深雪の加入
「ふわぁあ~」
俺は欠伸混じりに本を読む。
何だか、星見がいないと空気の重さが違う。
ようやく呼吸ができるって感じ。
……やっぱり、心読まれるってストレスなんだな。
当たり前のことを再確認。
と、そんなとき、扉が勢いよく開く。
「翠先ぷあ~い」
デレデレで星見の肩を組んで帰ってきたのは、名取深雪だ。
俺が見ていない間に何があった?
「別に、翠先輩が理想って再確認できただけですよ」
「お前も心読めんの?」
心の中で浮かべた疑問を深雪に答えられ絶望。
もしかして心読めることがデフォなの? 俺がおかしいの?
「何言ってるんですか? 読めるわけないじゃないですか。先輩が分かりやすいだけですよ」
しかもまたこの反応。
なんで読まれてる俺が悪いみたいになるの? いつも。
「ねえ翠先輩。なんでこんなのが同じ部活なんですか?」
「まあ確かに、あなたと久遠君は合わなそうね」
星見への態度とは対照的に、俺への態度は厳しい。
まあ確かに、自分にも他人にも厳しい性格の彼女ならば、俺のことを毛嫌いするのも当然か。
「私も観測部にはいるので、入れ替えませんか?」
「それはダメよ。入るか入らないかは自由だけど、彼はここにとどめておく理由がある」
「ええ~? なんでですか?」
知らぬうちにこの部活に入れられて、知らんうちに追い出されそうなのだが、星見はそれを断固拒否。
俺のことを追い出そうとしている深雪のことはいいとして、その理由は俺も気になるところだった。
まあ――深雪のことは全然よくないんだけど。
「それは後で語るわ。それよりも、ここに入るのね?」
「はい!!」
結局分からずじまい。
が、深雪は嬉しそうに入部を宣言し、俺の方を軽蔑した目で見てきた。
「でも、この人をここに置いておく説明は本当に欲しいです。成長する気なんて一切ないでしょ? 他責とか言い訳の塊ですよ。そんなの私認めたくないです」
星見との落差が激しすぎて普通にメンタルがやらせそうだが。
俺を拒絶するのは彼女が本当に成長を望んでいる証でもある。
しかしこのままであの視線に耐えるのも無理そうだ。
ならば彼女を納得させるほかあるまい。
「いいか。名取」
「深雪でいいです」
「いいか。深雪」
「名取です。なれなれしいです」
(……こいつ!!)
会話くらいさせろ。
手出るぞ!? 普通に。
「聞いてあげなさい。タメになる話よ」
「ええ~? 翠先輩が言うなら」
もじもじとしながら髪をいじりだす。
本当になんだこいつ。
「そうだぞ。人生経験の足りない後輩に、いい話をしてやる」
「先輩より濃度高い人生送ってると思うんですけど……」
ぶつくさと文句言いながら、俺の論理を聞きたがらない深雪。
そんな彼女に俺の考えをぶつけてやる。
「転んだ時に一番痛いのは擦りむいた膝じゃない。周りの視線だ」
俺は自論を述べていく。
これは結構自信ある自論だ。
否定されたことはない。
まあ、披露する相手がいないのが最大の難点だけど。
「だから俺はポケットにいつも石を入れている。あれに躓いたって言えるように」
言い訳の材料は事前に用意する。
俺は決して、言い訳に妥協はしないから。
「七転び八起、なんていうけど、八回も起きれる保証がどこにある? 言い訳、他責、それはもう一度立ち上がるために重要なことなんだよ」
転んだままでいることが一番ダメなことだ。
それを避けるためなら、それらの行為は肯定されるべきだ。
「転んだらいつでも言ってくれ。俺が納得できる言い訳を考えてやる」
最後に一言。
その煽りを受け、深雪は俺から目を逸らすと、悔しそうに顔を歪める。
そして翠に抱き着くと、俺を指さし懇願。
「私とは反対の考え方なのに納得しちゃいました……助けてください」
「納得したなら認めなさい。それも成長の一環よ」
星見も深雪の願いを否定する。
星見は何目線のどこポジションなの?
なんかお母さんと子供に見えてきた。
そして深雪はそれに仕方なく頷くと、俺の正面に座り言った。
「許せないけど認めます。悔しい」
こうして、観測部に三人目のメンバーが加わった。
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