第3章-1
胸騒ぎがした。病室のカーテンを開ける。空がほんのり緑色の光を放っていた。
「これ……」
ヘイレンは振り返ってシェラを見た。彼もこちらを向いて……正確には窓の外を見ていた。空色の眼が、見開いていく。
「ボク、行ってきても……」
本当は単独行動を許されていない。しかし、ヒールガーデンの中なら許されている。ここの屋上は領域内だが、危険な雰囲気なので一応窺う。
シェラは無言で起き上がろうとした。慌てて支えにベッドに走る。身体を起こし、ベッドから立ちあがろうとした。
「ちょっと待って、シェラも行くの?」
部屋の中でさえあまり歩いていないのに。その前に外出してよかったんだっけ?
「……ま」
「ま?」
相変わらず言葉が出てこないシェラだが、視線は窓に向いていたので、窓際へ行きたいのかと聞いたら、こくんと頷いた。
シェラを支えつつ、ゆっくり窓際へと歩いた。そばにあるソファに寄りかかって窓を開けた時、きん、と高音の耳鳴りと頭痛に襲われた。
「いっ……」
シェラも目をギュッとつぶってこめかみを押さえていた。耳鳴りはすぐに無くなったが、頭は痛いままだったのでヘイレンは窓を閉めた。……頭痛が治っていく。
「外に出ると頭痛がするってことだよね、これ」
寄りかかってきたシェラを抱きしめる。ふう、と彼は小さくため息をつく。
屋上へ向かったところで何ができようか。ヘイレンは考えようとしたが、部屋の扉が突然開いたことでその思考も破綻した。
「ヘイレン、一緒に来て!」
ウィージャだった。息を切らしていて、全力疾走してきたみたいだった。
ヘイレンはシェラを見た。彼もこちらを見ていた。少し見つめ合ったが、やがてシェラは、やはり無言で頷いた。
「ごめんねシェラ。ちょっとヘイレン借りるね」
ウィージャもそう言って頭を少し下げた。ベッドに戻すか戸惑ったが、ソファにいたままでもよさそうな雰囲気だったので、ヘイレンはそっと彼から離れ、ウィージャと一緒に部屋を出た。
ヒールガーデンの屋上に着いた時、ヘイレンは唖然とした。そこには蒼竜が浮遊し、ちょうどブレスを放ったところだった。テラスでは蒼竜騎士が誰かを庇っていた。
少し屈む格好で自然とシェキルの元へと走りだす。
「シェキルさん!」
「ヘイレン!?」
刹那、ヘルトが警告の咆哮をあげた。ヘイレンは立ち上がり、杖を掲げて魔力を溜めた。バリアを作った直後、翡翠色の光がそれに当たった。少し反動を受けたが踏ん張った。光は跳ね返り、ヘルトがブレスを放った相手に直撃した。姿のわからないモノが壊れ、キラキラと光を散らばせると、徐々に消えていった。
翡翠色の光が完全に消え、ヘルトがゆっくりテラスの芝生に着地した。バリアを消して、シェキルの様子を窺うと、彼のそばにはミスティアがいたのだが、ぐったりとしていた。
「彼女に緑色の光が伸びていた。魔力か何かを吸い取られているように見えたから、まずいと思って駆けつけたんだが……ん、脈はあるな。よかった。時期に目覚めるだろう」
シェキルはそっとミスティアを抱き上げると、ガーデンの中へと入っていく。ヘイレンも後を追い、ウィージャと合流し、ふたりの会話を後ろで聞く格好で歩いていた。
「外傷は無さそうですが、魔力が弱っている状態。脈は安定しています」
「ん、ありがとう。で、ティアは何に襲われたの?」
「恐らく『翡翠の王』の分身でしょう」
「翡翠の王……アビエル島の主か。なんでまたこんなところに?」
「翡翠の王は贄を求める傾向があると聞きますが、島の住民は王に全て葬られています。しかし、それも結構前の話ですので……」
「そうね、私がまだ騎士だった頃の出来事だもの。その時に初めてアビエル島の存在を知ったけど。シェキルさんは知ってた?」
「ええまあ。あるこどもを保護しに向かったのが最初でしたね。後にも先にもそれっきりですが」
そうだったんだ、と言いながら、ウィージャは治療室の扉を開けた。一緒に入っていいのか躊躇していると、医師に「ヘイレンもおいで」と言われたので後に続いた。
シェキルがミスティアをベッドに寝かせると、ウィージャは診察を始めた。手際良く診て、時折頷く。
「ごめん、ちょっと手伝って。コートを脱がさないとわからなくて」
シェキルと3にんでミスティアのコートを回収したが、ヘイレンはひとり、鼓動が速くなってしまっていた。
「え……」
ウィージャはミスティアの首元を見て言葉を失った。黙って白衣の袖を捲った。何の模様だろうか、それぞれの肌に現れていた。反対の腕にもそれが出ている。
「ナニコレ……」
つい声に出してしまったが、ふたりは絶句したままだった。不穏な空気に包まれる。
「……申し訳ないけど、ここからは私と助手で」
「わかりました、お願いします。行こう、ヘイレン」
シェキルもヘイレンも医師ではないため、処置室を出て待つのは当然だ。後でシェラの部屋に来てくれるらしいので、ふたりはひとつ頷いて、黙って部屋を後にした。
「ところで、シェラに何かあったのかい?」
廊下をゆっくり進みながらシェキルに問われて、そう言えば何も知らないんだったとハッとした。ダーラムのすぐそばで魔物の集団を退治したこと、その際にシェラに起きたことを話した。
「……そうか、そんなことが。それにしてもヘイレン、随分と魔力が強くなったね。コントロールも上手くできてる。というか、すっかりおとなびたな。なんだかシェラと話をしているみたいだ」
確かに背格好はシェラと変わらないくらいになった。魔力の強さは正直わからないけど、使って倒れなくなった。改めて立派になったと言われると、ちょっと照れくさいな。
「君のバリア魔法……相手の魔法をはね返す効果があるのは驚いたな。私が知るヒトでは君が初めてだ」
「そう……なんですか?」
長年竜騎士を務めていても、初めてなことはよくあるよ、とシェキルは微笑した。そうこうしているうちに、シェラの病室に着いた。ヘイレンはノックして、そっと扉を開けた。部屋を出る前と場所が変わっていなかった。
音がして、ソファで横たわっていたシェラがゆっくり起き上がった。目を擦って、うーんと伸びをした。
「ただいま」
声をかけると、シェラはふっ、と微笑んだ。ヘイレンの後ろにいた父親を見て、笑顔が消えた。
「と……」
言葉がやはり出てこない。一瞬沈黙が降りた。
「右肩、痛みはずっとあるのかな」
シェキルはシェラの隣に座った。やや俯き、父親と目を合わせようとしない。ヘイレンはなんとなく、簡易キッチンに向かった。じっと見守るより、ハーブティーでも淹れに行ったほうが、精神的にもまだ楽かもしれないと思ったからだ。
「……言葉がうまく話せなくなってるんだね、あの時みたいに」
どうやらこの状態になったのは初めてではないようだ。ん、とシェラは頷いていた。シェキルは息子を自分に引き寄せた。頭を撫でながら、優しく抱きしめる。
「……少し熱っぽいか?大怪我してるし、身体がずっと頑張ってるんだな……」
シェラは顔を上げた。何か言いたそうにしているが、口がパクパク動くだけだった。と、シェキルはひとさし指を立ててシェラの口元に近づけた。その場で小さな円を描く。……何だろう?ティーポットにお湯を入れる手が止まって思わず見入ってしまう。
「……ルーシェ先生が義手を?ウィージャ先生が着けているやつと同じ構造の……ふぅん……なかなかに脅されたんだな。そうかそうか」
思念で会話しているのだろうか?シェキルさんはああやってヒトの思念を読み取っているんだろうか?思念を読み取る方法もヒトそれぞれだなぁ。
「シェラはそれを着けようかどうしようか迷ってる?いや、もう決めてるんだな。でも……ふぅむ」
シェキルは人指し指を下ろすと、もう一度息子を抱きしめた。
「……シェラ自身が大丈夫だと思えば全てうまくいく。だから、自分を信じなさい」
うぅ、とシェラは声を漏らした。
「シェラはひとりじゃないだろう?支えてくれる仲間がたくさんいるんだし、時間なんかたくさんかけていいんだよ。痛くて辛くて苦しい時は泣けばいい。男は泣いちゃダメ、なんてことはないんだからね」
まるで幼いこどもを宥めているような口調だった。親にとって、子はいくつになっても子なんだな……そう思い耽りながら、ティーポットにハーブティーの粉末を入れた。
右腕を、ディアンを失ったという現実が、彼をどん底に突き落とした。その上先生たちの話を聞いて、恐怖と不安でいっぱいになってしまったけど、けど……。
シェラはシェラでものすごく考え、悩み、そして、前へ進もうとしていると、ヘイレンは感じた。
ティーカップにハーブティーを注ぐと、ふわりといい香りがした。3にん分注いで、そのひとつに指差して小さく円を描きながら念じてみる。
シェラの身体が、心が、良くなりますように。
先日カシェから受け取った小鳥のお守りもそのような願いを込めていたな。置物だと思っていたから、動いた時はびっくりしたけど。
「いい香り。これは……ラベンダーかな?」
ヘイレンがお盆でティーカップを運び、ソファの前のローテーブルにそっと置いた時、シェキルがそう言った。『ハーブティー』は読めたのだが、何のハーブなのか読めないまま、とりあえず淹れてしまっていた。
目についた袋の絵は、紫色の小さな花が連なった可愛らしいものだった。あれがラベンダーなのか。
「ハーブティー、は読めたんですけど、ラベンダーってハーブがあるんですね……」
「そう。とても好きな香りでね、リラックス効果があると言われているんだ。なかなか眠れない日とか、落ち着きたい時にはぴったりだよ」
「そうなんですね!これでシェラもリラックス……ってなんですか?」
まさか『リラックス』という単語について問われるとは思っていなかっただろう。シェキルはカップを口元に持っていこうとして、危うく落としかけた。ぴちょん、と中身が少しはねたが、溢れはしなかった。
「えっ……と……リラックスは……リラックスなんだけど、そうだな……落ち着くとか安心するとか、そういった意味合いがあるかな」
「落ち着く……確かにこの香りは心が落ち着きますね。これ淹れて正解だった……かな?」
「うん、大正解だよ。……しかも美味しい。ラベンダーティーは色もあまり変わらないから、つい濃くなりがちになるんだよな……私が淹れるとね」
濃過ぎるとエグみとか渋みとか苦みとか、ようは美味しくなくなってしまうらしい。ヘイレンの淹れたラベンダーティーは、親子に大好評だった。シェラも一口飲んではホッとして、微笑みながら頷いていた。
……おまじない、効いてるといいな。
ティータイムを終えた頃に、ウィージャがシェラの部屋に入ってきた。神妙な面持ちで扉を静かに閉めると、ベッドのそばまで来て、ひとつため息をついた。
「結論から言うと、継承してしまったかもしれない。先代王の記憶を」
「な……!?」
シェキルが驚いて立ち上がる。シェラはふたりを見上げてぽかんとしている。
「目覚めないとわからないけど、ティアは……いわゆる『翡翠の女王』に君臨した……かも」
首元や腕に見えていた模様は、胸や腹、背中と全身に現れていたらしい。『アビエルの烙印』と言うそうだ。
「翡翠の王は……王という名が付いているけど、本質は翡翠を守る贄ビトなんだ」
……太古の昔、アビエル島に降り立った先住民族が、飲み水を探し求めていた際に、翡翠色に染まった湖を見つけた。
あるヒトが覗いた途端、湖の中央で水柱が立った。飛び出してきたのは、胸元を翡翠色に光らせた骸骨だった。ヒトビトは驚き逃げ出したのだが、あるヒトだけが動かないでいた。この時点でそのヒトは、骸骨に捕えられていたのだ。
骸骨は瞬時に近づき、そのヒトの両肩を掴んだ。瞬きをする間もなく全身に模様が刻まれた。そして、湖へと引きずり込んだ。一瞬の出来事だった。そのヒトが湖から出てくることは二度となかった。
湖が静かになった時、残されたヒトビトは『声』を聞いた。
この翡翠を宿す贄を与えよ。贄は生きたヒト。足掻くことを許さぬよう手足を縛り、錘を付けて湖に沈めよ。贄となる者は、我が命ずる。応じなければ厄災が起きる事と覚悟せよ。……この島から脱する試みは即ち死を意味する。我の目から逃れることは出来ぬ。
この地に降りたが最後、ヒトビトは翡翠を宿した骸骨の餌となってしまったのだ。
当然「ふざけるな!」と大声を上げ、武器を掲げて湖に近づくものはいた。しかし、相手は湖の底。なす術が無い。無謀にも湖に飛び込んだ者は、少し泳いだ瞬間に、足を捕らわれ引っ張られたように沈んでいった。ややあって、赤黒いものが湖の表面を染め、生首が打ち上がった。
これでもう、ヒトビトは骸骨を恐れ、逆らうことを諦めた。……彼らは湖の近くの森の開けたところに村を作った。やがてヒトビトは『声』に従うようになり、島の外の干渉を受けることなく暮らし続けた……。
……ウィージャの話は、まるでその場にいたかのようだった。ヘイレンは怖すぎてシェラのそばにぺたんと座って震えてしまった。
「……村ビトは『声』に従って、生贄を捧げてきたけど、ある日ピタッと『声』が聞こえなくなったらしい。原因はわからないけど、もう贄を求められることがないんだと、みんな安堵したそうだよ。でもそれから何百年か経って、また始まってしまったとか」
「随分とお詳しい内容だったんですが……史書をお読みになったとかでしょうか?まさかあの場にいたことがある、とかじゃないですよね……」
シェキルの声がさっきより低く聞こえた。ウィージャは顎に手を当てて少し掻いた。
「んー……まだ騎士の頃に、アビエル島唯一の村に巨大な魔物が奇襲しているとの報告を受けて、出陣したんだ。で、なんにんか救助したんだけど、その際にこの話を聞いてね」
「……そうだったんですか」
「うん。ただ、みんな……数日後に亡くなってしまった。特に外傷は無かったのに、前触れもなく発作を起こして……。当時の医者は何も出来なかったそうだよ。でも……」
ウィージャは一呼吸置いた。
「ご遺体を確認したら、全身に模様が刻まれていたんだって。今のティアのように」
「なんと……」
「これが何なのかは当時わからなかった。禍々しい力に囚われているように見えたから『アビエルの烙印』と名づけた。その後、翡翠の骸骨……改め翡翠の王の呪いではないかと。そういう結論に至った」
「呪い……」
ヘイレンが呟くと、医師は頷いたものの、どこかぎこちなかった。
「ただね、呪われてたとしたら今頃ご臨終だよ。あれは即効性があるようだったし。でも、彼女は生きている。意識は戻ってないけど、心の臓は動いてるし呼吸もしてる。急変したら連絡してくれと伝えてるけど、それもまだない」
「だから王位継承……記憶を継承したと疑っている、ということですね」
「そ。呪いも嫌だけど……これはマズい状況だよ、非常に」
目が覚めたらミスティアはミスティアでなくなっている。姿は彼女だけど、中身は歴代の翡翠の王なのだ。ヘイレンたちのことも、自分自身のことも、彼女が持っていた全ての記憶を失い、翡翠の王が見てきた記憶でこれからを生きていく……ということになる。
「ティアの持つ魔法術でヒトビトを支配する……なんて可能性もある。嫌な考えだけど。治癒魔法だけじゃなくて、霧で相手を惑わせたり視界を失わせたりすることもできるからねぇ……」
霧で周りが見えなくなると動けなくなる。背後を取られたら……とヘイレンは思い至って身震いした。
「そういうわけで、彼女は隔離フロアで経過観察することになって、移動させてからこっちに来た感じ。隔離フロアは自由に出入りできないから会えないけど、様子はみんなに伝えるね」
そう言って、ウィージャはため息をついた。
ややあって、隣にいたシェラが何かを思い出したようにこちらを向いた。おずおずと左手が伸びてくるのを、そっと握ると、思念が送られてきた。しばらく聞いて、こくんと頷く。
ヘイレンはミスティアから聞いた『翡翠の王のこと』を、ウィージャとシェキルに話した。ふたりの血の気が無くなっていくのを、ヘイレンは感じていた。
「ちょっと待って、情報量過多なんだけどそれ!」
ウィージャは困惑していた。シェキルもううむと唸っている。少しして「整理しようか」と蒼竜騎士が軽く咳払いをした。
「まず……ミスティアとアルティアは双子の姉弟だった。ふたりはアビエル島の村の出身で、村では双子は厄災の種と云われていた。ふたりが生まれたのを機に、翡翠の王は贄を求め始めた。先生がさっきおっしゃっていた『それから何百年か経って、また始まってしまった』がおそらくそれだろうね」
ヘイレンは黙って頷く。
「それで……アルティアは自分の身体と記憶を王に捧げて、代わりにグリフォリルの姿を得たんだ?錘をつけて湖に沈めるのではなく?」
もう一度黙って頷いた。シェキルは腕組みをして首を少し捻った。
「身の捧げ方が違ってるね。アルティアは自分を捧げる時に何か言ったんだろうか……。普通なら死んでるはずなのに」
ヘイレンも急にわからなくなってしまった。落ち着きを取り戻したウィージャが、悩ましい顔をしながら口を開く。
「翡翠の王は自分の死期が近いと悟り、アルティアを追っている。身を捧げし者の記憶が戻りし時……だから、アルティアは自分の記憶を取り戻し、王にさせられるとわかったから逃げているんだな。でも、グリフォリルにする条件として王位継承をあげ、彼は承諾したとしたら、逃げてる理由は……?」
「単純に『翡翠の王になりたくない』からだと思います……たぶん」
ヘイレンはウィージャと目を合わせた。医師は「やっぱそれが自然だよね」と頷く。
「けれどもミスティアが、アルティアを王にさせない為に、自分を犠牲に……記憶を継承した……かもしれない。そうなると彼女は……湖に沈めなきゃいけないのか?自分から沈みに行く、なんてことないよね……」
ウィージャは自分の言っていることに恐れを感じていた。沈めなければいけないのならば、誰がミスティアを沈めようか。手足を拘束して、錘を付けて……なんて、誰ができようか。
「……とりあえず、アルティアを探し出して、ミスティアの状況を伝えないといけないな。今後、私たちはどうすればいいのか、アルティアはどうするのか、話し合う機会を作らないと」
「でしたら私が。厩舎へ行って、アルティアの匂いをヘルトに覚えさせて探し出し、状況を伝えます。しばらくは彼と行動を共にするだろうから、こちらへは書か魔法石か……何かしらの手段で連絡します」
「ん、ありがとう、助かるよ」
一瞬、ヘイレンはシェキルと一緒に探しに行きたくなったが、自分の立場は何かと思い返して言葉を飲み込んだ。……ボクはシェラの付きビトだ。シェラを支えないといけないし、ボク自身も老魔導士バルドから身を守らなければならない。魔力があったとしても、安定して出せたとしても、ダーラムの外へ出るのは危険だ。
シェキルはシェラの前にしゃがんだ。使命感を持った勇ましい空色の眼と、憂いを帯びた空色の眼が見つめ合う。固唾を呑んで見守る。
「シェラは、自分との戦いに勝つんだ。これまで乗り越えてきたんだから、大丈夫。先生たちにたくさん助けてもらいなさい。ヘイレンにも、ね」
視線を外さぬまま、シェラは右肩を押さえる仕草をした。痛みが走ったのか眉間に皺が寄り、伏目になったが、一呼吸置いて再び父親の眼を見た。そして、うん、と一つ頷いた。
「善は急げ、ということで行ってきます。先生、ヘイレン、息子を……シェラをよろしくお願いします」
シェキルのお辞儀に合わせて、ヘイレンもウィージャも同じように頭を下げた。




