天体観測日程
「ねえねえどりんちゃん。結局いつ天体観測するの?」
普通談義が終わり、俺以外のメンバーの異常性を証明できたところで、天乃が最初の目的を言及する。
そっか。すっかり忘れてたけど天体観測部だと思ってきたのか。
「そうね。ゴールデンウィークなんてどうかしら?」
「ええ~? 楽しそう。行きましょうよ」
まあ、予定何てあるわけないし。
俺もそれには賛成。
ゴールデンウィークはあと一週間ほどか。
「あ。入部したいなら私のテストも必要ですよ?」
なんか勝手に、入部条件を増やしている深雪。
星見もそれを否定せず見守る。
星見がその姿勢なら、俺も見守るほかない。
「ええ~? テスト? 勉強してないよ?」
「大丈夫です。簡単な質問に答えるだけですから。あなたは成長したいですか? 成長するために必要なことはなんですか?」
深雪は天乃をじっと見ながら問いかける。
彼女の視線が、一気に静寂を宿した。
「成長はしたいよ。そして成長に必要なこと? う~ん、よく食べて、よく寝て、よく遊ぶ、とか?」
「シンプルで短絡的な答え。不合格……いや待てよ。原点に立ち返ればそうなるのか? 私が忘れていた成長の手段がそれか? 嫌、本質はそれで遠回りしすぎているのが私。この人は成長が――」
なんか知らんけど深雪は勝手に思考の坩堝にはまる。
こいつの採点基準曖昧なテスト、クソ問だろ。
そう思っていた時、深雪は思考を巡らせ答えを出す。
「精神的な成長が測れないなら身体的な成長に頼るしかないですね!」
満面の笑みで提案をする深雪。
何のつもりか、天乃と俺はクエスチョンを頭に浮かべていると――。
「先輩の一番成長しているところを触らせてもらいます!! そしたら合格です」
……こいつ。本当に成熟する気あるのかよ。
滅茶苦茶欲望に忠実じゃねえか。
「ん? いいけど、どこなの?」
「へ、へへ。やったぜ」
分かってない天乃はそれを了承。
ということでキモイ笑い方をした深雪が、天乃の豊満な胸を触る。
本当になんなんだ? こいつは。
「あはは。くすぐったいよゆっきー」
「いいじゃないですか。減るもんじゃないんだから」
マージでセクハラ親父じゃねえか。
たぶん一番毛嫌いしてそうな人種なのに、自分がそれになってどうする。
笑って許されてるのはお前が女だからだぞ。
そう思いながら、俺は部屋にいる三人のメンバーを見る。
……そういえばこの部の人間って、みんな慎ましい体系だな。
星見は圧倒的に平らだし、深雪もまだ大きいとは言えないし。
その分天乃はでかい。あまりにも。
「そんな下卑た目を私に向けないで。不愉快」
「あ……はい。すいません」
そうやってボーっと星見を見ていると、その心理を読まれたのか睨みつけてくる。
いや、俺も悪いけど、思考くらい自由にさせろよ。
「じゃあ、正式に天乃さんの入部が決まったということで、天体観測の日程を決めましょうか」
星見がぱたんと読んでいた本を閉じると、視線が一気に彼女に集まる。
やはりこの部のリーダーは彼女なのだと、この一瞬で再確認できた。
「天乃さんは最初の土日以降はあいてそうね。深雪はどうかしら?」
「え!? なんでわかんの? どりんちゃん」
それに関しては本当になんでだよ。
本当にエスパーとか思考読みとか。
相変わらず彼女のそれは観測の域をはるかに超える代物だ。
というかそもそも観測ってなんだ。
よくわからない概念の域超えてくんな。
「それだけ翠先輩がすごいってことですよ。私は最後の二日間は空いてます」
天乃の驚愕からくる疑問を、深雪が解説する。
まあ悔しいがそれに関しては間違いない。
本人曰く正確な観測……らしい。意味はよく分からない。
というかそれよりも、慣れている俺から言わせてもらえば読ませてない深雪がすごい。
「じゃあ、最終日の前日から一泊二日にしましょうか。星の見えるいい場所を知ってるの」
というわけで正式に決定。
当たり前だが泊まるんだな。
一夜挟むのは少し緊張する。
だが天乃はまだ腑に落ちない点があるようで――。
「え? さくやんのことは聞かないの?」
「聞く必要ある? この男が予定なんか持ってるわけないのに」
そんな疑問に天乃は気まずそうに頬を掻くと、苦笑いしてこっちを見る。
そんな目で見るな!! ほっといてくれ。
「ああ……うん。ごめんねさくやん」
「……うっす」
天乃の憐れむ視線が、とてつもなく気まずかった。