星見翠という完璧超人
新クラス、新学年になってから、一週間が過ぎようとしていた。
高校二年生。彼らは今まさに“青春”の真ん中にいて、その初動にそれぞれの手応えを感じている。
話せる相手ができた者は安堵し、出遅れた者は、周囲にできていく“輪”に焦りはじめる。
そんな中、俺はというと――。
いつも通り、誰とも挨拶を交わさず教室を横切り、ドアから一番遠い席――一番後ろの窓際へと腰を下ろした。
ここは本当にいい。
誰の視線も届かないし、風も心地いい。そして、なにより。
(隣が、彼女だからだ)
俺の隣に座る少女。
今日もいつも通り、誰とも話さず、どの輪にも入らない。
ただ、美しい姿勢で、本を読んでいる。
背中まで伸びた黒髪は光を反射して滑らかに揺れ、整った顔のパーツがすべて“正しい位置”に配置されている。
本のページをめくる所作も、息づかいすらも、すべてが絵画のように静謐で、美しい。
星見翠。
それが彼女の名前だ。
定期テスト、実力模試――何をとっても学年一位。
おまけに運動神経も良く、その他あらゆる分野で才能を発揮する“完璧超人”。
もちろん、隣に座っているからといって会話を交わすような仲ではない。
一度だけ、消しゴムを拾ってくれた……ような気がする。
そんな彼女に、俺が希望を見出した理由。それは、ただ一つ――。
男っ気のなさ。
誰とも話さず、ただ黙々と本を読み続ける彼女は、恋愛なんて興味ない。
謎の自身が、俺にはあった。
***
「おい!! 陽成が告白するらしいぞ!!」
「え? 誰に?」
「星見翠だって」
(は!?)
放課後。授業をすべて終え、あとは帰宅するだけの時間。
クラスの男子たちの話し声が耳に入り、思わず出そうになった声を必死に飲み込んだ。
御影陽成。
サッカー部のエースであり、百人中百人が認める異次元レベルのイケメンだ。
イケメンという言葉には多少なりとも主観が絡む……はずなのだが、彼に限っては絶対評価だ。
俺ほどの逆張り陰キャでも逆張れない、それが御影陽成だ。
陰キャの恋は、ふとしたコイバナで終わる。
例えば「○○ちゃんと○○くん、付き合ったらしいよ」とか、「○○ちゃん、○○くんが好きなんだって」とか。
そんな断片的な会話が耳に入って、はい終了。脳破壊。
これ、陰キャあるあるだと思う。
もし、告白して“振られた陰キャ”がいるのだとしたら、君は誇っていい。
君は、恋愛という土俵に立ったのだ。
俺? 俺はその土俵に立てたことなんてない。立つ気もないし。
ただ、これに関してはまだ事後じゃない。
もし二人が付き合い出したとしたら、明日から学校中の話題になる。
そうやって“結果”だけを知って絶望するよりは、今日この場で、すべてを見届けたい。
――彼女は恋愛に興味がないはずだ。
俺の通説によれば。根拠はないけど、信じている。
告白は確認作業、告白に辿り着いている時点でもう答えは九割決まっているみたいな都市伝説が蔓延しているが関係ない。
相手がどれだけ俳優顔でも、アイドル以上でも、関係ない。
**結果は分からない。**
俺が見届けるまでは、終わっていない。
そう信じて、俺はその告白が行われる場所へと向かうのだった。
見つけていただき、読んでいただきありがとうございます。
それだけで光栄この上ないのですが、以下の手順を加えると本当に喜ぶのでお願いします。
右上のブックマーク、もう少しスクロールしたら見える評価を押してください。
余裕があれば感想も。
どうかこの誉を、僕にもください。よろしくお願いします。