39話【幸せになろうよ】後編
PM18:10 都内 駅前広場
リコリスでの仕事も終わり三人は其々一旦家に帰り、聡の屋敷へ向かう駅前で集合する事となった。
黒木にとっては二日ぶりにアパートに帰ってきたが、家具も少ないこの殺風景な部屋に懐かしさを感じることもなく、不要な荷物だけを置いて、聡の屋敷でお世話になる為の必要な荷物だけ取り替えて直ぐに出て行く。
集合時間は18時半。20分も早く集合場所となる駅前へと到着すると、既にジュリが駅の壁に凭れてスマホを触っていた。帰宅時間も相まって人が賑わう場所でも、彼女の独特なスタイルは遠くからでも一目で分かる。
ラフな格好でありながらも、黒い革ジャンを着こなし彼女のスタイルは全面に出ている。この数ヶ月の間で色々と感情を知れた黒木にも、ジュリが個性のあるカッコいいファッションをしているのは理解が出来た。彼は手を振りながら彼女の元へ早足で合流する。
黒木
「お待たせ、神田さん。早かったね」
彼の呼び声に反応してスマホをポケットに戻し、態とっぽく怠そうに振り返る。
ジュリ
「別に。今来たところですよ。ていうか黒木さんも早すぎでしょ?まだ集合時間から20分もありますよ」
黒木
「早く集合して悪い事はないからね。…そう言えば神田さんって……」
ジュリ
「…ハァ〜っ」
黒木
「…?」
突然彼女は頭を掻きながら大きな溜息を吐く。
ジュリ
「あのですね、黒木さん。前々から言おうと思ってたんですけど…いい加減【ジュリ】で呼んでくれませんか?」
黒木
「え?どうして?」
ジュリ
「どうしてって……いやまぁ、神田って本名で呼ぶ人の方が少ない……から?」
彼女の理由を聞いて、双葉と出逢った時のことを思い出す。
【木村】として変装していた彼女に本名である【桜井】を呼んだ時には、思いっきり吹き出して笑っていた。
今思えば、あの寒い日の街中で、双葉と出逢ってなければ、ここまで色々な経験や出逢いがなかったのかもしれない。そう思うと黒木は今この瞬間が嬉しくて、自然と笑みが溢れる。
ジュリ
「…何笑ってるんですか?」
黒木
「あっ、いや……何でもないよ。…わかった、今度からはジュリちゃんって呼ぶよ」
ジュリ
「そうそう、それでいいんです」
彼女は腕を組みフフーンと満足そうにしている。
そんな二人の元に、新たな人物が駆け寄ってきた。
春香
「ジュリちゃ〜ん!!」
次に来たのは春香だ。
ジュリ
「春香先輩も早いですね。そんなに早く双葉先輩に会い…」
ジュリは声のする春香の方へと振り返ると、思わずギョッとしてしまう。
まるで今から舞踏会にでも行くのかと突っ込みたくなるエレガントファッションに、メイクも何時間もかけたのだろうとバッチリと仕上がっているのだ。
そこはまだいい。問題なのはその見た目に反して両手には大きな手提げバッグを二つ握っていて、今から旅行でも行くのかという量を彼女はニコニコと持っていた。初対面である黒木も、見た目とバッグの量のギャップに思わず驚いている。
春香
「ごめーん!もっと早く着く予定だったんだけど、準備に遅れちゃって〜!」
ジュリ
「いや、あの……何ですかその荷物の量は?」
春香
「え?何って…今から双葉さんに会いに行くんだよね?えーっと、こっちの方は双葉さんの為に買った服とかコスメとか美容グッズで〜こっちは、夜更かしになっても大丈夫のように着替えとかボードゲームとかお菓子とか…」
ジュリ
「いや長居どころかめっちゃ泊まる気満々じゃないですか!?」
春香
「だってだって!!双葉さんに逢えるんだよ!?ずっと側にいたいじゃん!!」
ジュリ
「貴方明日も仕事あるでしょ!?お泊まり会してる場合じゃないから!」
春香
「ヒーン…!働きたくないよ〜…!」
黒木
「…あ、あの…」
置いてけぼりの黒木は燥ぐ二人に声を掛ける。春香は漸く黒木の存在に気付いて振り返った。
春香
「あっ、ごめんなさい!ええと、黒木さん…ですよね?初めまして!私、Sunnaでモデルをしている春香です!」
黒木
「俺のこと知ってるんですか?」
春香
「ジュリちゃんからここに集合する連絡をもらった時に教えてもらいました!えっと…双葉さんのお友達さんだってことも!」
黒木
「友達……?」
疑問を感じる黒木にジュリはじっと見てくる。この目、【空気を読め】と言いたいのだろう。一先ずは【友達】で通す事にする。
黒木
「はい、友達です」
春香
「私、ジュリちゃん以外で双葉さんのお友達と初めて会いました!あのあの!凄くカッコいいですね!やっぱり双葉さんのお友達も素敵な人が多いんだなって思いました!」
黒木
「は、はぁ…」
?
「そしてそんなカッコいい彼のお友達が、俺ってわけですよ」
黒木
「あっ」
聞き慣れた声がまた別の方から聞こえてくる。
三人は声のする方へと振り向くと、そこには真っ白のスーツジャケットに赤いシャツの白パンツ、ワックスでオールバックをキメた高田が立っていた。両手で大きな花束を握っている。
高田
「初めましてハルちゃん。黒木の友達の高田…です⭐︎」
ジュリ
「ダッッッッッッサ!!!」
キメ顔で言う彼にジュリはドン引きして絶叫を上げる。黒木と春香も彼の姿を見てポカーンと呆気に取られていた。
ジュリ
「え?マジで何してるんですか高田さん…?クッソダサい格好なんかして…まさか今からその格好で会おうだなんて考えてませんよね?シバきますよ…?」
高田
「チッチッチッ。わかってねーな、ジュリちゃん。今から双葉ちゃんに会うんだぞ?そこら辺を歩いてる一般無課金アバターが会っても覚えてくれねえだろ?」
高田
「だから!!【ファッションセンターかみむら】で急遽インパクトあるファッションをキメてきたってわーけ!…いてぇ!!」
キメ顔を台無しにするかのようにジュリが何度も高田の足を蹴る。いつもよりも勢いのある蹴りだ。すると、見兼ねた春香が高田の前へとやってくる。
春香
「あの!こうするとカッコよくなると思いますよ!」
高田
「おっ?おっ??」
春香は高田の身嗜みを優しく触れながら丁寧にアレンジをしていく。
ジャケットは肩に羽織るように変えて、パンツをしっかりと上げて、赤いシャツをインさせる。オールバックだった髪を一旦クシャクシャと戻してから整えてウェーブに。あっという間に夏に合う爽やかなスタイルへと変身させた。
特にプラスをした訳でもないのに、一瞬にしてオシャレに変えた春香の腕に高田は感動するのであった。
高田
「す、すげー…流石は現役モデルだ…ハルちゃんパネェっす」
春香
「エヘヘー♫ありがとうございます!」
高田
「どうよぉ黒木!ジュリちゃん!俺、キマってる?」
黒木
「良いと思う」
ジュリ
「はいはい。ムカつきますけど似合ってますよ。…って、そんな事してる場合じゃないでしょ。全員集まったんならさっさと行きましょう」
ジュリは先々と歩いて先に改札へと向かう。黒木達も早足で歩く彼女を追い掛けていると、次は春香から話しかけてきた。
春香
「あのあの!黒木さんと高田さんは、ジュリちゃんのバイト先の人なんですよね!いつもジュリちゃんがお世話になってます!」
高田
「いえいえ。まさか俺達もハルちゃんと会えるなんて思いもしませんでしたよ。なぁ?黒木!」
黒木
「えっ?あっ、そうだね。うん」
相変わらず双葉以外のモデルにはあまり関心のない反応のようだ。冷たい反応の様に見えて、高田は必死にフォローする。
高田
「すいませんハルちゃん!!コイツめっちゃドライなんですけど!ハルちゃんと会えた事めっちゃ喜んでますからね!?」
黒木
「…初めて知った人な……」
高田
「アー!!!違うんすよ!!初めて【綺麗】だと思ったって感動してるんすよ!!」
黒木
「???」
春香
「だ、大丈夫です!!ジュリちゃんから黒木さんの事は聞いてましたから!!」
高田
「え?そうなんすか?」
春香
「ええと…『反応が薄くてイライラしますけど、根は凄く良い人』だって…」
高田
「なーんだ!そういうこと!良かったなぁ黒木ィ!!」
黒木
「そ、そうだな…?」
高田はニコニコと黒木の肩に手を回す。そして思い付く。
高田
「あっ、それなら俺のことも事前に聞いてました!?あの子はどんな事言ってましたかね!」
春香
「えっ?高田さんの事は特に何も……」
高田
「酷い!!」
大袈裟なリアクションでショックを受けた。一々面白い仕草をする彼を見て、春香は安心したかの様に微笑む。
春香
「…でも、良かったです」
黒木
「…?」
春香
「ジュリちゃんって良い子なんですけど、人付き合いが苦手というか…あまり周りと関わろうとしない子なので、素敵な職場の人達に恵まれてて安心しました!あの子も成長してるんだなぁって…」
春香
「…何も成長していないのは、私だけだ…」
高田
「…?ハルちゃん…?」
一人で呟き一瞬暗い顔を見せたが、直ぐに明るい顔に戻る。誰にも聞こえない様に呟いたつもりだったが、高田には聞こえていて、その様子を心配する目で見つめた。
春香
「…ううん!何でもありません!それより双葉さんに再会できるのチョー楽しみですね!!」
高田
「お、おう!そうっすね!」
黒木達は人混み溢れる通路を避けながら、電車に乗り込むのであった。
電車を乗り込んで数十分。ぎゅうぎゅうに押し合って窮屈だった車内は、各駅に停車する度に人が減っていく。目的地に到着する寸前には、四人とも席に座れる程快適になっていた。
目的の駅に到着して四人は降りる。都会から離れ、ビル群がない落ち着いた街並みが続く。カナカナと儚げに鳴く蜩に、沈みゆく夕日が眩しい。
そんな駅から暫く歩き続けること数分。聡が住む屋敷へと一同は到着した。その見上げる程、立派な豪邸を目に春香と高田は驚きを隠せない。ジュリは冷静だった。
高田
「…え?双葉ちゃんめっちゃ凄いところにいるくね?」
春香
「な、なんだか緊張してきました…」
ジュリ
「…いやここって、聡さんの屋敷じゃないですか」
高田・春香
「「そうなの!?」」
二人は同時に反応して驚く。そして同時に質問をする。
高田
「いや誰!?」
春香
「何でジュリちゃん知ってるの!?」
ジュリ
「うるさいうるさい。…聡さんは双葉先輩の専属さん。で、私が知ってるのは大分前に聡さんの屋敷がバラエティで紹介されてたからですよ」
春香
「へー…そうなんだ」
ジュリ
「…つーか、ちょっと待ってくださいよ。もしかしてですけど、黒木さんと聡さん知り合いだったんですか?」
黒木
「うん。今年の1月に会ったことがあるんだ」
ジュリ
「マジか…二人が知り合いなら、私経由でもっと早く事態を解決出来たかもしれないじゃん……」
黒木
「ハハ…ジュリちゃんと聡さんが知り合いなのも知らなかったから仕方がないよ。…とりあえず中へ入ろう。双葉さんが待ってる」
黒木が先導して屋敷の玄関の扉へと向かった。三人は彼についていく。
黒木は玄関扉のドアノブを掴み静かに引いて開ける。扉先の光景が見えようとしたその時
「やっほー!久しぶり!♫」
四人
「!!」
潤いと艶を持つ綺麗な黒の長髪
雪のような純白の美肌
そして、星空のように煌めく青い瞳
玄関には、誰もが知る【完璧の存在】が、両手を腰に当て堂々と立って出迎えてくれた。
双葉だ、双葉が目の前にいる。半年前に姿を消してしまった伝説が、今目の前に立っている。四人は彼女の輝く姿を目の当たりにして、心が光に満たされていく。
彼女はあの時のように優しく微笑んでこう言った。
双葉
「私に会いに来てくれて、ありがとう」
春香
「〜ッゥゥ!!!ふ、ふた、双葉さぁぁあん!!!」
彼女の言葉に感情が爆発して、春香は号泣しながら双葉を押し倒す勢いで飛び付き抱きついた。
双葉は勢いのあまり一歩下がってしまうも倒れずに、彼女を優しく抱き返す。
双葉
「アハハ。…待たせちゃったね、春香ちゃん」
大江戸タワーで抱き締めてくれた優しい温もりを思い出す。春香はワンワンと子供のように声を上げて泣き続けた。本当に会いたかった、そんな思いが強かったのが今の彼女から見て分かる。
ジュリ
「…ったく。マジに心配した身にもなってくださいよ」
続いてジュリも涙目で堪えながら双葉の元へ歩く。彼女は強がっているが声は震えていた。ジュリもまた、双葉との再会を喜んでいるのだ。
双葉
「ジュリちゃんも久しぶり。思い切ったイメチェンだね。前も好きだったけど、今もすっごく似合ってるね」
ジュリ
「…貴方に合わせたんですよ。バーカ」
近付いてきたジュリを、双葉は腕を更に広げて二人纏めて抱き締める。いつものジュリではやらないであろう。今はこの再会への喜びが抑えられず、片腕で双葉を抱き返し寄り添う。
双葉は二人のお姉さんのような振る舞いで、目を閉じて背中を優しく摩る。この尊い瞬間に、高田もその場で腕を組んで何度も頷いていた。
しかし、この場で最も驚いていたのは黒木だった。彼は高田の隣で立ち尽くし目を見開いて双葉を見ている。
彼女は今、とても辛い状態になっているのにも関わらず、春香達にとって【完璧な存在】を崩さない為に再び【パーフェクトモデル】に戻ろうとしているのだ。
それは、双葉にとって【優しい嘘】が起こした行動なのか、或いは【本当の姿】を受け入れてくれる人達と出逢い【光】を取り戻した行動なのか、黒木には分からなかった。
ただ、一つだけ言える。
以前の姿に戻った彼女が眩しく輝いて見えて、その姿を見つめる自分の胸が高まっている事を。
それは憧れから感じる心の煌めきではなく、この美しく輝く人に恋をしてしまったんだと分かる高鳴り。黒木の体が、目が、その衝動を体感していたのである。
その場で呆然と再会を果たした三人の様子を見続けている黒木が我に返ったのは、双葉の後ろから聡が姿を現したのが目に映った瞬間だった。
聡
「オーホッホッホ!!御涙頂戴感動ドキュメンタリー映画より感動的なファンタスティックねぇん!!」
聡は金色のゴージャスなファッションでお出迎えして腰をくねらせる。彼もまたファンタスティックになって戻ってきたのである。
聡と初対面の高田は、そのファンタスティックな外見に【あんぐり】と口を開いたまま暫くは閉じることができない。聡は陽気に両腕を広げてファンタスティックに迎える。
聡
「ようこそぉ〜ん!アティシのファンタスティック⭐︎自宅へ!料理がまともに作れないから、色々出前用意したわよ〜ん!さあさあ中に……イッタァアアアア!!!?」
寛大に笑顔で歓迎してくれる聡に突然ジュリが双葉から離れて、強烈なドロップキックを炸裂させる。
まさか蹴られるとは思わなかった聡は受け身が取れず転がり、大の字に仰向けで倒れる。視線の先には、怒った表情を見せる春香とジュリが立っていた。
ジュリ
「で?何で双葉先輩の事黙ってたんですか??」
春香
「私なんて昨日一緒に仕事してたじゃないですか!?何で言ってくれなかったんです!?」
ジュリは殴る気満々で片手のグーを見せつけながら、もう片方の手で聡の胸ぐらを掴んで持ち上げる。
聡
「ノンノンノン!!暴力はダメよジュリちゃん!!ラブアンドピース!アンドスマイルアンドジョーイ!!」
ジュリ
「このオッサン、この状況下でもふざけてるんでボコボコにして良いですよね?」
春香
「お願いします」
聡
「冗談!冗談!!アティシも双葉ちゃんと合流出来たのは超最近なのよ!!だからまずは双葉ちゃんが安全を確保できるまではシークレットにしたかったの!!」
聡
「それにハルちゃんに関しては、昨日にカミングアウトなんてしたら仕事どころじゃなくなってたでしょん!?大事なファッションショーの当日で集中力を乱す訳ないじゃない!!」
春香
「そ、それは…確かに…」
ジュリ
「チッ…命拾いしましたね…」
ジュリは胸ぐらを掴む手を離す。フーッと安心して息を吐くと聡はゆっくりと体を起こして立ち上がった。
聡
「き、気を取り直して…あら?クロちゃん?そのイケイケボーイは??」
聡は高田に気付いて唇をベロリと舌で舐める。高田は身の危険を感じてゾクゾクしていた。
黒木
「彼は高田です。俺の友人で、双葉さんにも許可を貰ってここに来ました」
聡
「あんらぁ〜!そうなのぉ〜!!アティシ好みのボーイで、ス・テ・キ❤︎よろしくねぇ〜ん高田ちゃ〜ん!」
高田
「ア、ハイ。ヨロシクッス」
ロボットのような返事で高田はカチコチになってしまう。
だが、そんな彼を解すように双葉が彼の前に現れて両手を握る。とんでもない化け物を見た後に、目に映る双葉は、正に激辛料理を食べた後に味わうスイーツのような救世主であった。彼女は笑顔で話す。
双葉
「初めまして!貴方が高田さんなんだ!黒木さんの親友さんと会えて私も嬉しいな♫」
高田
「……」
高田は真顔で黒木の方へ向く。
高田
「黒木。俺、死ぬかもしれない」
彼は冷静に返す。
黒木
「死なないでくれ、高田」
双葉
「そして〜…!」
黒木
「…えっ?」
双葉は高田の手を離した次の瞬間、
双葉
「おかえり〜!!黒木さ〜ん!!」
双葉は黒木に飛び掛かり強く抱き締める。
黒木
「ウワッ!?」
いきなりのハグに構え切れず、そのまま押し倒されてしまった。人前であろうと気にせず彼女はとても強く抱き締める。驚いていた黒木も安堵の表情を浮かべ優しく抱き返す。
黒木
「…ただいま、双葉さん」
聡
「ヒュ〜♫」
二人のイチャつく光景に金色に輝くファッションオジサンはニヤニヤと見ている。
が、他の三人は違った。二人が付き合い出したのは理解していたジュリと高田だったが、双葉がこんなにも甘えたがりな姿を曝け出してるのには驚きを隠せない。
特に、春香については固まってしまっていた。そもそも黒木とは今日出会ったばかりで【友達】と聞いていたのに、目の前で起きてる状況はどう見ても【カップル】であるではないか。
そして、憧れの存在だった双葉と遂に再会を果たした瞬間にカップルが出来ていた衝撃に、春香の脳が追いつくわけがなかったのである。ジュリは呆然とする春香を横目に内心焦る。
ジュリ
(やばい…双葉先輩に彼氏が出来た事知って脳が破壊されてる…先に言うべきだったか…?)
二人の純愛の抱き合う姿をじっと見ていた春香が遂に口を動かす。
春香
「じゅ、ジュリちゃん…もしかして…黒木さんと双葉さんって…」
ジュリ
「…すみません。先に言ったら脳が破壊されて立ち直れないんじゃないかって思って誤魔化してました。…まぁ…その…想像している通りの関係ですね、はい」
春香
「……す」
ジュリ
「いやいや、でも安心してください春香先輩。黒木さんは超がつくほど良い人で、双葉先輩と付き合うのに色々とあったからで…」
春香
「凄ーい!!」
ジュリ
「…は?」
思ってたのと違う反応をして目をキラキラとさせてる春香に、次はジュリが固まってしまった。
春香
「双葉さん!チョーカッコいい人と付き合ってるんだー!!それにあんなに仲良くしてたら、こっちも幸せ貰えるって言うかー!!キャー!尊いー!!」
ジュリ
(双葉ガチ勢の思考は理解できないな…)
無駄に心配した事を損してジュリは大きく溜息を吐いた。
漸く満足した双葉は少し離れ、黒木に手を差し出して起き上がらせる。起き上がらせた手はそのまま彼の手を握っていて隣にくっついて寄り添う。
双葉が甘えるのを、黒木は微笑み続けて彼もまた寄り添う。この二人の光景が、見る者全ての心を浄化させる、清らかな関係に見えた。
ここにいる人間は皆、二人の幸せを願う良き理解者なのである。だからこそ、双葉も心を許し再び再会を交わす事を許したのだろう。
彼女は黒木の腕を組んで、笑顔でここにいる人達へ伝えた。
双葉
「ただいまっ♫」
………
聡の屋敷の中へと一同は入る。テーブルには彼が出前でとった寿司やフライドチキンが沢山並べられていて、まるでパーティーのような雰囲気だ。
黒木と双葉は一同に無理矢理ソファへと座らされる。二人が主役のようなものなので、何もしないで欲しいとのこと。高田は聡に気に入られ、人数分の食器を並べながら、ファンタスティックの流儀を語っている。
一方で春香とジュリはキッチンにて、春香が双葉に元気になってもらいたいという理由で奮発して買ってきた極厚ステーキをじっくりと焼いている。とは言え、春香はフライパンで焼いている肉をじーっと見ているだけ。
それを不安に思ってか、代わりにジュリが焼くこととなった。ぶつぶつと文句を言いながらも、彼女はしっかり焼き加減を見て調整をしている。横で褒めちぎる春香の声に、満更でもない様子である。
賑わう屋敷の中。双葉は隣に座る黒木の肩に頭を乗せて寄り添い、この光景を嬉しそうに見守る。黒木は双葉が嬉しそうにしているのを見るだけで、楽しくて仕方がなかった。双葉は静かに声を掛ける。
双葉
「…ねえ、黒木さん」
黒木
「はい。なんですか?」
双葉
「幸せだね」
黒木
「…そうですね」
彼女の幸せは自分の幸せ。この幸せが永遠に続く事だけを願い、最高の仲間と夜を過ごすのであった。




