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テンポ良く進める予定です。
多少暴力描写あります。
シャスタデイジー国のとある伯爵家に生まれたマリーゴールドは、本来ならその伯爵家の嫡女。
シャスタデイジー国では男女問わず第一子が跡取りと法に定められている。
余程のことが無い限りは、これは覆らない。
余程のこととは、家門に泥を塗るような大失態を公の場で行い、それをカバーも出来ないような状況である、とか。跡取りが死亡した場合、とか。
つまりマリーゴールドは生まれ落ちた瞬間から跡取りであることが確定したと共に、常に命を狙われるような日々を送ることになる。
彼女が死ねば跡取りの座が回って来るから、と思い込んだ愚か者が親戚の中に居たからであった。
マリーゴールドの母は産後の肥立が悪く、寝たり起きたりの繰り返しであった。マリーゴールドの父はそんな母のことを献身的に支えたし、マリーゴールドの身の安全を確保出来るよう、かなり腕の立つ騎士を護衛に任じた。
その甲斐あってマリーゴールドは八歳まで無事に過ごして成長出来ていた。
ところが、そのことに苛立つ者が身内に居た。
マリーゴールドの伯父にあたる人物である。
後々判明することだが、この伯父がマリーゴールドの命を狙っていた。
どこをどのように考えれば、自分が伯爵家の跡取りになれると考えたのか、さっぱり分からないが、この伯父は執拗だった。
但し。
両親はマリーゴールドの身の安全のために、と護衛を雇っていたわけだから八歳のその日まで、伯父は煮湯を飲まされていたわけで。
到頭伯父は方針を変更することにした。
その日はマリーゴールドの誕生日。
柔和な笑顔を浮かべて祝いに押しかけて来た。
父は兄がマリーゴールドの命を狙っていることに薄々気づいていたから警戒していたのだけれど、やはり兄弟としての情が勝ってしまったのか。
柔和な笑顔にマリーゴールドの誕生日を祝う言葉に警戒心が薄れた。
結果から言えば、それが悲劇に繋がった。
その前の年、マリーゴールドは父の親友という立ち位置のとある侯爵家の次男と婚約を結んだ。
つまり、マリーゴールド七歳。婚約者であるレドバドは六歳での婚約だった。
これは当然、マリーゴールドの命を守るための婚約であったが、それではいくら親友とはいえ侯爵にメリットが無いため、伯爵家にレドバドを婿入りさせることで、伯爵家の領地にある港を利用して国外への交易事業に携われることを、マリーゴールドの父は侯爵に提示した。
侯爵はそれなら……と婚約を了承。
シャスタデイジー国に港は、伯爵領の他にもう一つだけ。二つしかない港の一つに携われるのなら、侯爵としてもかなり利がある。侯爵は、そのように算段した。
同時にそれなりにマリーゴールドの父に対して友情もあった侯爵は、侯爵家から護衛を二人、マリーゴールドに付けた。
その背景もマリーゴールドの父が警戒心が薄れた原因だっただろう。
マリーゴールドの八歳の誕生日を祝う兄から勧められた酒には睡眠薬が混入されており、それを飲んだ両親は寝入ってしまう。
そしてマリーゴールドの父を縄で縛り上げ、侯爵家の護衛にやはり睡眠薬を混入した酒を飲ませて眠らせて、自室に戻って眠っていたマリーゴールドを無理やり両親の寝室へ連れて来て。
目が覚めきってないマリーゴールドと、睡眠薬がまだ残っているだろう目が覚めきってない両親。
マリーゴールドの伯父は、鬼畜と言うべきか、悪魔の所業とでも言うべきか、そんなことを始めた。
簡単に言えば、縄で縛り上げた実の弟と姪の前でマリーゴールドの母であり、伯爵家の当主であるカレンデュラに乱暴を働いた。性的な暴力を二人の前で振るうなど、鬼畜でしかない。
反抗するカレンデュラの頬を打ち、マリーゴールドと同じ黄色の髪を引っ張り上げることまで行う。
愛する妻をそのような目に遭わされたマリーゴールドの父は憤怒を顕にした。
夫と娘の前でそのような目に遭わされたカレンデュラは心を壊した。
さらにマリーゴールドの両親に追い討ちをかけた伯父の所業で父も心を壊してしまう。
伯父が満足げに帰ってから、カレンデュラは自死。父もカレンデュラを追うように生気を失い、自死は選ばなかったものの、ほぼ自死のように急激に病を発症して死を迎えた。
この時、マリーゴールドの八歳の誕生日から三ヶ月ほどを過ぎていた。
伯父は両親が相次いで死んだことに満足し、自分の妻子を連れて伯爵家へ乗り込んできた。
自分が継いでいた子爵位と共に。
伯父は子爵だった。而も領地無しの。
おそらくそれに鬱屈した思いを抱えて、弟であるマリーゴールドの父を追い詰めたのだろう。
マリーゴールドはそんな予想をしたが、それが合っていようと外れていようと、どうでもいい予想でもあった。
お読みいただきまして、ありがとうございました。
婚約者の名前レドバドはred bud。花蘇芳の英名です。
花蘇芳の花言葉に「裏切り」というものがあるのでそこから付けてます。
母親の名前カレンデュラは和名・キンセンカ。キンセンカの花言葉に「悲しみ」というものがあるので。
あと、マリーゴールドの色が黄色なのでその母親も黄色が良かったので。