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第87話 涙に誓う約束

これにて第三章終了となりますが、レオとリンのステータスを載せておきます。


皆さんの応援やコメントがほんとに力になります!

★★★★★をいただけると、皆さんが想像する以上に喜びますのでよろしくお願いします!

 十日後──


「すごいです! 快挙ですよ! 十三歳にして銀証五段にまで上がるなんて!」


 バックスに戻って冒険者ギルドに足を運ぶと、受付嬢のリリアがカウンターを飛び出してきて、両手を広げながら俺を出迎えてくれた。


「ありがとうございます。ただ、たまたま運が良かっただけで……」


「そんなことありません! 憎きザンクを討伐して、ここまで上り詰めたんですよ? もっと胸を張ってください!」


 勢いそのままに、リリアが俺にハグをしそうな距離まで迫ったところで――

 その間に、リンがスッと割り込んでくる。


「リリア殿。これはサグマ様から託された、今回のクエストの査定書だ。長旅で疲れておられるから、今日は宿で休まれるとのこと。明日にはギルドに顔を出されるので、それまでに目を通しておいてほしい、との伝言だ」


 リンがリリアに一枚の報告書を差し出す。


 俺が銀証五段に昇格したのは、ザンク率いる盗賊団の討伐によるもの。

 北カリ村での出来事については、まだリリアは何も知らない。


 そして――

 リリアは受け取った報告書に書かれた、びっしりとした文字を目で追い、次第に表情を変えていく。


「……ミノタウロス……? カリの木の再生……? えっ、鳳龍様……? ……な、なにこれ……?」


 ちなみに、この報告書には【聖玉セレスティア】のことは一切記されていない。

 あまりにも貴重すぎる魔法のため、「調査名目で国やギルドに没収される恐れがある」と、サグマが判断してくれたのだ。


 もう一つ。カリの苗木を俺が持っていることを知っているのは、リンを除けばヤンフィルとその母だけだ。誰にも言わないでくれと二人に何度も念を押された。

 というのも、実生苗で育ったカリの苗木はあまりにも希少で、村長にすらその存在を秘密にしていたという。

 そんなものが世に知れたら、それこそ争奪戦が始まってもおかしくないとのことだ。


「では、僕たちはこれで。明日また、サグマ様と一緒にクエストの正式な報告に来ます。そのときに、詳しい話をお伝えしますね」


 そう言って、まだ報告書に目を奪われているリリアを残し、ギルドから出ようとしたそのとき――


「レオ様、リン様……! お伝えしなければならないことがあるんです……!」


 慌てた様子で、リリアが声をかけてきた。

 その表情には、どこか気まずそうな色が浮かんでいる。


「どうしたのだ? そんなに慌てて」


 リンが問うと、リリアは一拍置き、深刻な表情で口を開いた。


「……それがですね……お二人が捕らえたザンクなのですが……」


 ぐっと唾を飲み込むような間を挟み、リリアが言い切る。


「……獄中で、何者かに殺されてしまいました」


「「――っ!?」」


 絶句する俺たちを前に、リリアは申し訳なさそうに頭を下げる。


「ギルドの牢に入れていたときから、ザンクは「殺される、殺される」と、繰り返し取り乱していたんです。でも……薬物の副作用かと思って……落ち着いたら改めて事情を聞く予定だったんですが……」


「……ザンクが収監されていた牢は、どのあたりですか?」


「ギルドの地下です。施錠も厳重ですし、監守も常に配置されています。ただ……」


 リリアは視線を落としたまま、絞るような声で続けた。


「その朝、いつものように朝食を運んだ監守が、彼を発見しました。胸を……心臓を、ナイフで一突きされていたと……」


「ナイフ……」


 俺の口から自然とこぼれ出た言葉が、空気をさらに重たくする。


 ギルドの地下牢なら、簡単に出入りできる場所じゃない。

 それなのに、誰にも気づかれずに殺されたというのか。


「……申し訳ありません……ザンクは、お二人の手柄だったのに……」


「いえ。リリアさんが謝ることじゃないですよ」


 俺はそう言って、ゆっくりと首を振った。


「僕たちのクエストはザンクを捕らえることでした。その後、彼がどうなろうと……僕たちの管轄外です」


 言いながらも、胸の奥にひっかかる違和感は拭えなかった。


(殺されると怯えていたのは、ただの妄言じゃなかった……?)


 誰かがザンクを――いや、ザンクの口を塞ぐために動いた。

 それが偶然であるはずがない。


 俺は静かにリンと目を合わせ、小さくうなずいた。

 これまで以上に、気を引き締めなければならない――そう胸の内で固く誓いながら、俺たちはギルドを後にした。



「どれだけ厳重に鍵をかけようと、【開錠アンロック】されてしまえば意味がない。見張りがいようと、認識疎外の魔法を使われたら防ぎようがない……ザンクの死は、ある意味で必然だったのかもしれないな」


 リンが、まるで吐息に紛れるようにつぶやく。


「……俺たちを襲ったのと、同じヤツの仕業だと思うか?」


 そう問いかけた俺に、リンは苦笑混じりに答える。


「……そう思いたいな。こんなことをやれる奴が何人もいるなんて、考えたくもない」


「確かに、そうだな……でも、そんな奴がこの街のどこかに潜んでいる――そう思うと、背筋が寒くなる。宿も見直すか……今夜からは、奮発してでも護りの堅い場所に泊まることにしよう」


 バックスの中心――冒険者ギルドのすぐ近くの宿を取り、長旅の疲れを癒すことにした。


 ♢


 翌日――


「レオン、リンス。少し時間をくれ」


 冒険者ギルドで今回のクエストを詳細に報告し終えた直後、サグマに呼び止められた。

 案内されたのは、この街で最も格式ある宿の、最上級の一室――重厚な調度と静謐な空気が漂う空間だ。


 人払いを済ませたサグマは、扉に目をやって鍵がかかっていることを確認すると、誰にも聞かれぬよう、低く切り出した。


「……単刀直入に聞く。お前たちは、恋仲なのか?」


 予想もしなかった問いに、思わず言葉を失う。

 けれど、ここで曖昧な態度を取れば、それはリンに対して失礼になる気がした。


「恋仲とまではいきませんが……僕は、リンのことが好きです。気持ちも伝えていますし、将来は、彼女と一緒になりたいと考えています」


 俺の言葉を聞いたサグマは、何かを確認するようにうなずき、今度は静かにリンへと視線を移した。


「リンス。お前はどうなんだ? ……まさか、ギースとの件を、まだレオンに話していないわけではないよな?」


 その声色には、普段とは違う厳しさが滲んでいた。


「ギースとの婚約関係についてはすでにレオに話してある。その上で……私は――」

 

 一度だけ、俺の方に目を向ける。

 そして、リンは静かにサグマへと向き直る。


「私は……レオが好きだ……誰よりも」


 彼女の白い頬がふわりと染まり、桃の花のような淡い紅が広がっていった。

 その言葉に思わずガッツポーズが出てしまう。


「そうか、それを聞いて安心した」


 サグマの口元がほころびる。

 それまで張りつめていた空気がふっと和らいだ。


「この旅を通じて、リンスの人柄は分かっていたつもりだが……どうにも、レオンにちゃんと話せていないのではと思ってな。余計な心配だったようだ」


 サグマはほっとしたように息を吐くと、椅子に深く腰を預けた。


「……で、二人はこれからもバックスに残るつもりなのか? それとも、他国へ行く計画でも?」


 未来について問われ、俺はリンと視線を交わしてから答える。


「いえ、来年には王都へ向かうつもりです」


「王都か……なるほど。駆け落ちというわけではないんだな?」


「はい。リンとギースの婚約には、破棄の条件が設定されているのでそれに向けて、日々力を磨いているだけです」


「条件……?」


 それに答えたのは、リンだった。


「簡単に言えば――レオがギースよりも強くなること。それが、ギースとの婚約を破棄する唯一の条件です」


「……なるほど。それは、相当厳しい条件だな」


 サグマの顔が、わずかに歪む。


「それは、僕がギースよりも弱いと……そう思っているということですか?」


 問い返す俺の目を、サグマはまっすぐに見返す。

 その視線には、言葉を選びあぐねるような誠実さがあった。


「正直に言うと……俺には、魔法師の強さは分からん。ただ、レオン。お前がとんでもない才能を持っていることは、間違いない。そこらの宮廷魔法師なんかより、遥かに強い。だがな――」


 一拍置いて、サグマは重く続ける。


「信頼できる筋から、ある話を耳にした……ギースは、ドラグラス王立学院に入学したと同時に、宮廷魔法師に任命されるらしい」


「「――っ!?」」


「しかも、ただの宮廷魔法師じゃない。第七席……七冠ヘブタリオンの一員として、だ」


 その言葉に動揺したのはリンだった。


 その一言が放たれた瞬間、空気が凍りついた。

 動揺を隠せなかったのは――リンだった。


七冠ヘブタリオン……!? まさか、ガーネット伯爵や、アクアマリン伯爵が……【怠惰スロース】のギフトを使用したギースを許したというのですか……!?」


 サグマは、難しい顔で静かに首を横に振る。


「いや、両伯爵家はギースとラベンダー侯爵家を糾弾していたはずだ。ただ、信頼できる筋からの話ではある。もしかしたら国王陛下が動いたのかもしれぬ。この国が置かれている立場を考えれば、無理もないのかもしれん……何しろ、ギースは――」


 そこで言葉を切り、重々しく続ける。


「第五位階魔法、【紅玉クリムゾン】、【蒼玉セレスト】、そして【雷玉ヴォルト】――この三種の魔法を使うことができるのだからな」


「「――っ!?」」


 三つの第五位階魔法を使えるだと!?

 ギースは俺やリンと同い年のはず!

 この歳で覚えられるはずが……。


 だが、リンの動揺は、どうやら別のところにあった。


「ギースなら【雷玉ヴォルト】はあり得るかと思っていたが、【紅玉クリムゾン】、【蒼玉セレスト】もだと……?」


 どういうことだ?

 口に出して問おうとしたとき、部屋の扉がノックされる。


「サグマ様、馬車の準備が整いました」


 部屋の外から聞こえてきたのはエイガーの声。


「分かった! すぐに向かうから外で待機しているように!」


 扉の向こうにいるエイガーに向かってそう言うと、再び俺たちに向き直った。


「いずれにせよ、俺は二人を応援する。当然、二人がここにいるということは漏らさない。ただ、ギースはかなりリンスに執心しているらしいからな。ちょっとやそっとのことでは諦めないと思うからそのつもりでいろよ」


 サグマは立ち上がるとさらに付け加える。


「父上にもラベンダー侯爵家とギースの件について糾弾するように働きかけてみる。これで今回の恩を返したとは思わないが、俺にできることはそれくらいだ」


 そう言うと、サグマは扉を開け、部屋を後にする。


 外には既に、隊商の馬車が整列していた。

 カタリナとミザリーもそれぞれの席に乗り込み、出発の時を待っている。


 サグマが乗り込むと、隊商護衛が手綱を引き、車輪が静かに軋みながら動き出す。


 俺たちは並んでその様子を見つめていた。

 サグマの馬車が街道へと消えていくまで、ずっと――。




 そして――


 その足で、街の郊外に広がる草原へと向かい、腰を下ろした。


「リン、ギースのことを教えてくれないか?」


 どうして同い年のはずのギースが、第五位階魔法を三つも修得しているのか。

 その鍵が【怠惰スロース】にあるのは、なんとなく察していた。

 けれど――その能力の本質が、まるで見えてこない。


 問いかけに、リンはしばらく無言のまま風に金色の髪をなびかせていたが、やがて口を開いた。


「……レオ。【怠惰スロース】というギフトを、知っているか?」


「いや、全く……」


 首を振ると、リンが真剣なまなざしで俺を見つめる。


「【怠惰スロース】は、ただのギフトじゃない。ギフトであり……同時に魔法でもある」


「魔法でも……ある?」


「その効果は……相手と同等の魔力を得る。そして……特位階を除くすべての位階魔法を、扱う権利を得る」


「なっ……!?」


 言葉を失う。

 それは――他人の力を、まるごと模倣できるということか?


「じゃあ、ギースがその【怠惰スロース】を使った相手って……まさか」


「……元・宮廷魔法師。しかも、第七席」


「……!」


 俺の中に広がったのは、焦りでも絶望でもない。

 ただ、圧倒的な理不尽への困惑だった。

 しかし、そんな俺の内心を見透かしたかのように、リンが口を開く。


「……でも、【怠惰スロース】には、それ相応のデメリットもある」


 語るその表情は、どこか苦笑を含んでいた。


「たとえば――扱う権利を得るだけで、実際にその魔法を使えるとは限らない。才能や適性がなければ、たとえ記憶に刻まれても詠唱できない」


「じゃあ……七席が【紅玉クリムゾン】、【蒼玉セレスト】、【雷玉ヴォルト】を使えたとしても、ギースが三つ全部を扱えるとは限らないってことか?」


「そう思っていた。だからこそ、【雷玉ヴォルト】だけならまだ納得できた。ラベンダー侯爵家は雷系統の魔法を得意とする者が多いからな」


 だが、彼女の説明はまだ終わらない。


「それに【怠惰スロース】を使うと、自分で覚えていた位階魔法がすべて使えなくなる」


「え……?」


「模倣の代償だ。【怠惰スロース】を使った瞬間、詠唱した者は借り物の魔法でしか戦えなくなる。以降、自力で魔法を学ぶことも、魔力を高めることもできない。成長という選択肢が消える」


「つまり……」


「新しい魔法を得たければ、また別の誰かを【怠惰スロース】するしかない。より高い魔力が欲しければ、より強い相手を模倣し続けるしかない。永遠に、他人頼みで生きるしかないのだ」


 それは、まるで呪いだった。

 他者の力を盗む代償として、己を失い、前にも進めなくなる――。

 リンは続ける。


「しかも相手が自分より弱ければ、むしろ魔力は下がる。魔法も、より低位のものに上書きされる」


「なるほど……万能ではない、ってことか」


「そうだ。発動には相手の合意が必要。強制的に奪えるわけじゃない。そして――」


 リンの言葉が一拍遅れて、重く落ちた。


「【怠惰スロース】した側も、された側も……魔力の衰えが加速する。力は得られても、長くは続かない」


 そこまでの代償を支払うことで、努力なしに強大な魔法師の力を得られるというわけか。


「……原則として、ドラグラス王国では【怠惰スロース】の使用は禁じられている。理由は分かるか?」


「めったやたらに使われたら、魔法師全体の力が落ちる……ひいては、国家としての魔法戦力も弱体化する……そういうことか?」


「その通りだ」


 リンは軽く頷き、目を細める。


「過去には、第五位階魔法を操る魔法師に対して、【怠惰スロース】を得た者たちが群がったことがあったという。だが、結果は惨憺たるものだった」


「……結果?」


「第五位階を扱えるほどの魔法の才を持つ者など、そうそういない。模倣した者たちは、誰一人としてその魔法を使いこなせず――そして本来の持ち主たちもまた、急激に衰えた。国を支えていた魔法師たちが次々に力を失い……ついには隣国に攻め込まれ、王国そのものが崩壊したそうだ」


 完全に――諸刃の剣だ。


「……とはいえ」


 リンの表情がわずかに曇る。


「合意を得て、なおかつ、自分にそれを扱う才があれば……【怠惰スロース】は、ほとんどの魔法師が生涯をかけても辿り着けない領域に、一瞬で手が届く――ギースのようにな」


 ある意味、危険な賭けだったのだろう。

 そして、ギースは――その賭けに、勝ってしまった。

リンは拳を固く握りしめ、言葉を続ける。


「本来、貴族というものは民の手本でなければならない存在のはず。それが……【怠惰スロース】に手を染めるなど、あってはならないことなの」


 吐き捨てるような声音。そこには、リンの強い倫理観があった。


「伯爵家を中心に、ギースの件については王都でも水面下で非難の声が上がっていた。私も、そんな噂を耳にしてはいたが、まさか、このような結果になるとは……」


 ヘイゼルの瞳が、まっすぐに俺を捉える。


「レオ……」


 その声は、かすかに震えていた。感情の波を抑え込もうとしながら、それでも溢れ出してしまうような、切実な響き。


「今のギースに挑むなんて……それは自殺行為だ。下手すれば、たてつくことすら許されない……だから……だから、もう私のために――」


 言葉の続きを、俺は聞くまでもなかった。


「まさか、リンとの未来を……諦めろとでも言いたいのか?」


 思わず問い返した声に、リンの瞳が揺れる。


「第五位階魔法を三つも使えるだ! そんな相手に敵うわけがない……! もし、もし本当にぶつかって……お主が殺されてしまったら……私は……っ」


 ずっと堪えていた涙が、とうとう白い頬をつたって零れ落ちる。

 俺はその涙をそっと指先でぬぐい、優しくリンの頬に触れた。


「リン――俺が負けることを前提に話してないか? それに俺はリンのためにギースに挑もうとはしていない。俺自身のためにだ」


 返事はなかった。

 けれど、リンの頬を伝う涙が、言葉以上に彼女の気持ちを物語っていた。


「大丈夫だ。俺は……絶対に負けないし、死なない」


 しっかりと、リンの瞳を見据えて、言い切る。


「どうして……そんなふうに言えるのだ……?」


 震える声で問い返すリンに、俺は迷いなく答えた。


「リンと一緒になりたいから……絶対にリンを悲しませるようなことはしない」


 リンの頬に触れていた手を、優しく首元へと滑らせる。


「そのためにも――共に俺といてくれ――支えてくれ。俺にはリンが必要なんだ」


 俺の言葉にリンは反応しなかった。

 瞳からは、なおも涙が溢れている。

 そんな彼女が、声を震わせながらも、思いの丈をぶつける。


「……大馬鹿者め……」


 かすれる声で、そう呟いたかと思うと、


「どうして……どうして、そうやって真っ直ぐに……っ」


 その細い腕が俺の背にまわされる。


「レオにこんなにも心を揺らされて……っ、悔しいのに……お主を好きにならなければ、こんな想い、せずに済んだのに――」


 絞り出すような声とともに、リンの肩が震える。

 俺は何も言わず、ただその身体を優しく抱き返した。

 涙で濡れた頬が、俺の胸元に押しつけられ、彼女の震える息遣いが伝わってくる。


「でも……それでも……私も、レオと……一緒にいたい」


 俺はリンの頭にそっと手を添え、その金の糸を思わせる髪をゆっくりとなでる。


「ああ……ありがとう、リン」


「……絶対に、死ぬなよ。私を置いていくなんて――そんな真似、許さないからな!」


 そう言って顔を上げたリンの瞳は、涙で赤く染まっていた。

 けれど、その瞳は間違いなく――笑っていた。


 愛しくて、愛しくて、たまらないその顔に手を伸ばす。

 そっと頬に触れ、やがて顎を優しくすくい上げる。


 リンはすべてを察したように、涙を宿したまま、静かにまぶたを閉じた。


 二度目のキスは、最初よりもずっと長く、深く――

 そして、愛の味がさらに濃くなっていた。

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