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東京クロニクル2 ー 名探偵・神崎と少女助手の新たなる事件

 第一幕 静寂の爆弾

 ——午前8時。新宿・都庁前。


 東京の朝は慌ただしい。ビジネスマンが足早に行き交い、タクシーがクラクションを鳴らしながら通り過ぎる。そんな中、一人の男が静かに立っていた。


 男の手には黒いブリーフケース。


 彼は無言のまま、それを都庁前のベンチにそっと置いた。


 そして、スマートフォンを取り出し、短くメッセージを打つ。


「ゲームを始めよう。」


 送信を押した瞬間、彼は人混みに紛れて消えた。


 ——それから五分後、都庁前の広場に響き渡る爆音。


 東京が、新たな恐怖に包まれた。


 午前9時。新宿・神崎探偵事務所。


「先生! ニュース見ましたか!?」


 桜井柚葉(さくらいゆずは)が息を切らせながら、事務所に飛び込んできた。


「朝から騒がしいな」


 神崎蓮司(かんざきれんじ)はコーヒーを口に運びながら、興味なさそうに新聞を広げていた。


「先生! のんびりしてる場合じゃないですよ! 新宿都庁前で爆発事件が——」


「……知ってるさ」


 神崎は新聞を畳み、テレビのリモコンを取る。


 画面には『新宿爆破テロ』の速報が流れていた。


「今朝8時過ぎ、新宿都庁前で爆発が発生。これまでに死者3名、負傷者12名が確認されています。現場には爆弾の残骸とともに、一枚のカードが残されていました」


 神崎はそのニュースに目を細めた。


 ——「カード」?


 その瞬間、事務所の電話が鳴った。


「……おや、どうやら"招待状"が届いたらしいな」


 神崎は受話器を取り上げる。


 『やあ、名探偵。君にゲームを持ち込んだ』


 低く落ち着いた声。


「……お前が、都庁の爆破犯か?」


 『まだ第一幕さ。これからが本番だよ』


 男は不敵に笑った。


 『ヒントをやろう。次の"爆弾"は12時に爆発する』


「どこでだ?」


 『それを推理するのが君の役目だろう?』


 電話が切れた。


「……くそっ!」


 柚葉が悔しそうに唇を噛む。


 神崎は煙草に火をつけ、静かに呟いた。


「"第二幕"が始まる……か」


 そして、彼はすぐにコートを手に取り、出かける準備をした。


「行くぞ、柚葉」


「どこへ?」


「現場だ」


「……分かりました!」


 こうして、名探偵・神崎と柚葉は、新たなる"ゲーム"へと足を踏み入れた。



 第二幕 12時の爆弾


 午前9時30分。新宿・都庁前爆破現場。


 爆風に吹き飛ばされた車、割れたガラス、血に染まった歩道。現場には警察と消防が集まり、騒然としていた。


 神崎蓮司と桜井柚葉が到着すると、すぐに警視庁の大河内(おおこうち)警部が駆け寄ってきた。


「お前ら、なんで勝手に来てるんだ!」


「そりゃあ、"犯人からの招待状"が届いたものでね」


 神崎が軽く肩をすくめると、大河内は険しい顔をした。


「……まさか、直接接触があったのか?」


「ああ。犯人は"ゲーム"がしたいらしい。次の爆発は12時だと予告してきた」


「なんだと!?」


 大河内は無線で指示を飛ばす。


「すぐに警戒態勢を強化しろ! 12時までに次の標的を特定するぞ!」


 柚葉が周囲を見回しながら言う。


「先生、ニュースで言っていた"カード"って、まだありますか?」


「おい、見せてやれ」


 大河内の指示で鑑識が手袋をはめ、一枚の白いカードを神崎に差し出した。


 《12:00 鐘の音が響く時、次の幕が開く》


 そこには、そう書かれていた。


 柚葉がカードを覗き込み、考え込む。


「……鐘の音?」


 神崎は煙草をくわえ、静かに言った。


「"鐘"……つまり、次の標的は"鐘が鳴る場所"だな」


「東京で鐘の音が聞こえる場所って……」


 柚葉がスマートフォンを取り出し、検索を始める。


「寺院や教会……あとは、東京駅の旧時計塔!」


「……いや、違うな」


 神崎がカードをじっと見つめ、指で文字をなぞる。


「この紙の質感……"西洋紙"だ」


「ってことは……」


「ターゲットは"日本の寺"じゃない。"西洋風の鐘"がある場所だ」


「……じゃあ、東京で"鐘"といえば……」


 柚葉が何かに気づいたように目を見開く。


「銀座・和光の時計塔!?」


「可能性は高いな」


「でも、確証は……」


 神崎はカードを嗅ぎ、微かに香る金属の匂いに気づいた。


「……間違いない。ここには"火薬"の微粒子が付着している」


「ってことは……和光の時計塔が爆破される!?」


 その瞬間、大河内が叫んだ。


「よし、急げ! すぐに銀座へ向かうぞ!」


 第三幕 銀座の鐘楼


 午前11時50分。銀座・和光の時計塔前。


 警察の車両が続々と集まり、和光の建物は完全に封鎖された。


 神崎、柚葉、大河内が急いで現場に駆け込む。


「爆弾はどこだ!?」


「今、警備員と連携して調べていますが、まだ発見できません!」


「くそ……時間がない!」


 ——カン……カン……カン……


 11時55分。和光の鐘が、ゆっくりと鳴り始める。


 柚葉が辺りを見渡しながら言う。


「先生、爆弾って普通、目立たない場所に仕掛けますよね?」


「そうだ。人目につかない場所……例えば、時計塔の内部だ」


「でも、それなら警備員が気づくはず……」


「いや、もっと単純な方法がある」


 神崎はポケットから懐中電灯を取り出し、時計塔の入り口へと向かった。


「"偽装"だ」


「えっ?」


「爆弾は"本体"だけじゃない。"疑似爆弾"を設置し、本物を別の場所に隠す"」


「そんな……!」


 神崎は時計塔の壁に触れ、微かな振動を感じ取る。


「これは……"音響式起爆装置"だな」


「音響……?」


「つまり、"鐘の音"が引き金になって、爆発する仕組みだ」


「じゃあ、どうやって止めれば!?」


「鐘を鳴らさない」


 神崎はすぐさま無線機を取り、大河内に指示を出した。


「今すぐ鐘の動力を止めろ!」


「しかし、そんなことをすれば——」


「いいからやれ! さもなければ、あと3分で銀座が吹き飛ぶ!」


 大河内はすぐに警備員へ指示を出した。


 時計塔の制御盤が停止される。


 ——カン……カン……カ……


 鐘の音が止まる。


 11時59分。静寂が訪れる。


 柚葉が息をのんだ。


「止まった……?」


「いや、まだだ」


 神崎は耳を澄ませる。


「……カチッ」


 時計塔の壁の奥から、微かな機械音が響く。


「くそっ! "バックアップ起動"が仕込まれてる!」


「ってことは……爆発する!?」


 神崎はすぐに床の点検口を蹴破った。


 すると——そこには、小型の起爆装置が隠されていた。


「先生!」


「……間に合うか?」


 神崎はポケットから細い工具を取り出し、迷いなく赤いコードを引きちぎった。


 ——カチッ!


「…………」


 ……爆発は起こらなかった。


 柚葉が大きく息を吐く。


「……成功?」


「……ああ、なんとか、な」


 大河内が駆けつけ、無線で叫ぶ。


「爆弾解除! 被害なし!」


 銀座の通りに、安堵の声が広がる。


 だが、その瞬間——。


 神崎のスマートフォンが震えた。


 画面を見ると、非通知のメッセージが届いていた。


 『よくやった、探偵。だが、"次"はもっと面白いぞ』


 神崎は静かにスマホを閉じ、低く呟く。


「……ゲームは、まだ終わっちゃいない」


 第四幕 狙われた探偵


 午後3時。新宿・神崎探偵事務所。

 事件は終わっていない。


 銀座・和光の時計塔爆破を未然に防いだ神崎蓮司と桜井柚葉だったが、犯人からの新たな挑戦状が届いた。


 『よくやった、探偵。だが、"次"はもっと面白いぞ』


 このメッセージは何を意味するのか——神崎はデスクに肘をつき、煙草の煙をくゆらせながら考え込んでいた。


「先生……この事件、まだ終わらないんですよね」


 柚葉がソファに座り込み、疲れた顔をしている。


「終わるどころか、"これからが本番"だろうな」


 神崎は机の上に広げた事件の資料を見つめた。


「犯人の目的は何なのか……ただのテロか? それとも、俺個人への挑戦か?」


「でも、先生ってテロリストに恨まれるようなことしましたっけ?」


「……心当たりはありすぎて困るな」


 柚葉は半ば呆れたようにため息をつく。「やっぱりそうですか」


 その時——。


 コンコン


 探偵事務所のドアがノックされた。


「……?」


 柚葉が訝しげにドアの方を見つめる。


 神崎は無言で立ち上がり、慎重にドアに近づいた。


「どちら様だ?」


 返答はない。


 不審に思いながらも、神崎はドアの覗き穴を確認する。


 ——そこには、誰もいなかった。


「……?」


 警戒しながらドアを少しだけ開ける。


 その瞬間——


 バサッ


 足元に白い封筒が落ちていた。


 神崎はそれを拾い上げ、中を確認する。


 ——中には、一枚の紙が入っていた。


 そこには、たった一言。


 《次の標的は"お前"だ》


「……俺?」


 神崎の目が細くなる。


 柚葉が覗き込んで、顔を青ざめた。


「せ、先生……!?」


 その時——


 カチッ


 ——探偵事務所の窓際に、赤い点が浮かび上がった。


「伏せろ!!」


 神崎は柚葉を抱きかかえるようにして床に倒れ込んだ。


 次の瞬間——


 パンッ!


 銃弾が窓ガラスを撃ち抜いた。


 第五幕 暗殺者の影



 午後3時10分。新宿・神崎探偵事務所。


 神崎はすぐに身を起こし、窓の外を確認した。


 ——向かいのビルの屋上に、黒い影が見えた。


「……狙撃手か」


「先生、大丈夫ですか!?」柚葉が青ざめた顔で神崎の腕を掴む。


「問題ない。俺は弾を食らっちゃいない」


 神崎はすぐにデスクの引き出しを開け、双眼鏡を取り出した。


 向かいのビルの屋上を覗く。


 ——だが、すでに狙撃手の姿は消えていた。


「……逃げ足が速いな」


「先生、これってつまり……」


「"犯人は俺を消そうとしている"ってことだ」


 神崎は深く息を吐いた。


「普通の犯罪者なら、警告だけで済ませる。だが、今のは明らかに"殺すため"の一発だった」


「じゃあ、あの爆破事件の目的も、先生を狙うためのものだったんじゃ……?」


「……それも考えられるな」


 柚葉が震える声で言う。


「先生……もしかして、またとんでもない事件に首を突っ込んじゃいました?」


「おそらくな」


 その時、事務所の電話が鳴り響いた。


 神崎はゆっくりと受話器を取る。


「……もしもし」


 『まだ生きているようだな』


 低く冷たい声が聞こえた。


「お前が撃ったのか?」


 『"テスト"さ。お前がどこまで持ちこたえるか、確認したかった』


「……何が目的だ?」


 『お前が知るべきことがある。だが、それを知れば"死ぬ"。それでも進むか?』


 神崎は微かに笑った。


「……脅しのつもりか? 俺は"探偵"だ。真実があるなら、どんな地獄でも踏み込むさ」


 『……フッ、いいだろう。ならば、"次のヒント"をやる』


 男は静かに告げた。


 『明日、午前0時。"赤い星"の下で待て』


「"赤い星"?」


 だが、神崎が聞き返す前に、通話は切れた。


 神崎は受話器を置き、考え込む。


「"赤い星"……これは暗号だ」


 柚葉がスマートフォンを取り出し、検索を始める。


「先生、東京で"赤い星"って……何かあります?」


「"赤い星"……赤いネオン……」


 神崎は思い出す。


「歌舞伎町の"レッドスター・ビル"だ」


「じゃあ、犯人はそこに……?」


 神崎は煙草をくわえ、静かに言った。


「……どうやら、明日の0時。"決戦"になりそうだな」


 第五幕 暗殺者の影


 午後3時10分。新宿・神崎探偵事務所。


 神崎はすぐに身を起こし、窓の外を確認した。


 ——向かいのビルの屋上に、黒い影が見えた。


「……狙撃手か」


「先生、大丈夫ですか!?」柚葉が青ざめた顔で神崎の腕を掴む。


「問題ない。俺は弾を食らっちゃいない」


 神崎はすぐにデスクの引き出しを開け、双眼鏡を取り出した。


 向かいのビルの屋上を覗く。


 ——だが、すでに狙撃手の姿は消えていた。


「……逃げ足が速いな」


「先生、これってつまり……」


「"犯人は俺を消そうとしている"ってことだ」


 神崎は深く息を吐いた。


「普通の犯罪者なら、警告だけで済ませる。だが、今のは明らかに"殺すため"の一発だった」


「じゃあ、あの爆破事件の目的も、先生を狙うためのものだったんじゃ……?」


「……それも考えられるな」


 柚葉が震える声で言う。


「先生……もしかして、また**とんでもない事件に首を突っ込んじゃいました?」


「おそらくな」


 その時、事務所の電話が鳴り響いた。


 神崎はゆっくりと受話器を取る。


「……もしもし」


 『まだ生きているようだな』


 低く冷たい声が聞こえた。


「お前が撃ったのか?」


 『"テスト"さ。お前がどこまで持ちこたえるか、確認したかった』


「……何が目的だ?」


 『お前が知るべきことがある。だが、それを知れば"死ぬ"。それでも進むか?』


 神崎は微かに笑った。


「……脅しのつもりか? 俺は"探偵"だ。真実があるなら、どんな地獄でも踏み込むさ」


 『……フッ、いいだろう。ならば、"次のヒント"をやる』


 男は静かに告げた。


 『明日、午前0時。"赤い星"の下で待て』


「"赤い星"?」


 だが、神崎が聞き返す前に、通話は切れた。


 神崎は受話器を置き、考え込む。


「"赤い星"……これは暗号だ」


 柚葉がスマートフォンを取り出し、検索を始める。


「先生、東京で"赤い星"って……何かあります?」


「"赤い星"……赤いネオン……」


 神崎は思い出す。


「歌舞伎町の"レッドスター・ビル"だ」


「じゃあ、犯人はそこに……?」


 神崎は煙草をくわえ、静かに言った。


「……どうやら、明日の0時。"決戦"になりそうだな」



 第六幕 赤い星の決戦


 午前0時。新宿・歌舞伎町「レッドスター・ビル」

 ネオンが揺れる眠らない街、歌舞伎町。歓楽街の喧騒の中にひっそりとそびえ立つ「レッドスター・ビル」は、一見すると普通の雑居ビルだった。


 だが、その最上階にある「VIP専用クラブ・ルージュ」——そこは裏社会の人間が集まる"影の社交場"として知られていた。


「……やっぱり、危険ですよ、先生」


 柚葉が不安げに神崎を見上げる。


「わざわざ敵のテリトリーに乗り込むなんて、まるで自殺行為じゃないですか」


「そうかもしれんが、"罠"にかからなきゃ、何も得られない」


 神崎はコートのポケットに手を突っ込みながら、静かに言った。


「それに、向こうが用意した舞台なら、"主役"を演じてやるのが礼儀ってもんだ」


「……先生って、そういうところ無駄にカッコつけますよね」


 柚葉はため息をつきながらも、しっかりと彼についていく覚悟を決めた。


 ——決戦の幕が上がる。


 VIPクラブ「ルージュ」

 エレベーターが最上階に到着すると、そこには黒服の用心棒たちがずらりと並んでいた。


「ようこそ、『名探偵』さん」


 フロアの奥、赤いソファに悠然と腰掛けていたのは——あの黒コートの男だった。


「ずいぶんと丁寧な歓迎じゃないか」


 神崎は軽く笑いながら、男の向かいの椅子に座った。


 柚葉は警戒しながらも、神崎の隣に立つ。


「さて、"ゲーム"の続きを始めようか?」


 男はグラスを傾けながら、不敵に微笑んだ。


「……まずは名乗ろうか」


 男はゆっくりと口を開く。


「——天城玲司(あまぎれいじ)。"元"公安の人間だ」


「公安?」


 柚葉が驚く。


 神崎は目を細めた。


「なるほどな……つまり、お前は"国家"と関係のある事件に関わっていたわけだ」


「察しがいいな」


 天城は静かに笑った。


「……"プロジェクト・EAGLE"を覚えているか?」


「……!」


 柚葉の背筋が凍る。


 ——"プロジェクト・EAGLE"。


 それは、前回の事件で明らかになった音楽暗号技術を利用した国家機密だった。


「まさか……この事件も"あれ"と関係してるんですか?」


「いや、"あれ"の続きさ」


 天城は静かに言う。


「本当の"EAGLE計画"は、まだ終わっていない。」


「……何?」


 神崎が目を細める。


「お前が"知りすぎた"ことは、単なる入口にすぎない。だが、俺は"出口"を見つけた」


 天城は懐から一枚のUSBメモリを取り出し、テーブルの上に置いた。


「……この中に、全ての真実がある」


「つまり、"お前が狙われている理由"もな」


 神崎は静かにUSBを見つめた。


「……で?」


「渡してやるよ、探偵さん」


 天城は微笑んだ。


「……ただし、一つ"条件"がある」


「ほう」


「俺をここから"無事に逃がせ"。」


「……?」


 柚葉が怪訝そうに眉をひそめる。


「つまり、あんたも狙われてるってこと?」


「……"俺"こそが、EAGLE計画の"生き証人"だからな」


 その時——


 ——バンッ!


 突然、VIPルームのドアが破られた。


「なっ……!?」


 黒服の用心棒たちが、一瞬で倒れる。


 ——暗闇から現れたのは、武装した部隊だった。


「クソッ……来やがったか」


 天城が舌打ちする。


「公安……いや、"EAGLE計画"の"抹消部隊"か」


「つまり、"口封じ"が目的か」


 神崎は冷静に状況を分析する。


「ターゲットは二人——"神崎蓮司"、そして"天城玲司"。」


「確保、もしくは抹殺せよ。」


 無機質な声がフロアに響く。


「……さて、ここからが本番だな」


 神崎は煙草をくわえながら、静かに言った。


「お前の"条件"、乗ってやるよ」


 天城は驚いたように神崎を見つめた。


「……助けてくれるのか?」


「探偵は"証拠"を守るもんだろ?」


 神崎はニヤリと笑った。


 そして——


 ——VIPルームの明かりが、一斉に消えた。


「なっ……!?」


 柚葉が驚く。


「——先生!?」


 暗闇の中、神崎の声が響いた。


「"チェックメイト"だぜ、お前ら」


 その瞬間——


 爆音とともに、フロアが"混沌"に包まれた。


 第七幕 脱出戦


 午前0時15分 新宿・歌舞伎町「レッドスター・ビル」VIPルーム

 ——ドォン!!


 爆発音とともに、VIPルームは暗闇に包まれた。


「な、何!?」


 柚葉が驚きの声を上げる。


 ——だが、これは神崎の計算通りだった。


「……今だ!」


 暗闇の中、神崎は天城の腕を掴み、すばやく立ち上がった。


「柚葉、走れ!」


「え、ええっ!?」


 柚葉は一瞬戸惑ったが、すぐに状況を理解し、神崎の後を追った。


 VIPルームに突入してきた「EAGLE計画」抹消部隊は、突如発生した閃光と煙によって混乱していた。


「チッ……! 何が起こった!?」


「煙幕か!? くそっ、奴らを逃がすな!」


 隊員たちの怒号が飛び交う。


 ——しかし、その混乱こそが神崎の狙いだった。


 非常階段への疾走

 午前0時17分 レッドスター・ビル 10階


 神崎、柚葉、天城の3人は、ビルの非常階段へと飛び出した。


「くそっ……俺を助けるために、ここまでしてくれるとはな……!」


 天城が息を切らしながら言う。


「お前の知っている"真実"が、俺たちの命を狙うほどのものなら——俺がそれを暴いてやる」


 神崎は煙草をくわえたまま、軽く笑った。


「……それに、こういう"追われるスリル"ってのも、悪くないだろ?」


「バカなこと言ってないで、早く逃げましょうよ!」


 柚葉が叫ぶ。


 ——その時。


「いたぞ!!」


 背後のドアが開き、抹消部隊の隊員たちが銃を構えながら飛び出してきた。


「撃て!!」


 パンッ! パンッ!


 乾いた銃声が非常階段に響く。


「くそっ!」


 神崎はとっさに柚葉を抱き寄せ、手すりを蹴って体を翻した。


 ——そのまま、一気に階段を飛び降りる!


「先生ぇぇぇぇっ!!??」


 柚葉の悲鳴とともに、神崎と彼女は7階の踊り場へと転がり込んだ。


「おいおい……無茶するなよ……」


 天城が呆れたように言うが、すぐに後を追って飛び降りる。


 その瞬間、彼らのいた階段に銃弾が撃ち込まれ、コンクリートの破片が飛び散った。


「くそっ、逃げ足が速い!」


 隊員たちは即座に追いかけてくる。


 神崎は苦笑しながら言った。


「いいか、柚葉……"ピンチの時は、一番無茶な方法が意外と生き残る"ってのが、この世界のルールだ」


「覚えてませんからね、そんなルール!!」


 脱出ルート——屋上

 午前0時22分 レッドスター・ビル屋上


 非常階段を駆け上がった先は、ビルの屋上だった。


「え、上に来ちゃいましたけど!?」


 柚葉が不安そうに言う。


「ここからどうするんですか!?」


 神崎はビルの端に立ち、眼下の景色を見下ろした。


「……ふむ、案外"悪くない手"があるな」


「いや、先生、"悪くない手"って言い方が絶対悪い予感しかしないんですけど!?」


 天城も屋上の状況を確認し、険しい表情になる。


「ここまで追い詰められたら……"最後の賭け"に出るしかないな」


 神崎はにやりと笑うと、柚葉の手を掴んだ。


「先生!? 何するんですか!?」


「お前もそろそろ"空を飛ぶ"感覚を覚えとけ」


「はぁぁぁぁ!?!?」


 次の瞬間——


 ——神崎と柚葉は、屋上から飛び降りた。


「ぎゃあああああああああああ!!!」


 落下する彼らの視界には、隣のビルの非常用ネットが広がっていた。


 ——ズシャァァァン!!!


 ネットに叩きつけられながら、なんとか落下の衝撃を和らげる。


「……っぶねぇ……!」


「死ぬかと思ったぁぁぁぁ!!」


 柚葉が涙目で神崎の腕を叩く。


「だから言ったでしょう!? 先生の"悪くない手"は、絶対悪いって!!!」


「ほら、無事だったろ?」


「無事じゃないです!! 心臓が口から出そう!!」


 天城は苦笑しながら、後からネットに飛び込んできた。


「お前ら、マジで正気か……?」


「……"探偵"ってのはな、"生き残ってナンボ"なんだよ」


 神崎は静かに笑うと、すぐに身を起こした。


「さぁ、行くぞ。奴らもまだ諦めちゃいない」


 そう言いながら、彼はネットから降り、新宿の闇の中へと消えていった——。


 第八幕 逃亡者たち


 午前0時45分。新宿・廃ビルの一室。


 神崎、柚葉、天城の3人は、一時的な隠れ家へと身を潜めていた。


「さて、天城……そろそろ"本題"を聞こうか」


 神崎は椅子に腰掛け、タバコに火をつける。


「お前が持ってる"USB"には、一体何が入ってる?」


 天城は苦い表情を浮かべながら、ポケットからUSBメモリを取り出した。


「……"EAGLE計画"の"最終報告書"だ」


 柚葉がゴクリと息を飲む。


「つまり……これが、"本当の真実"?」


 神崎は静かにUSBを見つめた。


「……"次の標的"は、俺たち自身かもしれんな」


「覚悟はいいか?」


 天城が神崎を見つめる。


 神崎は小さく笑った。


「当然だろ?」


 ——"真実"を暴くための、最終戦が始まる。


 最終幕 EAGLE計画の真実


 午前2時30分。新宿・廃ビルの一室。

 夜の静寂の中、室内には古びたパソコンのモニターが淡く光っていた。


「EAGLE計画——最終報告書」


 USBメモリのデータが読み込まれ、画面に大量の文書ファイルと機密情報の一覧が表示される。


 神崎蓮司、桜井柚葉、天城玲司の三人は、無言でそのファイルを見つめていた。


「……本当に開いちまったな」


 天城が息を呑む。


「先生……"EAGLE計画"って、一体何なんですか?」


 柚葉が不安げに尋ねると、神崎はタバコをくわえながら画面をスクロールさせた。


「俺たちが知っていたのは、この計画のほんの"断片"だったってことだ」


 画面には、政府の機密プロジェクトに関する詳細な報告が並んでいた。


 EAGLE計画——概要

 目的:

 "音楽暗号技術"を応用し、国家機密を音楽データとして暗号化・拡散するシステムを構築すること。


 経緯:

 計画は20年前、公安の特別研究班によって発案される。

 "旋律"にデータを埋め込むことで、敵国の諜報機関を欺きながら情報を伝達することを目的としていた。


 問題点:

 計画の最終段階で、暗号化されたメロディの"原本"を巡り、関係者の間で内部抗争が発生。

 最高機密を持つ音楽家「沢村英一」が計画から脱退し、消息を絶つ。


 そして——5年前。

 ある作曲家が偶然、この旋律を発見し、"新しい楽曲"として公表しようとする。

 その男の名前は——三浦隆一。


 彼が殺されたのは、"その楽譜"に国家機密が隠されていたからだった。


「……三浦さんは、この"暗号メロディ"を知らずに手に入れたんですね……」


 柚葉が小さく呟く。


 天城は苦い表情で続けた。


「いや、三浦は"知っていた"可能性が高い」


「……どういうことだ?」


「三浦はただの作曲家じゃなかった。"公安の情報提供者"だったんだ」


「……!」


「公安は彼を使って、"暗号メロディ"を闇から引きずり出そうとした……だが、その動きを察知した"誰か"が、三浦を消した」


 神崎は目を細める。


「"誰か"……つまり、この計画の"黒幕"がいるってことか?」


「……ああ、いるさ」


 天城は画面を操作し、あるファイルを開いた。


 そこには、一人の男の顔写真が映し出されていた。


藤堂雅彦(とうどうまさひこ)」——公安の高官。


「……公安の人間が黒幕?」


「いや、"元"公安だ」


 天城は険しい表情で続けた。


「藤堂は5年前に公安を"退職"し、その後、"ある組織"に加入している」


「"ある組織"?」


「——国家影響工作部隊(オメガ)


「……オメガ?」


 柚葉が怪訝な顔をする。


 神崎は冷静に言った。


「……つまり、藤堂は政府の"裏組織"に移り、EAGLE計画の"真実"を完全に隠蔽しようとしているってことか」


「その通りだ」


 天城は低く唸る。


「やつは"知りすぎた者を消す"ことに躊躇がない。三浦隆一の死も、その一環だった……そして、お前も"消されるリスト"に入ってる」


 神崎は微かに笑った。


「……光栄なことだな」


 その時——。


 バンッ!!


 ドアが破られた。


「くそっ、追ってきやがったか!」


 天城が銃を抜く。


 暗闇から現れたのは、武装した数人の男たち——《オメガ》の工作員たちだった。


「USBを渡せ。さもなくば、ここで終わるぞ」


 神崎はタバコをくわえながら、ゆっくりと立ち上がった。


「……柚葉」


「せ、先生……?」


「お前は今から"探偵の奥義"を見せてもらうぞ」


 次の瞬間——。


 ——神崎の手が、"あるもの"を投げた。


「……フラッシュ弾(スタングレネード)だ!!」


 ——閃光と爆音が、暗闇を切り裂く。


「うわぁぁっ!!」


 敵が一瞬怯んだ隙に、神崎たちは廃ビルの非常階段へと飛び出した。


「先生、どうするんですか!?」


「USBの中身はもう"別の場所"に送信した」


「え!?」


 神崎はスマートフォンを見せた。そこには、「データ送信完了——大河内警部へ」と表示されていた。


「……大河内警部なら、必ず公にしてくれる」


「じゃあ、このUSBは……」


 神崎は微笑んだ。


「"オトリ"だ」


 天城が驚いた顔をする。


「……お前、最初から?」


「探偵は"騙し合い"が得意なんでね」


 その瞬間、パトカーのサイレンが響いた。


「くそっ、警察が来たぞ!」


 オメガの工作員たちは撤退を始める。


「やれやれ、最後は"警察頼み"ってのも情けねぇな」


 天城が苦笑しながら言った。


 ——こうして、「EAGLE計画」の真実は白日の下に晒されることになった。


 エピローグ 探偵は夜に消える


 翌朝。新宿・神崎探偵事務所。


「先生、また新聞に載ってますよ!」


 柚葉が新聞を掲げる。


「国家機密・EAGLE計画の全貌が明らかに!」


 神崎はタバコをふかしながら、小さく笑った。


「……やれやれ、これで少しは"静か"になるといいんだがな」


 柚葉が呆れた顔をする。


「絶対、また次の事件に首を突っ込むくせに」


 神崎は笑って、コーヒーを飲む。


 ——名探偵・神崎蓮司の事件簿は、まだ終わらない。


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