「ほら、当たり出たから、どれがいい?」
【おはなしにでてるひと】
瑞木 陽葵
“午後の授業にそなえて水分補給しとくかー”と思って来た自販機前。
蓮とタイミングが合うと、なんとなく笑っちゃうのはいつものこと。
――“当たり”の瞬間、思わず「やったー!」って声に出ちゃったの、ちょっと照れてる。
荻野目 蓮
おしるこが飲みたい日って、たまにある。今日はまさにそれだった。
でも、陽葵が隣にいて、「じゃあこれでいーや」って思えるのが、ちょっと嬉しい。
――当たりドリンクを“選ばせてくれる陽葵”に、感謝とニヤけが止まらなかった。
【こんかいのおはなし】
昼休みの廊下、
ちょっとだけ日差しが差し込んで、
みんなそれぞれの“自分時間”を満喫してる空気。
わたしは、自販機の前で財布を開けながら、
選択肢とにらめっこしてた。
「……午後はちょっと甘いやつがいいかな……でもカフェオレも……」
「悩みすぎ。さっさと押さないと、後ろにいる人に蹴られるぞ」
「蓮かー。蹴るのは君だけでしょ」
振り向けば、
ペットボトル2本持った蓮が、ニヤリと笑ってた。
「まさか……おしるこ狙った?」
「狙った。売り切れだった。ちょっとだけ泣いた」
「泣くな~!てか、昼におしるこって……」
言いながら、
えいってボタンを押したその瞬間。
カタン、カタン。
……ピピッ!
『おめでとう!あたり!もう一本!』
「わーっ、当たった!!」
自分の声のボリュームにびっくりしながらも、
ディスプレイの“あたり演出”にテンションが上がる。
「……すご。ほんとに出るんだな、これ」
「ふふふ、こういうときはね、惜しまず言うの。
『蓮、どれがいい? 選んでいいよ』って』」
「え、いいの?やさしいな今日の陽葵」
「いつもやさしいが?」
蓮は、軽く笑いながら、
視線を一通り走らせてから、
無言でボタンを押した。
選んだのは、
ミルク感強めのいちごラテ。
「おしるこへの未練は?」
「さすがに“人からの一本”でおしるこは選ばない」
「……そこだけ律儀なの笑う」
ふたりで校舎裏のベンチに腰かけて、
紙パックのストローをちゅっと刺す。
甘くて、
ちょっと冷たくて、
昼休みの時間が、のんびり流れていく。
「……次は一緒に当てよっか」
「なにその、ガチャの共闘みたいなノリ」
「“放課後おしるこミッション”ね。達成できたらクロノに報告しよ」
「お前、ぬいぐるみに報告すんの?」
「するよー。うちのクロノだもん」
わたしたちの時間は、
こんな風に、ちょっとふざけて、でも本気でまざってく。
そのとき、
校舎の窓から――
キーンコーンカーンコーン。
「……え、もう昼終わり?」
「はい、終話終了ベルです」
「ちょ、待って、話まだ途中……!」
でも。
ふたりで並んで立ち上がるときには、
すでに気持ちは“午後のスタート”に向かってた。
いちごラテと笑い声と、
あたりドリンクの余韻を残して。
【あとがき】
学校の昼休みって、ただの30分じゃなくて、
“ふたりの世界”をそっと広げられる貴重な時間。
自販機の当たりひとつで、会話がはじまり、笑顔が続く。
陽葵の「ほら、選んで」には、ちょっと照れとたっぷり優しさがこもってました。