観測部の活動内容
脈絡も文脈もなければ意味も分からない。
そういう意味で夢のような放課後から一日が過ぎ、観測部の活動が始まった。
観測部の活動内容、それはこの教室で一時間ほどいること。
以上。
「んなわけがない。で、結局何する部活なの?」
「今に分かるから、静かにしてなさい」
待機するだけの部活なんて聞いたことがないため、自分の部活の活動内容をそろそろ把握したいところなのだが――。
そう思っていた時、俺たちのもとに活動内容が舞い込んできた。
「し、失礼しま~す」
少し緊張した面持ちで入室したのはショートカットの女子だ。
彼女は不安そうに星見さんの向かいの席に座ると、びくびくしながら話始めた。
「自転車の鍵を探してほしいんです。あ、別に無理ならいいんですけど。バスとかあるんで……でも先生に言ったら、ここに行けって言われて」
無理難題を言っていることは承知なのだろう。
だから言い訳がましく彼女は依頼しているようだ。
というか依頼って、この部活は鍵探し部なの?
「なるほど、なくした鍵を観測してほしいと」
なんかこの部活っぽく言い直した。
無理矢理観測という言葉を使ったせいで、少しずれた気もする。
というか見ず知らずの人間の探し物を見つけられる訳ないだろ。この部活を紹介した先生も、何を考えているのだか。
ってこれ、振りじゃないからね。
「鍵を無くした割には結構落ち着いているのね」
「その落ち着きよう、他の選択肢を考え、先生に相談してこの部活に頼る程手詰まり。と考えると――」
「なくしたことに気づいたのは午前中ごろね」
「すごい……なんで分かるんですか?」
そうして一問一答が始まり、それから星見は語られていないことを導く。
それに驚愕し、疑問を口にする彼女を無視して星見は推理を続けた。
「時間がたっているということはバックの中とか、教室とかは探したのでしょう。と考えると一番めぼしいのは駐輪場ね。探したかしら」
「昼休みに、ちょっとだけ……」
「もう少し重点的に探しなさい」
「それとあなた、右ポケットにスマホと鍵、両方入れてるでしょ」
「な……なんでそれを」
またも的中。
もうこれ観測者じゃなくて探偵だろ。
つうかなんだよ。観測者って。
「スマホが右ポケットに入っているにも関わらず、ポケットの中が外にはみ出しているほど乱れている。一番重点的に探した証拠ね」
「ああ、ほんとだ」
本当に、よく見ているんだなと感心する。
ただ、それを知ることがどうつながるのか。
「学校付いてスマホを取り出した拍子に落とした。これが可能性としては一番高そうね。あなたの自転車の周り、とくに降りた場所を重点的に探すべきね」
そして最後。
「あと、あなた“無くしたときの自分”を無意識に否定してるでしょ」
「えっ……」
「ちょっと自分を責めてる顔。それ、記憶の上書きが始まってる証拠よ。そういうときの記憶違いは探し物を隠す。別にミスしてもいいから、自分を認めてあげなさい」
「は、、はい!!」
顔をこわばらせていた彼女の瞳が、綺麗に輝いた。
アフターケアもこなしたようだ。
なんか、悩み相談としては完璧すぎる気がする。
人に気を使えるんだ。
この異常者って……。
「決まりね。久遠君も行ってあげなさい」
「え? 俺も?」
星見の能力の高さにシンプルに感心していると、急に俺の名前が出てくる。
頭脳労働が彼女で、肉体労働が俺ってことでいいのか?
そんなんでいいのか? 俺は。
***
「え……え~っと。これですか?」
明らかな自転車の鍵を発見。
星見に言われた通りの場所に行ったら、その通りにあった。
もはや不気味だ。
これがもし彼女のならば、本当に。
「ああ。それです!! すごい!!」
すごくうれしそうに、それを見て喜ぶ。
見つかってよかったのはそうだけど、怖いよ……俺は。
「本当に……ありがとうございます」
「いえいえ。これが仕事ですから……」
そうして一件落着。
彼女のお礼に何もしていないと謙遜するが、発言のあとに違和感が浮かぶ。
ってあれ? 俺の仕事ってこれなの?
「星見さんって何者で、あなたは星見さんのなんなんですか?」
「いや、全く分からない」
そんな俺に疑問を増やす質問をぶつけてくる。
興味本位で聞いているが、正直考えさせないで欲しい。
分からないのだ。俺にも。まあ、強いて言うなら――。
「観測者と……観測対象?」
「……なにそれ?」
半笑いになりながら、気まずくなる。
そうして少し俺に頭を下げると、自転車に乗りさっと帰っていった。
これは、俺のせいじゃないよな。
あの異常者の思想のせいで、気まずくなったじゃないか。
何だか損した気になりながら、とりあえず俺は部室に戻った。
「あったようね。よかったわ」
「見ただけで全部済ますな。俺の立場はどうなるんだよ」
見つけていただき、読んでいただきありがとうございます。
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