星見の弱点
「失礼しま~す!!」
元気よく観測部の部室に入ってきたのは、小柄な少女だ。
依頼人にしては元気で悩み何てなさそうに思えるのだが――。
そんな元気少女は星見を見るなり、驚き顔で固まった。
星見は、じっとその少女を見つめている。
いつも通りの、感情の読めない視線――……ではなかった。
一瞬だけ、星見の眉がピクリと動いた気がした。
「……!!」
見つめ合ってる二人。何やってんの? こいつら。付き合ってんの?
ちなみに俺は、百合は大歓迎だ。
脳は破壊されない。ってんなことはどうでもいい。
こんなアホみたいなこと考えていること読まれるのも嫌だし、忘れよう。
「用は何?」
「ああ……すいません」
無言の時間が続いたのだが、最初に話を切り出したのは星見だった。
彼女がここに来た理由を聞いたのだが、それもそれで俺的には違和感だった。
今まで、鍵以外にも二、三件星見は悩みを解決している。
そのすべてで、彼女は相手に口を開かせる前に悩みを見抜いていた。
だが、今日は違う。
この少女は、星見に心理を読ませていない。
何だか、ただものではない気がして来た。
「一年の名取深雪って言います。理想となる人物を探しているんです。私」
「私は人生の理論値を目指してるんです。人は無限の可能性を無限に消費して人並になる。でも、私は違うから」
思想が異常者そのもの。
星見とはまた別系統。
人生の理論値なんて、なかなか言える人間はいない。
普通は“人並みになりたい”って言うもんだ。
でも彼女は、“人並みに堕ちたくない”んだろう。
「そのために成長したいんです」
「なるほど」
星見は真摯にそれを聞くと、顎に手を当て考え込む。
そんな星見の動作を見て頬を染めた少女は、そのまま話を続けた。
「成長に必要なことは目指すべき目標と、なりたいと願う理想。そしてそれに向かうための強い意志だと思ってます」
彼女の成長論。
それは整っているような、どことなく歪なような。
そんな不思議なものだ。
「私には短期的な目標はあるけど理想がない。だから理想になる人を探してるんです」
「つまり、あなたの依頼は、理想の観測ということで間違いない?」
なんか…………珍しく、“観測”って言葉がぴたりとハマってる気がする。
無理矢理感が薄い。
「手段と目的が変わってるんじゃないかしら。貴方が求めているものが理想像なら、人ではなく自分で作るのも手じゃない?」
と、星見が話した瞬間、どこからともなくメモ帳とボールペンを取り出し、何やら書き始めた。
やっぱり……キャラ濃いなあ。
「目的は理想……ですけど、理想を決めてしまうと生き方が決まってしまう。それは私の可能性を閉ざす気がします。理想の人がいれば、そのときの自分に最適な成長を選べると思って」
かなり深い話をしていて、介入する気も起きない。
俺は我関せずでボーっとする。
「分かったわ。当てが一つあるから――久遠君はお留守番ヨロしく」
「へいへい」
という訳で、二人の理想探しが始まった。
「……当てねえ~」
二人が部屋をでて扉を閉めた瞬間、俺は足を汲みながら一人ごとを呟く。
理想という言葉で『当て』なんて一人しかいない。
初めて星見の思考が読めたような気がした。
まあ、状況で読んだだけなんだけど。
「名取……だっけ。あいつの理想何て、どう考えても星見だろ」
そう思いながら、今度は違和感を口にしてみる。
あれはどう考えても星見を理想に思っている目と動作だった。
もじもじしたり、頬を染めたり、メモし出したり……メモは何だかよくわかんないけど。
それともガチ恋か? それもありか。
思考読みがいなくなることでクソみたいな妄想を頭の中に垂れ流すことが可能になった――。
とまあ、そんな百合妄想はいいとして本題。
なぜ俺が分かっていることを星見が分かっていなかったのか。
あれだけ分かりやすく態度に出ていたら、一発で分かる。
「まあ、分からないしな。あいつのことなんて」
俺には何もかも計り知れない。
底がしれない彼女の思考など、分かるはずがない。
星見が言っている観測という言葉ですら、俺にはよくわからないのだから。
ただ、もし本当に、自分が理想だと思われていることに、彼女が気づいていないのだとしたら――。
「もしかして……苦手なのかな。自分の観測」
思いがけない星見の弱点が、頭の中に浮かんできた。
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