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天乃ひより

「入部希望で~す」


 このとち狂った部活に入りたい者などいるのだろうか。

 観測部っていうのも意味わからねえし。


 そんな部活に扉を開いて第一声がこれなのだから、そうとうな異常者が――。


「ってあ~!! どりんちゃんにさくやんじゃん」


 さ、、さくやん?

 なかなか呼ばれない俺の名のアレンジ。

 そんなことする人間一人しかいない。

  

「観測部って名前見てきました!! よろしくお願いします」


 天乃ひよりだ。

 俺に唯一、朝挨拶してくれるゆるふわ系女子。

 赤髪ショートの美少女だ。


 そんな彼女に驚愕する二人。


「見えるの!? 久遠君が……私ですら、頑張って観測しなければ見えないのに」


「す、すごすぎる!! 何者なんですか? この人」


 今まで表情を崩したことがなかった星見が表情を崩し、深雪は大袈裟にのけぞる。


「人を幽霊扱いするなよ!! 見えるだろ普通に」


 なにいってんだ。こいつら。


「れ……霊能力者かなにか?」 


「ガチで幽霊扱いじゃねえか……」


「さくやんもどりんちゃんも仲いいんだね。クラスじゃ全然しゃべらないのに」


 そう言われ、俺と星見は黙る。

 

 そういうの弱いんだよ。

 陰キャが張り切れる場所見つけてはしゃいで女子にそれ言われるの辛いんだよ……。

 悪意ないのがまた。だってそうだろ? 普段静かな奴が心の中も静かなわけないじゃん。

 陰キャはお前らにとってはしゃべらない背景かもしれないけど、本人取っては主体なんだよ。

 しかもここはしゃげる場所でもないしね。


「っていうか……どりんちゃんって、まさか翠先輩?」


 そうやって俺と星見が黙っていると、口を開いたのは深雪だ。

 深雪は先ほどからたびたび出てくるどりんちゃんというワードに突っかかる。


「う~んそうだよ。翠、みどりん、どりんちゃんって」


 どんな形態変化だよ。

 ポケ〇ンか?

 

「なるほど。翠先輩らしい可愛い呼び名……でもないな」


 深雪は星見の仇名を咀嚼し肯定、は出来なかったようだ。

 考え込む。


 というか天乃はこの狂気に満ちた空間に即していない気がするのだが――観測部と聞いてくるということは、彼女も変わっているのか。


「天乃さん、ここは天体観測部ではないのだけれど……大丈夫かしら」

 

「ええ~? 違うの!? じゃあ観測ってなに!?」


 そういうことか。

 彼女は間違えたのだ。

 

 というかそれが普通。

 なんだよ。観測って。

 星見の言う観測は本当に意味が分からない。

 

「私の言う観測は空ではなく地上」


「観測って……じゃあ、鳥の飛び方観察とかも?」


「それは観察」


「え、違うの!?」


 その答えを俺と天乃に聞かせるが、やっぱり意味が分からない。

 特に天乃は観測と観察の違いすら分かっていない。


 ってこの言い方だと天乃が劣ってるみたいになってしまうから訂正。

 俺も分かってないし、区別している星見が異常なだけだ。


「私がやってるのは人間の観測よ」

 

 結局出てきた答えも意味不明。

 なんだよ。人間の観測って……やってること悩み相談じゃねえか。

 

「なんか言った?」


「言ってねえよ、思っただけだよ。しかも読めてんだろ。俺が何思ったか」


「ええ、私の観測は完璧だもの」


 だから何なんだよ。

 その観測という言葉への絶対的信頼は。


 そんな俺たちのやり取りを見て、天乃はその場で手を目に当てながら自身の落胆を表現する。


「うう……せっかく天体観測できる仲間見つかるって思ったのに」


「ちょっとまった。それなら――」


 泣きながら帰ろうとする天乃を引き留めると、俺はある提案を持ち掛けた。


 星見のことについて、なんとなく分かってきた部分はある。

 底が全く見えない彼女だが一つ、彼女の行動原理を俺は知っている。


「適当に観測っていって依頼すれば、星見は結構何でもやってくれるぞ」


「短絡的な発想ね。そんな単純な人間に私が見える?」


 見えない。

 けど観測という言葉に対してのみは意味わからん反応魅せる。


 そんな俺の言葉を信用し、天乃は星見に頭を下げてお願いする。


「じゃあ……一緒に天体観測しませんか?」


「行きましょう」


 なんやそれ。

 そんなあほくさい一連の流れを見ていた深雪が、メモを取り始める。


「朔夜先輩のしょうもないフリ落ちにも乗ってあげる。翠先輩さすがです!!」 


 深雪の反応も狂ってる。

 お前は何をメモしてるんだ。ずっと。


 まあこうして、観測部にまた一人、新しいメンバーが加わった。


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