クッキー作り
「見てみて!! トランプ持ってきたからみんなでババ抜きやろうよ」
「いいですねえ!! やりましょう」
ゴールデンウィークの前日。
何もない部室で、天乃が鞄からトランプを取り出した。
それに深雪も賛同し、四人でやる流れに。
……どう考えても、星見無双の予感しかしねえ。
「うぇ~ん。勝てないよお」
即落ち二コマ。
五戦ほどして、順位が常に固定になっていることに天乃が泣き始めた。
星見一位。深雪二位。俺三位。天乃四位。
当初の俺の予想はドベ争いを天乃とする、だったのだが――あまりにも天乃が分かりやすすぎる。
読み合いが異次元に強い深雪とそのさらに上を行くもはやエスパーな星見。
普通の俺と分かりやすすぎる天乃。
そりゃこんな結果にもなるわ。
「天乃さん。あなたは顔に出やすいのよ。例えば――」
そういうと星見は三枚のトランプを集め、天乃に渡す。
「久遠君。天乃さんがジョーカーはどれか分かる?」
「真ん中」
「なんでわかんの? さくやん」
「いや……明らかに見ないようにしてるから」
明らかに真ん中から目を背けている。
そして俺はそれを取ると案の定、ジョーカーのお出ましだ。
「あなたは意識し過ぎなのよ。見るにしても見ないにしても。私に読まれないことは不可能だから……久遠君くらいには読まれないようにしなさい」
「うん!! ありがとうどりんちゃん」
久遠君くらいって……ただ、星見に読まれないようにするというのは不可能という言葉に説得力がありすぎるため、何も言えず。
そんな時、部室のドアからノックが聞こえた。
「あの……観測部ってここですか?」
よそよそしい感じの男子が。
久しぶりの依頼人が、部室に来た。
***
「初めて彼女が出来たんです。ゴールデンウィークでお家デートがあるから、お菓子作りうまくなりたいな……って」
「ええ~? 素敵じゃん!!」
「けっ」
そんなふざけた依頼に天乃は目を輝かせ、俺は唾を吐く。
誰がリア充のお世話なんてするかよ。
「なるほど。お菓子作りの仕方を観測したい……と」
そう思っていると、星見が依頼内容を要約……できてない。
たぶん違うぞ?
観測の使い方、今日はいつにもましてめちゃくちゃだ。
星見のその言葉に、その男子も首を傾げている。
君がただしい。敵かと思ったけど、味方だった。
「観測っていうか……うまく、、」
「先輩が観測っていえば観測なの!!」
「あ。はい」
言い直そうとした彼を遮る深雪。
やっぱり頭おかしい。
大丈夫だ。俺は君の味方だぞ。
口には出さないけど心では思ってる。とはいえ口に出さないと分かってる人間が星見だけとなるため、皮肉なものだ。
「じゃあ、家庭科室を借りて練習をしましょうか。久遠君、材料は頼んだわ」
「え? お金は……」
「あ、僕払いますよ」
君は本当に心強い味方だ。
そんな少年の神対応に敬礼し、俺は材料を買いに行った。
***
「揃ったみたいね。じゃあ、始めましょうか。彼らがお手本を見せてくれるから。試食は私がやるわ」
「ああはい。ってえ?」
「なんでお前はやんないんだよ」
まさかこいつ、料理できないのか?
そんな俺の疑問に星見は目を逸らして無視。
俺の味方系男子も彼女のその態度に疑問を持っているようだ。
「私も翠先輩のお菓子食べた~い!!」
「そうだよどりんちゃん!! みんなでやった方が楽しいんだから」
「はあ。仕方ないわね」
そんな俺の抗議に、深雪も賛同。
しかたないと星見もエプロンを撒き始め、観測部四人のお菓子作りが始まった。
そして数十分――。
「かんせ~い」
最後に深雪の仕上がりを見届けたところで、全員のお菓子が出揃った。