第16話 大規模討伐
騎士団員に声をかけられた俺は、彼に言われるがまま冒険者ギルドへと同行することに。
ギルドの建物は大きさこそ違えど、フェリクのそれと同じく木造だった。
けれど、中に入ってすぐに、違いがはっきりと分かる。
フェリクに比べて、ここバーバラのギルドは活気に満ちていた。
何よりも、あの目に染みるような独特の匂いがない。
それだけでも、俺は心からホッとして胸をなでおろした。
そんなギルドの一角に、ひときわ目を引く存在がいた。
立派な意匠を施した銀の鎧を纏った男。
彼が、俺を待っていた。
「初めまして。わざわざ来てもらってすまないね。俺はグレスト騎士団、騎士団長のゼルトだ。悪いけど、君のことを少し教えてくれないか? 名前と年齢を聞いてもいいかな?」
「初めまして。レオンと申します。十二歳です」
俺がそう答えると、ゼルトと俺を連れてきた騎士団員は、なぜかホッとした表情を浮かべ、顔を見合わせる。
「な? 聞いてみるもんだろ?」
「はい……もっと低いと思ってました……」
……どういう意味だ、それ?
「悪い悪い。君のことを、こいつが十二歳未満だと思い込んでたみたいでな」
ああ、なるほど……要するに、俺の身長がチビすぎて、もっと幼いと思ったってことか。
いや、こっちからすれば、この世界――アストラリアの方がおかしいんだよな。
日本なら、十二歳の平均身長はだいたい百五十センチくらい。
今の俺もちょうどそのくらいか、少し低い程度。
転生前の日本時代もそんなものだったと思う。
でも、アストラリアでは子供の平均が五〜十センチくらい高い上に、体の成長も早い。
そのせいで、こっちに来てからずっと、俺は自分の体にちょっとしたコンプレックスを感じることが多くなった。
……とはいえ、日本の成長通りなら、俺は十五歳で百七十五、そして高校生のときには百八十センチにまで伸びた。
きっと、この世界でも――これから背は伸びる。
幸い、成人男性の平均身長も日本より少し高い程度っぽい。
なら、百八十センチになれば、背が高いと言われるはずだ。
ただ、一つ気になることがあった。
「どうして十二歳未満じゃダメなんですか?」
さっきから俺の年齢にこだわっていた理由を、どうしても知りたかった。
「ん? ああ、それはな。十二歳になれば、冒険者――失礼、魔法師として登録が可能になるだろ? だからこそ、大規模討伐にも正式に参加できるんだ」
「……大規模討伐?」
冒険者と言いかけて魔法師に言い直したのも気になったが、まずは耳慣れないその言葉の意味を確認することにした。
「バーバラの街の付近には現在三つの外患を抱えている。一つは西の丘を拠点としている《尖鼠団》、もう一つは反対側の東側の丘に潜んでいる《蛇咬団》。この二つは盗賊団。そして最後にここから南へ向かう途中に棲む魔物たち。これらを討伐しようと思っている」
「それに協力してくれと?」
「ああ。《尖鼠団》の構成員が数名、負傷したという情報が入った。まずはそこを叩く。次に《蛇咬団》。最後に南の魔物を掃討する計画だ――報酬は、期待してくれていい」
……南を目指す俺にとっても悪くない話だ。
「ちなみにですが、南への馬車は出てたりしますか?」
「いや、今は出していない。あの道は危険すぎるし、馬が恐れて進まないんだ」
「じゃあ、大規模討伐で脅威が取り除かれれば?」
「もちろん。そもそも、そのために大規模討伐を行うよう準備してきたんだ」
なるほど……利害は一致しているってわけか。
「分かりました。いつ大規模討伐は始まるのですか?」
すると、ゼルトは少し気まずそうに視線を外しながら答えた。
「……今日の昼過ぎからだ」
あまりにも急すぎる。
が、その理由も納得できるものだった。
「もともと準備は進めていた。だが、《尖鼠団》が負傷しているという情報を昨日手に入れてな。回復される前に叩いた方がいい。そう判断して、急きょ今日の昼に実行することになった」
……そりゃそうか。
敵が弱っているうちに叩く。戦の定石だ。
「相手は何人くらいですか?」
「正確な数は分からないが、だいたい二十から三十人程度だと見ている。対して、討伐に出る我々は、騎士団が二十名。加えて、魔法師や冒険者が三十名ほど――合わせて五十人規模になるな」
……人数的にはこちらが有利。
これは、案外楽な戦いになるかもしれない。
「分かりました。協力します。ただ、ひとつだけ。僕はまだ冒険者登録をしていません。それと……魔法師と冒険者って、具体的に何が違うんですか?」
なんとなく魔法師や冒険者という言葉を使っていたが、違いが分からなかったので、この機会に聞くことに。
「おお、ありがとう! 協力してもらえるのは心強いよ」
ゼルトは目を輝かせたが――その顔はすぐに少し曇る。
「魔法師と冒険者の違いか……簡単に言えば、位階魔法を使えるかどうかだ。使える者が魔法師、使えない者が冒険者。魔法師ってのは、プライドが高いやつが多くてな。魔法を使えない連中と同じ呼び方をするなってあたりが、呼称の違いの始まりらしい。今では、魔法師専用のクエストなんかも出てきてるから、登録できるなら魔法師として登録した方がいい」
――なるほど。そういうことか。
もしかして、世の中の魔法師って、ジウムやボヘックみたいなやつばっかりなのか?
……いや、そんなことはない。
父と母は、そんな人じゃなかった。
ってか考えてみれば、二人は子供の俺に冒険者と名乗っていたな。
両親に変なプライドがなかったことを誇りに思う。
「じゃあ、俺からも一つ頼む。もし、他に参加できそうな人がいたら、声をかけてみてくれ。戦力は多いに越したことはない。それと、魔法師としての登録もしておいてくれ。集合は昼過ぎ、西門前だ」
そう言い残して、ゼルトはもう一人の騎士を連れてギルドを後にした。
――参加できそうな人……か。
思い当たるのは……リンスしかいない。
《尖鼠団》を斬り伏せたのが彼女だってのは、間違いないだろう。
もしかして、道中に切り捨ててあった魔物もリンスがやったのかもしれない。
でも、あの体調では無理をさせたくない。
知り合って間もないけど……誘えば、無理してでも来そうな気がする。
さりげなく体調を訊いてからにしよう。
その前に、俺も登録を済ませておくか。
ジウムとも決別できたことだし、もうあいつに怯える必要もない。
それに、魔法師として登録しておけば、何かと都合が良さそうだし、損はないだろう。
そう思いながら、ギルドのカウンターに座る職員に声をかけた。
「すみません。魔法師として登録したいんですが……」
すると、にこやかな笑顔を浮かべた職員が応じてくれる。
「かしこまりました。では、名前と年齢、使える位階魔法を教えてください。それから、あちらの水晶に手を翳してください」
言われた通り、鑑定水晶に手をかざす。
そして、質問に答えようとしたその時――
職員の笑顔が、ひきつった。
「……お、お客様? 魔法師としての登録には、魔力量が『100』以上必要なのですが……」
えっ……マジで?




