(パリス離宮)2
離宮は上辺は静かだった。
しかし地下は違った。
バラクーダ帝国の諜報員二名を捕らえていたので、
厳重な警戒が為されていた
その二名は地下一階と地下二階に分けて拘禁され、
朝昼晩関係なく取り調べを受けていた。
当然、拷問一択。
元は離宮であるが、何故か拷問道具には事欠かなかった。
国産だけでなく、輸入品も満遍なく揃っていた。
取り調べを行う側にとっては選り取り見取りの環境にあった。
運の悪い二名は取り調べの度に失神した。
それでも、治癒魔法の使い手が同席していたので、
死ぬ心配だけはない、とのこと。
律子と裕子先生はベランダでビールを飲んでいた。
今晩の肴は、警備隊から提出された報告書。
捕らえた帝国諜報員の取り調べ結果だ。
王国内にて活動中であった彼等は、召喚のことを耳にした。
帝国諜報員としては聞き逃せない事案。
早速調査した。
事実であった
召喚された者達がこの離宮に移された、そう知った彼等は、
検討の結果、断崖絶壁から忍び込むことにした。
で、三名水死で二名が捕まった。
律子と裕子先生には、しょうもないことであった。
「裕子先生、捕らえた二名は近衛騎士団に引き渡しますね。
色々と調べたいことがあるそうなので」
離宮の警備隊は事実上、律子の指揮下にあった。
王国宮廷からは独立した組織となっていた。
当然、人事もお給金等も離宮が取り扱っていた。
そのせいで、取り調べは偏った。
何故この離宮に忍び込もうとしたか、それ一辺倒。
他のことは、お座なりにされた。
それに不満を持った近衛騎士団から引き取り要請が来た。
「良いわよ、私達の手に余るもの。
警備隊の子達に任せっきりだったから、相当疲れているでしょう。
そろそろ休ませてあげたら」
離宮の主要部門の長は律子がテイムしたので、我が子も同然。
同じくテイムした国王や宰相、大枢機卿などは、
律子にとっては便利な他人でしかない。
律子と裕子先生は離宮の共同代表で、役割を分担していた。
子供達のことは別にして、離宮の内は裕子先生、外は律子と。
近衛騎士団が帝国諜報員二名を引き取った翌日、
律子は文字通り、外へ出た。
離宮領地の視察だ。
範囲は王都から離宮へ通じる街道、離宮街道に沿った町村。
町四ヵ所と村七ヵ所がそうであった。
数が少ないと思われがちだが、村七ヵ所が小麦の大生産地で、
伯爵クラスの税収を得ていた。
貴族の領地は、遠隔地だと代官が常駐するのが当たり前だが、
近郊の場合は大抵は領主自らが赴く、と聞いた。
離宮領地の場合は足を運ぶ、その一択しかなかった。
慣例として二ヶ月に一度、視察した。
十一ヵ所なので、日数がかかった。
なおざりな仕事は律子の性に合わないので、
一日に二ヵ所、都合六日とした。
今回も箱馬車一輌、騎士十名。
間近いということもあり小編成にした。
町村には魔物に備えて離宮から兵士も派遣されていたので、
警備体制に不備はなかった。
律子が離宮に入ってから視察は三度目であった。
一度目は酷い対応をされた。
政とは無縁の町村長ばかりなので、彼等にぞんざいに扱われた。
彼等は王妃でも側妃でもない律子を軽く見ていた。
その態度に、律子は困惑した。
召喚された、とは口にし難かった。
それでも彼等の正当なる領主。
二度目の時、町村長十一名をテイムした。
三度目の今回、テイムの成果が見えると心弾ませた。
最初の村では村長の案内で農地を見回った。
「律子様、ご覧ください」
一面が小麦畑。
良く育っていて、豊作が予想された。
「去年を知らないから、如何ほどなのか分からないの。
でも見るからに、大豊作よね」
「そうなのです。
去年もそうでしたが、今年はそれ以上になりそうです」
律子は二度目の視察の帰りに、誰にも内緒で、
各村々の農地に【聖女魔法超級】で《祝福》を施した。
小麦にではなく土壌にだ。
土壌の活性化を意識した。
勿論、全力ではない。
程々にした。
その結果だろう。
にしても、効果が凄い、わね。
四つの町では【聖女魔法超級】の《リフレッシユ》を施した。
衛生面を意識した。
毒や病原菌、穢れの除去。
これまた全力ではない。
程々にした。
今回の視察でその効果を視た。
一目瞭然、多くの町民の顔色が良い。
身体の動きも問題はない。
しかし、それだけでは駄目なのだ。
村と町は違う。
季節単位で収穫できる農産物の村に対し、
町は長い研究開発の必要な商工業。
律子は四名の町長に特産物の開発を指示した。
直ぐに対応できるとは思わないので長い目で見ることにした。
長い目で見ても、その進捗状況の確認は必要。
それぞれの町長や部課長と会合を持った際、
尻を叩くというより、やんわり相談に乗る感じを意識し、
意見を交わした。
律子は離宮に戻ると執務室に入った。
裕子先生が出迎えてくれた。
「お帰り、どうだったの」
「順調も順調、怖いくらい」
視察であった一切を事細かく裕子先生に説明した。
咀嚼して頷く裕子先生。
「村も町も取り込んだ訳ね。
これで周りはこちらの物、と」
「ええ、子供達の為の環境は揃えたわ。
後は、日本に帰還する為の転移魔法の研究だけ。
それが一番の問題なのよね」
「転移魔法の研究の手掛かりは」
「テイムしてるとはいえ、魔法師団や神殿は信用ならないわ。
だから、うちの者達に転移魔法関連の書物を探させてるの。
金に糸目を付けずに、ね」




