陰キャと陽キャのドッチボール
少しばかり騒がしくなった放課後と違い、俺の学校生活は恐ろしく静かだ。
隣の星見とは相変わらずしゃべらないし、他の人間とはもっとしゃべらない。
「うっしゃああ~!! いくぞお!!」
今は体育の授業中。
陽キャたちが大好きなドッチボールだ。
静かな俺の日常とは対照的に、陽キャたちはうるさくはしゃいでいる。
……全く。こんな人に球当てる野蛮な遊びの何が楽しいのか。
彼らのはしゃぎようにあきれながら今自分のすべきことを考える。
ドッチボール、これの陰キャの立ち回りは地味に難しい。
まず、このドッチボールにおいて陰キャが目指す場所は外野だ。
早々に当てられることで、俺は試合の観客になれる。
ただ、課題もある。
それは意外とあてられることが難しいという点だ。
陽キャは陽キャ同士を狙い合う。
人数を減らすことは意識せず、内輪で盛り上がることが重要なのだ。
だから、俺は結構最後まで残ってしまう。
最後の一人になったときの微妙な空気、当たったときのあっけなさ、あてられた時の気まずさ、全てが地獄だ。
故に最後まで残ることは許されない。絶対に。
「――ここら辺……かな」
目立ちたくはないから、周りの動きには合わせる。
内野がボールを持った時、皆ボールから離れようと後ろに引く。
俺もその流れに従いつつ、自然さを保つぎりぎりのラインに立つ。
おそらく、ここだ。
「よっと」
敵が、俺を狙ったボールを投げる。
肩にポンっと衝撃が走り、ボールが宙に浮く。
……完璧だ。これで自然に外野に行ける。
「危ない!!」
「は?」
そのボールが落ちそうになった瞬間、全力の御影が落ちる前に取る。
それにより、俺は外野に逃げることが出来ず。
「危なかったね。朔夜君!!」
……クソがッ!! 何事にも本気で撃ち込むイケメンがああ!!
そう言った陽成の手は、うっすら血が滲んでいた。
取る時、床にぶつけたらしい。
いや、そこまでして……取るなよ。
爽やかな笑顔と、周りの喝采が響き渡る。
おかしい。
俺の完璧なムーブが、イケメンのイケメンさによって崩れ去られた。そして――。
(危惧した状況に、なっちまったああ!!)
内野にいるのは俺と御影だけだ。
フィジカルで生き残った御影と、影の薄さで生き残った俺。
まずい……御影。
お前だけは、行かないでくれ。
(クッソ!! 目で追えねえ)
敵チームの内野と外野のボール回しが始まった。
普通にレベルが高く、球の速度は異次元に速い。
が、そんなことはどうでもよくて彼らが狙っているのは俺か御影か。
俺にとって重要なのはそれだけだ。
大丈夫。御影を狙うふりをして、俺を見ていることを認識。
安心だ。
これで最後の一人は御影になる。
「朔夜君!! 後ろ」
そうして敵心理を見抜き落ち着いた俺。
だったのだが――俺の身代わりになった御影が、ボールに当たった。
「あとは……頼んだよ」
(頼むなあ!! 俺を一人にしないでくれえ!!)
グッと親指を突き立て、その一言を最後に外野に向かっていく。
グッ! じゃねえんだよ。
わざとなの? 俺に最後が務まるわけないじゃん。
いやがらせ?
(そう、これは事故だ。俺が最後に残ったのはどう考えても御影のせい、断じて俺のせいじゃない――俺は悪くない)
だから、この後気まずくなっても、俺は知らない。
そう思いながら、俺は内野に転がっているボールを拾った。
さて、地獄はここからだ。
このゲーム、外野と外野で投げ合うことは禁止されている。
内野を経由しなければ外野は投げられない。
つまり、俺は主体的にこのゲームに参加しなければならない。
――とりあえず、ミスしないようにだけ。
そう思いながら、向かい側にいる陽成にパス。
豪速球であてに行く陽成。
それを敵に躱わされ、それを俺がキャッチ。
陽成にパスし、また陽成が投げる。
それを数回続けていくうちに、違和感に気付いた。
――どうして俺は、御影のボールを取れている?
運動神経平均的な俺があの豪速球を何度もキャッチできるのだろうか。
めちゃくちゃ速いのに、手に吸い付くようにボールを取れる。
ボールを取っている俺がいいのではない。
御影が……敵には脅威となり、俺には取りやすい球を投げ続けているのだ。
イケメン。どこまでもイケメン。
そんなとき、俺の目の前で敵の誰かが態勢を崩した。
当てられる。瞬時にそう思い、御影の方を見ると、彼もうなずいていた。
そうして、俺の投げた球は見事命中。
「すげえ!!」「大番狂わせだ」
しかもそれが敵チームで一番強い、バスケ部のエースなのだから沸いた。
でも俺じゃない。全部御影のおかげだ。そう思っていた時――。
「アうっ!?」
いつの間にか敵チームに渡っていたボールが、俺の体に当たった。
……あ、うすッ。
直前で盛り上がっていた分、あまりにもあっけない最後に落差が発生。
史上最強に気まずい空気が流れた。
ぜ~んぶ御影のせい。
「久遠君。昼休み、ちょっと校舎裏に来てくれないかな」
そうやって俺が御影を他責思考の標的に絞ったとき、御影が俺に耳打ちしてきた。
なんだろうか。心当たりは……。
「あるなあ~」
星見周り。
彼は振られ、俺は奇妙な関係を構築した。
それが、なんだかとても嫌な予感がした。
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