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異常と正常

あ、あと。悩み相談もやってるんだよね」


 天乃は星見にこの部の基本活動について聞く。

 悩み相談。やってることは間違いなくそれだし、星見の悩み相談のクオリティは異次元に高いのだが、彼女はその言葉にいい顔をしない。


「私がやってるのは悩み相談じゃない。悩みを通した人間の観測よ」


「だから観測ってどいう……」


「実質の悩み相談だろ。言い方の問題で……」


 そう。

 あくまで観測。という体は崩したくないようだ。


 そんな体裁を崩そうとしている俺を星見は睨みつける。


「悩みは当人よりその人を象徴する。だって見てみなさい」


 そういうと星見は俺を指差した。


「友達なし、恋人なし、誰からも相手にされず見られない。悩みの種に悩むことなんてないあの男が、悩み零で世界を過ごしているのよ」


「なるほど!! 為になります!! 朔夜先輩の立場になったら悩むことが普通なのに朔夜先輩は悩んでない。同じ状況に置かれても大切にしていることは違うから、悩みは変わるという訳ですね!!」


 え? なんで観測の説明から俺のディスが始まんの?

 そしてなんで深雪はそれを真剣にメモってんの?


「で? 悩みっていうのは何かしら」


「普通って言われるのが悩みなんだよね。みんなみたいに、ちょっと変わってても自分を持ってる人が羨ましくて……」


 普通への嫌気と狂気への憧れを示した。 


「だって私、特別なことって何もできないし……変わってる子を見ると、すごいなって思っちゃって……」


 そう。

 彼女の悩みは、そんな正気とは思えない悩みだった。

   

   ***


「なら答えはすぐ出せそうね。久遠君、今の悩みについてどう思う?」


「異常だろ。俺から言わせれば何を願うかがその人の人格を物語ると思ってる」


 


「人間は自分が作った常識の、ルールの、正義の中で生きている。つまり一番常識的な人間は絶対的に自分で、世界で一番普通な人間は自分だ。だからそんなことを願うなんて、異常者そのものだろ」


「じゃあ、変わりたいなら自分の常識外のことをすればいいんじゃないですか?」


 そんな俺の論理に、深雪が次なる提案をする。

 確かにそれは有効的に見える対処法だが欠点もある。

 それが現実的でないこと。


「いいや。それも不可能だ。人は自分の常識のなかでしか生きていけないから。常識を疑えって言ってる奴の常識は常識を疑うことだ」


 俺の否定に深雪は腕を組みながら頷くと、考え直す。

 そして何か思いついたのか、目を輝かせると満面の笑みで八重歯を魅せた。


「うーん。じゃあ非常識な人間に洗脳されて戻った瞬間が自分が変わった瞬間ですね! 翠先輩!! 私たちで答えを出せました」


 それが彼女の結論らしい。

 星見はそんな嬉しそうな彼女を撫でると、圧倒されている天乃に向き直る。


「そうね。これで天乃さんも分かったでしょ? これが本物の異常者の会話よ」


「確かに……頭おかしい」


 俺たちを異常者と位置付けた星見に、天乃は頷く。

 俺と深雪の会話を聞いて、引き気味に。

 

「「え?」」


「朔也先輩はともかく私が異常者なわけないじゃないですか。先輩の冗談、面白いけどきついですね。そんなとこもかわいいです」


「まあ、異常者から見たら普通が異常だもんな」


 そもそも、俺がどれほど普通の人間か、説明したばかりじゃないか。


 というか深雪は異常者の自覚ないのやばすぎだろ。

 どうなってんだ?


「ね? 異常者は異常者の自覚がないものよ。だからあなたの願いはそれ自体が平凡なの。でも恥じなくていい。だってこうはなりたくないでしょ?」


「……うん。普通じゃないって、やばいんだね」


 俺たちの会話に引いている天乃。それが彼女の悩みの解決を意味しているらしい。

 俺としては不服な結論だ。

 深雪も同じ気持ちで、抗議の目を星見に向けている。

だからこそ、俺は星見に質問した。


「そういうお前は、異常者じゃないのか?」


 俺は、俺たちを異常者扱いしてきた星見に尋ねる。

 深雪もその問いには興味津々だった。


「? 当たり前でしょ? だって私は異常者って自覚があるもの。だから異常者ではない」


「…………」 


 天乃が星見にも裏切られたと言わんばかりに後ずさる。

 壁まで下がって椅子を抱きしめ、言った。


「この部活……常識が通じない」


 そんな天乃を横目に、また深雪はメモ帳を取り出すと、書き始めた。

 

「簡単にパラドックスにはまっちゃう翠先輩可愛い」


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