後編。
気付くと、この場で皆のスキルを確認する流れになった。
神殿からの魔道具が持ち出された。
園児全員が集められ、魔道具の前に並ばされた。
裕子先生と律子も最後尾に並んだ。
律子は誰とも会話せず、スキルを起動した。
この場に臨む王国関係者全員を《サーチ》。
何をするにも必要不可欠なのは事前情報。
知ってて損はない。
魔法を含めて色々なスキルがあるが、
そのスキルランクはたったの五つ。
初級、中級、上級、特級、超級。
人は上級まで。
それより上は人を超えた者のみ。
律子は普通ではなかった。
軽く人を超えていた。
それは女神様の意向なのだろうか。
園児達の雰囲気が変わった。
大人の話を聞いてないと思ったが、違ったらしい。
アニメの影響なのだろう。
スキルに興味津々。
「「「すきるってなーに」」」
「「「あにめのおはなしよ」」」
「「「はめはめはー」」」
「「「しょゆーけん」」」
ふざけて取っ組み合い。
並んだ列が乱れた。
一人一人、水晶玉に似た魔道具に手の平を押し当てた。
魔道具を操作していた司祭がスキルを読み上げた。
「土魔法初級です」
「剣術初級です」
「料理初級です」
司祭が付け加えた。
「誰でも最初は初級です。
鍛えて魔物を討伐すれば、直ぐに上がりますよ」
えっ、えー。
園児に鍛えて、討伐しろと。
聞いた園児達が納得したのか、しないのか、それは分からない。
終えた園児達が再び勝手に騒ぎ始めた。
スキルを忘れてペチャクチャペチャクチャ。
まるで、おばちゃん達の溜り場。
律子のお尻に衝撃が走った。
「かんちょうー」
男児、れん君が走り去った。
裕子先生がクスクス笑った。
「本当に子供達に愛されてるのね。
おばちゃんのお尻は駄目なのかしらね」
壇上では国王陛下とグロスがコソコソ話し合っていた。
召喚に成功したものの、園児達出現に困惑しているのは確か。
そこへ一人の近衛騎士が加わった。
《サーチ》に国王陛下、プッチー・ボボ・ブラシアと表示された。
園児達全員が終わった。
勇者も賢者も聖女もいなかった。
裕子先生の番になった。
厭々ながら魔道具に手の平を押し当てた。
司祭が読み上げた。
「おおっ、光魔法上級です」
聞いた裕子先生は微妙な表情。
たぶん、成り行きに流されている自分が情けないのだろう。
律子の番が来た。
律子は《偽装》を起動して、魔道具に干渉しようとした。
一手遅かった。
司祭がスキルを読み上げた。
「おおっ、女神さまのご加護、聖女様です」
ホールが静かになった。
壇上の者達だけでなく、園児達も聖女出現に驚いていた。
「「「りっちゃんせんせー」」」
「「「めがみさまのごかご」」」
「「「すっげー、せいじょさま」」」
その聖女様のスカートが捲り上げられた。
「ぴんくはっけん」
女児、さっちゃんが走り去った。
司祭がさっちゃんを見送りながら、顔を赤らめて律子に勧めた。
「聖女様、あちらの国王陛下へご挨拶を」
聞いた途端、律子の中の何かが切れた。
プッツン。
律子は国王陛下を無視した。
壇上の一人に呼び掛けた。
「神殿のユセフ・ラ・サルバド大枢機卿に尋ねます。
聖女とは国王陛下と並び立つ者ですか、それとも上ですか、
それとも下なのですか」
そう、聖女様は偉いのです。
神殿の法王様、教会の教皇様、その二人は聖女様に跪く。
そして、その二人は国王陛下と並び立つ。
大枢機卿は困惑し、思わず左右を見た。
誰も大枢機卿とは顔を合わせない。
中には露骨に顔を逸らす者もいた。
律子は更に大枢機卿に尋ねた。
「召喚と言いますが、これは明らかに拉致でしょう。
許せない犯罪でしょう。
神殿もそれに加担しているのですか」
大枢機卿は顔を強張らせた。
やがて真っ青になり、脂汗を垂らし、身体を震わせた。
今にも倒れそう。
それを両脇から神殿の司祭が支えた。
司祭二人は支えても、助言はしない。
この場に相応しい言葉が思い浮かばないのだろう。
律子は敢えて壇上を指し示し、喧嘩を売った。
「あなた方は皆揃って犯罪者でしょう」
国王陛下の影武者が口を大きく開いた。
「何を申す、無礼者、その者をひっ捕らえい」
近衛騎士五名が飛び降りて来た。
予期していた律子は、即座にスキルを起動した。
【聖女魔法超級】《バリア》。
半円をイメージして二重に張った。
聖女に攻撃魔法はないが、身だけなら幾らでも守れる。
バリアが張られているとも知らず、
五名の護衛騎士が聖女を捕えんとして、
勢いのまま駆け寄って来た。
押さえつけて捕えようというのだろう。
五つの手が延びて来た。
バリアに弾き返された。
手だけにとどまらない。
勢いのまま突っ込んだので、身体までもが弾き返される始末。
衝突して痛めたのか、五人が揃って床に転がり、呻いた。
律子は裕子先生に頼んだ。
「私が戦います。
裕子先生は子供達を集めて下さい」
「何を遣ったのか分からないけど、あれは律子先生のスキルよね」
「ええ、スキルです。
任せてください、私強いので」
「分かったわ、子供達は任せて」
裕子先生が園児達を呼び掛けた。
「みんな、あつまれー」
国王陛下の影武者が壇上の魔法使い達に命じた。
「あれを魔法で拘束しろ」
グロスが諫めた。
「それですと召喚した者達にも被害が及びます」
影武者はグロスを睨むが、口にはしない。
本物の国王陛下が至極当然のように二人に小声で言う。
「やってしまえ。
役立たずの子供ばかりだ、違うか。
・・・。
勇者と賢者が欠けている上、聖女はあれだ。
生き残った者は肉壁に育て上げろ」
女神様のご加護の影響か、
律子の身体能力が底上げされていた。
国王陛下の声がしっかり聞こえた。
許せない。
許せない。
絶対に許せない。
裕子先生と集まった園児達をバリアで囲った。
念の為、三重にした。
園児達には凄惨な場面は見せたくない。
特に流血。
少々工夫がいる。
裕子先生に説明した。
「子供達に見せたくないので、バリアを白くします」
バリアは完璧だが、肝心の攻撃魔法がない。
それでも諦めない。
諦めたらそこで終わる。
だったら工夫しろ、工夫しろ。
スキルを深堀、発掘。
結果、見つけた。
《テイム》。
対象は魔物や獣等だそうだ。
等・・・って。
人が駄目とは表示されてない。
人は高尚なものではない。
獣とは同列・・・。
だったら、テイムできるはず。
そうよね、女神さま。
律子は国王陛下、プッチーをロックオンした。
ついで魔法師団長、グロスもロックオン。
МPに余裕が有った。
三人目は大司教、ユセフも。
それでもまだまだ余裕。
《サーチ》で目安をつけ、適度な数をロックオンした。
えーと、まだ余裕があるわね。
МPどんだけー。
国王陛下が次の行動に移る前に《テイム》をGo。
GoGoGo。
ロックオンした連中が膝から崩れ落ちた。
それを見て律子は効果の確認を行った。
「その場に跪きなさい」
全員が一斉に跪いた。
国王、宰相、侍従長、魔法師団長、神殿大枢機卿・・・。
王国の主要人物だけでなく、中堅どころも跪いた。
それを見て、テイムされなかった者達から悲鳴が上がった。
律子はそれだけでは安心しない。
《サーチ》で念を入れた。
一人一人を視た。
テイムは成功していた。
裕子先生に報告した。
「テイムに成功しました」
「えっ、と、テイム・・・、人間を。
お手とか、お座りよね」
「ええ、そのテイムです。
生憎、可愛くない人間ばかりですけど」
「人間をテイムできたのね」
そんな律子のお尻に再びの衝撃。
「かんちょうー」
またも、れん君だった。
その、れん君が抜いた指を嗅いだ。
裕子先生が呟いた。
「ハーレムでも作るのかしら」
それが律子に聞こえた。
「臭そうなハーレムは御免被ります」
※
足立リンゴ~ン幼稚園にゃんこ組(年長組)。
裕子先生。
律子先生。
園児、三十二人。