表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

お料理企画参加作品

2つの“好き”が1つに!

作者: 城河 ゆう

 秋。


 食欲の秋。


 暑さによって減衰していた食欲も戻って来て、食事が楽しくなる季節。



 そんな、素晴らしく気分がアガるこの季節に、私はとある隠れ家的ラーメン屋に来てーー



「はぁぁ!? 麺だけでなく舌にまで絡み付き、いつまでも口内を蹂躙し続ける美味しさの暴力! 濃厚な豚骨スープによる味覚への侵略こそ皇帝たる証よ!」

「ふん! 多種多様な素材の出汁を見事に調和させた黄金スープ! 麺だけでなくトッピングすらも引き立てる塩は、平和を願う女王と言っても過言じゃねぇ!」





「「ーーぁ゛ぁ゛ん!?」」





 

 ーーテーブルを挟んで向かいに座る、目付きが悪いガテン系の兄ちゃんとガンを飛ばし合っていた。


 コイツと出会ったのは、会社近くの定食屋で昼食を食べていた時。


 あの時も今と同じように、食へのこだわりと言うか、好みが真っ向から対立した。



 でもーー



「確かに、アンタが教えてくれたお店のオムライスは美味しかったけど、それとこれとは話が違うわ!」

「こっちの台詞だ。 お前から聞いた店のパエリアは確かに旨かったが、ここの一番は譲れねぇ!」



 ーーコイツの舌が確かなのも間違いじゃないんだよねぇ。



 行きつけにしている色々な店で度々遭遇する内に、連絡先を交換して譲れない一品を互いに教え合うようになったのだが、今のところ外れがないーーどころか、私の“1位”が脅かされるようなモノがあったのも事実だ。


 なので、そういう意味では信用もしているが、だからと言ってーー


「「ぐぬぬぬぬーー」」


 ーー互いに“自分の一番”を相手に認めさせたいのも事実なので、毎回メンチを切り合っているわけである。


「まぁまぁお二人さん、そんなあんたらにピッタリのメニューがあるから、挑戦してみないか?」

「「ーー挑戦?」」


 一向に注文まで辿り着かない私達を見かねたのか、店主が1枚のポップを手に声をかけてきた。


「おぅ! 限定メニューの塩豚骨ラーメンだ」

「……塩ーー」

「……豚骨ーー」


 まさかの、私達二人の主張を合わせたメニューに、思わず店主が持つポップに視線が向く。


【濃厚豚骨と、さっぱり塩の究極コラボ!】

【シェアして食べるのにピッタリなビッグサイズ!】

【カップル限定メニュー】

【時間内に食べきったら半額!】


 なるほどなるほど。


 見間違いかと思い、目頭を摘まんでグリグリした後、再びそこ(・・)に視線を戻したがーー


【カップル限定メニュー】


 ーーうん……見間違いじゃなかった。


「「いや誰がカップルだ!」」

「息ピッタリじゃない。 それに塩豚骨、興味ない?」


 店主にそう言われて、向かいに座るアイツとアイコンタクト。


 ーーどうする?


 ーー気になるよね?


 ーー仕方ない、ここは協力だ。


「……じゃあ、塩豚骨お願いします」

「はいよ!」


 頷き合った後注文をすると、店主はめちゃくちゃ良い笑顔にサムズアップで厨房へと消えて行った。


 少々早まった気がしなくもないが、それだけで限定メニューが食べられるのなら、と無理矢理納得する。


 そしてしばらくの後、遂に待ちに待ったラーメンが到着した。





「匂いは豚骨寄り、なのかな?」

「あぁ……でも、しっかり鰹出汁の香りもするな」


 どちらからともなく、取り分け用の器によそって、まずはスープを1口。



 ーーーーーー!!? 



 一瞬で口一杯に広がった濃厚でガツンと来る豚骨の旨味はそのままに、驚く程サラッとしたのどごしに思わず目を見開いた。


「え……やば……ぅんま」

「……コレ……マジかよ」


 揃って語彙力を失った私達を、厨房の奥からドヤ顔の店主が覗いているが、これならドヤ顔も許されると言うもの。


 濃厚な豚骨特有のしっかりと麺に絡むスープが、麺を啜るたびに口中に行き渡る様にじんわりと幸せが広がっていくのだ。


 しかもーー


 濃厚な豚骨。


 あっさりした出汁。


 歯切れよくコシのある麺。


 トッピングされた半熟卵も……

 チャーシューも……

 メンマも……

 ネ ギ す ら も !


 すべての要素をキレイに1つの作品として纏め上げている塩の風味!


 決して激しい主張をせず、それでいて明確に“無くてはならない”と思わせる存在感は、もはやオーケストラの指揮者を彷彿とさせた。


「ゴメン……私が間違ってた……こんなにも色んな味を纏めるなんて、塩って偉大だわ……」

「俺の方こそスマン……豚骨が、こんなにも全体の旨さを引き出すなんて知らなかった……」


 塩ラーメンは嫌いじゃない。


 でも、一番になれる程のポテンシャルはないと思っていたのだ



 それが間違いだったとーー


 すべての要素は主役になり得るのだとーー


 思い知らされた。


 私達は、お互いの好みに固執するあまり、広い世界を見落としていたのかもしれない。


 そう思ったら、自然と互いの右手を差し出していた。


 そのまま無言で握手する私達に、何故か周囲から拍手が巻き起こる。


「さぁ、伸びちゃう前に食べよ」

「あぁ! 最後まで美味しく食うのが礼儀だ」


 そうして、3人前はあるかと思わせる特大の器をしっかり空にした私達は、観客と化した他の客達に見送られながら、満足気に帰路へとつくのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
しいな ここみ様のレビューからこちらに・・なんということでしょう!?、こんな美味しい、いや、楽しい作品があるとは!?Σ(・□・;) ふたりの掛け合い、周囲の人々、名前だけですがオムライス&パエリアも…
しょう油と豚骨は好きです。 塩も味噌も好きです。結局どれも好きです。 でも一番はしょう油……なんて思っていましたが思わず食べたくなりました( ´∀` ) もうね、自分の一番を分かってほしいとかそれ…
∀・)ラーメン屋ネタの恋愛小説でしたね。だけども城河さんらしいポップな感じが唯一無二といいますか(笑)楽しませて貰いました(笑)ラーメンがキッカケの恋もあるんだな☆☆☆彡
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ