表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/25

天体観測

「気を付けてね。おにい」


「はいはい。行ってきます」


「行ってらっしゃい」


 一泊二日の天体観測。

 美朱に見送られ、俺は集合場所に出発した。


 美朱はああ見えて生活力は結構ある。

 まあ家を空けてても問題ないはずだ。


 という訳で出発。


   ***


「美しいね。今からごはんとかどう?」


「待ち合わせしてるので結構です」


 ナ、ナンパされてる!!


 待ち合わせ場所につくと、知らん奴と星見がしゃべっている現場が。

 しかしあの場所に割って入るほどの主人公基質を、俺はもっていない。

 故に遠くから見守るしかない。


「ま、まああいつの動きを観測? したいだけだし」


 そうだ。

 別に勇気が足りない訳じゃなくて、星見の行動を見たいだけ……言い換えては見たもののこっちの方がかっこつかないため、やっぱなし。


「じゃあ、そういうことだからさようなら」


 星見はその男の誘いを軽く断ると、離れようとする。

 そんな星見の手を掴もうとする男。しかし――。


「ってあれ?」


 男が掴んだのは空気。

 ひらりと手を引く星見。

それから向きになる男の行動を完全に読んでいる星見は、男を簡単にあしらう。

 

「は?」


 まるで心を読んでいるような動きを見せる星見。

 まあまるでというよりも普通に読んでいるのだが。

 読まれている男は懲りずに挑戦を繰り返し、そしてやっと掴んだ手は――。


「……え?」


「久遠君盾どーん!!」


 男に手を繋がされた俺。

 星見は意味わからんこと言ってるし。どういうこと?


「あなたと同じよ。動きを観測したい……それだけのことよ」


 意味わからん。

 なんかナンパ男も俺を睨みつけてるし。ここに味方はいないのか?


「こういう時、カツアゲされる前にお金を渡すんだ!!」


「……え? それをカツアゲっていうんじゃ」


 手を繋ぎながら。ナンパ男がツッコむ。

 そうやって空いた手で財布を取りだそうとした瞬間、星見がそれを奪い取った。


「ああ、それは私におごるようだから没収」


 か、カツアゲされたああ!!


「翠先輩いたあ!!」


「あ!! どりんちゃんとさくやん……ってさくやん何してんの?」


 と、そこで天乃と深雪が合流。

 天乃、それは俺が一番聞きたい。


「久遠君は取り込み中なのじゃあいきましょう」


「は~い」


「え? いいの?」


 ……財布持って置いてかれた!!


 天乃は困惑気味だが、ノリノリの深雪と何も言わない星見に従う。

 そいつらは異常者だ!! お前が声を挙げるんだ天乃!!


 そうして俺の心の叫びもむなしく、取り残された二人。

 男同士で手を繋ぎ、無言の時間を過ごす。


「――すう、、うっす」


「ああ、はい」


 お前も気まずいんかい!!

 

 瞬間、手を放してくれた男。

 もうわけわからない開幕を見せたこの旅行で詰まないために、俺は全速力で三人を追いかけた。 



  ***


「さくやん、災難だったね」


「本当だよ……ああいう時助けてくれよ」


「ごめんごめん」


 笑いながら謝罪している天乃。

 でも、悪いのは全部星見だ。 


 今はバスの車内。

 電車をいくつも乗り継ぎ、山に向かうバスに乗り換えた。

そうして俺は天乃の隣の席で、先ほどの出来事を振り返る。


 席順は星見の隣を深雪が掻っ攫ってこうなった。

 別にそれ自体はいいのだが、星見が深雪にもたれかかって寝ていることに対し、深雪がキモイ笑い方をしているのが気になる……。


「でもさ、すごいよね。さくやん」


「……なにが?」


 俺はいきなり賞賛されたことに驚く。

 何の脈絡もないそれは何を思っていったのか、俺は天乃に聞き返す。


「この前言ってたじゃん? 世界で一番自分が常識的で、世界で一番自分が正しいって。それだけ強く、自分を持ってるんだなって」


 天乃が褒めていたのは、あの時の俺の論理だ。

 別に褒められるようなものではない。


 ただ感じていることを言っただけだから。


「みんな、思ったことすぐ言うし、やりたいことそのままやってて……ちょっと羨ましいんだよね」


 好き勝手し過ぎなのでは、と考えてしまうが確かに。

 クラスで馴染んでいる奴らは、窮屈に見える気もする。 


「本当の私はどこにいるのかなって、鏡見ても思うよ。写ってるのは、“今、必要とされてる私”だもん」


 みなそれなりに悩みを持っているものだ。

 いつも何も考えていない風の彼女も、俺には理解できない悩みを持っているのだから。


「だから、この部のみんなに憧れてるんだ。普通過ぎる私に、さくやんの異常性は光って見える」


「いや、俺は普通だぞ?」


「あは。そういうとこだよ。さくやん」

 

 そして彼女はまぶしい笑顔を浮かべ、俺の論理を否定するのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ