(アモン第一王子)1
王都ロンドーンやパリス離宮があるのはボルトノブス州。
そこから遠く離れた西方、カンディアナ州。
そこはピエール・ジュ・アナン辺境伯が治める地で、
バラクーダ帝国やファウラ神国と接する要衝であった。
その州都コロッサに第一王子が滞在していた。
アモン・バーク・ブラシア。
その滞在は半年に及ぼうとしていた。
理由はバラクーダ帝国にあった。
帝国がファウラ神国に侵攻する動きを見せていたからだ。
それを牽制する為に、アモンは軍と共に国境に派遣された。
帝国が神国へ侵攻すれば、アモンが軍を率いて帝国へ侵攻する、
その姿勢を明確にしていた。
この牽制が効いたのか、今のところ帝国が侵攻する気配はない。
王都からの使番がアモンを訪れたのは三ヶ月前。
使番は書状を携えていた。
それにより、アモンは初めて召喚が行われたことを知った。
予想だにせぬことであった。
魔王討伐が目的での召喚なのだそうだ。
それが解せなかった。
確かに魔王は脅威だが、直ぐにも攻めて来る訳ではない。
魔王国は東方にあり、我が国との間には二ヶ国があり、
その二ヶ国が共同して戦っていた。
戦況が悪いとは聞いていない。
問題は、使番が母の実家の騎士であったこと。
肝心の実父、国王からは何の知らせもない。
宰相からもだ。
アモンはそれに疑問を感じた。
同時に疎外感を抱いた。
アモンは第一王子で、母は王の正室。
なのにこの年齢、二十歳になっても立太子の話がない。
その為に口さがない連中が陰で噂していた。
国王様が愛しておられるのは第一側室のキャロル様。
その方のお産みになった第三王子様が王太子に立てられる、と。
第一王子と第二王子は、第三王子派閥に目の敵にされていた。
アモンは自分が置かれた状況はさておき、
召喚の理由に疑問を抱いた。
我が国において最優先の課題は魔王ではなかった。
南部の治水であり、帝国の動向であった。
それを後回しにしての召喚とは、一体なにごと。
不信感を覚えた。
召喚には贄を必要とした。
数は百名を超えるそうだ。
彼等から強奪した魔力と血で魔法陣を起動する。
為に、当時の国王が嫌悪感に苛まれ、二百年前に禁止した。
それが何故、今・・・。
不信感をより一層募らせた。
危惧するのはファウラ神国の存在。
創造神を奉ずる神殿が信徒と共に築いた宗教国家であった。
神殿の主は創造神で、信徒の第一位にある法王が代行として、
国家運営を担っていた。
第二位が大枢機卿、ユセフ・ラ・サルバド。
その大枢機卿が召喚の儀式に参加していた。
実家よりの書状によると、召喚の魔法陣を主導したのは王国側。
魔法師団の団長を長とする胡散臭い連中が魔法陣を描いた。
その魔法陣に誤りがないか、監修したのは大枢機卿その人。
疑えばキリがない。
が、どうしても疑ってしまう。
帝国は大国で、領土面積や人口、経済力を比べると、
我が国と神国が共同しても適わない。
押し返すだけなら未だしも、帝国奥深くへは入れない。
そこで画策したのが、召喚・・・ではないのか。
アモンは悩んだ末、軍の幕僚や辺境伯にも相談し、
召喚が行われた理由を探らせる為に、
護衛騎士の中より選りすぐりの三名を王都へ密かに派遣した。
母の実家が推薦した者達により編成された護衛騎士隊であるので、
忠誠心には信頼が置けた。
勿論、武に関しても同様であった。
その彼等が王都より戻って来た。
アモンは幕僚や辺境伯等を招いて報告を聞いた。
それで事態が明らかになった。
聞いて、ただただ呆れるばかり、
召喚されたのは年端も行かぬ子供が多かった。
五才児が三十二名。
成人女性が二名。
計三十四名、揃ってスキル持ちだが、勇者と賢者はいなかった。
成人女性のうちの若い方が、女神さまのご加護を受けた聖女様で、
破格の【聖女魔法超級】の持ち主。
もう一人の中年女性は、元の世界では聖女様の上司。
スキルは【光魔法上級】。
どちらも前線で戦うスキル持ちではなかった。
彼女達の保護下の子供達もスキルを得ていたが、
十才になるまで魔法は控える、それが常識だった。
幼児期の魔法行使は心身に異常をきたす例が多いので、
昔からそうなっていた。
だから五才児三十二名も当分戦力とは成り得ない。
アモンは溜息を付いた。
王都から戻って来た三名に尋ねた。
「分かった、他には」
「召喚された方々にパリス離宮が譲渡されました」
「えっ、譲渡と申したか」
「はい、譲渡されました」
「ありえん、離宮だぞ」
離宮の面積は広い。
王都から通じる街道や、両側の町や村もそう。
離宮に含まれていた。
町や村から徴収する税で離宮の費用が賄われた。
早い話、伯爵クラスの領地と言っても過言ではなかった。
召喚された者達の処遇についての説明が続いた。
離宮だけではなかった。
一時金、そして年間予算枠。
何れも聖女様からの要求であった。
離宮を含めると要求はたったの三つであった。
が、金食い虫であった。
それを国王も宰相も抵抗する事なく受け入れたという。
驚きの連続で皆して口が重くなった。
辺境伯が何気なく言う。
「その聖女様に魅了されてるのかも知れんな」
魅了はスキルの一つだ。
単独のスキルなのか、何かの付属なのか、それは分からない。
ただ、魅了の存在は知れ渡っていた。
アモンは戻って来た護衛騎士三名に尋ねた。
「どうだ、魅了か」
一人が首を横にした。
「ご実家の方々とも話し合いましたところ、
その中に鑑定スキル持ちがおりました。
その者が、宮廷で陛下や宰相殿に間近に接した際、
魅了が付けられてないかどうか調べたそうです」
「魅了があったのか」
「いいえ、何も見つけられなかった、そう申しておりました」
アモンはブルース・バーク・ブラシアに書状を送ることにした。
ブルースは第二王子で、第二側室の子。
アモンと仲が良い訳ではないが、
ブルースも第三王子とは対立関係にあった。
そこで、敵の敵は味方ということもあり、緩く提携していた。
第三王子派閥に知られてはならぬので秘密裏に送った。




