観測されすぎた彼と観測されない俺
みんな「隠れてますよ~」みたいな顔してるけど、あんなの絶対ばれてる。
そりゃそうだ。
あの御影陽成と、星見さんだ。
クラスの誰が見逃すっていうんだ。俺だって今、しっかざわざわと人だかりが増えていく。
り背伸びして覗いてる。
向かい合う二人。俺の位置からは、彼女の背中越しに、御影の顔が見えた。
(クッソ、やっぱり異次元のイケメンだ……)
顔を見るたびに心が削れていく。
星見さんの背中は、細くて白くて。
だけど、どこか強そうで、触れたら壊れるっていうより、届かない気がした。
そんなことを考えていると、御影が、もう“それ”を言った。
「好きです!! 付き合ってください」
教科書みたいな告白なのに、やっぱりかっこよすぎるのズルい。
フィクションから逃げた俺の現実が、いよいよ終わるかもしれない。
「注目されているのね」
彼女が周囲をゆっくり見渡す。
たしかに、あらゆる角度から見られている。
それを見届けて、彼女はまっすぐ御影に向き直った。
「こんな視線に囲まれて……みんなに観測されているあなたに、私の観測はいらない」
彼女にしか分からない論理を、星見さんは言う。
(観測……って、なに? 天文?)
何を言っているのか、よくわからないのだが、しかしよく意味をかみ砕いてみると、これってまさか――。
「ごめんなさいね。あなたの気持ちには答えられない」
……きたーー!!
よくわからないけど、俺の脳は破壊されずに済んだ。それが一番大事だ
観測とか、あのイケメンが振られた理由は全く分からないけど。
とにかく祝杯だ。
野次馬の反応は様々で、御影の取り巻きがいじろうと飛び出して行ったり、俺みたいに安心している女子、男子がいたり。
本当に様々だった。
ただ、気のせいなのだろうか。
いや、なんだよその顔。振られたのに、なぜか彼は満足そうな顔をしていた。……怖。
***
「はあ……緊張したあ」
合格発表レベルの緊張感から解放された俺は、教室に戻って帰りの準備を進める。
荷物をまとめ、準備完了。
「お~い。久遠」
重いそれを気持ちの軽さで誤魔化しながら持ち上げたとき、珍しく俺の名前が呼ばれる。
学校で俺の名前が聞こえてくるなんて……本当に希少な現場に遭遇したことに感心しながら振り向くと、そこには担任がいた。
「星見が部活を立ち上げたんだが、部員にお前の名前があってな。お前星見と面識合ったのか?」
「……は? え?」
混乱と困惑が頭を埋め尽くす。
……なんていった?
このいつもけだるげそうで疲れ切った目をしている担任は……今何て。
「聞いてないのか? まったくあいつは……何を考えてるんだか」
俺の困惑を察した担任は困ったように頭を掻く。
何を考えているのか、正直俺もまったく分からない。
あのイケメンを振った直後に俺を部活に勧誘?
本当にどうゆうことなんだ?
「ちなみに、その部活の名前って……」
「う~ん……観測部」
な、なにそれ。
と思ったが、聞き覚えはある言葉だった。
……観測。やっぱり彼女は天体が好きなのか。
ただ、部活の名前を聞いて少しでも星見さんの考えを読み解こうという俺の計画は失敗だ。
何一つ分からない、どころか疑問は増えるばかりだ。
「二棟視聴覚室。そこに来させるよう伝言を頼まれたんだが……」
「ああ、はい。分かりました。行きます」
意味が分からない。
急展開過ぎる。
が、このチャンスを逃すほどには俺は馬鹿じゃないし人生を諦めてはいない。
脈絡も、道順も、全てを忘れ去ったそのお告げに、俺は従うことにする。
一日が終わったと思った瞬間から、いろいろ始まった。
そうして校舎の二棟とかいう、行ったことがないどころか、存在自体曖昧な場所へと向かう。
「ここ……かな」
そうして十分ほど彷徨い、辿り着いた教室をノックし、空ける。
視聴覚室という割にはとても教室だ。
会議室のような名が机が一つ、それに付属する椅子が六つほどある、それだけの質素な部屋。
「ようこそ。観測部へ」
当然のことながら、そんな部屋に入ると、星見翠はいた。
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