魅力を追い求める男
俺は御影に指定された場所で静かに彼を待った。
一応、来るにあたって用意したものは――二百円だけ入っている、財布だ。
全財産は五、六千円持っているのだが、それはバックの中に隠してある。
カツアゲされるとき、全財産持っていかれるのはショックが大きいため、”これが全財産です”というアピールのためのアイテムだ。
零円だと怪しまれるため、損切の二百円。
名付けて、『カツアゲ用デコイ』。
今日昼抜いたんですよ、と言わんばかりの空腹演技も準備完了。
完璧だ。
「ごめんね。僕から誘ったのに遅れちゃって……」
目の前に現れた御影陽成は、まるで“理想の高校生”をAIに生成させたような男だった。
整った金の髪は美しく、彼の抜け毛にすら価値を見出しそうなほどだ。
長めの前髪が顔の横に流れ落ち、片目が半分隠れている。
姿勢は良く、表情は爽やかで柔らかく、誰もが無意識に好意を向けてしまう雰囲気を纏っていた。
……にもかかわらず、どこか“記号的”に感じるのはなぜだろう。
完璧なはずなのに、逆に“何も感じない”ような、不気味な美しさがそこにはあった。
「俺は金なんて持ってないぞ。カツアゲは無駄だ」
俺が予測していたことを言うと、彼はキョトンとした表情を浮かべ、笑いだした。
その一連の動作も、一々可愛くて、かっこいい。
なんだこいつ? マジで。
「カツアゲ? そんな魅力のないこと、僕がすると思う?」
……しない。
だってイケメンだもん。中身すら。
イケメンヤンキーって救済なのかもしれない。
外見はいいけど、中身はダメっていう、そういう。
彼みたいに全部完璧だと、もう、何も言えないじゃないか。
「……っていうか、昼ごはん食べてないでしょ? なにか奢ろっか」
……え? なにこの人。イケメンって概念そのものなの?
逆に御影は、ごそごそと財布を取りだすと、俺に千円札を渡す。
っていうか俺、なんでこんなに敗北感あるんだろう。
これ貰ったら、本当に全てにおいて負ける気がする……まあ貰うけど。
そうやって俺の手に千円札を乗せると、彼は話始めた。
「僕は、少し鋭い感覚を持っていてね。誰かが僕に視線を向けたとき、その視線にどんな感情が乗っているか――なんとなく分かるんだ」
以前まではそんなこと言われても戯言や冗談の類として笑い飛ばしていただろう。
でも知ってるんだよなあ。同じようなこと出来る奴。
「君は今僕への恐怖、緊張が晴れ、憧れ一割。嫉妬一割。敗北感四割。罪悪感四割。ってところかな」
「……え? あんたも能力者?」
「おもしろいこというんだね。まあそういう年頃だもんね」
ざけんな。星見と同じ反応しやがっって。
お前らが人外のパフォーマンスしてくるのが悪いだろ。
「そんな感覚を持っている僕には分かるんだ。みんな、自分だけの“物差し”を持ってる。好みも、憧れも、魅力の基準も、全部違う」
俺のことを少し笑ったあと、御影は話を続けた。
「だから僕は、それぞれの“理想”に合わせて、僕を作ってきた。“みんなが求める魅力”を繋ぎ合わせて、今の僕ができてるんだ」
確かに、彼は万人の理想なのかもしれない。
俺も嫉妬とかはあれど、というかそれらの感情すら押しつぶす魅力がある。
「もう僕は、誰から見ても魅力的な人間だ。だけど、ある日、僕に“得体の知れない感情”を向けてくる人が現れた」
語らずとも分かる。
……それが、星見翠。
「だから僕は、測ったんだ。星見翠の“物差し”で、僕を」
その方法は、俺でも分かった。
「――告白っていう、最も単純な問いかけで」
告白することで、自分が彼女にどう見えているかを測った。
告白という大事なイベントを測定に使った。
以上だ。こいつは。
そして彼がその垂れている前髪をいじった瞬間、瞳の色が狂気的な物に変わった。
「魅力というのはこの世のどんな力にも勝る力だ。だから僕は僕で、完璧な魅力を形作る」
覗いたその瞳が、まるで獲物を測るスコープのように光を宿していた。
「そして君は、星見翠の“観測対象”に選ばれた」
何もかも見透かしているような、何もかも見ようとしているような、そんな目で、俺を見る。
「君を見ていれば、彼女の物差しの正体に近づけるかもしれない」
異常者は異常者を集めるらしい。
俺は星見という異常者と関係を構築したため、彼のような異常者を呼び寄せてしまったようだ。
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