表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

65/109

第65話 成長

「もう、この街に来て一年か……」


「うむ。時の流れとは、早いものだな」


 俺とリンが感慨深く言葉を交わしていると、馴染みの受付嬢――リリアが笑った。


「早いなんてものじゃありませんよ! もう銀証三段ですからね!」


 彼女は、俺たちがまだ銅証だったころからずっと担当してくれている受付嬢だ。

 正確には、俺たちが毎回リリアの窓口に並ぶのが習慣になっていた……というべきか。


 そのリリアも、俺たちの昇格と同時に、ギルドの二階――銀証専用カウンターへと異動になった。

 不思議と、それも自然な流れに思える。


「はい、これが今回の報酬です……でも、本当にこのままでいいんですか? 第三位階の迷宮、ずっと運び屋のクエストばかり。もう、そろそろ自分たちで本格的な攻略に挑んでも――」


 運び屋クエスト。

 それは俺たちにとって、やめられない美味しすぎる仕事だった。


 第三位階の迷宮――そこは、魔物も強く、構造も複雑だ。

 第一位階のように単層構造ではなく、階段、分岐、複雑なルートを潜り抜け、ようやくボス部屋へとたどり着く。


 そこから半年以上にも及ぶ、魔法陣の解読。

 いくら大量の食糧を持ち込んでも、足りるわけがない。


 食料が足りなくなる――それは魔法を習得しようとする者にとって致命的だ。

 だからこそ、彼らは運び屋を必要とする。

 最奥へ、確実に物資を届けるプロの存在を。


 そして俺たちはよく指名される。

 理由は一つ。

 他の誰でもない、俺たちだけが温かい食料を、彼らのもとへ届けられるからだ。


 第三位階迷宮に物資を届けるクエストの相場は、五十キロで大銀貨二枚。

 届ける内容は、あらかじめ指定される。もちろん、食料も、入場料も相手持ちだ。


 容量のほとんどを食料で埋め、さらに俺も大きな鞄を背負い込んで迷宮に潜る。

 それだけで、俺たちは彼らとともに、最深部――ボス部屋に一ヶ月ほど滞在することができるのだ。


 俺にとって、それで十分だった。

 その一ヶ月で俺は第三位階魔法を覚えることができるのだ。


 そして、何事もなかったようにボス部屋を去る。

 魔法を習得したタイミングなど、誰にも分からない。

 ましてや、常人の四分の一以下で覚えられるなど、誰が信じられるだろうか。

 仮に気づかれたとしても、ルール違反をしているわけじゃない。


 第三位階に潜って、クエスト報酬を手にし、ボスを討伐すればランクも評価も跳ね上がる。

 当然、ボス部屋では魔法書も描いている。

 俺たちにとって、これ以上効率のいい稼ぎは、なかった。


「とりあえず、今日は迷宮帰りなので、明日また顔出しますね」


 そう言って、リリアに別れを告げ、ギルドを後にした。




「次はどのクエストを受けるのだ?」


 永楽荘に変える道すがら、リンが俺に問いかけてくる。


「うーん……バックスの街の第三位階以下の魔法はすべて覚えたし、また運び屋クエストかな。あと、いい加減、【風絨毯エアリアル】を覚えたいんだよなぁ。本当だったら同じ、第三位階の【闇魔腕カイナ】を覚えるのが優先なんだろうけど……」


 実はまだ、【風絨毯エアリアル】を覚えていなかったのだ。

 【闇魔腕カイナ】も魔道具屋を巡っていたとき、買ったもの。

 いつでも習得できる手持ちの魔法書。だからこそ、安心して後回しにしてきた。


 まずは、迷宮でしか手に入らない魔法を優先。

 それが俺のスタイルだったし、ネルから依頼が入ったときは、第一位階や第二位階の比較的習得が早い魔法書を読んでいた。

 だから、第三位階魔法の習得は、ずっと後回しになっていたのだ。


 ちなみに俺が新しく覚えた魔法は以下の通り。


第一位階魔法

・【闇矢ダークアロー】(魔法書から習得)


第二位階魔法

・【火鞭ファイアウィップ】(魔法書から習得)

・【水盾ウォーターシールド】(魔法書から習得)

・【石壁ストーンウォール

・【風刃ウィンドカッター

・【闇鎖シャドウバインド】(魔法書から習得)

・【睡眠スリープ


第三位階魔法

・【石破弾ストーンブラスター

・【風詠サーチ

・【魔力障壁マジックバリア


 これだけ覚えて、魔力は『88』。

 まぁ【ストック】を使わなくても【洗濯ウォッシュ】を唱えられるようになったから大きな変化。


 変化といえば、もう一つ――俺の身長だ。


 十三歳にして、ついにリンとほぼ同じ高さに……いや、わずかに俺の方が上になった!

 これで誰にもチビなんて言わせない……まぁ、それでも同年代の平均よりはちょっと低めなんだけどな。


 一方、リンはというと、年齢を重ねても身長や体重はほとんど変わらない。

 ただ、身体は確実に女性らしくなっていた。


 小ぶりながらも丸みを帯びたヒップに、よりふっくらとした胸元のライン。

 何より、纏う空気が変わった。言うなれば……フェロモン。

 フードを目深に被っていも、すれ違う人が思わず振り返るほど、彼女は女としての魅力をぐんぐん増していた。


 ――でも、変わらないものもある。


 それは、俺とリンの距離感。

 あのファーストキスから、ロマンティックな展開は一切なし。

 必要がない限り手もつながない。ふいに肩が触れ合うくらいだ。


 だけど、不思議と寂しくはない。

 信頼されている――それが、痛いほど伝わってくるから。

 ……今は、それだけで、十分だ。



 いつも通り、バックスの大通りを北へ歩き、西へ曲がれば永楽荘――という地点で、ふと視界の端に動くものが入った。


 街の中心へ向かって、北から一台の馬車が駆けてくる。


「……珍しいな。バックスの街中を馬車が走るなんて」


「うむ。私が見たのは、辺境伯家のものぐらいだが……」


 物珍しさから目で追っていると、すぐに異変に気づいた。

 ――これは、ただの馬車じゃない。

 俺たちだけじゃない。周囲の通行人も、次第に足を止め、馬車へと視線を向けていく。


 二頭の馬は全身に傷を負い、恐怖に見開いた目で足をもつれさせながら進んでいた。ワゴンには血が飛び散り、木枠には斬撃の痕――それも一つや二つではない。


 馬車を守るように囲む護衛たちも、顔中が血と埃、汗にまみれ、疲労困憊といった様子だった。

 まるで、戦場から這い戻ってきたかのように――。


「レオ――」


「分かってる」


 リンの言葉を遮るように、俺は手を掲げる。


 背後に浮かぶ三つの水球ウォータースフィア

 そこへ【治癒ヒール】を一つずつ重ねると、たちまち癒しの力を帯びた【治癒球ヒールスフィア】へと変化する。


 そのまま、ふわりと馬車の上へ――

 そして、雨のように降り注ぐ。


 冒険者たちの肩に、背に、額に……癒しの雫が触れた瞬間、見る見るうちに裂けた傷が塞がっていく。

 もちろん、全快とはいかない。だが、応急処置としてはバッチリ。


 さらに、もう二つ。

 小さく精製した【治癒球ヒールスフィア】を新たに浮かべ、そっと怯えた馬たちの前へと滑らせる。


 同じだけの魔力を込めてある。小ぶりでも、効果は高い。

 馬たちは迷いなくそれを口にし、たちまち傷が癒えていく。


 呆然とする冒険者たち。

 誰の仕業かと、周囲を見回すその視線を受ける前に、俺たちは踵を返す。


 名乗ることなく――ただ静かに、永楽荘へと歩き出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ