんなに詳しく知ってんだ?」
それは……とシェイドは口を紡いだ。当時の情報誌やらを読み漁ったのだろうか。なんとなく視線をキルスにやってみると、長兄はシェイドを一瞥して、一つため息をついた。
「……いたんだ、その場に、シェイドも」
「え……」
「正確には、その村ビトに誘拐されてた、だな」
「誘拐!?」
「お前がまだ……目覚めてなかった頃に、な」
アルスには幼い頃の記憶がない。というか、自我が芽生えた頃には、産まれてから10年の時が経っていたのだ。その10年はずっと昏睡状態だった。なぜならアルスは、ヒトの形に程遠い状態で産まれてきたから……。
いや、今は俺の話はいい。……シェイドが誘拐されていたとはどういうことなのか。
「シェイドは、魔物の扱い方に長けている。疎通が上手いんだよな。だから、魔物も自然とシェイドに心を開く。その様子を、ヴィルヘルをたまたま訪れていた島の村ビトに見られ、目をつけられてしまった」
シェイドが誘拐されたのは、彼が10歳、キルスが13歳の頃だった。シェエドがひとりで魔物と戯れていたところを、攫われてしまったそうだ。
「翡翠の王を取り巻く魔物を服従させられたら、その魔物を使って翡翠の王を葬ることができるのではないか、と村ビトは考えた。……だったな、シェイド?」
キルスは椅子に座りながらシェイドに話題を投げた。黙ってハーブティーを淹れていたが、カップに注ぎ終えると、盆に乗せて持ってきた。それぞれのプリンの隣に置いて、静かに椅子に座る。アルスもようやく座った。
「……村ビトたちは怯えていたんだ、翡翠の王に。私は彼らに捕まえられて、あの島へ連れて行かれた。とても怖かったけど、村ビトたちの話を聞いて、自分の能力が役に立つのなら……と考えを改めて、彼らを助けようとした。でも……」
魔物は王が生み出したものだった。それゆえに、魔物は王の命令のみ聞くようになっていて、シェイドの能力は全く役に立たなかった。
「村ビトたちは落ち込んでいた。用無しになって、私も贄に差し出されるんじゃないかと恐怖しかなかったけど、彼らはそうしなかった。むしろ、誘拐という行為を酷く反省し、何度も謝られた。それならば家に帰らせてとお願いしたけど、すぐには無理だと言われてしまって……」
記憶が鮮明に蘇ってきた様子だった。シェイドの話が止まらなくなっていたが、アルスはなぜか食い入るように聞いていた。……決していい話ではないのに。
「翡翠の王を屠る他の手段を考え、その最前列に立たせようとした。他の手段って、結局は地力で戦うことなんだけど。贄として捧げるフリをして、ね」
「それってフリじゃなくて本気じゃねえか。反省も謝罪も演技じゃねえのか?」
ついアルスは口走ってしまったが、シェイドは「演技ねぇ……」と言いながらプリンにスプーンを入れた。
「まあ、その作戦には私も『謝罪の言葉は嘘だった』と思ったよ。黙っていたら実行されちゃうから、なんとかここを脱出しなきゃと考えた時、そもそも翡翠の王はどうして贄を求めるのかと思った。だから聞いてみた。そしたら、村ビトたちは何かに気がついたような反応をした。そして、あるヒトがボソッと『双子』って言った」
双子。その村では双子は厄災の種とされていた。当時から数えて5年前に生まれて以降、翡翠の王は変貌した。王はまず、双子の母親を喰った。厄災を産んだ罪として。
「村ビトたちは当初、突然の出来事に混乱し、双子を王から遠ざけようとした。父親と子どもたちを村から追い出した。それで済むと思っていた。でも、王は変わらなかった……」
贄は止めどなく求められる。シェイドが村にいた時も、なんにんか村から出て行った。
「あの双子を見つけだし、王に差し出そう。そうすればきっと、贄を求めなくなる。元の王に戻るはずだ。その考えにみんな至って、それから私に親子を探して村へ連れてこいと言ってきた。村ビト数名と一緒に、ね」
「ひとりで探してこい」だったら、その時点で逃げられたのに、そこは抜かりないというか、脱走を許さなかった。しかし、シェイドは村を離れて親子を探しつつ、ある日の夜の闇に溶け込み、村ビトたちから逃げることができた。
そうして逃げた先で、親子に遭遇したのだった。
シェイドは慄く父親に事情を説明した。自分は村ビトに誘拐された身であること、村ビトたちが双子を王に差し出すために探していること、双子を差し出すことで、厄災を鎮めようとしていること……。とにかく必死だった。
父親はシェイドの話を黙って聞き終えると、教えてくれたことへの感謝を述べて、続けてこう言ったという。
双子はもう、ここにはいない。翡翠の王の湖へ向かった。この島から発つために。
「わざわざ贄になりに行った、ってことか?」
アルスはシェイドに問うた。兄はプリンを一口頬張り、こくんと飲み込むと、ハーブティーを啜ってから、小さく頷いた。
「……私も一瞬よくわからなかった。あの島を出るのにどうして王の元へ行ったのか。喰われるだけなのに、なぜ実の子どもを見殺しにするようなことをしたのか。そう問いただすと、父親は複雑そうな顔をしたよ。あの表情は……忘れられない」
この時シェイドは、父親の心に潜む『闇』を読み取った。子どもたちへの、申し訳ない気持ちと厄災を手放したい気持ち。相反する思いが、父親の精神を壊していた。
自分の手で子どもたちを殺める前に、手放すしかない。翡翠の王に捧げてしまおう。そう思い至って、双子を湖へ行かせてしまったという。
……部屋の空気がどんよりしている。アルスは無言でプリンを口にした。ほろ苦いカラメルと甘い本体が、心を少し癒した。
「……ごめんね、こんな話をして。プリンもあんまり味わかんないよね」
「……誘拐された話を出した俺が悪かった」
シェイドとキルスが、ハーブティーを飲みながらそれぞれ謝った。アルスは首を横に振った。
3にんそろって、ため息をついた。
「……シェイド。その……後、どうなったんだ?シェイドはいつ戻ってこれたんだ?」
ものすごく中途半端な気分だったのでつい聞いてしまったが、シェイドは話してくれた。
「湖の場所を父親に教えてもらって、後を追った。湖に着いた時には、既に双子の姿は無かった。王がぽつんと、一点を見つめて佇んでいたよ」
少しして、シェイドの気配を感じた王は、振り返って彼を見た。シェイドは動けなくなった。相手の力で動きを封じられたわけではなく、威厳ある姿に驚き、怯え、竦んでしまったのだ。
「ああこれはもう死んだな、って覚悟した。王が近づいてきて、長い胴を伸ばして私を捕まえた。巻きついた身体は冷たくて、一気に体温が奪われて……気を失っちゃった」
目が覚めた時には、ヴァルボラの療養所のベッドに収まっていたという。誰が彼を助け、国へ帰還させたのか。アルスは自然とキルスに視線を向けていた。
「……竜騎士だ。それも、蒼竜を操る最強の騎士だ」
「蒼……竜騎士……」
今も現役の蒼竜騎士であり、シェラの父親でもある。アルスも何度か会ったことがあるが、まさかシェキルがシェイドを救ったとは。
「どうやって助けたのかは知らん。ほんにんに聞け」
そう言って、キルスはプリンを平らげた。
「まあ、とにもかくにも、私は無事に帰ってこれた。低体温症にはなってたみたいだけど、奇跡的に無傷だったって。……シェキル様には感謝しかないよね」
シェイドもプリンを平らげる。アルスはまだスプーンひとかけ程残していた。
「……で、ものすごく脱線した気がするけど、翡翠の王は厄介……って言ったら失礼だけど、そういう存在なんだ。……幻影とはいえ、王が大陸に現れるっていうのは、どういうことだろうね」
「贄が無くなっちまったから大陸にやってきた、とか?」
「単純に考えるとそうかもしれないね」
翡翠の王は、たまたま遭遇したアルティアを喰おうとしていたのか?それとも、最初から王の狙いはアルティアだったのか?あの映像では残念ながら何もわからない。
「アルティアはそんな簡単に死にやしねぇよ。あいつのブレスは破壊力抜群だからな」
そうだといいけど、とシェイドは不安そうに言った。アルスはひとかけ残していたプリンを口に放り込んだ。……美味い。
「シェイド……悪い。嫌な思いにさせちまって」
自然とアルスは謝っていた。兄は大丈夫だよと微笑した。
「ところでプリンまだあるんだけど、食べ直す?」
「えっ……それは……食い過ぎにならねぇか?」
「……やっぱり?でも、ちゃんと味あった?」
楽しくない話をすると、食べ物の味も微妙に感じてしまうのはなんとなくわかる。しかし、それ関係なくアルスは美味しかったぞと返した。すると兄は「そっか、よかった」と笑みをこぼした。
……シェイドはプリンを一体何個作ったんだ……。アルスは冷蔵庫を開けるのが、なぜか少し怖くなった。
ティータイムが終わり、アルスはシェイドと夕飯の買い出しと称して家を出て、ヴァルボラの中心街へと足を運んだ。
アルスが地界にいる間はシェイドだけで買い物をしていたようだが、キルスとふたりきりがまだ気まずいことを知っていたため、荷物持ちとして連れ出してもらっていた。
ヴァルボラはヴィルヘル領地の北部に位置しており、最北端は空港がある。飛空挺がいくつも並んでおり、1日に何往復するだろうか……結構な便数がある。時々グリフォリルや飛竜もやってくる。
アルスたちの家がある居住地は、空港の南に位置していて、隣の家までは歩いて四半刻(約15分)くらいかかる。つまり、家の周りの庭が広大なのだ。……庭というより牧草地か。大半の家はそうである。因みにアルスの家の牧草地は、シェイドが手懐けた魔物が棲みついている。
中心街はさらに南下したところにあるので、まあ結構な距離を歩く。ヴィルヘルは昼夜問わず星が見える空のため、時間の感覚が無くなってしまう。なので、長距離移動もあまり苦にならない(のは俺だけかもしれないが)。
さて、中心街に入ったところで、アルスはある光景を目にした。単にヒトビトが放映されている映像を観ているだけなのだが、「あのグリフォリルは危険だ」だの「あんなの生かしておいていいのか?」だの、わりと酷い言葉が飛び交っていた。
「ああ、これってさっき家で観た映像だね」
じっと見つめるシェイドの横で、同じように眺めていた老父がこぼした言葉に、アルスはハッとした。
「ああ……アルティア……」
「……なあ、アルティアを知ってるのか?」
アルスは老父に声をかけた。すると老父は、うむと言いながら頷いた。
「わしの息子が、その昔ポルテニエに飛んできたアルティアを保護してなぁ。お嬢ちゃんを乗せておったわい。アルティアは逃げることだけを考えておってのう」
どこから来たのか、何から逃げてきたのか、記憶が無くなっていたという。自分の名前も忘れていた。
「お嬢ちゃんがアルティアの名前を教えてくれたんじゃ。ああ、そのお嬢ちゃんは今、どうしているかのう……」
老父の息子は、アルティアと少女をポルテニエの神殿に預けた。それからは時々様子を見に行っていたようだが、アルティアたちがダーラムに引越したのを機に会わなくなってしまったそうだ。
「ダーラムには孤児院があるからね。ポルテニエの神官が孤児院に連絡して、引き取ってもらったそうじゃ」
孤児院があったとは知らなかったな、とアルスは思った。
「それにしても、アルティアはこんなにも強い力を持っておったとはなぁ。恐れ入ったわい」
老父は感心しながらアルスたちから離れていった。
そんなやりとりに挟まれる形で聞いていたであろうシェイドだったが、ずっと映像に釘付けで、まるで何も聞こえていないかのようだった。
「……シェイド?大丈夫か?」
声をかけてから反応が出るまで、少し時間を要した。ゆっくりこちらに向いた時、兄のオッドアイはこれ以上ないほど見開いていた。
「もしかして、アルティアって……」
刹那、アルスは勘づいた。
「マジかよ……んなことあるか?」
「あるかもよ?姿を変えられるってこと……」
「アルティアは贄にされたのか?でもなんでグリフォリルに?」
よくわからなくなってきた。贄にされると普通は死ぬんじゃねぇのか?アルティアは元からグリフォリルじゃねぇのか?でも、あいつ、ヒトの言葉を喋るよな……。本当に姿を変えられたのか?王に?
「アルティアを保護したほうが……」
シェイドがそう言った時、遠くから咆哮が聞こえてきた。ヒトビトがざわめく。アルスは咆哮が聞こえてきた方角を向いた。シェイドが駆け出していた。
「おいっ!」
慌てて後を追う。中心街から離れ、商店街を駆け抜けて、ヴァルボラを脱した。小高い丘まで走り続けた。
兄が立ち止まって方角を確認しているところに追いつき、同じように周囲を見渡す。特に変わったところは無いように見える。ちらほらと野生動物が草を喰み、小型の怪鳥が群れを成して飛んでいる。
「グリフォリルらしきモノは見当たらないね」
シェイドが一息ついた瞬間、どん、と爆発音がアルスたちの左手から聞こえてきた。近くには樹海のような薄暗い森が広がっているが、そこから白い煙が上がっていた。ややあって、森がざわめき始めた。
どちらとも言わず自然とふたりは駆け出していた。




