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【完結】Re:LIGHT  作者: アレテマス
第二幕
88/150

40話【責任の譲渡】


AM10:40 Sunna 撮影スタジオ


カメラマン

「オッケーでーす!一旦チェックしまーす!」



 ここはSunnaの撮影スタジオ。早朝よりSunnaから出版している公式のファッション誌に載せるコーデの撮影が行われていた。


 そして今、撮られていたのは春香だった。聡のアレンジによって全身文句なしのオシャレに変身した春香は、自信に満ちた表情で、指示されたポーズを華麗に決めていく。


 Sunnaが次期アイコンとして任命してからは、彼女の努力は一層強まり、モデルとして順調にキャリアを積んでいっている。


 仕事のオファーも増えていき、テレビにも出演。その明るさが買われバラエティや街歩き番組をメインに、自身がアピールしていた【ハルちゃん】は人々にも認知されていき、モデルやスタコレに興味がない、外部の人間からも【Sunnaの大型新人】として人気を集めるのであった。


 しかし、これだけ努力をしようと【パーフェクトモデル】の領域にほんの少しも入り込めてない事を彼女は理解していた。あの人なら、もっと上手くポーズを

キメれる。テレビでの自分の魅せ方も、もっと上手いと。憧れは憧れのまま、まだまだ見上げているだけなのだと彼女は思うのだった。


 春香は椅子に座り込むと彼女の周りには聡を含めた複数人のスタッフが集まり、聡によるメイク直しや、汗を代わりにスタッフがタオルで拭いてくれたりする。この間は動けないので、春香は静かに目を閉じて、昨日の双葉とのやり取りを振り返った。


•••••••••

•••


春香

「それは…本当ですか?双葉さん」


双葉

「うん」


ジュリ

「……」



 夜中の22時。聡の屋敷の二階のベランダにて三人は話をしている最中であった。都会から離れたこの場所は、深夜になると音もなく静まり返り、いつもの聞き慣れた賑やかな街の音は何処にもない。空には広がる星々と月が輝きに満ちていた。


 そんな中で双葉は手摺に凭れて、今後について二人に語っていたのだ。双葉が大江戸タワーで呟いた【本当の愛】の真実も伝えられ、彼女は改めて優しい人間だと再認識する。しかし、



モデルにはもう戻らない事


これからは黒木と静かに生きていく事



この二点が春香の表情を暗くさせている。隣に立つジュリも、双葉がこの選択をする理由を何となく察してはいたが、受け入れたくはないと良い表情ではなかった。


双葉は煌めく星空を見上げ、二人に話しかける。


双葉

「今話したようにね、私にとっては本当の愛を知りたくて、この業界に入ったようなものだったからさ。黒木さんがそれを叶えてくれるのなら、もう残る理由はないんだよね」


双葉

「これからは黒木さんと過ごす毎日のことだけを考えていきたいかな?()の人の【趣味探し】もまだ完結してないし、とりあえずは…」


春香

「…そんな事ないです!!」


彼女の考えを否定するように春香が声を荒げる。憧れの人の考えを尊重を捨て、初めて否定してしまった。しかし、それ程譲れない想いが春香にもあるのだ。


春香

「私も!それに双葉さんのファンも!貴方の帰りを今も待ってくれているんですよ!?その人達は!置いていかれる人達はどうなるんですか!?」


ジュリ

「春香先輩…」


彼女の言葉は正論だ。双葉の選択というのは、今まで応援してくれていた全員を【完全】に裏切る選択となる。だが、それは双葉も分かっているのである。星を見上げるのを止めて、春香の方へと顔を向け眉を下げて微笑む。


双葉

「きっと、私の我儘を許してくれない人もいると思う。でも、もう決めたことだから。…それに、私がこの業界に居なくても、大丈夫だと思ってるんだよ」


春香

「え…?」


双葉

「社長から色々と聞いたんだけどさ、今ってスタコレのTOP4がこの業界を引っ張ってくれてるんだよね?それってさ、私が【パーフェクトモデル】だった時のように、きっと誰かの光になっていると思うんだ」


双葉

「私が居なくても大丈夫だって分かってるから、もう戻らないって決めたんだ。きっと、この先も【パーフェクトモデル】を超える人だって現れる。私は、その先を見守る側で居たい…そんな感じかな?」


手摺に凭れている体を起こし、春香とジュリの前に来ると二人を纏めて抱き締める。


双葉

「それと私は春香ちゃんとジュリちゃんにも期待してるんだよ?二人ともすっごく綺麗だしとっても良い子だから、絶対に上手くやっていける」


ジュリ

「ハハ…自分が退職した身だからって、適当に言ってるんじゃないですか?」


双葉

「あははっ、また嘘ついてるって思われてるのかな?でも、これは本当の気持ちだから素直に聞いてほしいな」


双葉

「二人は、私を受け入れてくれる大好きな後輩だから。私は外野になっちゃうけど、ずっと応援してるからね」


ジュリ

「まぁ…後は任せてくださいよ。私は私なりにやってみせますから」


春香

「……」


そう言って双葉は二人の背中を優しく撫でる。ジュリは静かに頷いて抱き返すも、春香は浮かない顔のまま抱き返す事はなかった。


•••

••••••


 【パーフェクトモデル】は戻って来ると思っていた。突然何の前情報もなく、唐突にファンの前に現れては笑顔で『ただいまっ』と言って大歓声確定のサプライズをする。それが【パーフェクトモデル】というものだと信じていた。


 【パーフェクトモデル】が帰って来るなら再び人々は彼女の活躍に目を向けるだろう。そうなれば、私も【パーフェクトモデル】の代わりになるという大きなプレッシャーから解放される。


 だが、その選択を双葉は否定した。それはつまり、今後も【パーフェクトモデル】の代わりとして努力をしなければならない事が確定したのである。私がここまで努力を続けられたのは、いつか双葉が帰って来ると信じていたからだ。その願いが途絶えた今、私はどうなるのだろう。



双葉に、大好きな人に、もう甘えるのは許されない。



 春香の内に秘めたプレッシャーの圧は強さを増していく。内心の焦りと不安が混ざり合い、今にも誰かに弱音を吐き出したかった。きっと聡やKENGOになら吐き出せるのかもしれないが、言ったところで解決出来るかとなれば、それは違うのだと春香は分かっていた。会社のアイコンとして期待されている以上、弱音を言うわけにもいかない。


 だが、それと同時に双葉に期待されている事が、幸いにも彼女の心の支えとなっている。大切な人が無事だった事、そして大切な人に愛されている事、その二つが分かっただけでも少しは気が楽になる。


 双葉は変わろうとしている。そして、後輩のジュリも。何も変わっていないままなのは自分だけだ。彼女に託された想いに応えるべく、気を強く保とうと意識をしていく。


春香

(双葉さんに期待されているんだ…もっと貴方に近づけるように磨かないと…)


「ハルちゃん?」


春香

「…えっ?」


目を開けるとメイクは既に完了していたようで、周りのスタッフも離れて待機をしている。聡は春香の正面に腕を組んで立ち、心配そうにこちらを見ていた。


「大丈夫?何だか険しい顔をしてたように見えるわよん?」


春香

「だ、大丈夫です!大丈夫!そーだ!写りが良かったのか私も見てきますね!」


元気なフリをして誤魔化し、椅子から立ち上がると写真のチェックをしているカメラマンの元へと向かった。彼女を心配しているのは聡だけではない。周りにいるスタッフさえも不安そうにしている。


スタッフ

「ハルちゃん…大丈夫ですかね?」


「……」


他のスタッフにも元気に対応している春香の姿を、聡はじっと見つめるのであった。


………


AM11:00 聡の屋敷


双葉

「……」


クーラーが効いた寝室。胎児のように身を丸くして寝ていた双葉がゆっくりと目を開ける。昨夜、この視線の先には黒木が寝ていたがもう居ない。今日も自分を起こさずに朝から働きに出掛けたのだろう。


 体を起こしてベッドから降りる。寝室から出ると、昨日のパーティーの跡が放置されたままだった。そんな散らかった居間の中に、黒木が作ったであろう朝食のセットがラップに包まれ丁寧に机の上へと置かれている。


 目玉焼きトースト。シンプルでありながら彼が自分の為に用意してくれた朝食。ラップを丁寧に剥がし、隣に置かれている紙切れの


【おはようございます。良かったら食べてください】


と書かれた文字に目を通す。椅子に座り、すっかり冷めたパンをゆっくりと食べていく。拘った調理ではないが、双葉には極上の味がした。


 芸能界に関わっていた頃は、大御所の付き合いで高級料理店で食事をする機会が多かったが、どの料理よりも、今こうして口にしている普通のパンの方が旨い。双葉の【愛】に対する強い想いの補正が、美味しいと感じるのを強めているのである。


 そして、【普通】のパンを口にする事でもう一つ実感が湧いてくる。カロリー、美容、時間を気にせず食べるこの時間。自分は今【パーフェクトモデル】ではなく【普通の人間】に戻ったのだ。


 一般人にとって、何も特別な時間ではないこの瞬間も、双葉にとってはとても珍しい時間。自ら【パーフェクトモデル】を捨ててから半年は経っていたが、ここにきて【一般人】に戻れたのだと実感が湧く。何故今更なのか、それはきっとここまでそう感じられない程、心に余裕がなかったのだろう。


 朝食を食べ終えるまでに色々と考えさせられる事が多かった。静かに手を合わせ『ご馳走様でした』と呟くと、食べ終えた食器をキッチンシンクに持っていき、他の放置されたままの食器も集めて一気に洗い片付ける。


 とは言え、双葉自身の生活は細田が管理していた事も多く、食器の洗い方も其れ程丁寧なものではなかった。中途半端に洗い、中途半端に布巾で拭いて、やりきった顔をする。そこに【完璧】など、一つもない。


 だが、もう【完璧】は必要ない。彼女は【普通】として一歩ずつ進み出している。双葉は少しずつと、平穏を取り戻していっているのだ。


 片付けも済ませ、双葉はソファに寛ぐように座る。肩の力を抜いて足をぶらぶらと揺らし、静かな時間を過ごす。マンションにいた頃と似たような境遇であるが、今は少しも悲しい思いはしていない。大好きな人の帰りを待つだけである。


 しかし、心に余裕が出来たからこそ退屈にも感じていた。スマホも壊れてからは買い直しておらず、暇つぶしも出来ない。無音の屋敷内で一人、数時間何もせず帰りを待たされるのも、あまり良い気分ではなかった。


双葉

「…よしっ」


揺らしていた足を止めて立ち上がり、寝室に向かいながら衣装を脱いでいく。


 マンションから持ってきた変装用の衣装。それもまだ身に付けた事のない夏の最新版。


白いキャップにボストンサングラス、ノースリーブの白サマーニットと黒のスキニーパンツ。


 それは、彼女のスラッとした体のラインがハッキリと分かるコーデ。半年間、自己管理も放置していてもその磨き上げられたスタイルは少し足りとも崩れてなどなかった。正に天性に恵まれた容姿なのである。


双葉は、鏡に映る自身の姿をじっと見る。


双葉

「うーん。これはバレちゃうかな?…まっ、大丈夫か」


そう独り言を呟く彼女は残りの準備を済ませ、屋敷から出て行くのであった。


………


PM13:13 スーパーリコリス


 昼休みも終えて黒木と高田はせっせと今日も働く。高田は昨日の双葉と出会えたのが余程嬉しかったのか、仕事中ずっと機嫌が良かった。そのおかげなのか、彼の仕事もいつに増して早くテキパキとこなしている。


 真面目に商品を棚に陳列していく黒木の反対側に立ち、彼はニコニコと話す。


高田

「いやー、昨日は最高の夜だったなぁ。すげー帰りたくなかったもん。マジ同棲出来てる黒木が羨ましいわー」


黒木

「ハハッ。双葉さんもだけど、高田は聡さんにも気に入られてたな」


高田

「そう!そうよ!初めはやべー人だと思ったけど、すっげー話が合う人で面白かった!また来ても良いなんて言われたし、早速今日にでも行こうかなー!?」


黒木

「うーん…双葉さんが良いって言ってくれるかな?連日で人が来るのは疲れるんじゃ…」


高田

「ハァーン?それはつまりイチャイチャすんのに俺が邪魔者だって言いたいのかぁーん?クロちゃんよぉ??」


黒木

「そ、そういうわけじゃ…」


やはり付き合っている事に対して彼は根に持っているようで、ネチネチと言いながら詰め寄ってくる。これには黒木も苦笑いするしかなかった。


 しかし、そんな楽しそうにしている彼らの横を通り過ぎた女性に、黒木は思わず振り返って目を向ける。彼が一人の客に興味を持つとは思えず、高田は不思議そうに彼に問い掛けた。


高田

「?どうした、黒木?」


彼は棚の商品を手に取って見ている女性の傍ら目をじっと見つめて言う。


黒木

「…あの人、双葉さんかもしれない」


高田

「ハァ!?いやいやいや!!ないないない!!双葉ちゃんが俺達の働いてる場所知ってるってか!?」


黒木

「以前に双葉さんと趣味探しをしてる間に話した事があったから……うん、間違いない。あの人は双葉さんだ」


高田

「いやまぁ確かにあのお客さんもスタイル良いけどよー。流石に二日連続俺の前に双葉ちゃんが現れるなんて……ちょっと、浮かれすぎじゃあありゃせんか黒木さん?」


黒木

「少し声をかけてくるよ」


高田

「お、おい?黒木さん??」


高田の話は無視して黒木は女性の元へ歩き出す。


 女性も黒木が向かってくる事に気付くと手に持っていた商品を棚へと戻し、彼の方へと体を向ける。


黒木

「…双葉さん、ですよね?」


「…ふふっ、一瞬でバレちゃったかー。やっぱり私って美のオーラでも溢れ出てるのかな?」


女性の正体は黒木の思った通り、双葉だった。彼女はサングラスを少しずらし青い瞳でウインクして舌を少し出す。


 ここに来るとは思ってもなかったので黒木も正体が分かると、他の人に気付かれていないか注意して慌てて見渡しだした。


黒木

「ええと…どうしてここに?」


双葉は笑顔で答える。


双葉

「黒木さんに会いたかったから♫」


黒木

「は、ハハ…」


率直な理由に黒木も思わず照れて笑うしかない。


双葉

「勿論それも理由なんだけど…私、よーく考えたら黒木さんの事全然知らないなって思って」


黒木

「…?」


双葉

「黒木さんは私のこと色々と知ったでしょ?どんな秘密を持ってるとか、凄く甘えたがりだとか…でも、私は黒木さんについて知らない事ばかりなんだよね。ここで働いているのは知ってたけど…どんな事をしてるかも分からなかったし」


黒木

「それで…その様子見って訳ですか?」


双葉

「せいかーい♫そして今日がその記念すべき第一弾!」


彼女は軽いノリで答える。今も双葉は元気なフリをしているだけなのだろうか。しかし彼女とのやり取りは、二人で趣味探しをしていた頃を思い出すような懐かしさも感じてくる。黒木は問い掛ける。


黒木

「それで……どうでしたか?」


双葉

「うん、カッコいい!重い物運んでる姿とか見てたけど、逞しくて良いね!」


黒木

「…ええと、一応聞きますけどいつから見てたんですか?」


双葉

「んー…もう一時間前ぐらい?」


黒木

「…おお…」


高田

「重いものなら俺もこうして運べますよ、双葉ちゃん」


遠くから双葉だと気付いた高田も華麗に荷物を運びながら合流してくる。


高田

「双葉ちゃん。またお会いできて光栄です」


双葉

「えーっと…誰だっけ?」


高田

「ズコーッ!!?」


双葉の言葉に盛大にズッコケる。超がつくほどのオーバーリアクションに双葉は笑った。


双葉

「アハハハ!冗談冗談!勿論覚えてるよ、高田さんだよね?」


高田

「いやー!双葉ちゃんに覚えられてるー!!夢じゃなーい!!」


彼は嬉しそうに燥いでいるが、側から見れば店の従業員が騒いでるように見えるので、他の客からはより目立ってしまう。流石に黒木もこれには焦り、高田の肩を掴んで抑えようとした。


黒木

「た、高田…頼む。落ち着いてくれ」


高田

「ハッ!そ、そうだった…今仕事中だったわ…それで、双葉ちゃんはイケメン彼氏君の観察ってわけですかい?」


双葉

「そゆこと〜♫カッコいいでしょ?私の彼氏?」


高田

「ええ、それはもう腹が煮え繰り返る程、羨ましくてカッコいいですわ」


黒木

「ふ、二人とも…」


ニヤニヤと話す二人に呆れて黒木は片手で頭を抑えて溜息を吐く。それでも双葉が楽しそうにしているのを見ていると、彼も自然と口角が上がっていた。


これがきっと【普通】へ戻る事なのだろう。


好きな人に会いに行って、好きな人と笑い合う。


人々にとって【当たり前】を体験できるのが、双葉は嬉しくて、楽しくて、とても堪らなかった。彼女は黒木の両手を握って笑顔で言う。


双葉

「長居しても迷惑だろうし、そろそろ行くね。黒木さん、お仕事頑張って♫聡ちゃんの家で待ってるから!」


黒木

「…はい」


彼は優しく微笑み頷く。それは嫉妬なのか社員としてなのか、店員と客がイチャつく光景に高田は無理矢理二人を引き離す。


高田

「はいはいはいはい黒木君仕事中ですからね?真面目にお願いしますよ?」


黒木

「あ、あぁごめん。双葉さん、今日は来てくれてありがとうございます。またあ…」


高田

「はーい行きますよー黒木さーん。双葉ちゃん、コイツのこと、これからもよろしくお願いします」


双葉

「はーい♫黒木さんまた後でねー」


高田に押され黒木はその場から離れていく。双葉は腕を上げて手を振り見送るのであった。


………


 場所は戻り撮影スタジオ。一通りの撮影は終わり、写真をPCを使用してカメラマンはチェックしていくが、今回の総監督であるディレクターはあまり納得していないようだった。


ディレクター

「うーん。全体的に悪くはないんだけど…ビビッと来るものがないなぁ」


カメラマン

「撮り直しますか?」


ディレクター

「いや、この後別の撮影も控えてる。今日は一旦これで終わりにして後日【リシュート】しよう」


カメラマン

「分かりました」


ディレクター

「ハルちゃん。またスケジュールが決まったら此方から連絡するよ」


春香

「はい…ありがとうございました。スタッフの皆さんもお疲れ様でした」


春香は礼儀良くスタッフにお辞儀をし終えると帰る支度を進める。


【リシュート】


撮影の結果が不十分であり、期待に沿わない場合に再度撮り直しを行う事。機材のトラブルの理由もあるが、写真の完成度に満足の出来ではない場合にも行われる。それは、モデルにとっては見せ方の実力不足と捉える者も多い。春香もその一人だ。


 双葉なら、【パーフェクトモデル】なら、リシュートなんて絶対にしない。この失態は【パーフェクトモデル】ではない。


「…あら?ハルちゃん?」


帰る支度を済ませた春香は逃げるようにスタジオを後にする。聡が声をかけようと出入り口で待機をしていたが、知らぬ間に彼女は居なくなっていた事に気が付いた。春香はコッソリともう一つの出口から出ていたのだ。


 優しい彼なら落ち込んだ自分に声をかけて励ますのだろうが、そんないつまでも甘やかされていては【パーフェクトモデル】の領域には辿り着かない。


春香

(私も…私も変わらないと…)


焦りと決意が混ざり合い、複雑な気持ちにさせる。


俯き気味に廊下を一人で歩くその背中は、誰にも頼ることが出来ない孤独な姿に見えるのだった。


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