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小学生低学年

いつの頃か覚えていないが、真冬の寒い夜に言うことを聞かないからと、裸にされて外に放り出されたことがあったらしい。

大声で泣いて「寒いよ、中に入れて!」と叫んでも、祖父は絶対に玄関の鍵を開けなかった。


私は唯泣き続け、ドアを叩いて必死に助けを求めていた。

その光景に、近所の人たちは「またか………」「可哀想に………」と心配するものの、一切手出しはしなかった。

皆、祖父の機嫌が悪いことを知っていて、下手に助ければ、自分にも火の粉が舞い込み兼ねないと分かっていたからだった。


結局1時間ほどして、母が祖父を説得して、何とか家の中に入れてもらえたのだが、その時は既に感覚が麻痺していて、低体温症になりかけていた。

この事がきっかけかは分からないが、誰かの怒鳴る声や閉め出されることに対して、敏感に反応するようになっていた。

そして同時に自分の声が誰にも届かないと思い、元々口下手なのに、さらに口数が少なくなっていった。

それが理由で、学校でクラスの男子達からからかわれていた。


「泣き虫」

「無口」

「ひ弱」


そう言われて、また泣いていた。



小学校に入学して、最初の課外授業。

町のお店に家族から頼まれたものを買ってくる、いわゆる【初めてのおつかい】だった。


近くの公園を集合場所にして、時間までに帰ってくるようにと言われて、それぞれが町へ出向いた。


私が頼まれたものは、「ハンカチ」と「割り箸」の2つだけ。

それでも、引っ込み思案で口下手な私が、一人でそれを買うとなると、結構な挑戦だった。

結局の所、最初のお店の時点で、既に手間取っていたのだった。


駅前のお店に、小さなスーパーがあって、そこで割り箸を買おうと探していたが置き場が分からず、うろうろしていた。

この時の私は、分からないことを他人に聞くと言うことすら出来ず、ましてや知らない人に自分から話しかける勇気も無かった。


結果、探し出せずに一度スーパーを出て、もう一つのお店に向かおうとしていた時だった。

同じクラスのA美が声を掛けてきた。


「まだなにも買ってないの?本当、あなたってのんびりどころか、のろまね」


A美は私が引っ込み思案なことを知ってて、悪知恵を働かせ、ことあるごとにからかっていた。

しかし、突き放すような言葉を口にしながらも、何かと世話を焼いてくるのだ。


この日も、まだなにも買い物が出来ていない私を見て、「のろま」と言いながらも、急かすように背中を突いてくれていた。


「………ごめんなさい。」

「謝るよりも、先に買い物を済ませなさい。ほら、付き添ってあげるから、早くしなさい」

「………うん」


そうして、A美に付き添ってもらい、もう一度スーパーに入り、二人で割り箸を探した。

そして、日用品コーナーにあるのが分かると、明日美はさっさと割り箸を手に取り、私に押し付けた。


「ほら、あったわよ。早く会計してもらいなさいよ」

「………うん……」


でも、私は緊張して身体が動けず、その場で立ち竦んでしまっていた。


「もう、何してるのよ。早くしないと、待ち合わせの集合時間に間に合わないわよ?」

「………」

「………あ~もう。いいわ、貸しなさい。私が会計してもらってくるから!」


そう言うと、A美は私から鞄を奪うように取り上げると、そのままレジへ向かい会計を済ませてきた。


この時私は見落していたのだ。

A美がこの時にしていた行為について………。


鞄と買い物袋を押し付けて、「ほら、買ってきたわよ」と言い「私は先に行くから、もう一つは自分で買いなさいよ?」と急かして、A美は集合場所へと一人先に行ってしまった。


―――このままでは集合時間に間に合わない。


そう思うと急いでもう一つの品物を探さなければならない。

そしてもう一つの品物「ハンカチ」は別の店で売っている聞いていたので、すぐ傍にある雑貨屋によった。

そして、ハンカチを見つけて、今度は自分だけで会計をしようと、鞄の中から財布を取り出そうとした。

しかし………。


「あれ………財布が、ない………?」


鞄の中には、頼まれた買い物リストの用紙と、先ほど明日美に買ってもらった割り箸の入った買い物袋しかなかった。


「え………?なんで………?学校から出るときは確認したから、ちゃんとあったはずなのに………」


念のためもう一度鞄の中を探すも、やはり財布は出てこなかった。

そう、この時になって気付いた。

A美が、先ほど鞄ごと持っていったのは、私の財布を盗むためだったのだ。

しかし、この時に私は、盗まれたと言うことがわからず、どこかに落としたのかもしれないと近くをうろうろと探したが、結局見つからなかった。


財布がなければ、買い物は出来ない。

そのことだけは分かっていたので、仕方なく私は財布と探すのを諦めて、そのまま集合場所へとむか言うことにした。

だが………。


酒豪場所へ辿り着いた頃、そこに誰の姿もなかった。

時計を見たら、集合時間を既に20分過ぎていた。

この時、既に他のクラスメイトと担任は私を待つのを諦めて、先に学校へ戻ってしまっていたのだった。


「………」


遅れてしまったのは、私の責任。

仕方のないことだと分かっていても、やっぱり少しだけ寂しかった。

そして、信じたくなかった。

―――A美が、財布を盗んだことに。


その後、一人で何とか学校へ戻り、ちょうど給食の時間になり、そのままA美に話しかけるタイミングが取れず、休職後の昼休みに何とか明日美を探して、話しかけてみた。


「A美ちゃん………、あのね。ちょっと話がしたいんだけど………」

「………何?言いたいことあるならさっさと言いなさいよ。本当、あなたって愚図よね」

「………ごめんなさい。………あのね、………さっきの買い物の時のことなんだけど………」


そこまで言いかけて、その先を言うべきか迷っていると、明日美は流石に苛ついて、私を睨みながら答えた。


「何よ、早く言いなさいよ」

「………A美ちゃん、………私の財布、知らない………?」

「………何?私が盗んだとでも言うの?証拠は?」

「………」

「証拠もないのに盗んだとか、勝手なこと言わないでよね!あなたが無くしたんでしょう?それを私のせいにするなんて、おかしいわよ!」

「………でも………」

「でも、何?私は貴方の代わりに買い物までしてやったのよ?逆に感謝してもらわなきゃいけないのに、何それ」


A美は怒りながらそう言い切って、自分は盗んでないと主張した。

しかし、状況的に考えて、あの時すぐに確認しなかった私にも非はある。

それが明日美にとって好都合のように、いかにも私が悪いみたいな言い方で押し通してきた。


「バカみたい、気分悪いわ。あんたウザいからもうあっち行ってよ!」

「………」


そう睨まれて、私はそれ以上言い返すことが出来ずにいると、A美の方が先に何処かへと行ってしまった。


結局、それ以降そのことについてA美に話をしてもらえず、仕方なく帰宅した私は財布と行ってな誤魔化すことにした。

その時やはりと言って良いほど、かなり怒られたが、なくしたものは仕方がないと、だが今後は無くさないようにしろときつく言われたのだった。


だが、その夜。

結局その嘘もばれてしまった。


A美が両親と一緒に家に来て、私の名前が書いてある財布を持って、謝りに来たのだった。


「申し訳ない。今後このようなことが無いよう、きつく言い聞かせますので………」


A美の両親が揃って頭を下げ、A美も一緒に頭を下げて、「ごめんなさい、もうしません」と言ったのを見て、正直私は「なんで今更?」と思っていた。


その後、何とか仲を取り持って、二人で握手を交わし、A美達は家を後にした。

そして、私も祖父から、嘘をついていたことを咎められて、結局また怒られてしまったのだった。


その日以来、私の持ち物は必ず名前が書かれ、毎日持ち物チェックされるようになった。



2年生になってからだったと思う。


無口で泣き虫、そのことでいつもクラスの男子達にからかわれて、泣いてばかりいた。

その時はいつも他の女子が助けてくれて、牽制してくれていたが、ある日、それを台無しにしてしまうことをしてしまった。


時々感情をコントロール出来なくなる時があり、一気に爆発してしまうことがあった。

その時も、一時的に感情が高まって、また泣かされた時に、衝動的にからかってくる男子に反抗して取っ組み合いになった。

周りはびっくりして皆が私と相手の男子の間に入り止めたが、その時、一人の女子の顔に爪が当たって、引っ掻いてしまった。

幸い、傷は浅く痕が残ることは無かったが、このことがきっかけで、クラスの女子から距離を置かれるようになり、からかっていた男子達も、暴力を振るう子として認識され、更にひどく罵られたりされた。


この頃のクラスの決めごと、スローガン的なモノがあったが、その言葉は「みんな、なかよし」。

取っ組み合いになった時に、止めに入ってくれた子たちは皆がこれを口にしていたにも関わらず、私はそれを破ってしまったのだ。


それ以来、私は教室でいつも一人になってしまった。



その間にもA美とのトラブルはしょっちゅうだった。


小学校に入る前から、公文に通っていたため、テストの点数は良かった。

そのためか自習の時に、教材ドリルの課題を出されて、皆が各自で問題を解いていく中、A美は私に小声で、「答え教えて」といってきた。

最初は嫌がっていたが、何度もしつこくいわれ、結局教えてしまった。

でも、私の問題の解き方は公文で習ったやり方で、学校で習った解き方とは少し違っていたため、すぐに担任にバレてしまう。


結局二人とも呼び出されて、それぞれ別教室でもう一度問題を解き再提出。

「これはカンニングで、いけないことだよ」と注意され、今後もう二度としないと二人で謝ったが、A美は他にも問題を起こしては私を巻き込んだ。


掃除時間にふざけて雑巾を投げたり、昼休みに立入禁止だった屋上への階段を上ったり。毎回そこに巻き込まれて、そのたびに担任に怒られて、あるときには家族へ連絡するとまで言われて。

家に帰ったら祖父が連絡を聞いて、「なんでそんなことをしたんだ」と説教をして、「巻き込まれただけ」と答えるが、「はっきり断らないお前が悪い」と言われて。

もうA美に関わるのはもうやめろと言われたが、結局3年生になるまでつきまとわれることになったのだった。



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