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それぞれのクッキー

「う~ん、まあ明らか一つ、やばいのがあるな」


「あら、やばいほどうまそうかしら」


「お前の読心下方されすぎだろ」


 俺が意図して放つものを意図して読み取らない星見は、その意味を曲解する。


 出揃った四つの料理はどれも個性的。

 焼けこげて、クッキーというよりも灰に見える星見。

 ハートを型取ったのは伝わるが、悍ましく割れている天乃。

 無難に形を整え、焼き加減を調整している俺。

 プロレベルに形の整った、うまそうな深雪。


 ところで依頼人含め五人で試食。  


「星見のは、食わなくていいぞ……」


「ああ、ありがとうございます。あなたのおいしいです!」

 

 依頼人に耳打ちをすると、彼は最初に俺のを試食してくれる。

 無難に褒めてくれた。

 うれしいものだ。


「翠先輩のは成長の要素しかない。加点!! プラス三万点」


「朔夜先輩のは……チっ。うまいな。解釈不一致で減点、マイナス五点」


「クソ採点が!!」


 人で点数を決めるな!! 味で決めろよ。

 そう思いながら、他の人のお菓子も見る。

 

「天乃の……これは……ホラーじゃないよな?」


「失礼な! ハートだよハート! 愛がこもってるの!!」


「割れてるじゃん。縁起悪いから食わない方がいいぞ……」


「ああ……はい」


「は? 食べなきゃダメしょ!? 愛がこもったクッキーなんだから!」 


 ひどいもんだ。

 縁起悪いものを食わせて破滅に追いやろうとしているなんて。


 結局食わされてるし……味は、まあクッキーと分かるだけ誰かさんのよりはマシか。


「誰のよりも?」


「そこまで正確に読むな!! 心の声でとどめてんだから!! 通過しっかり読めてんじゃねえか」


 一字一句聞かれてんじゃねえかってくらい言葉を正確に読んでくる。

 これが正確な観測という奴なのだろうか。

 と、危ない危ない。そんなものはないのに騙されるところだった。

 

「深雪のは……異次元にうまいな」


「そりゃ翠先輩が食べる者ですもん。朔夜先輩にだけあげるなら、こんなクオリティにはしませんよ。だから実質これは翠先輩のです」


「なんでだよ」


 もう意味が分からん。

 こいつの星見への心酔っぷりは。


 そう思いながら、今度は星見の焦げカスに手を伸ばす。

 本当に食いもんか? これ。


「うまいですね。星見先輩の手垢がついてると思ったら全然いけます」


 隣でキッモちわりい食レポが聞こえてくるが、いったん無視。

 食べずに評価はフェアじゃない。

 だから、食べてみる。


「うっ!?」


 吐きそうになったのを何とか呑み込む。

 なんだこれ。クッキーなんて言っていいのか? 

 こんな灰カスと、深雪のあれを同種のお菓子として括っていいのだろうか。


「おいしすぎて悶絶しているようね」


「どこがだよ!! ちゃんと読め!! 俺の心を」


 またも頓珍漢な観測している星見に俺はツッコむ。

 こんな望み持ったのは初めてだ。

 というか深雪はなんでこんなものをバクバク食ってるんだ。


「なんでそんな自信があるんだよ。自分では食ってないし」


「仕方ないわね。食べるわよ。うん……コほッ。ゴホっ。おい……しい」


「ひっでえ演技力」


 どう考えてもまずいものを口に含んだリアクションをしている星見に、口治しで深雪のクッキーを渡すと必死に頬張る。

 そして涙目になっていた瞳を吹くと、キリっと、いつもの気高い彼女に戻った。


 いやもう遅いよ。

   

「演技が下手なんじゃないわただ――」


「ただ?」


「我慢が嫌いなだけよ」


「我慢してんじゃねえか」


 おいしいものを食ったときに我慢何てものは必要ない。

 何言ってんだこいつ。


「う~ん加点!! 一万点」


「正確に点数つけろよ……」


 頬に灰カスを付けながら、ニッコニコで点数を付ける深雪。

 あれに悶絶しただけ星見の方がマシだと思える地獄。


 どうなってんだ? この部活。

 

「はあ、仕方ないですね」


 彼女の採点に異議を申し立てると、深雪は口を開き指さす。

 

「私にアーンしてみてください」


「は?」


 彼女の口内はキレイで、犬歯の自己主張があれどそれも可愛らしい。

 そんな彼女の提案にさすがに困惑。


 どういうことなのか。


「翠先輩バフが不公平っていうなら、先輩のアーンデバフで相殺すればいいんですよ」


 俺がデバフ……それに不服を言いたい気持ちはあるが、これで正確な採点ができるなら。

 そう思い彼女の口に、俺はクッキーを投入した。


 彼女の生暖かい呼吸が手に当たり、少しドキドキしながら。


「う!! まず……」


 瞬間、星見の恐ろしく冷たい眼差しが、深雪を刺す。

 深雪はそれにピンっと背を伸ばすと、何か誤魔化そうと目を白黒させた。


「まず一つ目に優れてる部分は――」


 さすが深雪。

 無理のない感じがする誤魔化し方に着地? してないか。

 まあ、星見を誤魔化すなんて不可能だし、これは見逃してくれたという方が適切かもしれない。


「はあ……朔夜先輩のデバフつええ」


 深雪はそういうと、口直しに自分のクッキーを頬張るのだった。 


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