序章
リヒトガイア、レジェーラント大陸。そこから少し離れたところに、楕円形の小さな島があった。かつてヒトビトが住んでいたようだが、今は魔物の巣窟となっている。
島のほとんどは荒野で、立ち枯れた木が中央に円を描くように並んでいた。そのまた中央には、今にも干上がりそうな水溜りがコポリと小さく音を立てていた。
そこに、一頭のグリフォリル(様々な生き物の一部を合わせたような幻獣)が、立ち枯れた木のそばに舞い降りた。
水溜りに近づき、2馬身程離れて止まった。耳をピンと前に向け、目の前のそれをじっと見つめていると、徐々に泡の数が増えていった。
水の量も同時に増えだし、幻獣は驚いて後退るも、あっという間に足元を濡らした。慌てて飛び立ち、木のそばまで戻った頃には、水溜りは湖へと変貌を遂げていた。
幻獣は再び湖に近づいてみた。水面が静かになった時、幻獣は小さく鳴いて頭を下げた。
頭の中が痛ぇ……!
幻獣は「おすわり」をして、鷲の前脚で耳の後ろから前へと毛繕いのような仕草を繰り返した。いくらやっても頭痛は治まらない。むしろ、悪化している……!
なぜ、戻ってきた。
突然頭の中で声がした。なんで近づいちまったんだ!逃げればよかったのに!と後悔するも時すでに遅し。幻獣は『声』に囚われていた。
なぜ、戻ってきた。
同じ言葉が繰り返される。幻獣は頭を左右に激しく振った。なぜって……ダーラムに帰る前にこの島を見つけて、なんだろなーって興味本位で降りたからだよ!と思って、あれ、と動きを止めた。
……オレ、戻ってきたの?
幻獣は顔を上げて湖を見つめた。少しばかり沈黙が降りる。3呼吸程して、『声』は語りだした。
ーー身を捧げし者の記憶が戻りし時
翡翠の王は最期を迎える
身を捧げし者を継承者とするべく
魔物を携えて世界を彷徨い求める
身を捧げし者が時期翡翠の王となるまで
災厄は永遠に続くだろうーー
頭の中の『声』が語りを終えた瞬間、幻獣は飛び立ち、もの凄い速さでその島を脱出した。




